現在の高齢者住宅業界の最大の課題は、素人事業者が多いということ。そのため、「とりあえず見学」は必ず失敗する。しっかりと事前準備をすれば、見学しなくてもほとんどの素人事業者は排除することが可能。失敗しない高齢者住宅の最大のポイントは事前準備にあり・・
高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 028
一般の賃貸マンションを探す場合、地元の不動産仲介業に依頼するのが一般的です。
しかし、どちらを選ぶ ・・ 家族で探す? 紹介業者に頼む? で述べたように、高齢者住宅には、法的・制度的な仲介制度が整っていません。
最近は、「老人ホーム紹介業」が増えてきましたが、これは不動産仲介業とは全く違うものです。
「相談料無料だからいいか・・」と思うかもしれませんが、入居者・家族の相談料は無料でも、一人の入居者を高齢者住宅に紹介すると、紹介業者には高齢者住宅から数十万円~数百万円の紹介料が入ります。紹介業の相談員の中には介護経験もない素人が多く、中には、大手の有料老人ホーム事業者が、それを隠して「老人ホーム紹介業」を行っているところもあります。不動産仲介業とは違い、中立な立場で紹介、相談をしているわけではなく、いわば「老人ホーム営業のアウトソーシング」でしかありません。
入居率の高い、評判の良い高齢者住宅は、紹介業者を使っていませんし、逆に、競争力のない入居率の低い高齢者住宅は、高い紹介料を支払っています。
それだけでどういうものか、わかるでしょう。今後、倒産する有料老人ホームの増加に伴って、この「老人ホーム紹介業」も必ず大きな社会問題となります。
入居者無料と言っても、「専門的サポート」「中立」を謳い文句として依頼を受けていますし、重要事項説明書や説明内容が間違っている場合、紹介業者も連帯して責任を負うことになります。今後、「聞いた話と違う」と裁判で損害賠償請求を受ける紹介業者もでてくるでしょう。
すべてが「悪徳」というわけではありませんが、家族や高齢者住宅の立場に立って一番良い高齢者住宅をきちんと探してくれるはずだ・・というのは幻想です。
「ただほど高いものはない」のです。
高齢者住宅選びは、なぜ見学からスタートしてはいけないのか・・
高齢者住宅は、高齢者、家族が自分たちで探すというのが基本です。
そのため、「百聞は一見にしかず」「高齢者住宅の話を聞くのが一番大切だ」と出かけてしまうのは、仕方ないのかもしれません。もし私が、高齢者住宅業界に関わる仕事をしていなければ、同じように「とりあえず見学に行って話を聞こう・・・」とするでしょう。
しかし、この「見学からスタート」は、紹介業者の利用と同様に、高齢者住宅選びを失敗している人に共通する最大の特徴です。
それには、3つの理由があります。
① 家族に基礎的な知識がない
一つは、大半の高齢者、家族は、高齢者住宅選びは初めての経験だということです。
例えば、「学校」と言っても、小学校から中学校、高校、大学、各種専門学校と様々なタイプのものがありますし、「病院」といっても、内科、外科、整形外科、歯科、眼科、精神科など様々な診療科目があります。私たちは、社会常識として専門学校と大学は違うこと、内科と外科は違うことを知っています。
同じように、高齢者の住まいと呼ばれるものも、特養ホームや養護老人ホーム、ケアハウスなどの老人福祉施設、また介護付、住宅型有料老人ホーム、サ高住など様々な種類がありますし、特に、後半の高齢者住宅は、同じ「介護付有老ホーム」「サービス付き高齢者向け住宅」といっても、そのサービス内容、商品内容は、それぞれ全く違います。
しかし、介護付と住宅型の介護システムの違い、自立高齢者と要介護高齢者に適した建物の違いなどについて、きちんと理解している家族はほとんどいません。本来、見学はサービスの内容、サービスの質をチェックするために行うのですが、ほとんどの人は、基礎的な知識も、何をチェックすればよいか、どこを見ればよいかを知らないまま見学をしているのです。
大げさだと思うかもしれませんが、プロの目から見れば、「とりあえず見学からスタート」というのは、「小学校、高校、専門学校」「経済学部、文学部、理工学部」の違いも知らずに、「とりあえず近くの学校を見学に行こう」といっているのと、同じです。
② 制度や商品に基礎・土台がない
