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「居室・食堂フロア分離型」の高齢者住宅はなぜダメか

高齢者住宅で「介護が必要になっても安心」と標榜するのであれば、「個別の重度化」と「全体の重度化」の二つの基準をクリアすることが必要。【居室・食堂フロア分離型】は、車いす高齢者が増えてきたときには、生活・介護ができなくなる。要介護高齢者の住宅としては致命的な欠陥。

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 044


高齢者や家族が高齢者住宅への入居を希望する最大の理由は「介護の不安」です。
介護付有料老人ホームだけでなく、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅など、現在運営中の、ほとんどすべての高齢者住宅で「介護が必要になっても安心」と標榜・セールスしています。
高齢者住宅の商品の基本は「重度化対応力」だといって良いでしょう。

まず、高齢者住宅で「介護が必要になっても安心」という意味を少し深掘りして考えてみましょう。
その言葉だけを見れば、「要介護状態になっても、安全・快適に生活できる生活環境・介護環境が整っている」ということです。ただし、要介護状態といっても、要介護1(軽度要介護)と要介護5(重度要介護)とでは、介護サービスの量、内容が違います。高齢者住宅への入居を考える高齢者・家族のニーズは終の棲家ですから、「軽度要介護には対応できるが、重度要介護には対応できない」では困ります。

もう一つは、自宅で生活している場合と、高齢者住宅で生活している場合とでは、「介護が必要になっても安心」の意味は変わってくるということです。
Aさんが住み慣れた自宅で生活している場合、「Aさんが重度要介護状態になっても安全に生活できる」という個人の重度化対応です。対して高齢者住宅の場合は、「個人の重度化対応」と共に、重度要介護状態の高齢者が増えても対応できるという「全体の重度化対応」が求められます。加齢や疾病によって、入居者全員の要介護状態が重くなっていくからです。

『介護対応力』 介護システムよりも大切なのは建物設計

介護サービスの充実は高齢者住宅選びの最重要ポイントです。
介護システムを比較するには、サ高住や住宅型などの区分支給限度額方式か、特定施設入居者生活介護の指定を受けた介護付か、また【3:1配置】か【2:1配置】かなどと、介護保険制度上の類型の違いを理解し、その中身・手厚さを比較する必要があります。

しかし、制度的な介護システムの前に、「この高齢者住宅では重度要介護には対応できない・・」と、誰が見てもわかりやすいのは「建物設計」です。それは私たちが暮らす、一般のアパートやマンションなどの集合住宅と、要介護高齢者のための高齢者住宅は、建物設備の考え方が基本的に違うからです。
実際に、車いすでの生活になった時をイメージすれば、色々なことが見えてきます。

例えば、玄関。一般のアパートやマンションでは、廊下などの共用部分は「外履き」で、それぞれの部屋の入口部分に玄関があり、部屋の中に入ってから靴を脱ぎます。しかし、同じように高齢者住宅で、各居室内に内外を分ける玄関を置いてしまうと、居室用の車いすと外出用の車いすが必要となり、食堂や廊下に出るたびに車いすを乗り換えるか、車いすを掃除しなければなりません。また、ドアも通常の開き戸では入れませんし、閉めることもできません。

もう一つの視点は「車いす利用の高齢者が増えた時」の居室と食堂の生活動線です。
車いす利用者が増えたときに、生活できなくなるのは、以下のような「居室・食堂フロア分離型」です。
一つ、例を挙げてみましょう。

定員は60名、一階に食堂と浴室、2階~4階まで各15名の居室が設置されています。エレベーターは大型福祉エレベーターで、定員13名、車いすは4台まで入ります。
車いす利用者の増加に合わせて、食事の時間帯の生活行動をシミュレーションしてみましょう。

車いす利用者が増えると、エレベーターは大きな障壁に

ケース①のように、ほとんどの高齢者が軽度要介護で自立歩行であれば、自分でエレベーターに乗って食堂までいくことができます。車いす利用者は10名(各フロア2名~3名)ですから、自分で車いすを動かせる人は一人で食堂まで向かうことができますし、介助が必要な車いす高齢者も、スタッフが付き添って、一階まで降ろすことができます。

しかし、加齢や疾病によって、要介護状態は重度化していきますから、数年後には、ケース②、ケース③、ケース④と車いす利用の高齢者の数が増えていきます。

ケース③のように、車いす利用者が半数になれば、各フロアに車いすの高齢者が7名~8名になります。車いすは詰めても一往復で4台が限界です。自立高齢者を含め、各フロアから入居者を下ろすだけで最低3往復、4つのフロアがありますからトータルで12往復以上。高齢者、車いす高齢者は乗り降りに時間がかかりますから、一往復5分程度としても60分以上はかかります。

