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介護のプロになるための「土台」とになる資格を取得する


専門職の資格の市場価値を考える上で必要なのは「名称独占か業務独占か」「必置資格・加算対象資格か否か」。介護のプロになるためには、技術・知識の中核となる国家資格と介護支援専門員の資格は必須。まずはこの専門職種の土台・基礎となる資格取得を目指すこと

介護スタッフ向け 連 載 『市場価値の高い介護のプロになりたい人へ』 020


介護の資格と言えば、介護職員初任者研修や介護福祉士、社会福祉士などが代表的なものとしてイメージされるが、それ以外にもたくさんある。
まずは、いくつか主だったものについて、簡単に整理してみる。

【社会福祉士】
相談援助技術や福祉全般を網羅する国家資格。
生活相談や他の事業者・家族との連携・調整などを行う、主として生活相談員の資格。

【介護福祉士】
高齢者介護の中核となる国家資格。
排泄や入浴、食事介助など、主として介護現場での実務を担う介護職員の資格

【介護職員初任者研修(ホームヘルパー)】
介護福祉士同様に、排泄や入浴・食事介助など、介護実務を担う介護職員の資格。試験の合否判断による資格とは違い、都道府県が指定する事業者が行う、「介護の基本」「認知症の理解」「老化の理解」など130時間の講義や演習を受けることで、その過程を修了したと認められる。

【介護支援専門員(ケアマネジャー)】
ケアマネジャーは業務の名称であり、正式名称は介護支援専門員。国家資格ではないが、ケアマネジメントの作成・管理を行う介護保険法の中核となる業務独占の資格であり、この資格がなければケアマネジャーの業務は行えない。福祉や保健医療分野の国家資格と五年以上の実務経験が必要。

【福祉用具専門相談員】
要介護状態に合わせた福祉用具の選定や安全な利用を支援する「福祉用具」の専門相談員。都道府県の指定した50時間の講習を受けることで取得できる。

【福祉住環境コーディネーター】
住宅改修など要介護高齢者の居住空間の改善を提案するコーディネーターの資格。東京商工会議所が主催する試験に合格する必要があり、その難易度によって、一級~三級に分れている。

これら以外にもレクレーション、食事など、様々な資格・講習が行われており、国が行っている「国家資格」から「公的資格」「民間資格」、さらには「受講資格が必要なもの」「試験が必要なもの・講習だけでとれるもの」など、その内容は多岐にわたる。


資格の特性と市場価値について理解する

介護の資格は、それぞれの分野で、その技能・知識の向上に直結するものだ。
介護関連の国家資格といっても、社会福祉士と介護福祉士では、対象となる知識・技術方向性は違う。「介護主任など介護現場で働くのか」「生活相談員などの生活相談員を目指すのか」によって、どちらの資格を取得するのかを決めることになる。
ただ、「介護のプロ」を目指すために、重要になるのが「資格の市場価値」の視点だ。

① 「業務独占資格」「名称独占資格」の違い

職業に関する資格は、その性質から「名称独占資格」と「業務独占資格」に分かれる。
「名称独占資格」は、その資格取得者以外は、その名称を名乗ってはいけないという資格だ。介護福祉士の資格がなくても特養ホームで働くことはでき、社会福祉士の資格がなくても生活相談員の仕事を行うことは可能だ。しかし、介護福祉士や社会福祉士以外の人間が、そう名乗ることは法的に禁止されている。

これに対し、「業務独占資格」とは、その資格がなければ、「業」として当該業務を行うことが法令によって禁止されている資格だ。
代表的なものに医師や看護師などが挙げられる。糖尿病患者に対するインシュリンの注射など、家族ができることでも、医師法、保健師助産師看護師法に違反するため介護スタッフにはできないことが多い。同様に、介護福祉士であっても専門の研修を受けないと、痰の吸引などの業務を行うことはできず、ケアマネジャーの資格がないと、業としてケアプランを策定することはできない。
また、福祉住環境コーディネーターも、介護保険の居宅介護住宅改修費の申請に必要な理由書を策定する専門職として、ケアマネジャー、作業療法士とともに認定されている。

