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どちらを選ぶ ・・ 老人福祉施設か? 高齢者住宅か?


特別養護老人ホームが民間の介護付有料老人ホームよりも格段に安いのは、開設や運営に莫大な社会保障費が投入されているから。しかし、それは明らかな制度矛盾であり、今後、特養ホームも25万円以上になり、対象は認知症など民間の高齢者住宅では対応できない認知症高齢者に集約されていく

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 07


「特養ホームと民間の高齢者住宅は何が違うのか・・」
「入所するなら、特養ホーム、介護付のどちらが良いのか・・」
そんな、質問を受けることがあります。

特養ホームは重度要介護高齢者でなければ入所できないが低価格。一方の介護付有料老人ホームは軽度要介護高齢者でも入居できるが、民間の住宅なので費用が高いと言ったイメージでしょうか。
ただ、それ以外に詳しいことはよくわからないという人がほとんどでしょう。
それは、不勉強というわけではありません。現行制度においては矛盾が多く、法律上は「あっちが施設だ、こっちは住宅だ」というだけで、その役割や内容の違いについて、上手く説明できないからです。


養ホームと民間の高齢者住宅は何が違うのか

まずは、施設と住宅の基本的な違いについて整理します。
特養ホームと高齢者住宅の違いを整理したものが以下の表です。


特養ホームは、要介護高齢者の住宅ではなく、身体障害者施設、児童養護施設などと同じカテゴリーに属する、一般の住宅では生活できない人の「社会福祉施設」です。これらの施設も「親と生活できない子供の住まい」「障害者の住まい」であることは間違いありませんが、一般の住宅ではありません。老人福祉施設は、特養ホーム・養護老人ホーム・軽費老人ホーム(ケアハウス)があります。

社会福祉施設は、全国統一の基準で設置され、一律のサービスが、ほぼ一律の価格提供されています。
現在の特養ホームは、4人部屋を中心とした相部屋タイプのもの、ユニット型と呼ばれる個室型のものに大きく二つに分かれます。所得に応じて減額措置があるため、相部屋タイプは1万円~9万円程度、個室型でも5万円~15万円程度という低価格で入所することができます。
ただし、低価格であることから、要介護高齢者の入所依頼が殺到しており、原則として要介護3~5の重度要介護高齢者しか、申し込みができなくなっています。

これに対して、高齢者住宅は、通常のアパート経営、マンション経営と同じように、営利目的の住居・住宅サービスとして建設・運営されているものです。
有料老人ホームは厚労省の管轄する「老人福祉法」に規定されていますから「施設」という人もいますが、社会福祉を目的とした施設ではなく、営利目的の民間の高齢者住宅です。
それぞれ、設置・運営の最低基準はあるものの、建物の広さ、食事のグレード、介護の手厚さなど、ハード・ソフトの両面で、自由にサービスを設計することができます。逆に、特養ホームでは一体的に提供されている食事や介護などの生活支援サービスを、入居者個別の選択としたり、外部のサービス事業者が提供するというところもあります。
特養ホームは全国一律のサービス・価格ですが、高齢者住宅は、介護付有料老人ホーム、サ高住といっても、サービス内容や価格がそれぞれに違うのです。


要介護3でどちらかと言われると、現行制度では100%特養ホーム

このように、老人福祉施設である特養ホームと民間の高齢者住宅では、そもそも違う目的で作られたということがわかるでしょう。
しかし、現在の特養ホームの運営状況を見ると、特に民間の高齢者住宅との違いが、わからなくなっています。そのために「要介護3の重度要介護状態」となった場合、特養ホームに入るのか、民間の高齢者住宅に入るのか…どっちが良いの、お得なの? という疑問が生まれてしまうのです。
教科書的に言えば、述べたように「特養ホームは全国一律のサービスだけれど、介護付有料老人ホームなとの高齢者住宅は自分に合った生活環境・サービスを選ぶことができる」ということになるのですが、実際はそう単純ではありません。


現行制度において「あなたは、どちらを選ぶのか」と聞かれると、私は100%特別養護老人ホームを選びます。 重度要介護状態となり、特養ホームへの入所が可能ならば、そちらを選ぶべきです。 それは、制度云々、役割云々というよりも、コストパフォーマンスが全く違うからです。

現在のユニット型特養ホームの隣に、全く同じ建物設備基準、介護看護スタッフ配置で介護付有料老人ホームを作ると、その月額費用は特養ホームの二倍以上の30万円~35万円になります。
特養ホームがなぜ、介護付有料老人ホームの半額以下なのかと言えば、その運営には、たくさんの社会保障費が投入されているからです。介護付有料老人ホームの入居者と特養ホームの入所者を比較すると、その差額は一人当たり年間180万円以上になります。

