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重要事項説明書 ⑥ ~働きやすさを読み解く~

要介護高齢者が安全に生活できる環境は、介護スタッフが安全に介護できる環境。重要事項説明書 勤務体制・離職者を読み解くと、「介護スタッフの働きやすさ」が見えてくる。特に、入浴、食事、夜勤帯の勤務体制、介護体制の把握が重要

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 040


この従業者に関する事項の最後のチェックポイントは勤務体制です。
下の表は、二交代制(日勤8時間、夜勤16時間)、年間250日勤務と仮定(週休二日、有給10日程度)として、実際に働いている人数を一覧にしたものです。同じ介護付有料老人ホームでも、【3:1配置】【2:1配置】などによって、働いている介護スタッフの数、つまり介護の手厚さがは全く違うということがわかるでしょう。

要介護高齢者が安全に生活できる環境は、介護スタッフが安全に介護できる環境です。
この全体の介護看護スタッフ数をもとに、実際の勤務体制をチェックします。



食事体制・入浴介助体制を見る

要介護高齢者が介護目的で高齢者住宅に入居する場合、【2:1配置】以上の介護付有料老人ホームであることが前提だと述べました。ただし、これも二交代勤務なのか、三交代勤務なのかによって勤務体制は変わってきますし、下記の表のように「日勤勤務」「夜勤勤務」だけでなく、早出勤務、遅出勤務など変則的な勤務を行っているのが一般的です。

特に、この介護スタッフの勤務体制で重要になるのが入浴介助・食事介助の体制です。
それは死亡や骨折などの重大事故の発生リスクが高いのが、この入浴と食事だからです。
最近は大浴槽ではなく、個別浴槽で入浴させる高齢者住宅が増えていますが、どちらにしても入浴介助はマンツーマンで行うのが基本です。それは、入浴は血圧の昇降で状態が急変したり、目を離したすきに溺水したり滑って転倒したりするリスクが高いからです。
しかし、中には「5人の入居者を3人の介護スタッフで介助」「7人の入居者を4人の介護スタッフで介助」というところもあります。「ほんの5分離れたつもり」でも、実際には10分15分は経過しており、中には、「入浴させたことを忘れて1時間半以上放置して、その間に溺水」という痛ましい事故も起こっています。

食事も同様です。
食事も入浴と同様に「誤嚥・窒息」により、事故のリスクが高い介助項目です。そのため、「一人で食べられずに口にスプーンを運ぶ」といった直接的な食事介助が必要ない高齢者でも、「見守り」「声掛け」といった間接介助や、吐き出したり、噎せた場合の「緊急対応」が不可欠です。
要介護高齢者住宅は、入居者が10人~15人程度のユニットケアが中心ですが、10人程度の食事でも2人以上、15人では3人以上の介護スタッフ配置が必要です。

残念ながら、重要事項説明書にはそこまで記入されていないのですが、「入浴はどのような体制で介助しているのか?」「食事時間何人のスタッフで介助しているのか」といった基本的なことは、見学時に聞いてみると良いでしょう。

スタッフが少なくなる夜勤体制を見る

もう一つ、勤務体制で注目すべきは夜勤帯の人数です。
夜勤帯は、ほとんど睡眠時間ですから、日勤帯と違って介護スタッフの数は少なくなります。
ただ、夜間にも排泄介助が必要な高齢者はいますし、認知症高齢者が眠れずに起きだしてくるということもあります。風邪をひいて具合の悪い入居者がいたり、排せつ時に転倒したり、安定していた疾病が急変するというケースもありますから、夜だから・・と言って介護スタッフはゆっくり仕事ができるというわけではありません。
要介護高齢者を対象とした高齢者住宅場合、この夜勤帯の職員は、少なくとも入居者20人に対して1人以上は必要です。また、20名程度しか入居していない場合でも、必ず二人以上は必要です。それは転倒や急変など何か問題が発生した時に、一人では対応できないからです。
この夜勤配置が、上記の最低基準をクリアしていることが、適切な介護を受けるための必須条件だといって良いでしょう。

この夜勤体制は、医療への対応とも大きく関係しています。
最近、「気管切開など医療依存時の高い高齢者対応可」「看取りケア可能」という介護付有料老人ホームは増えてきましたが、それが本当に可能かどうかも、この夜勤体制から読み取ることができます。
例えば、気管切開や嚥下機能に障害がある場合、喀痰吸引が必要になりますし、胃ろう、腸ろうなどの経管栄養の高齢者の場合は、栄養剤が管につまることがあります。これらは日中だけでなく夜勤帯でも発生します。そのため、医療依存度の高い高齢者を受け入れるためには、夜勤帯にも看護師が配置されているか、もしくはたん吸引等の研修を受けた介護福祉士が配置されていることが前提です。命に関わることですから「日勤帯はできるけど夜勤帯はできない」「できるときもあれば、できないときもある」では困るのです。