また、移動に介助が必要な高齢者が増えると、各フロアのそれぞれの居室からエレベーター前まで連れてくるスタッフ、エレベーターに乗って車いすを出し入れするスタッフ、一階で入居者を下ろし食堂の各テーブルまで移動させるスタッフと、居室から食堂までの移動介助に、少なくとも6人の介護スタッフを配置しなければなりません。
それは行きの【居室 ⇒ 食堂】だけでなく、帰りの【食堂 ⇒ 居室】も同じです。
朝食、昼食、夕食の一日三回ですから、移動介助だけで相当の時間と労力が必要になるのです。

中でも、最も大変なのが朝の時間帯です。
早朝は、少ない夜勤スタッフ数の時間帯であるにもかかわらず、入居者を起こし、排泄介助、着替え介助、口腔ケア(歯磨きなど)、整容介助、朝食の準備など、短時間に必要な介助が集中します。上記例のようにケース③、ケース④になると、必要な介助項目も介助が必要な入居者数もどんどん増えていきます。これに加えて、居室から食堂までの移動介助が加わるのです。
8時に食事を始めようとすれば、6時半頃には食堂への移動をスタートしなければなりません。
それまでに排泄介助や着替え、整容介助などを完了させなければならないということです。

いま、この【分離型】の高齢者住宅で、何がおこなっているかと言えば、起床時間の前倒しです。
午前3時半頃から入居者を起こし始め、一番早い人は、4時頃には食堂につれていかれ、8時頃までそのまま食堂で待機させられるといいます。そうしないと朝の起床介助や食事時間に間に合わないからです。
当然、その間には放置されますから、トイレにさえ行けません。
また、食事が終わるのは9時だとしても、それから居室に戻ると10時を過ぎ、また11時前には昼食のために食堂に降ろし始めなければなりません。そのため、居室に戻さずにそのまま昼食の時間帯まで、車いすに座ったまま食堂に放置されるというところもあります。
朝三時半に起こされる生活、食堂に放置される生活が、365日、死ぬまで続くのです。
「介護が必要になっても安心」どころか、とても、まともな生活だとは言えないでしょう。

同じ60名定員でも、以下のような【居室・食堂フロア同一型】だとどうでしょうか。
排泄介助、着替え介助、口腔ケア(歯磨きなど)、整容介助、食事の準備などが、必要な介助が集中することは同じです。

ただ、エレベーターでの移動介助の時間は必要ありませんから、6時頃から起こし始めても8時頃には間に合います。また、起床介助が終われば、それぞれが居室でテレビを見たり、お茶を飲んだりして、それぞれのリズムで食堂に向かうことができます。自走車いすの人は一人で食堂まで行けますし、車いすの移動介助が必要な方も、同一フロアであれば、それほどの介護の手間、時間はかかりません。食事が終われば、それぞれのリズムで部屋に戻ることかできます。

同じ60名定員、同じ介護スタッフ数、同じ要介護状態であっても、【分離型】と【同一型】では生活のしやすさ、介護のしやすさは全く変わってくることがわかるでしょう。
これは、介護付有料老人ホームや住宅型有料老人ホーム、サ高住など、住宅種別や介護類型を問いません。上記例は、60名定員で5階建ての例ですが、定員数に関係なく、2階建てでも3階建てでも同じです。【居室・食堂フロア分離型】は、車いすの要介護高齢者が増えてきたときには、エレベーターが大きなバリアとなり生活ができなくなる、適切な介護サービスの提供が難しくなる、要介護高齢者住宅として致命的な欠陥なのです。

しかし、現在の高齢者住宅を見ると、サ高住や住宅型有料老人ホームでは9割以上、介護付有料老人ホームでも半分程度は【居室・食堂フロア分離型】です。それは、【居室・食堂フロア同一型】は広い敷地が必要になること、また【居室・食堂フロア分離型】と縦長の方が、建築コストが安く済むからです。
「分離型でも重度要介護高齢者にも対応できる、実際に生活している・・」と反論する人がいますが、それはケース①のように重度要介護高齢者の数が少ない「個別の重度要介護対応」であり、ケース③以上の「全体の重度要介護対応」ではありません。それは商品設計上、物理的に不可能なのです。

厳しいようですが、分離型の建物設計で、介護が必要になっても安心と言っているのは、「個別の重度化」と「全体の重度化」の区別がつかない、介護実務に乏しい事業者なのです。


ここがポイント 高齢者住宅 素人事業者の特徴

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高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばない」こと

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