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介護休業期間にすべきこと ① ~自宅生活時の留意点 ~ 

介護休業の目的は、休業期間中に要介護者(親など)の生活環境・介護環境を整えること。「住み慣れた自宅で生活をし続ける」という判断をした場合、生活環境整備の土台となるのが、事故や災害、犯罪、急変などの生活上想定される「リスクの削減」。想定すべきリスクとその対策とは…

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 060


介護休業の目的は、要介護者(親など)の生活環境・介護環境を整えることです。それは大きく、「住み慣れた自宅(実家)で生活をし続けるのか」「介護機能の整った老人ホーム・高齢者住宅に住み替えるのか」という二つの選択肢に分かれます。ただ、親が要介護状態になった時、家族(子供)を襲うのが、「本当に一人で大丈夫だろうか…」「やはり一人で生活するのは難しいんじゃないか…」「また転倒・骨折するんじゃないか…」「今度、脳梗塞になったら…」という漠然とした不安です。
他の親戚たちも、「お父さん一人で大丈夫?」「お母さん一人では心配よね…」などと口を出してくるかもしれません。そのため、「独居よりも老人ホームの方が安心・快適」という落とし穴に陥りやすくなるのですが、前回述べたように、それは、そう簡単な話ではありません。

介護休暇・介護休業を上手に取ろう ①  ~介護休業取得のポイント~ 

介護が必要になれば、これまでと同じ生活はできません。
自宅で生活を続ける場合、生活環境整備の土台となるのが「リスクの想定」です。
自宅で生活する場合、想定すべきリスクは「転倒などの事故リスク」「火災・自然災害」「特殊詐欺などの犯罪」「骨折・脳梗塞・心筋梗塞などの急変」の4つに分けることができます。「要介護高齢者の生活環境・介護環境を整えること」は、実務的に言えば「要介護高齢者の生活上のリスクに対応した生活環境に見直すこと」なのです。

転倒・転落・溺水・誤嚥などの生活上の事故リスクへの対応

まず、一つは転倒・転落・溺水、誤嚥などの生活上の事故リスクへの対応です。
高齢者や家族と話をすると、「家の中にいるのが一番安全」と考えている人が多いのですがそれは大きな間違いです。自宅の中での「転落・転倒」「誤嚥・窒息」「入浴中の溺死」による死亡者数は23891人と、交通事故(2464人)と比較にならないほど多いのです。特に、骨折や脳梗塞で要介護状態になった場合は、これまで通り身体が動かないということが頭では分かっていても身体が慣れていませんから、重大事故のリスクがより高くなります。
自宅内での事故を予防するための対策は大きく3つに分かれます。

① 生活上発生しうる事故の想定・理解
まず一つは、事故リスクの理解です。
高齢者の自宅内での不慮の事故で、発生リスク・死亡リスクともに高いのが、「移動時の転落・転倒」「食事中の誤嚥・窒息」「入浴中の溺死」です。
骨折の場合は骨折の部位、脳梗塞の場合は麻痺の部位だけに注目しがちですが、入院した場合、全身の筋力が低下しています。特に脳梗塞の場合は、咀嚼機能や嚥下機能も低下している可能性があります。トイレに行くとき、冷蔵庫にケーキを取りに行くとき、立ち座りの時は「転倒・転落のリスクがある」、ご飯を食べるときは「誤嚥・窒息のリスクがある」、お風呂に入るときは血圧が急に上がったり下がったりするので「急変や溺水のリスクがある」ということを知っておくことです。
これは自動車事故と同じです。
自動車事故の予防には、「かもしれない運転」が大切だと言われています。「交差点で人が出てくるかもしれない…」「左折時に人がいるかもしれない…」と、どんな事故がたくさん発生しているのか、その場面では特に注意をして運転すれば重大事故を防ぐことができます。
同様に、「どんな時に転倒しやすいのか」「どんな食事で誤嚥をしやすいのか」「入浴中の溺水・ヒートショックはなぜ起きるのか」はわかっています。要介護状態に合わせて、想定される生活上の事故リスクを理解するということが、最初のステップです。

