要介護高齢者住宅よりも、自立~要支援高齢者住宅の方が、いじめや喧嘩、金銭の貸し借りなどの人間関係や生活上のトラブル、火災や感染症などの罹患のリスクは多くなる。安心・安全に生活できる高齢者住宅であるためには、生活相談サービスの充実が不可欠。
高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 029
高齢者住宅選びの大前提として、まず理解しなければならないのは、「自立・要支援高齢者を対象とした高齢者住宅」と「中度~重度要介護高齢者を対象とした高齢者住宅」は、基本的に別物だということです。(どちらを選ぶ・・・介護が必要になってから? 早めの住み替え?? 参照)
それは、同じ学校といっても小学校と大学は、まったく違うというのと同じです。
自立高齢者と重度要介護高齢者とでは、必要となる生活支援サービスや建物設備は根本的に変わります。また重度要介護といっても、認知症による重度要介護と身体機能の低下による重度要介護とでは必要となる商品・サービスが変わります。ですから、同一建物、同一サービスで「元気な時から住み替えて、重度要介護になっても安心」「自立高齢者から重度要介護、認知症高齢者までみんな対応可」と言っているところは、それだけで素人事業者認定です。
常時介護が必要な状態でなくても「食事の準備ができない」「独り暮らしさせるのは不安」という高齢者、家族は増えており、そのための高齢者住宅もあります。ただ、その場合、そこが終の棲家になるのではなく、重度要介護なれば、もう一度、介護機能が整った高齢者住宅に住み替えるというのが基本です。
もちろん、同じ高齢者住宅と言っても、選択のためのチェックポイントも変わります。
本コラムは、「要介護高齢者を抱える家族のための高齢者住宅選び」がコンセプトですが、ここではまず、身の回りのせいかつはある程度自立しているけれど、常時介護は必要ないけれど、一人暮らしはちょっと難しくなっている、不安があるという「65歳~75歳程度」かつ「自立~要支援~要介護1」までの高齢者住宅選びのポイントについて整理します。
自立~軽度要介護高齢者住宅の基本は、生活支援サービス
この自立~要支援高齢者の住宅として整備されたのが「サービス付き高齢者向け住宅」です。
このサ高住では、「一般の賃貸住宅と同じです」「施設ではありませんから、細かい規則はありません」「自由にお暮しいただけます」とセールスしているところが多いのですが、実際の生活やリスクを考えると、そう簡単なものではありません。
高齢者住宅は、一般のアパートやマンションと違い、自分の部屋の中だけで生活が完結するわけではありません。食堂や浴室、共同トイレなど、共有する設備、エリアは多く、どちらかと言えば、学生寮や社員寮に近い、集団生活の側面をもっています。その一方で、厳しい寮監がいるわけではなく、また学校や会社という一つの組織・規範の中で生活しているわけでもなく、様々な生活歴をもつ、様々なタイプの高齢者が一緒に生活することになります。また、「家には帰って寝るだけ」ではなく、ほとんどの時間を住宅内で過ごすというのも特徴の一つです。
そこで発生するのが人間関係のトラブルです。
同じ高齢者住宅でも、中度~重度要介護状態になれば、寝たきり、車いす利用になりますから、それほど大きな被害を受けることはありませんが、自立~軽度要介護の高齢者は、自我が強く、体力もあるため、トラブルやその被害は大きくなります。認知症でなくても、判断力の低下、物忘れ、勘違いなどが重なり、「部屋に置いてあったものがなくなった」「あいつが俺の悪口を言いふらしている」などと、急に怒り出す人もいますし、私たちの社会と同じように、仲間外れやいじめなどの問題も発生します。恋愛関係のもつれ、女性の取り合い、更には傷害事件や殺人事件まで発生しています。
それでも、「自宅」ですから、そう簡単に逃げ出すことはできません。
実際、途中退居する高齢者の中には、その原因して人間関係トラブルを上げる人は少なくありません。
