PROFESSIONAL

こんな介護サービス事業者で働いてはいけない ~建物から見える事業者ノウハウ~

高齢者住宅といっても、「自立~軽度向け住宅」と「中度~重度要介護向け住宅」は基本的に建物設備の考え方が違う。「居室・食堂浴室分離型タイプ」の建物設備では、人員配置が手厚くでもエレベーター移動がバリアとなり、中度~重度要介護高齢者には対応できない。

介護スタッフ向け 連 載 『市場価値の高い介護のプロになりたい人へ』

こんな介護サービス事業者で働いてはいけない・・・
その九つ目、重要なチェックポイントは、介護ノウハウから見た高齢者住宅の建物設備です。

「自宅で生活できない、要介護高齢者が増加する」
「要介護期間の長期化・少子化によって子供は介護できない」
「特別養護老人ホームはお金がかかるので増やすことはできない」

複合的な理由によって、高齢者住宅の需要が増加することは間違いありません。実際、そう考えて、介護付・住宅型有料老人ホーム、サ高住など、全国で高齢者住宅事業が急拡大してきました。
その発想自体は、間違っているわけではありません。
ただ、いまある高齢者住宅の八割の事業者は、勘違いをしています。
それは、高齢者住宅といっても「自立~軽度要介護向け住宅」と「中度~重度要介護向け住宅」は、全く違う商品であるということ。これは、現在の老人福祉施設が、「軽費老人ホーム(ケアハウス)」「養護老人ホーム」「特別養護老人ホーム」に分かれていることを考えればわかります。
そして絶対的に不足するのは、「中度~重度要介護向け住宅」だということ。それは、特養ホームは待機者が溢れているけれど、ケアハウスや軽費老人ホーム、養護老人ホームはそうではないということを考えればわかります。
本来は、民間の高齢者住宅事業者は、絶対的に不足する「中度~重度要介護専用住宅」を整備すべきだったのです。しかし、その違いがわからないため、自立~軽度要介護にしか対応できないのに、「中度・重度要介護・認知症でも安心快適」としているのです。

【3:1配置】の介護付有料老人ホームでは、中度~重度要介護高齢者が増えてきた場合、入居者にとっての安全な生活環境、介護スタッフにとって安全な労働環境を整えることは難しいということを述べました。また、住宅型有料老人ホーム・サ高住の区分支給限度額方式の介護システムは、「臨時のケア」「隙間のケア」「見守り・声掛け」は対象外であるため、中度・重度・認知症には対応できません。
つまり、現在の八割の高齢者住宅は、「中度~重度要介護向け住宅」ではない、言いかえれば、中度・重度要介護高齢者の増加に対応できないのです。「自立~軽度要介護向け住宅」に「安心・快適」と重度要介護高齢者を入居させ、介護体制の整わない中で介護させているため、過重労働・劣悪な労働環境となり、囲い込みなどの不正の温床となり、「介護は最悪だ…」「高齢者介護はスタッフの犠牲によって成り立っている…」となるのです。

「自立~軽度向け住宅」と「中度~重度向け住宅」は建物が違う

もう一つ、重要なことは、自立~軽度向け住宅と中度~重度向け住宅は、建物設計の考え方が根本的に違うということです。
高齢者住宅という商品は、バリアフリーの「住宅サービス」と、介護看護・食事・生活相談などの複合サービスです。ただ、この二つ、特に、介護サービスと建物設備はそれぞれ密接に関係しています。


図に示してる通り、生活動線・介護動線など、介護しやすい建物設備であれば、事故リスクは小さく、介護しやすくなりますが、中度~重度要介護・車いす利用者の生活を考えていない建物設備であれば、介護が難しく、事故やトラブルが増える要因となります。
実例を挙げてみましょう。

現在の高齢者住宅は、居室階と食堂・浴室階の分離しているAタイプと、居室階と食堂・浴室階の分離しているBタイプに分かれています。どちらも60名定員、夜勤は3名で対応しています。
どちらが、要介護高齢者の生活、介護に適しているかわかるでしょうか。

Aタイプの場合、自立歩行の高齢者であっても階段は極めて危険ですから、全入居者が、一定時間にエレベーターに集中することになります。福祉エレベーターであっても、一度に車いすを下ろせるのは4人だけ、その結果、車いす介助や認知症の高齢者が増えてくると、一日三回、食堂への移動だけで、多くの人員と時間が必要になります。また、食堂も混雑し、奥の人は先に食事が終わっても、入口付近の人が退席するまで、ずっと待っていなければなりません。挟み込み事故や転倒事故も増えます。

