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共用部の安全設計を見れば事業者のノウハウ・質がわかる理由

事業者のリスクマネジメントのノウハウは建物設備、共用部設計に表れる。建物設備備品が介護事故の原因となるということは、安全性の高い建物設備備品は介護事故発生・拡大の防波堤になるということ。安全に生活できるか、安全に介護できるかの基本は建物設備設計にあり

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』

介護業界では転倒骨折、誤嚥・窒息などの介護事故対策、コロナ禍による感染症対策など、リスクマネジメントの重要性を叫ぶ声が高くなっています。
高齢者介護は、身体機能・認知機能の低下した高齢者・要介護高齢者が対象です。一瞬のスキ、些細なミスでも転倒・骨折、誤嚥・窒息などの重大事故に発展し、インフルエンザ・コロナなどの感染症が蔓延する可能性も高くなります。

それは、入所者・利用者だけの問題ではありません。
介護スタッフの大量離職や高額の損害賠償請求など事業継続に関わるほどの巨大リスクであり、最悪の場合、介護看護スタッフが業務上過失致死傷などの刑事罰に問われ、ケアマネジャーや介護福祉士などの資格剥奪にも発展する働く介護スタッフにとっても大きなリスクです。

リスクマネジメントと言えば、「事故報告書の作成」「リスクマネジメント委員会の立ち上げ」「安全介護マニュアルの整備」など、介護現場での書類整備や会議、研修の強化などをイメージする人が多いのですが、「介護事故の発生予防・拡大予防」の最も効率的・効果的な対策は、建物設備備品の見直しです。

建物設備が要因となる事故

転倒や骨折などの介護事故の発生原因は、大きく分けると「介護スタッフの人為的ミス」「入居者の身体機能の低下」「建物設備備品」に分かれます。そしてその多くは、それぞれ単独の原因ではなく、この3つの原因が連関して発生しています。

ひとつは、身体機能低下と建物・設備・備品の歪みです。
要介護高齢者といっても、その身体機能・認知機能は一人一人違います。自立独歩の高齢者でも、その歩行の安定度にはバラツキがありますし、脳梗塞による半身麻痺の高齢者でも、右麻痺・左麻痺によって、ドアの開けやすい向きは違います。

例えば、高齢者住宅・施設の見学に行くと、居室内のトイレの同じ場所、同じ高さに最初から同じ形状の手すりが作り付けになっているところがありますが、ある特定の人には使いやすいものの、その他の高齢者には無用で、「右麻痺の人にはいいけど、左麻痺の人には邪魔だろうな…」と思うものは少なくありません。それ以外にも車いすとPトイレの高さが合っていない、テーブルが高くて食べにくいなど、目につく事例はたくさんあります。

もう一つは、介護スタッフのミスと建物設備備品との関係です。
先ほどのトイレ内の手すりの例を挙げると、狭いトイレ内で不必要な手すりが付いていると介護スタッフの邪魔になりますし、エプロンなどが引っ掛かり、事故の原因になるケースもあります。
それ以外にも、「シャワーキャリーで移動介助している時に、混合水栓にぶつかって怪我をした」「特殊浴槽のストレッチャーで洗身をしている時に、転倒防止バーが外れ転落死亡した」「車いすのブレーキが甘くなっており、ベッドからの移乗介助時にバランスを崩して転倒、骨折」など、考えられる例はたくさんあるでしょう。

これら「身体機能・認知機能」「介護スタッフの知識・技能」と「建物設備」のズレ・ブレが大きいと、事故の発生確率、特に重大事故の発生確率が高くなります。
ご存知の通り、自立支援機器、介護用品は、この10年の間に大きく進化しており、電動ベッドや電動車いす、介護リフト、特殊浴槽などの動力を使うものは、介護労働を軽減させることができます。しかし、その一方で使い方や設定を間違えると、骨折や死亡などの重大事故に直結することになります。

介護事故の発生・拡大予防は、このズレやブレをどのようにして埋めていくのか…ということです。
そのために必要なのが、「ケアマネジメント」や「スタッフ教育・研修」ということになりますが、もちろん、それも不可欠ですが、高齢者の要介護状態は日々変化するため、万全のケアプランを作成することは不可能です。全スタッフの介護知識・技術を一気に上げることは容易ではありませんし、人間が介護しているのですから、些細なミスや一瞬のスキは必ず発生します。

一方、事前に介護実務や介護事故、生活事故に合わせて「高い安全性を持つ建物設備設計、備品選択」を行えば、確実に一定の高い効果が得られます。また、建物設備備品が介護事故の原因となるということは、安全性の高い建物設備備品は介護事故発生・拡大の防波堤になるということなのです。安全対策が十分に検討されていれば、小さな介助ミスや日々の状態変化を建物設備備品が吸収し、多くの事故を防いでくれるのです。

これは、防災対策や感染症・食中毒対策も同じことが言えます。
放火や類焼、自然災害を避けることはできませんが、「防炎のカーテンにする」「共用部の棚やテレビが倒れないように設置する」というだけで、被害の拡大を防ぐことができますし、「エントランスに手指消毒液・注意掲示を置く」というだけで、ウイルスや原因菌の流入を予防する効果があります。つまり、事故予防だけでなく、介護スタッフの負担軽減のためにも、様々なリスクの種を、事前にできる限り、建物設備備品の安全設計で埋めておくことが必要なのです。

この話をすると、ケアプランの中で検討している、「衝撃吸収マット」「転倒予防センサー」などの個別の安全備品の活用をイメージする人も多いでしょう。もちろん、それも一つの手段です。
ただ、その前提として重要になるのが、介護事故を想定した安全性の高い建物を設計し、設備を選択する…ということです。つまり、介護事故のリスクマネジメントは、「事業開設後にスタッフが頑張る」「センサーやマットで個別対応する」ではなく、建物設備設計の段階でその土台・基礎が決まるのです。

ここでは、要介護高齢者対応の高齢者住宅・介護保険施設を例に、「アプローチ・駐車場」「エントランス」「廊下・階段」「エレベーター」など、各生活エリア毎に、どのような事故が発生しているのか、視点で設計をすることが必要なのか、安全設計のポイントはどこか・・・について考えていきます。

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共用部の安全設計について徹底的に考える

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