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労働人口激減というリスクに、介護はどう立ち向かうか ①


生産年齢人口の激減によって、介護スタッフの確保はより難しくなる。その対策のためには、より戦略的な介護業務の見直しは不可欠。「介護ロボット」「外国人介護労働者」「高齢者介護労働者」の特性、課題、リスクをきちんと整理して対策を採ることが必要。

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』 034


高齢者介護は、介護サービス量の増加に合わせて、比例的に介護スタッフ数の配置が必要になります。
介護スタッフが50%しか集まらなければ、入居者を半分しか受け入れることはできません。それでも建物設備、調理費など、その他の固定費はほぼ変わりませんから、慢性的な赤字の状態が続きます。いまでも、そのような経営状態の高齢者住宅、特養ホームがたくさんあります。

今後、入居者と介護スタッフの確保、どちらがより難しくなるかと言えば、間違いなく後者です。
リスクから見る「強い介護システム」「脆弱な介護システム」🔗で、現在の指定配置基準の介護付有料老人ホームと、「囲い込み型」のサ高住が直面するリスクについて述べましたが、共通するのは、どちらも企業努力ではなく、過重労働や不正を介護スタッフに押し付けることで成り立っているビジネスモデルです。介護報酬がその専門性と比較して低いということは事実ですが、「介護業界がブラックだ・・」と言われてしまう最大の原因は、介護労働者に安全な労働環境を整備できない、素人経営者、素人高齢者住宅事業者の激増にあるのです。


より戦略的に介護業務を見直す

ただ、どれだけ重度化対応できる介護システム構築を行っても、「生産年齢人口減少による介護人材不足」というリスクをゼロにすることはできません。それは、「激増する介護需要、激減する労働人口🔗」で述べたように、少子化も相まって、生産年齢人口(16~65歳)対比の重度要介護高齢者の比率は、今の2倍、3倍になっていくからです。
これは、秋田、高知、島根といった人口減少の激しい地方部だけでなく、神奈川、埼玉、京都、愛知、東京などの都市部でも同じです。人材を有効的に活用するには、「重度化対応の強化」だけでなく、介護システム構築に合わせて、より戦略的に高齢者住宅の介護業務を見直す必要があります。

その糸口として、身体的負担の軽重から介護業務を分類したのが、以下の図です。

日常業務の中で最も身体的負担が大きいのが移乗介助、入浴介助など、体重移動が関係する介助です。適切なシーティング、負担のかかりにくい介助方法など、介護技術は進歩していますが、体重の重い高齢者や、身体に力の入らない高齢者への介助を行う場合、身体にかかる負担は重くなります。その他、オムツ介助も無理な中腰で介助を行うために負担の大きい介助であり、慢性的な腰痛に悩まされている介護労働者は少なくありません。

一方で、「すべての介助=体力が必要」というわけではありません。
車いすの移動介助や食事介助、通院介助(付添い)は、直接介助といっても、身体的な負担はそれほどかかりませんし、見守り、声掛け、定期巡回といった間接介助は、知識や注意が求められる介助です。直接的・間接的介助だけでなく、清掃や洗濯などの生活支援サービスもたくさんあります。
高齢者介護と言えば、高齢者を抱えたり、持ち上げたりという肉体労働というイメージが強いのですが、整理すると身体的な負担の大きい業務は一部だということがわかるでしょう。


介護ロボット? 外国人? 高齢者?

今後、直面する絶対的な介護スタッフ不足への対策として考えられているのが、「介護ロボット」「外国人介護労働者」「高齢者介護労働者」です。ただし、その活用にあたっては、その特性、課題、リスクをしっかり理解しておかなければなりません。
それぞれの課題とポイントを整理します。

① 介護支援機器・介護ロボットの活用

「介護ロボット」と言えば、人型の介護ロボットが介助するようなイメージを持つ人が多いのですが、それは間違いです。人型の介護ロボットができるならば、すでに育児ロボットができているはずですが、「育児ロボットなんて・・」と思うでしょう。

特に、85歳以上の重度要介護高齢者のほとんどは認知症高齢者です。本人が「OK」と指示しても、OKではないことがたくさんありますし、その判断・認識のズレは骨折や頭部打撲など生命に関わる事故に発展します。また、認知症は、人それぞれに症状が違い、「まだらボケ」と言われるように、同じ高齢者でも日によって症状は大きく変化します。AIがどれほど進化しても、それを適切・安全に判断することは難しいでしょう。