② 介護報酬に関わる必置資格か否か

もう一つは、介護報酬に関わる必置資格か否か。
それは、事業を行う際に、その事業所にその資格保持者を必ず置かなければならないというもので、「設置基準」だけでなく「介護報酬加算」にも関わってくる。
例えば、社会福祉士は「地域包括支援センター」で総合相談業務、サービス事業者及び行政との連携業務担当者として位置付けられ、その配置が義務化されている。また、特養ホームや介護付有料老人ホーム、居宅支援事業所の指定基準にはケアマネジャーは必置であり、介護保険制度の指定を受けた福祉用具貸与・販売事業所には、二名以上の福祉用具専門相談員の配置が義務付けられている。
これは設置基準だけでなく、最近では介護福祉士の資格保持者の割合によって介護報酬が加算となる「サービス提供体制強化加算」など、専門性・サービスの質を高めるために、資格と介護報酬がリンクするようになっている。

「介護福祉士や社会福祉士は業務独占ではないから…資格としては弱い」という声もあるが、これは「介護福祉士」に対する評価が低いわけではなく、国家資格者に限定すると激増する需要に対応できないからだ。ただ、一定の研修を受けた介護福祉士には喀痰吸引、経管栄養への対応が認められるなど、「資格」を基礎とした業務班員の拡大が行われており、同様に、専門性強化のために、有資格者の設置義務化や報酬加算としての評価は増えている。

資格を持っているということは、できる仕事が増える、活躍の場が広がるということだけでなく、事業者の収入を上げることができ、「市場価値」「給与水準の向上」に直結するものなのだ。


介護のプロは、国家資格とケアマネジャーの資格は必須

高齢者介護の仕事をする上で、資格は「必要なもの」というよりも、「基礎・土台になるもの」だと言ってよい。 資格取得に必要となる二つのポイントを挙げておく。

① 中核となる国家資格をもつ

まず一つは、社会福祉士、介護福祉士など、土台となる国家資格を持つことだ。
高齢者介護は、看護や医療、リハビリ、食事(管理栄養士)など関連する周辺分野の他の専門職、国家資格保持者と連携、調整していくことになる。時には連携だけでなく、「本人はお酒を飲みたい」「糖尿病の悪化が懸念される」など、それぞれの専門分野の視点から意見がぶつかることもある。その場合、いかに正しいことを言っていても、「国家資格」がなければ、その専門性を担保するものがないため、発言力や立場は弱くなってしまう。
小さな資格、民間資格をたくさん持っていても、土台がなければ評価は小さくなる。
高齢者介護のプロとして、生活の視点から他の専門職種と対等な立場で、要介護高齢者をサポートするには、国家資格の取得が必須だ。

② 介護支援専門員の資格を持つ

もう一つは、介護支援専門員だ。
介護労働者は、みんなケアマネジャーを目指せという意味ではない。日本の高齢者介護は、ケアマネジメントという科学的・専門的な手法を使って、個別ニーズを基礎とした個別ケアを実践している。それは介護だけでなく、医療や看護、家族、行政サービスなど、要介護高齢者を取り巻く社会資源を、チームケアとして一つの目標に向かってつなぐ手法でもある。
「自分のやっている介護以外のことはわからない」では、要介護高齢者の生活を支えることはできない。
ケアマネジメントは、ケアマネジャーの仕事ではなく、その要介護高齢者に係る専門職・サービスすべてがその構成員である。ケアマネジメントを勉強すれば、「排泄介助」「食事介助」という日々行っている介助が、要介護高齢者によってそれぞれ注意点、視点が違うこと、そしてその要介護高齢者の生活をどのように支援していくのか、という全体像が見えてくる。
また、介護支援専門員の資格は、「取得すれば終わり」ではなく、その業務を行っているか否かに関わらず、5年に一度、更新研修が義務付けられている。それは介護保険制度の改定やケアマネジメント、高齢者介護の最新情報を得る上でも、とても重要なことだ。

介護の仕事をするというだけであれば資格は必要なく、国家資格があるから優秀というわけではない。
ただ、介護のプロとしての評価の土台に立つには「国家資格」と「介護支援専門員」の資格は必須だということだ。現在、介護業界で働いているが資格のない人、これから介護の業界に入る人、また将来、介護のプロを目指そうと考える人は、まずは、この土台・基礎を目標に、「何年後に手に入れることができるのか」「どうすれば取得できるのか」を考え、計画性を持って進むことが必要になる。




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