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アプローチ・駐車場の安全設計について徹底的に考える

アプローチ・駐車場は、天候によって地面の環境が変化することや、雨天時には高齢者本人・介助者の手が傘などでふさがっていることなどから、コンクリートやブロック、石が使用されているため、転倒すると骨折や頭部強打による脳内出血など重大事故に発展しやすい。

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』

リスクマネジメントの視点から見た建物設備の安全設計
その一回目は、アプローチ・駐車場の安全設計です。
介護保険施設や高齢者住宅内での事故と言えば、建物内の事故をイメージする人が多いのですが、増えているのが、アプローチや駐車場などの戸外での転倒・骨折事故です。住戸内と違い、天候によって地面の環境が変化することや、雨天時には高齢者本人・介助者の手が傘などでふさがっていること、更にはコンクリートやブロック、石が使用されているため、転倒すると骨折や頭部強打による脳内出血など重大事故に発展しやすいことが知られています。

【事 故 例】
◇  敷地内・アプローチの勾配で急に車いすが動き出し、慌ててしまい転倒・骨折
◇ アプローチの階段のタイルで滑って転倒、頭部を強打し、脳内出血で死亡
◇ 道路に福祉車両を止めて乗降中に、認知症高齢者が他の車に轢かれて死亡
◇ 雨の中、駐車場の乗降中に傘を差した不安定な姿勢で介助し、利用者転倒
◇ グレーチングで靴が滑ったり、杖が挟まって抜けなくなって転倒、骨折

事故例を見ればわかるように、アプローチで実際に発生している事故の多くは転倒です。
転倒個所・原因は何かを十分に理解し、自立歩行、自走車いす、介助車いす、また認知症による判断力低下や行動もイメージしながら、安全に生活・介助できるアプローチ・駐車場の設計を検討していきます。

前面道路・敷地の段差・形状

まずは、安全対策から見た敷地の検討です。
ここでの検討ポイントは3つあります。
  ① 前面道路と敷地境界に段差がないことが望ましい
  ② 敷地内は緩やかなものも含め傾斜がないことが望ましい
  ③ 敷地内に福祉専用を含め駐車スペースが確保できることが望ましい

一つは、前面道路と敷地境界に段差がないこと。
前面道路から玄関までの段差が大きい場合、階段や車いす用の傾斜路が必要になります。
ただ、自立歩行が可能でも、雨でスリップして転げ落ちると骨折だけでは収まらず、命にかかわる重大事故に発展します。そのため、必ず車いす用の傾斜路が別途必要になりますが、傾斜路は自走車いすであっても、介助が必要になります。待機中の車いすが動き出して道路に飛び出し、車に轢かれて死亡…という痛ましい事故も発生しています。
二つ目は、敷地内にも、傾斜がないことです。
普段の生活では気づかないほどの緩やかな傾斜であっても、「平坦だから大丈夫だろう」と車いすのブレーキを忘れた結果、後ろ向きに動き出して転倒したり、車道に転がりでて車に轢かれたりといった大事故につながります。
三つ目は、敷地内に福祉専用を含めて駐車スペースを確保できることです。
敷地内に駐車場・車寄せのポーチがないため、やむなく前面道路で要介護高齢者の乗り降りを行っているところがありますが、これは道路交通法上も問題ですし、高齢者・介護スタッフだけでなく、周辺を通る車や人にとっても危険です。

アプローチの段差・構造の設計

敷地境界(前面道路など)から玄関までのアプローチもチェックポイントの一つです。
   ① アプローチ表面・排水溝の蓋のスリット・グレーチングの安全性
   ② 歩行者と駐車場に入る車の動線を分離すること(家族・業者・デイサービスなど)
   ③ 傾斜地や段差がある場合の傾斜路などの注意点

ひとつは、アプローチの表面は滑りにくい材の使用や加工を行うことです。雨だけでなく、冬場に凍結する可能性のある地域では、高齢者・家族だけでなく、介助中のスタッフがアプローチで転倒して怪我をするというケースもあります。特に注意をして部材や表面加工の選択をしましょう。鉄仕様の排水溝の蓋のスリット・グレーチングなども滑りやすい場所ですし、すき間に杖や車いすの車輪が挟まったりしないように場所の選択、仕様の検討を行います。
同様に、敷地内での自動車事故、接触事故もありますから、歩行者と車の動線の分離、色による識別なども必要です。日々、食材や日用品などの配送の車が出入りしますし、特に、デイサービスなど車を使った他の事業所を併設している場合は、入居者や家族の歩行動線と、これらとの動線を分離して検討することが求められます。
敷地が傾斜地や大きな段差がある場合は、やむなくスロープや階段を付けることになりますが、事故リスクが高いことを十分に理解し、緩やかな傾斜とすることや、踊り場の設置、手すりの設置、滑りにくい材の使用、転げた先が車道に直結しないことなどの安全性の確保が必要です。

【段差部分に設ける傾斜路 検討一例】
◇ 幅を1500mm以上とすること     
◇ 勾配を1/15以下と(1/20以下が望ましい)すること
◇ 高さ750mm以内毎に、踏幅1500mm以上の踊り場を設置すること
◇ 両側に手摺を設置すること
◇ 傾斜路(車いす等が転がる)の先が、そのまま前面道路に直結していないこと
◇ 色を変えるなど前後の通路と識別しやすいようにすること
◇ 壁際に寄せて、庇を設置すること(傘を差さないで良いように)

福祉車両用の駐車場の設置・広さ・形状の設計

二つ目は、駐車場の設置・広さ・形状です。
駐車場も、事故の多いエリアの一つです。必要台数をできれば敷地内に確保することが必要です。エントランスにできるだけ近い場所に、車いす利用の高齢者の福祉車両が安全に駐車・乗降ができるだけの広いスペースを確保します。最近は、デイサービスで使われているような後部から出入りするものだけでなく、サイドから車いすを降ろすタイプものもありますから、屋根や雨除け用の庇を含め十分な検討が必要です。

【段差部分に設ける傾斜路 検討一例】
◇ 幅3,500mm以上とすること。   ◇ 奥行き5,000mm以上とすること。
◇ 後方1,400mm程度の乗降用スペースを確保すること。
◇ リフト昇降用のスペースを確保すること  ◇ 傾斜がないこと
◇ 車止めは設置しないこと(リフトが上手く降りない)  
◇ 通路と駐車スペースに段を設けないこと   
◇ 屋根または雨よけ用の庇を設置すること。

敷地の形状や面積によって大きく左右されるのが、このアプローチや駐車場などの外構です。
都市部など敷地の広さの関係で、少し離れた場所に駐車場を設置せざるを得ない場合でも、高齢者を安全に乗降できるだけの車寄せのスペースを玄関口に設置するなどの工夫が必要になります。家族が一緒に外出するとき、イベントなどでの多くの高齢者が車で出かけるとき、また雨が降ったり、地域によっては雪が降ったりしたときにも安全に利用できるよう、想定される事故をイメージ・シミュレーションしながら、安全に介助しやすい設計を十分に検討しましょう。


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