高齢者の介護は、細かな状況判断のできる人間にしかできません。
介護支援機器や介護ロボットは、それ自体が介護するのではなく、転倒などを知らせるセンサー機器や介護リフトなど、介護スタッフの業務負担の軽減を目的としたものが中心です。上記の例で言えば、まず、移乗介助や入浴介助など、身体的に負担のかかる介助をいかに軽減させるかが、課題となります。

例えば、介護リフトは、身体的負担の重い移乗介助を軽減するのに有効な手段です。
現在、介護スタッフの腰痛や身体的負担を減らすために、人力で持ち上げたり、抱えたりせず介護リフトを活用する「ノーリフトケア」という取り組みが行われています。その一方で、セッティングや安全確認に手間や時間がかかることから、導入しても、倉庫にしまわれたままで、ほとんど使われていないというところもあります。それは、「移乗介助は介護リフトありき」「移乗時の人的リフトをゼロにする」という、現状にそぐわない難しいハードルからスタートするからです。早朝の忙しい時間帯に、「すべての移乗介助に介護リフトを使う」などということができるはずがありません。
それをするなら、介護スタッフを1.5倍くらいに増員しなければなりません。介護ロボットの導入と人員削減を盲目的にリンクさせることに無理があるのです。

ただ、体重の重い車いす高齢者、寝たきり高齢者の移乗介助だけでも利用できれば、負担や転倒リスクを軽減することはできます。
有効に活用するには「理念の押し付け」でも「現場にお任せ」でもなく、「労務災害による腰痛をゼロにする」「ケアプランの中で介護リフト導入を検討する」といった指針を設け、「どのように使えば、介護スタッフの負担軽減につながるか」「どのような時間帯、介助場面で、どのような高齢者に使用するか」という事例、ケースを一つでも増やしていくという地道な作業が必要です。

② 外国人介護労働者の導入

2つ目は、外国人介護労働者の導入です。
昨年から、「外国人技能実習制度」に、介護が加えられたことから、一部事業者では、人材不足を外国人労働者で賄おうというところが増えています。ただ、これは、制度上は「日本の介護技術を外国人にも学んでもらおう」というものですが、その実態は「人件費の安い外国人に日本に来てもらって介護してもらおう」という、あまりにもご都合主義での制度です。
この二枚舌ともいうべき制度は、非常に大きなリスクをはらんでいます。

高齢者介護はそれぞれの国の文化のです。
その根底には日本の社会風土、生活環境、生活リズム、高齢者に対する尊敬、死生観、宗教観などが複雑に絡み合っています。入浴一つをとっても、各国でその頻度やスタイル、入浴機器は違います。

また、介護は機械的に排泄介助、入浴介助を行う単純労働ではなく、高度な知識、技術が必要な専門的な仕事です。同時に、一瞬の判断ミス、小さなスキが転倒や溺水など、死亡事故につながるリスクの高い仕事です。認知症の問題もありますから、本人が大丈夫と言ったからといって、何もしなくてよいわけではありませんし、スタッフ間のコミュニケーション、連携、連絡不備が、死亡や骨折など重大事故を引き起こすこともあります。死亡事故が発生すると、労働者個人が業務上過失致死傷などの刑事罰に問われることになります。

もちろん、「外国人には介護はできない」と言っているのではありません。
ただ、言葉や文化、生活環境の違う外国人に日本の高齢者介護を習得してもらうには、日本人介護労働者の数倍の時間と手間をかけて、研修、教育する必要があります。外国人技能実習制度は、あくまで「日本の高い介護技術、知識を海外にも広める」という国際貢献の一つであり、リスクマネジメントを基礎とした、十分な研修や教育ができるだけの余裕と実績、ノウハウのある事業者しか行ってはいけないのです。
「とりあえず介護労働者の頭数だけ増やせばいい」
「日本人だけで無理なら、日本で働きたい短期滞在の外国人を増やせばいい」
「そうすれば、人件費も安く抑えられるだろう」
という、その専門性を無視した量的確保だけを求めるような場当たり的な発想、施策では、入居者を危険にさらすだけでなく、日本で働きたい、介護の勉強をしたいとやってくる人たちに、大変な迷惑をかけることになります。安全な介護労働環境も整えられない、日本人の介護労働者育てられないような事業者に、外国人介護労働者を育成できるはずがないのです。
このまま強硬すれば、国際問題に発展し、日本への信頼を大きく揺るがすことになります。

