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【p019】 居室と食堂は同一フロアが鉄則

EVが必要な居室・食堂分離タイプは、要介護高齢者の生活に適さない

車いす高齢者の動線を中心とした位置・広さ・形状の詳細検討が不可欠。


 

要介護状態になると、私たちが何不自由なく使っている建物設備が大きな障壁・バリアになります。
基本的に階段は使えませんし、車いすになるとエスカレーターも使用できません。自走車いすであっても、開戸のドアは使えませんし、小さな段差を超えることも難しくなります。10mの距離を進むにも相当の体力と時間がかかりますし、そこに少しでも障害物があれば、それ以上は進むことはできません。
制度基準に沿って作った高齢者住宅は欠陥商品🔗で述べたように、高齢者住宅はバリアフリーであればよい、有料老人ホームやサ高住の基準に合致していればよいというものでもありません。
一般の学生寮や社員寮と、高齢者住宅の最大の違いは、「バリアフリーか否か」ではなく、車いす移動の高齢者の生活や介護実務を想定した「生活動線・介護動線がきちんと考えられているか否か」です。

 

~居室と食堂の配置は二つに大別~

生活動線・介護動線の視点から、まず重要になるのが「居室」と「食堂」の位置関係です。
現在の高齢者住宅の建物設計のタイプを大別すると二つに分かれます。

一つは、食堂フロアと各居室フロアが分離しているものです。
図のように、一階に食堂・レストランが設置され、二階~五階が居室階となっているものです。会社の独身寮や学生寮などによるあるタイプと同じです。自立度の高い高齢者を対象とした住宅型有料老人ホームや、サービス付き高齢者向け住宅はこのタイプが中心です。
すべての入居者がエレベーターで一階まで降りて、食事をします。

もう一つが、食堂が全ての居室フロアに設置されているものです。
各食堂は、それぞれのフロアの入居者が利用します。重度要介護高齢者が中心のユニット型特養ホームのほか、要介護高齢者を想定した介護付有料老人ホームはこのタイプが中心です

 

~居室・食堂分離タイプは介護の効率性が大きく低下~

この「居室」と「食堂」の配置は、高齢者住宅の「生活動線」「介護動線」の基本問題です。
車椅子利用になった場合、高齢者の生活のしやすさ、介護のしやすさは全く変わってきます。

実際の生活をイメージしてみましょう。
居室階に食堂がある場合、自走車いすの高齢者は、自室から食堂へ一人で移動することができます。
朝の起床介助(洗顔、着替えなど含む)が必要な場合でも、それが終われば部屋でテレビを見て、朝食の時間になれば、ゆっくり食堂に向かえばよいのです。
食事が終われば、自分のリズムで部屋に戻ることができます。

しかし、居室と食堂のフロアが分離している場合、自走車いすの高齢者であっても一人で食堂に行くことが難しくなります。
その、最大の障壁となるのがエレベーターです。
エレベーターを車いすのまま利用しようとすると、かごの中で回転しなければなりません。
広い福祉対応型のエレベーターなど回転操作できる容量と、その体力・能力が本人にあり、かつ一人で乗っている場合は一階の食堂まで下りることができますが、食事時間帯は他のたくさんの入居者と一緒に移動することになりますから、かごの中での回転は非常に困難です。
そのため、食堂までの移動は、介護スタッフに委ねることになります。自分の自由な時間に食事に行くことはできませんし、居室に戻ることもできません。

また、介護スタッフも、朝の起床介助が終われば、車いすの入居者を、食堂まで移動させるという介助の時間と手間が必要になります。特に、食事の時間帯は他の入居者も一斉に食堂まで下りてきます。エレベーターの機能上、最上階の高齢者が優先されるため、二階、三階の高齢者と介助者は、エレベーターホールの前で、いつまでも待ちぼうけを食らうことになります。
更に、各階すべてでボタンが押されているため、乗れる・乗れないに関わらず、エレベーターは各階で止まり、相当の時間がかかることになります。

これは昼食や夕食でも、そして食後の介助でも同じです。
同一フロアタイプの場合、食堂への移動介助が必要な高齢者は、介助車いすの高齢者だけですし、生活動線・介助動線が単純で短いため、それほど時間のかかる介助ではありません。
しかし、分離フロアタイプの場合は、介助車いすだけでなく、自走車いすの高齢者も介助しなければなりませんし、エレベーターを使って、各フロアから食堂フロアに行って、また戻ってこなければならず、相当の介助時間と手間を割かなければなりません。
車椅子の高齢者が全体の一割程度であれば、それほどの困難ではないかもしれませんが、加齢によって三割、四割と増えていきますから、相当の介助時間が必要になります。移動介助だけに必要な介護スタッフ数を計算すると、60名の入居者に対して6人~10人(車いす高齢者の割合に応じて)となります。それだけ、多くの介助の手間が必要になるということです。

 

~食堂の広さ・定員・形状も重要~

この効率性は、食堂の広さや形状にも大きく関わってきます。
居室・食堂分離タイプの場合、全入居者の食堂ですから、50名、60名定員の場合、相当広いスペースが必要となります。しかし、すべての入居者はエレベーターで降りてきますから、食堂とエレベーターをつなぐ動線は一つしかありません。そのため、その動線が大混雑します。

テーブル間に、自走車いすが動けるだけの十分な広さが確保されていない場合、出入り口から離れたテーブルの車いす利用者は、食事が終わっても、その場所でずっと待っていなければならず、トイレにもいけません。また、食堂内にはつたい歩きする手すりが設置できませんし、他の入居者が、急に椅子を引いたり、立ち上がったりするために、ぶつかり事故による転倒のリスクも増えます。
エレベーターだけでなく、食堂への動線やその広さも、大きなリスク要因、障壁となるのです。

これに対して、同一フロアタイプの場合、食堂の定員数は小さくなりますから、大混雑は避けられます。
ただ、同一フロアであっても、よりスムーズな動線検討は必要です。
下図のように、食堂が真ん中にあるのか、端にあるのかによって、入居者の生活動線は変わってきます。
端にあるタイプでは、食堂へのアクセス・動線が一つになるため、食堂の奥から出るのが難しくなるほか、反対側の居室から食堂へのアクセスが遠くなり、「短い距離なら介助不要」だけれど、「遠いから介助が必要」ということになり、介助の手間が増えます。
左図のように真ん中にあるタイプでは、左右に動線が分離するため食堂への出入りがスムーズになりますし、各居室からの距離も短く、移動しやすくなります。


このように、生活動線によって、介護の効率性は大きく変化し、それだけ上乗せ介護費用が必要な高額な商品となる(もしくは、介護スタッフの労働環境が悪化する)のです。逆に、移動介助に時間と介助の手間がかかるということは、それだけ食事介助や見守り介助などのスタッフが手薄になりますから、誤嚥や窒息などの事故も増えることになります。
少なくとも、日常生活の移動でエレベーターを使わなければならない居室・食堂配置は、要介護高齢者の生活には適さない、言いかえれば、要介護高齢者住宅のビジネスモデルとしては欠陥商品だということがわかるでしょう。

この「食堂・居室同一フロア」は、これからの要介護高齢者住宅の設計の基本中の基本、鉄則です。

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