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こんな介護サービス事業者で働いてはいけない ~介護体制が脆弱~

介護の仕事は基本的には忙しい。ただ、「忙しい…」と「絶対的に介護人員が足りていない」は根本的に別の問題で、かつ「指定基準をクリアしているから人員は足りている」と言うのも間違い。【3: Ⅰ配置】の介護付有料老人ホームでは、安全に介護することは難しい

介護スタッフ向け 連 載 『市場価値の高い介護のプロになりたい人へ』

こんな介護サービス事業者で働いてはいけない・・・
その五つ目は、介護体制か脆弱、絶対的に人員が足りていない事業者です。

「介護の仕事は忙しくて大変なのに、給与が安いから最悪だ…」
「介護は、身体的にも精神的にも介護スタッフの犠牲で成り立っている…」
そのようなコメントを残しているのは、訪問介護ではなく、その多くは介護保険施設や介護付有料老人ホームなどの高齢者住宅で働く介護スタッフです。
訪問介護は、一軒一軒のお宅を訪問し、決められた時間、マンツーマンで入浴介助や排泄介助をする介護方法です。時間的・量的に一日に訪問できる件数は限られていますから、一人の訪問介護スタッフの業務内容・業務負荷は大きく変わりません。訪問介護のスタッフが不足すれば、利用希望者がいても受けられないというだけの話です。
これに対して、介護保険施設や介護付有料老人ホームは、要介護度と入所者数で一日の総介護量は決まり、それを何人の介護スタッフで対応・シェアするのか…という介護システムです。

例えば、日勤帯(午前9時~18時)までの、排泄介助、入浴介助、食事介助、見守りや声掛け、随時対応などの総介護量を100として、それを一〇人の介護スタッフで対応するには一人10ずつの業務量になりますし、五人で対応しようとすると一人20ずつの業務量になります。
ベテラン介護福祉士か無資格新人かによって、対応できる業務量に差はありますし、建物設備によっても変わってきますが、介護は労働集約的な事業ですから、単純化すればそのような計算が成り立ちます。

上記のように、60名定員の介護付有料老人ホームで、指定基準の【3:1配置】の場合、介護看護スタッフ数は20名ですが、上乗せ介護をしている【2:1配置】の場合は30名です。同じ勤務体制でも働いている人数、業務量・業務負荷が違ってくると言うことがわかるでしょう。

「忙しい」と「介護スタッフが絶対的に足りない」は基本的に違う

介護スタッフ配置がより手厚いところの方が働きやすい、プロの事業者だということではありませんし、「介護スタッフ配置の多いところは、介護スタッフはヒマ」ということもありません。
また、上乗せ介護をしている介護付有料老人ホームは、当然それだけ費用が高くなります。
『基準配置の【3:1配置】なのだから、【2:1配置】のところよりも安いのだから、介護の手が薄くなることがあっても仕方ない。支払い能力の高い、手厚い介護を希望する高齢者・家族は、そう言うところを選べばよい」という介護付有料老人ホームの意見はその通りです。

ただ、働く労働者の視点で見れば、介護の手厚さによって労働環境は変わってきます。
例えば、夜勤スタッフが二人か三人かによって、業務量だけでなく精神的ストレスは全く違いますし、食事介助でも、スタッフの数に余裕がある場合、高齢者の食事のスピードに合わせてゆっくり介助できますが、そうでない場合、「時間内に急いで何とか食べてもらおう」「早く食べてもらわないと入浴介助に間に合わない…」という意識が強くなります。

これは、リスクマネジメントの視点にもつながっていきます。
人が足りない事業者では、日々の業務に追われて、丁寧な介助や見守り、声掛けなどの、リスクの早期発見ができませんから、転倒骨折や誤嚥窒息などの事故の発生確率が高くなります。
ただ、事故に対して介護スタッフが背負うリスク・責任は、【3:1配置】だろうと、【2:1配置】だろうと同じです。裁判所は、介助ミス・安全配慮義務に過失があったか否かだけで、「【3:1配置】だから、忙しいんだから事故が起きても仕方ないね…」とは言ってくれません。
そう考えると、【3:1配置】【2:1配置】とでは、業務量は1.5倍程度、精神的なストレスは3倍くらいは違います。でも人員配置が【3:1配置】の介護付有料老人ホームでも、手厚い介護の【2:1配置】でも、あなたの給与も責任も変わらないのです。

【3:1配置】の介護付有料老人ホームでは、介護はできない

これは「手厚い介護体制の老人ホーム・高齢者住宅で働いた方がいいですよ…」「手厚いところの方が楽できますよ…」という話をしているのではありません。この働きやすさ、介護のしやすさというのは、職員体制だけでなく、建物設備によっても大きく変わってきます。

ポイントになるのは、リスクマネジメントです。
つまり、入居者が安全な介護が受けられる介護生活環境になっているか、介護スタッフが安全に安心して介護できる労働環境になっているのか…ということです。

【安全な介護労働環境の最低基準(ユニットケアの場合)】
・・・・・2ユニット(もしくは1フロア)に対して一人以上の夜勤スタッフ
・・・・・個別浴槽の場合、マンツーマンの入浴介助
・・・・・食事介助は、ユニット単位2人以上の配置 

何故、「夜勤帯の配置」「入浴介助の配置」「食事介助の配置」を上げたかと言うと、転倒転落や溺水、誤嚥窒息などによる骨折や死亡などの重大事故の発生リスクが高い場所だからです。夜勤帯でも3ユニットで2人しかいなければ、異変に気付くことができませんし、入浴時間帯は少しの時間でも目を離せば、滑って転倒・頭部を強打したり、溺水することになります。食事介助も、誤嚥や窒息のリスクが高い介助項目です。
そう考えると、残念ながら指定基準の【3:1配置】の介護付有料老人ホームでは、どれだけ建物設備を工夫してもこの安全基準をクリアすることはできません。つまり、要介護高齢者の安全な生活環境、介護スタッフの安全な労働環境ではないのです。

この【3:1配置】というのは、昔の特養ホームの指定配置基準です。ただ、昔の特養ホームは4人部屋ですし、自立や要支援程度の人も半分くらいいましたので、その基準でもゆったり介護することができました。いまは、特養ホームは重度要介護高齢者優先になりましたので、4人部屋の旧型特養ホームでも、【2.4:1配置】(定員60名に対して25人)、ユニット型個室では【1.8:1配置】(定員60名に対して33人)程度の介護看護スタッフが働いています。
もちろん、要介護といっても、ほとんどの入居者が、身の回りの基本的な生活行動が一人でできる要介護1・2の軽度要介護であれば、【3:1配置】でも介護をすることは可能です。しかし、それでは介護報酬が低いために経営が成り立ちませんし、加齢によって入居者の要介護状態は重くなっていきます。

そう言うと、「介護保険の指定基準が間違っているんだ…」と怒る経営者がいますが、介護保険制度は「【3:1配置】で介護しろ」とは言っていません。その事業計画を立て、「介護付だから安心・快適」「重度要介護・認知症でも大丈夫」とセールスしているのは事業者です。
言いかえれば、本当にその人員配置で、安全に介護サービスが提供できるのか、安全に安心して介護スタッフが働ける環境なのか、過重労働にならないのか、誰もチェックしていないのです。厳しいようですが、指定基準配置の介護付有料老人ホームは、ケアマネジメントの視点からもリスクマネジメントの視点からも、介護経営マネジメントの視点からも、働いてはいけない欠陥商品なのです。

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