③ 高齢者介護労働者の活用

三つ目は、高齢者介護労働者の活用です。
これからの日本の介護システムの戦力として、まず積極的に活用すべきは、高齢者です。
日本では60歳で定年退職し、65歳以上は高齢者とされていますが、ほとんどの人は70歳、75歳くらいまでは働くことができます。今後、年金支給の開始年齢が引き上げられることや社会参加のために、「身体の動くうちはできるだけ働いていたい」と考える高齢者は増えています。
体重の重い高齢者を持ち上げたり、移乗させたりすることは体力的に難しくなりますが、上記のように食事介助や通院介助、見守り・声掛け、その他清掃や洗濯など、大きな体力がなくてもできることはたくさんあります。
例えば、早朝の起床介助や整容介助、排せつ介助、食事介助が重なる忙しい時間帯に、一人の高齢介護スタッフがが食事の準備や配膳、サポートできれば、他のスタッフの業務は相当楽になります。介護リフトや介護支援機器と一体的に導入すれば、できることはより増えていくでしょう。業務を限定するのであれば、一般の介護スタッフと給与体系を変えることもできますし、それは一般の介護スタッフの給与水準を上げることにもつながります。

現在の介護システムは、全スタッフが同じ業務を行うことを前提として作られています。
しかし、私が20代の頃に働いていた介護力強化病院では、他の大きな病院で総婦長など管理職だった65歳~70歳くらいの看護師もたくさん働いていましたし、若い人材だけでは不足する経験やノウハウなど、高齢者のケアを行う上で大切なことをたくさん教えてもらいました。
介護業界でも、同じことはできるはずです。
特に、介護されている高齢者に年齢が近いというだけでなく、10年後には自分たちが介護される立場に変わるのですから、「どのようなサービスを求めているか・・」「独善的で不必要な、過剰なサービスをしていないか・・」ということも見えてきますし、周辺地域の高齢者を積極的に雇用することで、それぞれの地域に根差した、開かれた高齢者住宅をつくることもできます。
「高齢者に介護なんて無理・・」と言う人がいますが、60代、70代の人は勤労意欲も責任感も強い人が多く、また私たちには見えないアドバイスや工夫をしてくれます。

高齢者住宅の介護は、時間帯によって介護サービス量は大きく変動しますから、そのピースを埋める短時間パートが必ず必要です。「6時~10時の早朝の短時間帯だけ」「病院への通院介助だけ」「洗濯や掃除、行事の準備だけ」など、考えられることはたくさんあるはずです。

若者だけでなく、人生経験豊富な高齢者介護労働者を介護システムに組み込むことで、確実に介護労働は軽減され、介護サービスの質は向上します。それは、間違いなく介護労働環境の向上や経営収支にも好影響を与えます。「介護は体力勝負、若者にしかできない」といった誤解や思い込みが、介護労働者の育成や、介護システムの構築を難しくしているのです。


要介護高齢者住宅の商品設計 ~建物設備設計の鉄則~

  ⇒ 高齢者住宅 建物設備設計の基礎となる5つの視点
  ⇒ 「安心・快適」の基礎は火災・災害への安全性の確保
  ⇒ 建物設備設計の工夫で事故は確実に減らすことかできる 
  ⇒ 高齢者住宅設計に不可欠な「可変性」「汎用性」の視点 
  ⇒ 要介護高齢者住宅は「居室」「食堂」は同一フロアが鉄則 
  ⇒ 大きく変わる高齢者住宅の浴室脱衣室設計・入浴設備 
  ⇒ ユニットケアの利点と課題から見えてきた高齢者住宅設計 
  ⇒ 長期安定経営に不可欠なローコスト化と修繕対策の検討
  ⇒  高齢者住宅事業の成否のカギを握る「設計事務所」の選択 

要介護高齢者住宅の基本設計 ~介護システム設計の鉄則~

   ⇒  「特定施設の指定配置基準=基本介護システム」という誤解
   ⇒ 区分支給限度額方式では、介護システムは構築できない
   ⇒ 現行制度継続を前提にして介護システムを構築してはいけない 
   ⇒ 運営中の高齢者住宅 「介護システムの脆弱性」を指摘する 
   ⇒ 重度要介護高齢者に対応できる介護システム 4つの鉄則 
   ⇒ 介護システム構築 ツールとしての特定施設入居者生活介護 
   ⇒ 要介護高齢者住宅 基本介護システムのモデルは二種類 
   ⇒ 高齢者住宅では対応できない「非対象」高齢者を理解する 
   ⇒ 要介護高齢者住宅の介護システム 構築から運用への視点 
   ⇒ 介護システム 避けて通れない「看取りケア」の議論 
   ⇒  労働人口激減というリスクに介護はどう立ち向かうか ① 
   ⇒ 労働人口激減というリスクに介護はどう立ち向かうか ②   



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