② 事故リスクの対策 ~ハードの見直し~
二つ目は、ハード(建物設備備品)の見直しです。
生活上の事故予防対策の8割は、建物・設備・備品の見直しです。
階段や廊下に手すりを付けたり、段差をなくすなどの「住宅改修」をイメージする人が多いのですが、それだけではありません。「カーペットの端が浮かないようにする」「新聞やチラシを踏んで滑って転ばないように置き場所を決める」「電気コードを歩行動線には引かない」「廊下や階段を片づける」など、ほとんどが工事なしでできることです。
ただ、本人の承諾なしに「危ないから…」と、強引に模様替えをしたり、片づけたりするのはNGです。
模様替えをすると、夜中にトイレに行くときに無意識に手をついていた戸棚がなくったことに気付かずに「転倒・骨折」といった事故が増えますし、家族が新聞やチラシを片づけても、一人暮らしになると、元の状態に戻ってしまいます。同居している間に、日々の生活動線を親と一緒に、「読んでない新聞はここに置こうか…」「読み終わったらここに入れよう…」「もう一回り大きなカーペットを買おうか…」と確認、想像しながら進め、できるだけ手を出さずに本人にやってもらうことが必要です。

③ 事故リスクの対策 ~生活・サービスの見直し~
最後の一つが、生活・サービスの見直しです。
高齢者は、嚥下機能や咀嚼機能が低下し、脳梗塞の予後には特に顕著になりますから、「ゆっくり食べる」「ご飯の前に汁物やお茶で口内を潤す」「おもちなどを食べるときには十分に注意する」「よく噛んでゆっくり食べる」といった日常生活を見直すことが必要です。また、特に寒くなると、ヒートショックによる入浴中の死亡事故が増えますから、「浴槽暖房を活用する」「湯温を高くしない」「浴槽に浸かる時間を短くする」などの対策が必要です。ただ、それでもリスクが十分に軽減できなければ、「入浴はデイサービスで・・・」「ヘルパーさんが来ているときに入浴する」といったサービス導入を検討します。

この事故リスクの想定については、本人と家族だけでは限界がありますから、要介護状態に合わせて、ケアマネジャーが一緒に考えてくれます。家族はそれを土台にして、一ヶ月程度の日々の生活の中で、ケアマネジャーに相談しながら、できることを考えていきます。

火災・自然災害・犯罪リスクへの対応

火災や自然災害の発生、特殊詐欺などの犯罪も、一人暮らしの高齢者にとって大きなリスクです。
平成30年の消防白書によると、平成29年度の火災による死者数は1456人、放火自殺者を除けば70%以上が高齢者であり、「10万人当たりの死者数」でみると、81歳以上の高齢者は全年齢階層の4.4倍に上ることがわかっています。また「平成30年における特殊詐欺認知・検挙状況等について」によると、平成30年のオレオレ詐欺の件数9134件の内、被害者は70歳以上の高齢者が全体の90%を超えています。

① 失火を防ぐ
まず一つは、火災の火元になること、失火を防ぐことです。
火災になるとほとんどの要介護高齢者は迅速に逃げ出すことができませんし、その被害は本人だけでなく、他の住民の生命・財産にまで及びます。
自宅からの失火の原因として多いのが、「たばこ」「暖房機器」「電気の漏電」「ガスコンロ」です。

タバコを吸う場合は、「寝室で本を読みながら…」「リビングでテレビを見ながら…」といったながらタバコは、火災リスクが非常に高いということをきちんと伝える必要があります。どうしても止めらないという人もいるでしょうから、「台所で…、洗面台で…」といったように、すぐに消し止められるよう水回りの近くで喫煙してもらう工夫が必要です。

