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共用トイレの安全設計について徹底的に考える

居室内にトイレが設置してある場合、共用トイレの設置は義務ではないが、生活動線・介護動線を考えると食堂や浴室など入居者が共同利用する場所には、入居者用のトイレの設置は必要。共用トイレ内で多発している転倒・転落事故予防、早期発見のための設計上の工夫

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』

リスクマネジメントの視点から見た建物設備の安全設計
その五回目は、共用トイレの安全設計です。
サービス付き高齢者向け住宅の場合は、居室内にトイレ設置は義務付けられていますし、有料老人ホームでも居室内にトイレが設置してある事業者がほとんどです。その場合、共用トイレの設置は義務ではありませんが、生活動線・介護動線を考えると、食堂や浴室など、入居者が共同利用する場所には、入居者用のトイレの設置は必要です。
この共用トイレも、転倒・転落事故の多い場所の一つです。

【事故 ・リスク例】
◇ 車いすから便器へ移乗するときに、座り損ねて転落し、尾骶骨を骨折
◇ ズボンの上げ下げをしている時に、共用トイレ内でふらついて転倒・骨折
◇ 便器から車いすへ座り直そうとしたときに、車いすが動いて転倒・骨折
◇ 共同トイレの汚物から、ノロウイルスが蔓延したと考えられる

上記の通り、共同トイレで多く発生するのは、車いすから便器へ、また便器から車いすへ戻るときに、ふらついて転倒するというものです。車いす高齢者だけでなく、独歩高齢者でも、踏ん張るという生活行動によって血圧の昇降が起こるため、ふらついて転倒するケースは少なくありません。独歩の高齢者だけでなく、車いす利用(排泄自立・排泄介助)、半身麻痺(右麻痺・左麻痺)などの様々な身体状況・要介護状態の高齢者を想定し、安全に利用・介助ができるように十分な配慮をしなければなりません。

共同トイレ設計 事故の発生予防対策

共同トイレは、その機能の違い、及び感染症の持ち込みを防止する観点からも、入居者用のトイレと職員・外来者用のトイレは、別々に設置することが基本です。
入居者用の共同トイレの数については、各居室にトイレが設置されているのか否か、また自室にいる時間の多い身体機能の低下した高齢者を対象としているのか、認知症高齢者が多い事業者なのか等によっても変わってきます。食事の前後や入浴前などに、突然、尿意・便意を催す人も多いことから、食事介助や入浴介助の流れや食堂・浴室とのアクセスを十分に考えながら、必要台数を設置することが必要です。

① 基本的な構造・便器の種類・手すりなど
入居者用の共同トイレは、独歩の自立高齢者、自走車いすの高齢者、介助車いすの高齢者、また自立排泄・排泄介助が必要な高齢者、様々な高齢者が利用することから、多様な要介護状態の人が利用できる汎用性の高いトイレ設計が求められます。ただし、百貨店やホテル、大型ショッピングセンターにあるような、多機能の大きすぎるバリアフリーのトイレまでは必要はありません。広すぎるトイレはかえって、転倒リスクが高くなるからです。
自走車いす利用で、一人で車いすから便器への移乗ができる高齢者はどのような排泄行動を行うのか、左右どちらの麻痺があっても対応できる手すりはどこに必要か、また移乗介助が必要な高齢者に対して、どうすれば最も安全に介助できるのか、その広さは確保されているのかを十分にシミュレーション、イメージしながら設計することが必要です。

【共同トイレの基本構造・便器の種類・手すり 検討一例】
<基本構造>
◇ 1つの便房について、2000㎜×2000㎜の広さが確保されていること。
◇ トイレ入口には段差がないこと(5mm以下の段差が生じるものを含む)。
◇ トイレの入り口は有効幅員が900㎜以上であること。
◇ 扉は自動式又は引き戸とし、自動的には戻らないものとすること。
◇ 出入口前後に車いすが直進でき、転回できる1,400mmの空間が設けられていること。
◇ 床面は濡れても滑りにくく、転倒しても衝撃の少ない床材を使用すること
<便器の種類・形状・種類>
◇ 洋式(腰掛便座)とし、座面の高さは、車いすと同程度の400㎜~450㎜程度
◇ 立ち上がりに足が引きやすく、フットレストが当たらないよう底部の凹んだタイプのもの
◇ 便座は暖房機能・抗菌機能のあるもの(感染を防ぐため便器カバーは使用しない)
◇ 洗浄装置は腰をかけたまま利用でき、麻痺の有無(左右)に関わらず操作しやすいもの
◇ ペーパーホルダーは腰をかけたまま利用できる高さ・位置で、片手でも切れるもの
<手すり・補助テーブルの種類・形状・種類>
◇ 便所出入り、立ち座り、衣服着脱、姿勢保持のための手すりの設置
◇ 自走車いす・左右の麻痺の違い・移乗自立の高齢者をイメージした手すりの検討
◇ 移乗介助が必要な高齢者は、着脱時の立ち上がりをイメージした手すりの検討
◇ 手すりが自立移乗・移乗介助の邪魔にならないよう跳ね上げ式の手すりの導入も検討
◇ 座位安定の背もたれ・便座上で前かがみ姿勢が取れる補助テーブル(跳ね上げ式)の検討
◇ 背の低い高齢者のための足台や補助便座などの設置を検討
◇ 感染症防止のため抗ウイルス性能のある手すり部材を活用することが望ましい

② 緊急通報装置・異変の早期発見・感染対策
トイレ・排泄は、高齢者の自立した生活や、自尊心・尊厳にも直結する生活行動です。自立排泄ができる高齢者は、できるだけその状態が維持できるよう支援することが必要です。
ただ、その一方で、特に便器から車いすへ戻るときに車いすが動いて転倒したり、自立歩行の高齢者でも、踏ん張るという生活行動によって血圧の昇降が起こるため、ふらつきによって転倒したり、脳出血などの急変が起きるリスクもあります。ただ、その性格上、転倒や異変に気が付きにくく、一時間以上、放置されると言うケースもあります。
また、排泄はその性格上、ノロウイルスなど汚物からの感染が起きやすい生活行動でもあります。
そのため、緊急通報や異変の早期発見、感染対策などの強化が必要です。

【共同トイレの緊急通報・早期発見・感染対策 検討一例】
<緊急通報装置(スタッフコール)>
◇ 便座・及び車いすに座った状態から手の届くことを想定した位置にスタッフコールを設置
◇ スタッフコールは転倒時にも連絡できるよう、ループや紐を付けるなどの工夫を行う
◇ トイレで入口の廊下等にスタッフコールの表示ランプが設置できること
<スタッフコール以外の対応検討>
◇ 使用時の灯りが見える上部の小窓など、使用中かわかるようにすること
◇ トイレに入ったまま一定時間でてこない場合に発報するセンサーの導入
◇ 転倒などの急変時に備え、外部から開錠できること。
<手洗い・消毒などの感染症対策>
◇ トイレ使用後にすぐに手洗い・手指消毒できる手洗い台を設置すること
◇ 消毒ポンプ・手洗カランの汚染を防ぐため、自動水栓・センサー式・足踏み式にすること






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