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「介護職員配置 基準緩和」の課題と論点 Ⅱ ~【3:1配置】とは何か ②~ 

ICT(情報通信技術)の導入によって介護の効率化を図り、介護職員配置の基準緩和を行うためには、その前提として現在の【3:1配置】で適切な介護サービスが提供されていることが前提。介護システムの現状分析ができていない時点で、その論建て自体には意味がない。

「介護職員 配置基準緩和」は愚策か 四 (全9回)


前回、【3:1配置】という、現在の介護看護スタッフ配置基準は、2000年に介護保険制度がスタートするまでの老人福祉の時代の特別養護老人ホームの介護看護スタッフ配置基準をそのまま踏襲したものであることを述べました。
当時は、4人部屋中心の多床室だったことや、今の要介護状態に照らせば、要支援・軽度要介護高齢者が多かったことなどから、その基準配置でも何とか介護をすることが可能でした。
しかし、現在の特養ホームは、要介護3以上の重度要介護高齢者、重度認知症高齢者に限定されていますから、多床室型でも【2.4:1配置】、ユニット型特養ホームの場合は【1.8:1配置】、小規模ユニット型では、【1.3:1配置】程度と配置基準の2倍以上の介護看護スタッフ配置になっています。
ただ、これは、「【3:1配置】では絶対に介護できない・・・」という単純な話ではありません。
もう少し、業務シミュレーションの話しを続けたいと思います。

① 必要な介護看護スタッフ数は平均要介護度によって変わってくる
一つは、必要な介護看護スタッフ数は、要介護状態によって変わってくるということです。
要介護状態は、基本的に「介護サービスの必要量」によって判断されます。要介護状態が重くなるということは、それだけ必要な介護サービス量が増えるということです。要介護1の高齢者と、要介護5の高齢者では、必要な介護サービス量は2倍以上変わってきます。身体機能低下による要介護と認知症による要介護でも、介護サービス量や介護サービスの中身は変わってきます。
高齢者介護は労働集約的な仕事です。車いすを押せるのは一人一台、排泄介助も入浴介助も車いすの移動介助も、基本はマンツーマンです。介護サービス量が増えるということは、比例的に必要となる介護スタッフの数が増えるということです。これは介護の原則です。

② 必要な介護看護スタッフ数は建物設備によって変わってくる
もう一つ重要なことは、必要な介護看護スタッフ数は、定員数は建物設備によって変わってくるということです。述べたように、同じユニット型特養ホームでも60名定員のものと、29名以下の地域密着型と呼ばれる小規模ユニット型特養ホームとでは、必要な介護スタッフが変わってくることがわかっています。同じ60名規模のものでも、ユニット単位の人数が少なくなれば、介護スタッフの動きは非効率になり、必要な介護スタッフ数は多くなります。

逆に、4人部屋など多床室の場合は、介護の効率性は上がります。
例えば、早朝介助で、4人部屋の場合、「Aさんの着替えを見守りながら、Bさんを起こす」「Cさんがポータブルトイレに座っている間に、Dさんの着替えを介助する」といったように、一部屋ずつまわってマンツーマンで介助するよりも、臨機応変に対応できるからです。
逆に、まったく介護に向かない建物もあります。
それは下図のような居室と食堂フロアが分離した建物配置です。サ高住や住宅型有料老人ホームに多いタイプですが、介護付有料老人ホームでも狭い敷地に建つものはこの「食堂・居室フロア分離型」のものがあります。これは自立~要支援高齢者には適していますが、要介護高齢者には対応できません。車いす利用の高齢者が増えてくると、エレベーターがバリアになって、すべての入居者を食堂まで降ろすだけで、相当の時間と手間が必要になるからです。
例えば、60名の介護付有料老人ホームで半数の人が車椅子で移動介助が必要になると、移動に2人の介護スタッフ専任で片道一時間は必要になります。往復二時間、一日三回食事に六時間です。2人のスタッフが一日六時間移動介助に費やすとすると、「六時間×2人×365日」です。一日八時間労働、勤務日数の250日で割り返すと、常勤換算で2.2人です。食堂までの移動介助だけに、指定配置基準の一割以上の時間を取られる計算です。

