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「インフルエンザ・O157」感染症・食中毒対策に表れる 事業者の質

高齢者は、免疫機能が低下しているため食中毒・感染症が発生しやすく、抵抗力がないため症状が重篤化しやすい。高齢者住宅はその高齢者が集まって生活しているため、厳格な感染、食中毒対策が不可欠。予防対策、拡大対策だけでなく、食事の供給体制にも注意が必要。

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 023 


インフルエンザの流行する季節は毎年やってきます。
ノロウイルス、O157などの食中毒も数年に一度大流行し、大きな社会問題となります。
高齢者・要介護高齢者は、免疫機能・抵抗力が低下しているために、感染症・食中毒にかかりやすく、またその症状は重篤化しやすく、死亡に至るケースも少なくありません。
「老人ホームで集団感染」 「入所者二人死亡」 といった報道は、毎年のようにテレビや新聞で目にするようになってきました。

感染症や食中毒の発生を完全に予防することは難しい

特に高齢者住宅は、高齢者が集まって生活していることや、様々な人が出入りすることから、自宅よりも発生リスクは高くなります。一人の高齢者が買い物などの外出時にインフルエンザに罹患し、そのまま気づかずに食堂などで咳をして、ウイルスをばらまいてしまうというケースもあります。
また、新入居者、ショートステイ、家族、スタッフ、業者など、様々な人が出入りするために感染経路が多く、完全な遮断が難しいという特性もあります。一人高齢者が感染症にかかると、介助を行う介護・看護スタッフが媒体となって、他の入居者に次々と感染し、集団感染となるのです。


そのリスクは決して小さくありません。
ある有料老人ホーム(無届施設)では、インフルエンザとノロウイルスが蔓延し、1ケ月の間に12人、4ケ月で28人もの入居者が亡くなっていたことがわかりました。行政への報告や届け出、更には隔離などの対策が行われていなかったために、感染が止まらず、大惨事となったケースです。
今後も、ワクチンなどの利かない新型インフルエンザの流行が予想されており、高齢者住宅は、同様の「パンデミック」が突然起こる可能性が、非常に高いのです。

『発生予防策』『発生時の対応策』が検討・実施されているか

この感染症や食中毒は、防災対策に表れる、事業者の質🔗で述べた自然災害や火災と同じように、高齢者住宅選びのポイントとしては、非常に目につきにくいものです。また、同様に、緊急性を要するリスクではないため、「そのうちに・・」「忙しいから・・」と後回しにされやすいものでもあります。だからこそ、事業者のサービス管理の質が、表れやすいポイントであるとも言えます。

ただ、その対策は、『これさえやっておけば大丈夫!!』といった決定打があるわけではなく、「災害備蓄」「防災訓練」とは違い、「うがい・手洗い」など、日々の業務の中で、決められた対策、小さな努力の積み重ねです。
感染症・食中毒のリスク管理は、介護看護サービスの質の基礎だと言っても良いでしょう。
いくつかのチェックポイントを挙げてみましょう。

感染症・食中毒の発生予防・拡大予防
  ◆ 入居者・関連業者・スタッフ・家族などの訪問者に対する注意・啓蒙
  ◆ 吐瀉物、排せつ物、血液など感染源となりうるものの取り扱いの徹底
  ◆ 共用部のソファや畳、カーペットなど、感染が広がらない工夫
  ◆ 入居者・スタッフの手洗いの励行、体調管理、熱発・下痢など異常の早期発見
  ◆ 共用の布タオル、足ふきマットなど、不潔で感染源となるものの排除
  ◆ 感染症・食中毒の発生時期における、予防・早期発見のための勉強会
  ◆ 発生時の対応マニュアルの整備、行政・家族への連絡・協力依頼

玄関に手洗いと手指の消毒の置かれている高齢者住宅は増えてきました。オムツ交換においては、排せつ物から感染が広がらないように、一人一人薄い手袋をつけて介助を行うのが基本です。
しかし、上記のような最低限の基本、基礎すらできていない事業者もあります。
また、共用部のソファや畳、カーペットなど、多くの人が使ったり、座ったりするものも、感染原因となるものの一つです。その他、掃除がきちんと行き届いているか、不潔な服装の高齢者はいないかなど、「感染リスク」を視点に見学をすると、たくさんのことが見えてきます。

