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こんな介護サービス事業者で働いてはいけない ~専門性に対する無理解・否定~

繰り返される素人経営者による「ケアマネジメントへの不正介入」。すべてのプロフェッショナルは自分の仕事・専門性にプライドを持っている。専門性を理解しない、否定するような事業者の元で働くことは、介護の仕事・自分の人生を貶めることになる

介護スタッフ向け 連 載 『市場価値の高い介護のプロになりたい人へ』


こんな介護サービス事業者で働いてはいけない・・・
その二つ目は、介護の専門性を否定している事業者です。

現在の介護業界の抱える最大の問題が、ケアマネジメントを歪める経営者・事業者の存在です。
介護保険制度の発足によって、導入されたのが、これまでの経験則によって行われる介護ではなく、ケアマネジメントという手法に基づく、科学的・専門的な介護です。
「要介護3」と認定されても、身体介護と認知症介護は全く違いますし、それぞれ持病や生活環境、生活ニーズは一人一人違います。要介護状態・生活環境を適切に把握し、困りごとや希望を聞き取り、生活上の課題や事故リスクを分析(アセスメント)します。その上で、訪問介護、通所介護、通所リハ、訪問看護、福祉用具など様々な介護メニューの中から、その要介護高齢者・家族に適したサービスを選択し、組み合わせてケアプランを作成し、本人・家族に提案します。
本人・家族との合意ができれば、各種サービス提供がスタートします。その上で、困りごとは改善されているのか、新たな生活課題はないか、要介護状態に変化はないか…など、定期的・継続的にモニタリングしながら、ケアプランを見直します。

この一連の流れをケアマネジメントと言います。
このケアプランの作成は、ケアマネジャー(介護支援専門員)の有資格者のみに許させた業務独占の専門的な仕事です。その受験には社会福祉士・介護福祉士・看護師などの国家資格と介護現場での5年以上の実務経験が必要で、2020年の合格率は17.7%と取得の難しい資格です。
しかし、一部の素人事業者は、その専門性を否定し、サービスの売り上げや利益を上げるために、「区分支給限度額の上限まで、サービスを利用させろ」「系列法人の訪問介護・通所介護を集中的に利用させろ」「利益率の高い福祉用具をセールスしろ」などと指示しているのです。

ケアマネジメントへの介入は不正だということさえ知らない素人経営者

この話をすると、「どこが不正なのか?」と首をかしげる経営者がいます。それは中小だけでなく、大手事業者にもいます。同一法人のサービスを利用してもらうのは当たり前のことだ、経営者としてそれを指示するが何が悪い、「トヨタの会社のディーラーは、トヨタの車を売るだろう」という人もいます。
しかし、これは根本的に間違っています。
自動車であれ、洋服であれ、民民契約の商品・サービスであれば、それでも問題はありません。「この人の望んでいる車はホンダにある」と知っていてもそれを勧める必要はありませんし、似合わないと思っていても「よくお似合いですよ…」と言うでしょう。
ただ、介護保険制度でその報酬の八割・九割を支払っているのは保険者です。介護サービスは、適正なケアマネジメントによって導きだされた科学的・専門的な知見によって提供されるのが絶対原則です。「本人・家族もケアプランにサインしている…」と逃げ口上を打つ人がいますが、家族や利用者は、ケアマネジャーがその専門性・職業倫理に基づいて、最適のケアプランを作ってくれていると信じているからです。そのための業務独占の専門職種なのです。
このケアマネジメントに、経営者・事業者がなどの第三者が営利目的で関与すること、ケアマネジャーがその指示に従い、ケアマネジメントを歪めることは、介護保険の根幹に関わる重大な法律違反です。

それは、医療保険のことを考えれば良くわかります。
医師が、医療のことを知らない、医師でもない第三者の指示に従って疾病の診断、病状の度合い、治療方針を変更するのと同じだからです。
「単純な風邪の症状だけれど、高額な検査機器を買ったから検査に誘導しろ」
「本人の症状に合った薬ではなく、一番利益率の高い、高価な薬を処方しろ」
「初期ガンで投薬での治療が可能だけれど、保険点数の高い開腹手術をしろ」
「肺がんのステージⅠだけれど、ステージⅢということにしろ」

経営的に必要だからと言われて、それに従う医師がいれば、明らかな医師法違反です。発覚すれば医師の資格は剥奪になります。同様にケアマネジメントの不正は、ケアマネジャーの資格停止、剥奪、更には、高額な介護報酬の返還請求の対象となります。利益誘導のためのケアマネジメントの改竄が許されるのであれば、介護保険制度の根幹が揺らぎます。
「医療とは違い、介護は命にかかわるようなことはない」「訪問介護でも通所介護でも同じだ…」などと思っているのであれば、それは甘い考えです。医療でも介護でも利益誘導のための改竄や不正によって、患者や要介護高齢者が不利益を被ったり、転倒骨折・死亡などになれば、医師もケアマネジャーも、業務上過失致死という刑事罰に問われ、最悪の場合、刑務所に入ることになります。「本人が説明を聞いて納得してるから…」「開腹手術はしたんだから不正請求ではない」というレベルの話ではないのです。
そうならなくても、「ケアマネジメントに基づくサービス提供でない」と判断されれば、巨額の返還金を求められ、最悪の場合、その請求はケアマネジャー個人にも関わってくるのです。

なぜ、一部の介護経営者が、そんなことを軽々しく言うのかと言えば、質の高い介護サービスを提供しよう、専門性の高い介護サービス提供しようという気はさらさらなく、介護福祉士や社会福祉士、ケアマネジャーのもつ専門性を、軽んじているというよりも、完全に否定しているからです。
ただ、残念ながら、それが不正だとも思わずに、「よくある話だ」と憤ることもなく、唯々諾々と従っているケアマネジャー、介護福祉士の資格を持ちながら疑問に思わない人もいるのです。彼らが提供するのは、高い専門性と職業倫理に基づいて作成したケアプランではなく、生活の改善に役立たない、劣悪な介護サービスの押し売りです。それは、あなたを専門職として信頼して任せてくれた要介護高齢者やその家族を裏切る行為だということに気が付かないのです。

すべてのプロフェッショナルは自分の仕事・専門性にプライドと誇りを持っています。
専門職種はなおさらです。
「介護スタッフは、給与が上がらない二・三年で入れ替わってくれるのがベスト」
「専門性も頭も必要ない。言われたことを黙々としてくれるだけでいい」
「ケアマネジャーは、自分たちのサービスをたくさん売るのが仕事」

そんなことを平気で口にするような経営者のもとで働くことは、「介護のプロ」になる・ならないという話ではなく、介護の仕事、自分の人生を貶めることになるのです。

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