最近では、一時金がゼロ、月額費用が20万円~25万円という、中間層を対象とした介護付有料老人ホームが増えていますが、この低価格の介護付有料老人ホームと、現在のユニット型特養ホームを比較して、どちらの建物設備が豪華で、どちらがより手厚い介護看護サービスが受けられるかと言えば、間違いなく後者の特養ホームです。

言いかえれば、現状制度においては、「施設か?住宅か?」というよりも、「同じサービスで13万円と30万円、どちらを選びますか…」「建物設備も豪華で手厚い介護で13万円、それよりグレードやサービスは落ちるけど25万円、どちらを選びますか…」と聞いているのと同じなのです。

そう考えると、特養ホームに入所希望者が殺到するのは、当然のことなのです。
もちろん、特養ホームといっても、サービスの質・スタッフの質はそれぞれ違うために、きちんとした見極めが必要です。ただ、現在の制度においては、「24時間看護師や医師が常駐」「食事は焼き肉や寿司などその日のに気に入ったを食べたい」「居室は40㎡くらい欲しい」などの特別な希望があり、お金に糸目をつけないという超富裕層以外は、重度要介護状態になれば、特養ホームが正しい選択なのです。


特養ホームの対象・価格は、今後大きく変わる

ただ、これは「特養ホームの方が良いんだ…」という単純な話ではありません。
現在の制度設計は誰が考えてもおかしいと思うでしょう。財政にも人材にも十分な余裕があり、重度要介護状態になれば、誰でも低価格で豪華なユニット型特養ホームに入所できるのであればそれでも良いかもしれません。
しかし、現在でも待機者は30万人を超えており、今後、独居の重度要介護高齢者は激増します。間違いなくその人数は50万人、100万人、150万人と一気に増えていきます。財政も人材も極度に逼迫していますから、待機者に合わせて「要介護高齢者住宅の代替施設」として特養ホームを作り続けることは、100%不可能です。

また、現在の特養ホームは、そのサービス内容から見ると非常に低価格ですが、低所得者対策が不十分なため、年金収入の少ない人は入りにくい、申し込みもできないというのが実態です。実質、240万円以上の年金収入があるか、数千万円の預貯金があるか、子どもからの金銭的支援があるなど、お金に余裕のある高齢者が優先される仕組みになっています。

逆に、介護付有料老人ホームでは30万円程度のサービスが13万円程度で利用できるのですから、お金のある人は特養ホームを選択するため、民間の高齢者住宅には入りません。
その結果、特養ホームに入れない、自宅でも生活できない低所得、低資産の重度要介護高齢者は、安いだけの非合法の無届施設や劣悪なサ高住・住宅型有料老人ホームに入所せざるを得ず、「囲い込み」と呼ばれる介護保険や健康保険の不正利用が横行し、「ベッドに括り付けられる」などの虐待や身体拘束が行われ、悲惨な生活を余儀なくされているのです。
現在の特養ホームは、社会保障費の使い方としては、あまりにも不公平・非効率で、誰が考えても持続不可能な、矛盾だらけの制度なのです。
そのため、特養ホームの制度は、今後、一気に変わることになります。

一つは、自己負担の値上げです。
現在は、どれだけ収入や資産がある高齢者でも、ユニット型特養ホームの費用基準額(支払い最高額)は13万円程度ですが、今後は26万円~30万円程度となり、介護付有料老人ホームと変わらない金額になります。同時に、低所得者対策も現在の四段階から細かく設定されることになります。

もう一つは、対象者の限定です。
現在の特養ホームは要介護3以上の重度要介護高齢者に限定されていますが、このような「重度要介護高齢者の住まい」ではなく、本来の目的である「要福祉」の高齢者の施設としての役割が強化されます。
民間の高齢者住宅では対応が難しい、暴言や暴力、興奮、幻覚などBPSD(周辺症状)のある認知症高齢者の対応や緊急避難的なショートステイ、ミドルステイなどの機能が強化されていくでしょう。

現在の制度のもとで「要介護3以上でお金はある」「どちらが良いか」と聞かれると特養ホームです。しかし、今後は、制度が大きく変わり、要介護高齢者の住まいは、民間の高齢者住宅に集約されていくことになるのです。


「どっちを選ぶ?」 高齢者住宅選びの基礎知識 

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高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばない」こと

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