朝食の移動だけで、二人・三人のスタッフが付ききりで往復二時間以上、それが一日、三回必要になります。しかし、朝の時間帯は、日勤帯と比べ介護スタッフ数は少なく、起床介助、洗面歯磨き整容、着替え、食事の準備などの介助が重なりますから、相当バタバタした状態になります。実際、このAタイプの高齢者住宅では、毎朝4時前に入居者を起こして、食堂に連れて行く(そのまま朝食時間帯まで放置)と言います。とても人間の生活ではありません。
一方の、Bタイプの場合、車いす高齢者であっても、エレベーターを使わないため、移動の介助をしなくても、一人で食堂まで移動し、居室に戻ってくることができます。

夜勤の介助も全く違います。
3人の夜勤であっても、Bタイプの場合、常時、各フロアに介護スタッフがいる状態が維持できるため、トラブルや急変を早期に発見できますし、転倒事故が起きたときも、そのフロアを二人で対応することができます。
一方、Aタイプの場合、3人夜勤であっても、4つのフロアに分かれているため、夜勤帯になるとスタッフがいないフロアができ、一人が休憩すると、階段を使って走り回ることになります。
これは、食事介助も入浴介助も同じです。

【3:1配置】の介護付有料老人ホームでは、重度要介護高齢者の増加に対応できないと述べましたが、【2:1配置】の介護付有料老人ホームでも、Aタイプの建物の場合、介護スタッフの肉体的・精神的な疲労は相当大きくなります。移動ばかりに時間がかり、コールが鳴るたびに階段を使って「ちょっと待っていてください」と走り回ってばかりになるからです。

これは、「Bタイプの高齢者住宅・老人ホームの方が介護しやすいですよ…」という単純な話ではなく、その高齢者住宅事業者が「自立~軽度向け住宅と中度~重度向け住宅の違いを理解しているか」「介護動線・生活動線の重要性を理解しているか」、つまりプロの事業者か素人事業者かを見分けることのできる、重要なポイントだということです。
厳しいようですが、Aの建物なのに、「重度要介護高齢者にも対応」「安心・快適」などと言っている事業所は、介護実務もケアマネジメントもリスクマネジメントも何もわかっていないということです。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: PROFESSIONAL-コラム.png


こんな介護サービス事業者で働いてはいけない

【Pro 35】   コンプライアンス違反 ~法令順守の意識が薄い事業者~ 🔗
【Pro 36】   介護の専門性の否定 ~ケアマネジメントへの経営介入~ 🔗
【Pro 37】   囲い込み型高齢者住宅 ~すべて現場の責任・犯罪者になる~ 🔗
【Pro 38】   自立から重度・認知症・医療対応まで ~誰でもOK、すぐに入居可~ 🔗
【Pro 39】   介護体制が脆弱 ~【3:1配置】の介護付有料老人ホーム~ 🔗
【Pro 40】   パート・派遣職員の多い事業者 ~重要事項説明書を読む~ 🔗
【Pro 41】   経営者・管理者の顔がみえない ~安易に参入してきた異業種~🔗
【Pro 42】   法人の経営体質 ~経営者のいない事業所・議員理事長・投資ファンド~ 🔗
【Pro 43】   建物でわかる事業者のノウハウ ~ 居室・食堂分離型は介護できない 🔗
【Pro 44】   求人広告から見える事業所の体質 ~『即戦力求む』はなぜダメか~ 🔗
【Pro 45】   ホームページから見える事業者の質 ~やる気・善意の搾取~🔗
【Pro 46】   採用面接からわかること ~重視するのは『過去』か『未来』か~🔗
【Pro 47】   必ず見学をお願いしよう ~あなたは介護のプロになれるのか~ 🔗



関連記事

  1. 仕事の未来① 「IT+AI+ロボット」に脅かされる仕事の価値
  2. 介護のプロになるための「土台」とになる資格を取得する
  3. 技術革新によって変化する「プロフェッショナルの価値」
  4. 素人介護サービス事業者のもとで働く怖さ ~あなたの人生が崩壊する…
  5. 「労働の評価基準」の変化 ~最強の働き方とは~
  6. 「介護のプロ」としての、あなたの未来はあなたが描く
  7. こんな介護サービス事業者で働いてはいけない ~囲い込み事業者~
  8. こんな介護サービス事業者で働いてはいけない ~事業所内の見学から…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


TOPIX

NEWS & MEDIA

WARNING

FAMILY

RISK-MANAGE

PLANNING

PAGE TOP