このタイプの高齢者住宅では、起床介助が必要な高齢者は、毎朝四時には起こし始めるといいます。
この時間帯には、夜勤スタッフ3人しかいませんから、早朝介助をして5時前には入居者を食堂に降ろし始めないと、朝食に間に合わないからです。また、食事が終わっても全員を居室フロアにもどすには一時間以上かかります。10時過ぎ、また、12時の食事に食堂に集まってもらうためには、10時半頃には、2人以上の介護スタッフが専任で再び食堂への移動介助を始めなければなりません。そんなことをすれば、移動介助ばかりで、入浴介助も排泄介助もできませんから、結局、お昼間で食堂にて待機(放置)ということになります。
着替えが大変だから、日中も夜も同じ服を着せている(入浴時にしか着替えをしない)というところもあります。それがまともな生活なのか、介護なのかか、「重度要介護高齢者対応も可能」「安心・快適」と言えるかと言えば、そうではないでしょう。

「【3:1配置】で介護が可能か否か」という検討自体が間違っている

これは、【3:1配置】で介護ができるかどうか…という話をしているのではありません。
現在の【3:1配置】は、全入居者が要介護高齢者(要介護1~要介護5)の高齢者の配置基準です(要支援は【10:1配置】)。ほとんどの高齢者が要介護1程度で、認知症もなく、移動も排泄も食事も着替えも自立している(見守り・声掛け程度)のであれば、恐らく指定基準が【3.5:1配置】になっても、またどんな建物でも対応は可能だろうと思います。
しかし、車いすの利用者や認知症高齢者が増えてきて、平均要介護度が2を超えると、現在の【3:1配置】の基準でも、その介護看護スタッフで提供できる介護サービス量を超えてしまいます。平均要介護が3になると、とても通常の介護はできません。様々な建物設備設計の下で、あらゆる業務シミュレーションを検証しましたが不可能です。

これを【3.5:1配置】にするということは、単純にその対応ができない幅が拡大するだけの話です。
厚労省は、この基準配置の緩和に向かう実証事業では、介護現場で見守りセンサーや介護ロボットなどICT(情報通信技術)を活用した場合に、どれくらいの業務の効率化につながるのかを数値化し、その上で、配置基準を緩和した場合に、入居者の安全を確保に問題が生じないかや、職員の負担増がどの程度になるのかなど、影響を調べるとしています。
例えば、平均要介護1.2程度の介護付有料老人ホームで実証した場合、ICTの実証事業で、見守りや書類記入などの業務が改善され2人分の介護スタッフの業務量が減少し、【3.5:1配置】でも可能だ…ということは言えるかもしれません。
しかし、平均要介護2や平均要介護3の施設では、現在の【3:1配置】でも、必要な介護サービスを提供することは不可能なのですから、「ICTで二人分の業務が改善されたから【3.5:1配置】に…」という理論は全く成り立たないのです。

また、【平均要介護1】というのは、大半の高齢者が要介護1という極めて特殊(不可能に近い)な状態です。実際の運営を考えると、受け取る介護報酬が低くなりますから赤字です。また、「入居者は要介護1のみ」と限定することで開所時には可能でも、加齢や疾病によって、入居者の要介護状態は重くなっていきます。杖歩行の人は自走車いす、介助車いすになり、排泄自立の人もトイレ誘導が必要となりオムツ介助となります。
今でも、【3:1配置】の多くの介護付有料老人ホームで必要な介護ができていません。
ひどいところは毎日4時起きの手抜き介護です。現状を見ても、介護スタッフは過重労働となり疲弊し、事故やトラブルが多発しているにもかかわらず、「配置基準を緩和した場合に、入居者の安全を確保に問題が生じないかや、職員の負担増がどの程度になるのかを、影響を調べる」と言っている時点で、現状分析がまったくできていない、その論建て自体に意味がないと言わざるを得ないのです。




「介護職員 配置基準緩和」は愚策か 一 (全9回)

   1  「介護職員 配置基準緩和」の目的は何か
   2  「介護職員配置 基準緩和」のターゲットは介護付有料老人ホーム
   3  「介護職員配置 基準緩和」の課題と論点 Ⅰ ~【3:1配置】とは何か ①~
   4  「介護職員配置 基準緩和」の課題と論点 Ⅱ ~【3:1配置】とは何か ②~
   5  「介護職員配置 基準緩和」の課題と論点 Ⅲ ~CITで人員削減は可能か ①~
   6  「介護職員配置 基準緩和」の課題と論点 Ⅳ ~CITで人員削減は可能か ②~
   7  「介護職員配置 基準緩和」が行きつく先は高額化と二極化
   8  なぜ、高齢者の住まいの制度は迷走しつづけているのか
   9  「介護職員 配置基準緩和」は、やるべきことと正反対




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  5. 前払い入居一時金を運転資金に流用する有料老人ホーム
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