二つ目は、高齢者住宅は、まだ制度や商品に基礎がない、安定してないということです。
サービス・商品を初めて選ぶ場合、「よく名前を聞く、大手がやっているところだから大丈夫だろう」「値段の高いところはそれなりのサービスが提供されるのだろう」と、名前や価格で選ぶということがあります。初めて入る居酒屋でも、大手チェーンでは価格に応じた平均的なものは提供されますし、個人の居酒屋でも20年30年と続いているところは、それなりの理由があります。
しかし、高齢者住宅は、「大手高齢者住宅事業者」といっても、まだこの十数年程度の新しい事業です。「大手だからノウハウがある」というのは逆で、無理な拡大路線を進めてきたために、実際はサービス管理体制やノウハウ、スタッフ教育は後回しになっており、中には「倒産間近」とささやかれるところもあります。価格帯にも相場というものがなく、入居一時金数百万円、数千万円と言っても、「そのサービス内容で、なんでそんなに高いの?」というところも少なくありません。
これは制度も同じです。
高齢者住宅の制度には、有料老人ホームとサ高住があり、介護保険適用は介護付(特定施設入居者生活介護)と住宅型(区分支給限度額方式)に分かれていますが、なぜ、それぞれ二つの制度、二つの基準があるのかは誰にも説明できません。「介護付有料老人ホームは25万円以上、サ高住は15万円程度」という報道が多いのですが、常識的に考えれば、サービス内容が同じであれば価格は同じはずです。
この制度矛盾をついて、素人事業者が激増、「囲い込み」などの不正が横行しているにもかかわらず、国の指導監査体制は全く整っていません。今では、高齢者住宅の制度不備を巡って、国と自治体との責任の擦り付け合いが始まっており、共通するのは「事業者、高齢者・家族の自己責任」です。
「大手だから・・・届け出制度だから・・・行政からの指導監査もあるから・・大丈夫だろう・・・」というのは、甘い幻想です。
③ 素人事業者が圧倒的に多い
最大の問題は、素人事業者の激増です。
一般の方を対象とした高齢者住宅セミナーで、①の「高校と専門学校の違いも知らないまま見学しているのと同じ」「見学しても何をチェックすれば良いのかわからない」という話をすると、「だから、いくつもの老人ホーム、高齢者住宅を見学に行って、担当者から話を聞くのが一番よいのでは・・」という反論が来ます。
それは高齢者やその家族は、「事業者はプロだ」という前提で見学にいくのですが、高齢者住宅選びは「素人事業者を選ばない」ということで述べたように、高齢者住宅業界は、家族とほとんど変わらないレベルの素人事業者が圧倒的に多いのです。実際、話をしていても、どちらを選ぶ ・・ 介護付か? 住宅型か? ①のような、基本的な介護システムや、高齢者住宅 生活上の事故の原因と責任で述べたような事故のリスクやその責任の範囲について、きちんと説明できる事業者は一部でしかありません。
その一方で、素人事業者ほど、よくわからないので「なんでも安心・快適」「重度要介護になってもOK」と胸を張って言ってしまいます。
例えば、最近、「看取りOK」「認知症対応OK」という高齢者住宅は増えていますが、サービス内容、商品内容を見れば、重度要介護状態になっても安全、安心に生活できる高齢者住宅は全体の2割程度、看取りや認知症対応ができるのは全体の数%です。つまり、現在の高齢者住宅は、実体とはかけ離れた説明が常態化しているのです。
「とりあえず見学にいけば、色々教えてもらえるだろう・・」というのは大間違いです。
基礎知識や事前準備もなく、ただ見学にいっても、一方的に美辞麗句やセールストークを聞くだけになってしまいます。また、それでは、その場限りの質問しかできず、その説明を鵜呑みにして、結局は「感じがよい」「部屋がきれい」などの見た目や雰囲気だけで決定することになります。
逆に、きちんとした高齢者住宅は、様々なケース、リスクがあることがわかっていますから、「看取りOK」「認知症になっても安心・快適」などと安易に言いません。「Aホームは看取りできると言ってるけど、Bホームは看取りにはいろいろ条件が付くから、Aホームの方が優良だ・・」というのは、プロの目からみれば、まったく正反対なのです。
高齢者住宅選びを失敗した人の中には、「いくつもの老人ホームを見学したのですが・・」という人も多いのですが、事前の準備をせず、高齢者住宅の商品やサービス内容をチェックする方法、ポイントも知らないままで、見学しても、何の意味もないということがわかるでしょう。