それは、感情的なトラブルだけではありません。
「風呂にも入らず、部屋も衣服も不衛生で、ものすごい臭いがする」
「ヘビースモーカーで、寝たばこの不始末で、布団にもたくさん焦げ跡がある」
「お酒を飲むと、気が大きくなって、他の人に大声で怒鳴ったりする」
といったケースでは、感染症や火災のリスクが、他の入居者の生活、生命にも直接影響してきます。
この生活上の様々なトラブルを調整・改善するのが「生活相談サービス」です。
入居者同士の人間関係に、高齢者住宅事業者が過度に関わる必要はありませんが、入居者からいじめや嫌がらせなどの相談や、「金銭の貸し借り」「暴言暴力を伴う喧嘩」が発生すれば、双方の話をじっくり聞き、関係を改善させるなどの調整が必要になります。飲酒による暴言や寝たばこなど、他の入居者の安全、安心の生活を阻害するような行為に対しては、厳しく改善を求めなければなりません。
また、一人ぐらしや家族が離れて暮らしている場合、「テレビが壊れた」「病院にかかりたい」「介護保険サービスを利用したい」「行政手続きが必要」など様々な困りごとがでてくるでしょう。高齢者になると認知症でなくても、判断力が低下しますから、悪徳商法や特殊詐欺に引っかかる人も多くなります。
高齢者住宅で、高齢者が安心して生活するためには、生活上発生する様々な課題やトラブルに対して、相談に乗ったり、必要なサービスを探したり、トラブルを未然に防いでくれる、力強い味方となってくれる相談員、生活相談サービスが必ず必要なのです。
実際、老人福祉施設では、重度要介護高齢者を対象とした特別養護老人ホームよりも、自立・軽度要介護高齢者対象の養護老人ホームやケアハウスの方が、経験や知識、ノウハウのあるベテランの生活相談員が多く配置されています。また、他の入居者に迷惑となる行為は規則として禁止されており、何度も注意しても改善されない場合、施設から退所を求められます。規則やルールは、高齢者の自由な生活を束縛するために存在するのではなく、他の入居者の安全な生活を維持するためにあるのです。
これらのリスクは、民間の高齢者住宅も同じです。
しかし、サービス付き高齢者向け住宅の場合、この相談サービスの基準が曖昧で、外部サービス事業者との外部契約や、常駐せずに他の事業者との兼務というところも少なくありません。
そのため、難しい問題が起きると「人間関係トラブルは高齢者住宅には関係ない・・」「それぞれ当事者間で解決してください・・」と逃げてしまいます。言いかえれば、「一般の賃貸住宅と同じです」「施設ではありませんから、細かい規則はありません」と安易にセールスしている事業者は、高齢者間、入居者間の人間関係トラブルや、そのリスクをわかっていない素人事業者なのです。
自立~軽度要介護高齢者を対象とした高齢者住宅で、安心して、安全に、また快適に生活するために、その中核となるのは「生活相談サービス」です。
社会福祉士などの生活相談員としての国家資格をもっていること、また一人だけでは、休日などで対応できない日がでてきますから、高齢者住宅に直接雇用された複数の生活相談員が配置されている(もしくは、管理者と相談員どちらも常勤で、どちらかが勤務している)のが絶対条件です。そうでなければ、大げんかや急変など、突発的なトラブルが発生した時に、誰も対応する人がいません。
また、火災につながる喫煙などの生活上のルールや規則、禁止事項が定められ、入居前には十分な説明が行われなければなりません。
事業者の中にも、介護付有料老人ホームなどの要介護高齢者の住宅よりも、サ高住などの自立・要支援高齢者住宅の方が簡単だと思っている人が多いのですが、トラブルやリスクを考えると、そう単純なものではないのです。
それは入居者、家族も同じです。
人間関係トラブルや日々の困りごとにきちんと答えてくれる、生活相談サービスの充実した高齢者住宅を選ばなければ、住み慣れた自宅で生活している方がよほど安心・快適なのです。
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