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こんな介護サービス事業者で働いてはいけない ~囲い込み事業者~

違法行為・専門性の否定が蔓延しているのが、低価格の住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・無届施設などの「囲い込み型高齢者住宅」。有資格者であるあなたが加担した不正行為は、事業所を辞めた後でも追いかけてきて、あなたの人生を滅ぼすことになる

介護スタッフ向け 連 載 『市場価値の高い介護のプロになりたい人へ』

こんな介護サービス事業者で働いてはいけない・・・
ここまで、「コンプライアンスの意識が乏しい」「事業者介護の専門性を理解していない・否定している事業者」の二つを述べてきました。
とんでもないと思うかもしれませんが、残念ながらこのような素人事業者、悪徳事業者が横行しているのが介護サービス事業です。特に、その傾向が強いのが、訪問介護や通所介護が併設された、低価格のサービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホーム、無届施設などの「囲い込み型高齢者住宅」と呼ばれる事業者です。

高齢者住宅の「囲い込み」とは何か

囲い込み型高齢者住宅とは、家賃や利用料を低価格に抑えて要介護高齢者を集め、「私たちにすべお任せください」と囲い込んで、ケアマネジメントを無視して、系列の訪問介護や通所介護、テナントの診療所で介護や医療サービスを、強制的に利用させることで利益を上げるという手法です。
何故、そのような不正が横行するのかと言えば、介護付有料老人ホームに適用される「特定施設入居者生活介護」とサービス付き高齢者向け住宅に適用される「区分支給限度額方式」とでは、受け取れる介護報酬に差があるからです。

                   介護付と住宅型(サ高住)の介護報酬の差

区分支給限度額方式は、一般の自宅で生活する高齢者を対象とした報酬体系で、訪問の手待ち時間や移動時間などの非効率性を加味して高く設定されています。例えば、通常の自宅向けの訪問介護の場合、一日一人の訪問介護員が8軒程度の自宅に訪問するのが限界ですが、サ高住や住宅型の場合、移動も手待ち時間もないためその二倍以上訪問することが可能です。
この二つの報酬体系制度のスキを突いて、「高齢者住宅も一軒一軒自宅だから」と、系列の訪問介護や通所介護で限度額一杯まで利用させることで「月額費用は安いけれど、事業者の収入は多い」というビジネスモデルを構築しているのです。
この囲い込みは介護保険だけでなく、医療保険にも拡大しており、家にいるときは糖尿病の内科だけだったのに、高齢者住宅に入ると、内科や精神科、眼科、歯科、整形外科など複数の診療科の受診をさせられるという問題も出てきています。自己負担は介護付よりも10万円安いけれど、毎月100万円以上の医療介護費が不正に搾取されているという構図です。

「囲い込み」は同一・関連法人の介護・医療サービスをたくさん使わせていることだと勘違いしている人が多いのですが、その不正の本質は事業者による利益誘導を目的としたケアマネジメントへの関与、強要にあります。介護付有料老人ホームとは違い、住宅型有料老人ホームやサ高住と訪問介護・通所介護サービスは無関係ですが、事業計画の段階で「区分支給限度額を全額使ってもらう」「系列の訪問介護・通所介護だけを使ってもらう」という不正行為が前提になっているのです。

「囲い込み高齢者住宅」で行われている3つの不正

囲い込み型高齢者住宅では、介護保険の根幹を揺るがす3つの不正が行われていると言われています。

① 認定調査に対する不正
・・・ かかりつけ医とケアマネジャーが結託し不正に要介護認定を重くする

◇ ほとんど自立生活を送れているのに、サ高住に入居すると要介護2に
◇ 自宅では要支援Ⅰだったのに、住宅型有料老人ホームでは要介護3に
② ケアプランに対する不正
・・・ 適切なアセスメントに基づかない、サービスケアプランの作成

◇ 個別のアセスメント・モニタリングがほとんど行われていない
◇ 訪問看護が必要なのに、併設の訪問介護しか利用させてもらえず褥瘡悪化
◇ 自分の部屋にいたいのに、毎日強制的に併設の通所介護に行かされる
③ 介護報酬の不正請求
・・・ 実際にサービスを提供していないのに、介護報酬だけ請求
◇ 実際には10分しか介護していないけれど、30分の報酬を取っている
◇ 訪問時間の管理は誰もしておらず、臨機応変に介護している
◇ サービスの実施報告は管理者が勝手に自分の印鑑を押して請求している

ここまでくれば、不適切というレベルではなく、刑法上の詐欺行為です。
しかし、実際に囲い込みをやっている事業者・経営者と話をすると、異口同音に「不正行為は示していない」と否定します。「ケアマネや介護福祉士は介護の専門家なんだから、不正にならないように現場で考える問題だ」「自分は知らない、現場スタッフに任せてある」と責任転嫁をします。
そして不正がニュースになると「管理体制が不十分だった。監査・検査体制をきちんと見直したい…」とあくまでケアマネジャーや現場の個人の不正だということをアピールします。

酷い話だと思うかもしれませんが、これは当然です。
そもそも、高齢者住宅と居宅介護支援事業所(ケアマネ)、訪問介護、通所介護事業者は別事業者です。
高齢者住宅の経営者は無資格・無関係です。一方の介護福祉士や初任者研修を受けた訪問介護員、ケアマネジャーは当事者・かつ有資格者ですから、「知らなかった」「不正だと思わなかった」という言い訳は通じません。「経営者の指示で組織的にやっていた」「実績表は管理者が一括して作っていた」と言っても黙認していたのはあなたです。
不正が発覚すれば、資格停止・資格はく奪だけでなく、個人で数千万円、数億円という莫大な金額の報酬返還を連帯して負うことになります。他のケアマネジャー・訪問介護スタッフのやったことでも、すべての責任は居宅介護支援事業所、訪問介護事業所の管理者にもかかってきます。介護報酬の不正請求に対する返還時効は5年ですから、その事業所を辞めたあとでも、5年間は行った不正にビクビクと怯えながら生活することになるのです。

また、入居者が部屋で亡くなった場合、病死、事故死に関わらず警察の現場検証が入ります。「事故を回避する適切なケアプランを作っていなかった」「ケアプラン通りに決められた介護を行っていなかった」「そのために死亡事故が発生した」ということになれば、業務上過失致死に問われることになります。それは通常の介護事故ではなく、個人の犯罪行為が一因となった事故ですから、事業者は一切守ってくれません。たまたまその時に担当していた訪問介護スタッフ、ケアマネジャー個人が、家族から数千万円という損害賠償の請求を求められることになります。

囲い込み型の高齢者住宅で、働いていると必ずそうなります。
介護保険財政悪化の中で、行政も法律も不正に対する監視、罰則を強化しているからです。
業務上過失致死で裁判にかけられたり、資格剥奪になったり、数千万円の借金を背負ってから「こんなはずではなかった…」と後悔してもどうしようもないのです。
「どこでもやっている…」「私たちだけではない」と安易に考えているケアマネジャー、ホームヘルパーは赤信号です。不正が日常化する環境の中で、完全に感覚が麻痺しているのです。
介護のプロ、介護の専門職は、「制度矛盾や指導監査体制の不備につけ込んで、不正に高い利益を上げる人」ではありませんし、それに加担する人でもありません。
挙げたような不正の認識があるのであれば、すぐに退職届を書いて行政に相談をすべきです。
その不正の代償として、月に一万円、二万円高い給与を得られたとしても、そのはした金で、あなたは人生を売っているのです。その罪はその事業所を辞めた後でも追いかけてきて、早晩、必ずあなたの身を、人生を滅ぼすことになるのです。

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