事前準備だけで、素人事業者は排除できる
高齢者住宅選びには、事前準備が必要・不可欠です。
その第一の目的は、高齢者住宅を見る目を養う、チェックポイントを理解するということです。
しかし、それだけではありません。わざわざ時間と手間を使って見学しなくても、事前準備の段階で素人事業者はほぼ排除できるからです。
素人事業者の最大の特徴は何かと言えば、「できないことをできる」と言ってしまうことです。
「重度要介護高齢者に対応できないのに、できるといってしまう」
「認知症高齢者に対応できないのに、できると言ってしまう」
「医療対応、看取りケアなどできないのに、できるといってしまう」
など、事例を挙げれば、たくさんあります。
例えば、重度要介護高齢者に対応するためには、「重度要介護高齢者が増えても安全に介護できる介護スタッフ数が確保すること」「重度要介護状態になっても、安全に生活できる建物設備になっていること」の二つの基準をクリアしなければなりません。また、看取りケアや認知症ケアを行うためには、それに応じた介護看護システム、医療連携が必要です。「スタッフが頑張る、頑張らない」といった精神論ではなく、重度化対応や認知症対応は、その機能が整っているか否かという商品設計上の問題です。
それは、わざわざ見学して話を聞かなくても、公開されている資料を見ればわかるのです。そのシステムや建物設備が整っていないのに「重度要介護になっても安心」「認知症対応、看取り可能」などとセールスしているところに、話を聞きに行っても、得るものは何もないのです。
つまり、「とりあえず見学」というのは、素人事業者につかまるリスクが高いだけでなく、高齢者住宅選びの手法としては非常に非効率なのです。
見学のために、様々なタイプの高齢者住宅を10件以上回った‥と言う人がいましたが、仕事の休みの日に、一日2件見学できたとしても、一ヶ月以上かかります。また視点もポイントもバラバラですから、誰がどんな話をしたのか、どこが良かったのかを比較することができません。
また、その中にプロの事業者が含まれているかどうかはわかりませんし、10件の内で、最も質の高い、プロの事業者をきちんと選ぶことができるかと言えば、それさえも疑問です。また、入居者の集まっていないところでは、「早く決めないと・・・」「その後いかがですか・・」と毎日のようにセールスの電話がかかってきますから、断るのも大変です。
これに対して、事前に資料を集めて、素人事業者を排除すれば、一定以上のレベルの高齢者住宅を3件に絞って見学することができます。その質の高い事業者の中から、最も両親や家族の希望に沿った生活環境の高齢者住宅を選べば良いのです。
事前準備をするだけで、優良な事業者をピンポイントで探すことかでき、かつそのための相当の時間と手間を大幅に削減できるということがわかるでしょう。
現在の高齢者住宅は、大手事業者、中小事業者は関係なく、「プロの事業者」「素人事業者」に二極化しています。 残念ながらその比率は、【2:8】くらいだといって良いでしょう。
大手事業者の中にも、「ご利用者様の笑顔が私たちの誇り」「私の本当のおじい様、おばあ様と同じように・・」などと、聞いている方が恥ずかしくなるようなセリフを言っている経営者もいますが、その中身はほとんど空っぽです。逆に個人の事業者でも高齢者や家族の視点にたって、サービス体制を整えて頑張っている事業者はたくさんあります。
高齢者住宅は、たくさんの種類があり、それぞれに商品・サービス内容が違うため、「高齢者住宅選びは難しい」という人が多いのですが、そうではありません。
「いい老人ホーム」は、それぞれに違いますが、きちんと事前準備をすれば「プロの事業者」と「素人事業者」を見分けるのは、初めてでも、そう難しいことではないのです。
まずは見学前に、全体の2割のプロの事業者に絞る作業から始めていきましょう。
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高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばない」こと
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