これは、看取りケアも同様です。「看取りケアを行っている高齢者住宅は優秀」は間違いで述べたように、看取りケアを行うためには、介護システムだけでなく、24時間の医療、看護システムの構築が不可欠です。介護スタッフだけでは「亡くなったかどうか」の判断さえできません。
これらは、入居者の命に関わる問題であり、また介護スタッフにとっては刑事罰に問われる可能性のあるリスクです。このような重大なリスクにさえ理解せず、「できないことをできる・・」と言ってしまうのは、そのリスクを知らない素人事業者、素人スタッフだからです。

スタッフがたくさん辞めているところはダメ

もう一つのチェックポイントは、スタッフの勤続年数です。
「介護スタッフが集まらずに困っている」という声はよく聞きますが、介護スタッフ不足の原因は大きく分けて二つあります。一つは、介護スタッフが集められないというケース、もう一つは、離職者が多いというケースです。
介護付有料老人ホームの仕事は、排せつ介助、入浴介助など、どの事業者でも業務の内容はそれほど変わりませんし、またその収入の基礎は公的な介護保険ですから、給与水準にもそれほどの大きな差があるわけではありません。「介護の仕事は給与は安いのに大変だ・・・」という声をよく耳にしますが、介護業界の離職率の最大の特徴は、二極化しているということです。

介護の平均離職率は16%(一般事業は15%)とほとんど変わらないのですが、離職者が10%未満という介護サービス事業所が38.7%を超えるのに対して、30%以上という事業者も24%に上ります。特に、同じ介護サービス事業の中でも介護付有料老人ホームの離職率は突出しています。
述べたように、介護が必要になっても安心して安全に暮らせる高齢者住宅は、介護スタッフが安全・安心して仕事ができる高齢者住宅です。高齢者が快適、楽しく生活できる高齢者住宅は、余裕をもって介護スタッフが快適に楽しく仕事ができる高齢者住宅です。
言いかえれば、介護スタッフがすぐに辞めてしまう、離職者が多い高齢者住宅は、労働環境だけでなく、高齢者の生活環境にも問題があるということがわかるでしょう。

この重要事項説明書の中に、離職率・短期離職率を直接的に示すものはありません。
(以前はあったのですが、書式が変更になりました)
しかし、十分に類推できるデータがあります。それは、従業者の職種別の勤続年数です。
以下の表は、A老人ホーム、B老人ホームどちらも、事業開始後12年の介護付有料老人ホームです。
離職率の高い高齢者住宅の特徴は、1年未満という短期離職者が多いということです。
A老人ホームの場合は、この事業所で働き始めて、一年未満のスタッフは3名ですが、B老人ホームでは14人です。事業を開始してから10年以上が経過するのに、一年未満の介護スタッフが半数というのでは、一年以内にスタッフがやめてしまうということです。
どのような仕事でもそうですが、最初の一年は先輩スタッフに付いて、仕事を覚えることが必要です。しかし、このように1年未満のスタッフばかりになると、ほとんどスタッフ教育が行われませんから、事故やトラブルが増えていきます。まともなスタッフはそれに嫌気がさして、すぐに辞めてしまうということになります。

もちろん、これはこの事業所で働いている人の勤続年数ですから、開始後2年半という事業者の場合は、1年以上3年未満という介護スタッフが多くなります。ただそれでも、一年未満の人が多いということは、1年以上続かない人が多い労働環境だということがわかるでしょう。
スタッフが短期間でたくさん辞めているところ、安心して働けないところは、やっぱりだめなのです。


高齢者住宅選びの根幹 重要事項説明書を読み解く

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  ⇒ 重要事項説明書 ① ~老人ホームの全体像を読み解く~ 🔗
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  ⇒ 重要事項説明書 ③ ~建物設備の権利関係を読み解く~ 🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ④ ~スタッフ数・勤務体制を読み解く~ 🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ⑤ ~介護サービスの専門性を読み解く~ 🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ⑥ ~介護スタッフの働きやすさを読み解く~  🔗
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高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばない」こと

  ☞ ポイントとコツを知れば高齢者住宅選びは難しくない (6コラム)
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