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こんな介護サービス事業者で働いてはいけない ~なんでもOK・すぐに入居可~

安易に「自立~重度要介護まで」「認知症対応可、医療対応要相談…」「すぐに入居可」「ターミナルケアやってます…」の事業者にはリスクマネジメント・ケアマネジメント介護経営マネジメントの理解・ノウハウがない素人事業者

介護スタッフ向け 連 載 『市場価値の高い介護のプロになりたい人へ』

こんな介護サービス事業者で働いてはいけない・・・
その四つ目は、誰でもOK、すぐに利用可・入居可という事業者です。

「良い老人ホーム、介護サービス事業者の特徴を教えて下さい」
という質問を、マスコミの方から受けることがあります。
わたしも、老人ホーム・高齢者住宅選びの本を数冊だしていますが、その答えは、「良い老人ホームは一人一人違うけれど、素人事業者・質の低い事業者の特徴は同じ」「高齢者住宅選びは、良い老人ホーム・高齢者住宅ではなく、まずは素人事業者を選ばないこと」です。
これは、利用者・入居者だけでなく、ここでお話をしている労働者としての視点も同じです。「良い老人ホーム」に対する価値観は一人一人違うので、それに文句をつけるつもりはありません。

ただ、他の多くのコンサルタント・介護ジャーナリストが言っている「良い老人ホーム・高齢者住宅の特徴」として、「それは違うだろう…」と思うことが、一つあります。
それは、優良な事業者、サービスの質の高い事業者の特徴として
「自立~要介護まで多様な要介護状態の高齢者を積極的に受け入れていること」
「認知症・医療依存度を含め、多様な要介護状態の高齢者の受け入れしていること」
「困っている家族の事情を理解し、できるだけ迅速に入居ができること」

つまり、どんな要介護状態でも受け入れ可能で、すぐに入居可という事業者が優秀だという認識を持っていることです。実際、民間の介護付・住宅型・サ高住を問わず、民間の高齢者住宅の多くは、「自立~重度要介護まで…」「認知症対応可、医療対応要相談…」「すぐに入居可」とそれがセールスポイントであるかのように、アピールしています。
もちろん、介護の現場では、緊急対応が必要な事例はあります。家族の虐待で命の危険がある、介護をしていた家族が入院するなど福祉的な緊急避難的な入所対応が必要となるケースです。ただ、これらは本来措置入所や緊急ショートといった老人福祉施設の役割であって、民間の高齢者住宅が背負う問題ではありません。
なぜ、「認知症も医療ニーズもOK」「すぐに入居可」という事業者が素人事業者なのか…。
それは、ケアマネジメント・リスクマネジメントの視点が欠けているからです。

ケアマネジメント・リスクマネジメントの視点がない

まず、「認知症も医療ニーズもOK」がなぜダメなのか。
それは、介護サービスは契約であるということがわかっていないからです。
同じ要介護3といっても認知症高齢者と身体機能低下の高齢者とでは、介護の方法は全く違います。失見当識のある認知症高齢者は、認知機能・判断力の低下による転倒事故やトラブルは多く、食事や排泄が自立している人でも、見守りや声掛けが不可欠です。また、医療ニーズの高い高齢者も、些細なミス・一瞬のスキが、急変や事故などにつながります。

様々な要介護状態の高齢者を受け入れることは、それだけ介護事故や急変のリスクが多様化し、かつ発生の可能性が高くなるということです。法的には「認知症高齢者も医療依存度の高い高齢者も、安全に暮らせる生活環境を整える義務が生じる」「万一、事故・急変が発生した時の一定の法的責任を負う」ということです。それに対応するには多様な知識・技術・ノウハウが必要で、事業者だけでなく介護看護スタッフにも高い安全配慮義務が重く圧し掛かってきます。
それがどれだけ介護現場にストレスを与えるのか、法的に責任を負わすことになるのかを、本当にわかっていて、またそれに耐えうるだけの手厚い介護看護体制、高い知識・技術・ノウハウがあるのか判断をして、受け入れをしているのか…です。
それができていないのに、「認知症対応可、医療対応要相談…」と安易に標榜し、実際に受けいれている事業者で働くことが、どれだけリスクが高いかわかるはずです。

もう一つ、「すぐに入居可」という事業者がなぜだめなのか…。
実際、「病院からの退院後すぐに入居できます…」という高齢者住宅は多く、午前中に退院が決まって連絡すれば、午後から入居できるという高齢者住宅もあります。家族も「あれこれ悩まなくて済む」、病院からすれば早期退院を促進できるため助かっているという話しもききます。
でも、それは、ケアマネジメントに基づくサービス契約やサービス提供責任の相互理解のないまま、介護看護スタッフだけが重い事故リスクを背負うという極めて危険な行為です。
ケアマネジメントもケアカンファレンスもないまま受け入れるということは、どのような要介護状態なのか、どのように介護すれば安全なのか、どのような事故リスク、急変リスクがあるのか…ということをまったく検討しないまま、またそのサービス提供責任について家族との相互理解がないまま受け入れるということです。ある日突然、「今日の午後から要介護3の女性が入居されます」と聞かされ、その人が認知症高齢者で、いきなり転倒・骨折すれば、その法的責任はその時にたまたま担当していた、介護スタッフが負うことになります。

この「認知症対応可、医療対応要相談…」「すぐに入居可」という高齢者住宅は、リスクマネジメントもケアマネジメントも理解していないという点で、一致しています。また、どうしてそこまで入居者確保、緊急的な入居をさせるかと言えば、経営状態が悪いから、介護経営マネジメントができていないからです。つまり、3つのマネジメントが一つもできていない、三重苦の素人事業者だということです。

これは、「ターミナルケアできます…」も同じです。
ターミナルケアを行うためには、それに応じた知識や技術、家族との事前の丁寧な話し合い、協議が必要で、現場で働いている介護看護スタッフにも相当重いストレスがかかります。特に、夜間に介護スタッフだけの場合、「その人が亡くなったかどうか…」という判断もできませんし、苦しまれたり、時には吐血されたりもしますから、「ターミナルケアやってます」と安易に言えるような簡単な話ではないのです。
確かに、ターミナルケアに真摯に取り組んでいる優秀な事業者もあります。
ただそこは、【1.5:1配置】で夜間にも看護師が常駐、少しでも変化があれば、24時間医師がすぐに飛んでくるといった万全の体制を取っています。ただ、その施設長と話をすると、そんなところでも、「ターミナルケアを約束するわけではない」と言います。それは、他の入居者の状況、介護看護スタッフの介護看護余力、家族のターミナルケアへの理解、急変時の対応、やむなく救急車を呼ぶケースなど、事細かに個別に決めないと対応できる問題ではないからです。
「ターミナルケアに力を入れています」というサ高住の事業者に話を聞くと、ターミナルケアの定義は、「急変しても救急車を呼ばないことだ」と言いました。
本人が急変しても、吐血しても、苦しんでいても放置しておくのでしょうか。
それは、家族の意志の有無にかかわらず、ターミナルケアではなく「保護責任者遺棄致死」です。
「何でもOK、すぐに入居可」「ターミナルケアOK」と言っている事業者がいかに素人か、そこで働くことがどれほど怖いことなのか、わかるでしょう。

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