「電気ストーブ」「石油ストーブ」「電気こたつ」などの暖房機器も失火原因の一つです。
「早く乾くように…」と石油ストーブの上に洗濯物をかけている人や、「寒いから…」と布団やベッドの近くに電気ストーブを置いている人がいますが、これは布団や衣類に火が燃え移り非常に危険です。
寒いからとコタツの中に衣服を入れて温めるという人もいますが、これも火災の原因の一つです。同様に、古い電気製品はコンセントの部分が摩耗によって露出していたり、「タコ足配線」「コンセントの差しっぱなしで埃が付いている」などの事象が重なり、漏電による火災リスクが高くなります。
たこ足配線やコンセントの汚れについて見直すとともに、暖房機器については、火災リスクのない安全なものに買い替えを行いましょう。合わせて、ガスコンロなども「空焚き防止機能付き」「IHコンロ」などへの見直しを行いましょう。

② 類焼・自然災害から身を守る
二つ目は、類焼・自然災害のリスクの軽減です。
高齢者、特に要介護高齢者は災害弱者です。近隣から火災が発生した、また河川氾濫、地震などの自然災害が発生した場合でも、若者のように迅速に逃げ出すことができません。自然災害についてはハザードマップ(ネットで簡単に調べられます)で、その地域・立地にはどのようなリスクがあるのかが分かります。「裏山の土砂災害」「地震」「河川の氾濫」などを想定し、「寝室や居間のタンスは転倒防止措置を取っておく」「ベッドは土砂が入り込まない場所にする」など、できることを考えましょう。
また、仲の良い近隣の人や社会福祉協議会などにも「要介護の母が一人暮らししています…」と伝えておきましょう。

③ 特殊詐欺などの犯罪リスクへの対応
最後の一つは、特殊詐欺などの犯罪リスクへの対応です。
「オレオレ詐欺」に代表される特殊詐欺は、年々巧妙化しています。これだけ全国で啓蒙活動が行われていても根絶できませんし、「私は大丈夫・騙されない」と思っている人ほど簡単に騙されてしまうと言うのが実態で、その被害者の大半は高齢者です。
そのため「騙されないように注意する」ではなく、実務的な対策が必要です。
テレビ等でも紹介されている通り、「録音機能をつける」「留守番電話にする」といった対策が効果を上げています。留守番電話も本人ではなく、家族や若い人の声で録音するというのも一つの方法です。また、「知らない人が来ても家の中に入れない」というだけでなく、「わかりやすい場所に防犯ライト・カメラを付ける」といった対策を検討します。
合わせて、できるだけ頻繁に電話をして、「変わったことはないか」「変な電話はかかってきていないか」といった確認を行いましょう。

事故・脳梗塞・心筋梗塞などの急変リスクへの対応

最後の一つは、転倒骨折や脳梗塞、心筋梗塞などの急変リスクへの対応です。
要介護の親の一人暮らしは、「また心筋梗塞になれば…」「脳梗塞になれば…」「転倒・骨折しても誰もいない…」という怖さがあります。
この「急変リスク」に対しては、「一日おきに訪問介護を利用する」「配食サービスを利用して見守りを行う」「新聞が2日以上そのままになっていた時には電話をしてもらう」といった対応や、セキュリティ会社が行っている「一定時間以上トイレに行かない場合は電話し、応答がない場合は訪問してくれる」といった専用の有料サービスを利用することもできます。それ以外にも、「毎日電話をする」といった安否確認の方法もあります。

ただ、心筋梗塞や脳梗塞など疾病の急変と同じように、述べた転倒・転落・溺水・誤嚥などの生活上の事故も、100%防ぐことは不可能だということも理解しておかなければなりません。
それは、同居をしていても、また老人ホームや高齢者住宅に入っても同じです。
一緒に住んでいても、「母がお風呂から出てこないので見に行くと亡くなっていた」ということは避けられませんし、24時間付き添っているわけではありませんので、転倒事故や誤嚥事故は発生します。介護付有料老人ホームに入っていても、「朝食に出てこられないので、部屋に訪問したら心筋梗塞で亡くなっていた」ということはありますし、24時間スタッフが横についているわけではありませんから、「部屋の中で転倒して骨折」という事故は発生します。

高齢者の生活に100%の安全はありません。できることは「できるだけリスクを削減する対策をとること」「事故や急変の場合に、できるだけ早く発見できる対策をとること」です。
そして、家族も本人も、その覚悟をすることが必要なのです。




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