「最近、インフルエンザが流行して怖いですね・・」
「高齢者住宅では、高齢者が多いので対策が大変ですね・・」

など、質問してみるのも良いでしょう。リスク管理が適切にできているところは、訪問時の手洗い励行や、事業所内で感染が発生した場合の訪問の見合わせなどの家族への協力依頼のほか、感染症・食中毒への勉強会の開催や対策について、説明してくれるはずです。

食中毒が発生すれは、食事が止められることも

もう一つ、食中毒の発生で大きな問題が、「食事が止まる」ということです。
食中毒が発生すると、その給食業者は「営業停止〇〇日」といった行政処分が下されます。
会社の近くのレストランが食中毒の発生で営業停止になっても、他のところに食べに行ったり、お弁当を買ってくれば良いというだけなので、それほど問題ではありません。しかし、高齢者住宅の場合、介護食、医療食などの問題もあり「誰かが変わりに買いに行けばよい」という簡単な話ではありません。

このリスクは、食事の提供体制、契約主体によって変わってきます。
栄養管理、調理、契約野視点から、食事の提供体制について整理したのが下の表です。

「栄養管理」というのは、栄養価の計算やメニューの作成を誰が行うのかです。嚥下機能や咀嚼機能の低下した高齢者に対する「介護食」、糖尿病や腎臓病など、カロリーや減塩などの配慮が必要な人への「医療食(治療食)」への対応も含まれます。
「調理」は、栄養士が作成したメニュー・栄養管理をもとに、実際に調理を行います。
上記の表のように、栄養管理は、高齢者住宅事業者が行い、調理のみを給食業者に委託するケース、栄養管理も調理も外部の事業者に委託するケースなど、いくつかのパターンがあります。

もう一つ、重要になるのが、契約です。
食事の契約方法によって、その法的責任の所在は変わってきます。
有料老人ホームでは、「介護付」「住宅型」に関わらず、そのほとんどは入居者と高齢者住宅との直接契約で食事を提供しています。実際には、栄養管理・調理は外部の給食会社に、業務委託しているケース③のところが多いのですが、それでも入居者に対して食事サービスの提供責任や食中毒発生の法的責任を負うのは、高齢者住宅事業者です。
これに対して、サービス付き高齢者向け住宅の場合は、入居者と給食業者や、併設レストランとの個別契約というケース④が一般的です。この場合、高齢者住宅は、契約上、無関係ですから、サービス提供責任も法的責任も負いません。

しかし、「法的責任がないから、食中毒は高齢者住宅には関係ない」という話ではありません。
食中毒が発生すれば、そのレストランには少なくとも数日間の業務停止命令がでますから、その間、入居者は食事の提供を受けることができなくなります。突然、「誰が作るの?」「今日の食事はどうするの?」という話になるのです。

上記のケース②、ケース③のように、特養ホームや有料老人ホームから栄養管理や調理を委託している場合、万一倒産や、食中毒が発生した場合、食事が滞ることのないよう、すぐに別の給食会社が対応できるように、第三者の給食会社も含めて、契約をしているのが一般的です。
しかし、ケース④の個別契約の場合、その対策が取れていないところもあります。
これは、サービス管理だけでなく、経営管理の問題でもあります。
「食中毒を起こさないように努力する」「個別契約だから関係ない」ではなく、食中毒は、サービスの安定供給、安定経営を阻害する大きなリスクだという理解が乏しいのです。

感染症や食中毒の発生に対して、リスク管理ができていないということは、基本的なサービス管理入居者の生活に対する安全対策、更には基本的な経営管理ができていないということです。食事の供給体制、契約体制は、高齢者住宅の経営体質やノウハウを見る上で、重要なチェックポイントです。


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高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばない」こと

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