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「転倒・骨折・・」 多発する介護事故の原因とその責任


高齢者住宅への入居後に発生する転倒・転落・誤嚥など事故の原因は「身体機能の低下」「介護スタッフのミス」「建物設備の不一致」の3つ。ただし、事業者の努力だけでは事故はゼロにできず、すべてが事業者責任ではない。その法的責任のポイントは「安全配慮義務」を満たしているか否か

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 019


入居後のリスクとして、第一に挙げるのが入居後の事故です。
「安心・快適」と聞いて入居したのに、「転倒・骨折」となれば、「きちんと介護してもらっていたのだろうか…」と不審に思うのは当然のことです。しかし、「きちんと介護していれば、事故をゼロにすることができるか」「事故の責任はすべて事業者の責任か」と言えば、そうではありません。
ここでは、まず高齢者住宅内で発生する事故の原因とその責任について整理します。


高齢者住宅入居後の事故の原因は、大きく分けて3つ

まずは、高齢者住宅でどのような事故が発生しているのか、簡単に整理してみましょう。

高齢者住宅で発生する事故の例
  ◆ ベッドから車いすに移ろうとしたが、バランスを崩して床に転落
  ◆ 庭を散歩中に、玄関のエントランスの水たまりで滑って転倒
  ◆ 食後に食堂から戻ろうとして、他の入居者とぶつかり転倒
  ◆ ベッドから車いすの移動介助中に、バランスを崩して転倒
  ◆ 入浴介助中に、介護スタッフが目を離したすきに溺水
  ◆ 居室内で、お湯を沸かそうとしていて熱傷
  ◆ 食事中に、細かな食べ物が気管に入ってしまい誤嚥

詳細なデータを取ったわけではありませんが、事故の数として多いのが転倒や転落です。
これは入居者の要介護状態によっても違い、歩行できる高齢者はふらつきなどによる転倒が多くなりますし、車いすの高齢者に増える事故が移乗時の転落です。どちらも、大腿骨骨折や頭部打撲などの重大事故に発展する可能性があります。その他、入浴中の溺水、食事中に気管に食べ物が詰まる窒息も、発見や対応が遅れると死亡のリスクがあります。

事故の原因は大きくわけて3つあります。
まず一つは、身体機能の低下です。
高齢者は、子供の成長とは反対に、加齢によって、少しずつ身体機能が低下していきます。一人で歩いていた高齢者も、筋力やバランスの低下によって転倒するリスクが高くなります。特に、認知症高齢者は本人が身体機能の低下や事故の危険性を理解することができず、思いがけない行動を起こすこともあるため、事故リスクは更に高くなります。


二つ目は、介護スタッフのミスです。
特養ホームや介護付有料老人ホームでは、ベテランの介護福祉士から未経験の新人スタッフまで様々な介護スタッフが働いています。ここには、知識技術不足・経験不足、過失による事故だけでなく、スタッフ間の連携・連絡不備による事故も含まれます。

もう一つは、建物設備が原因となるものです。
高齢者は、ほんの小さな段差でも躓き、バランスを崩して転倒します。「バリアフリー」というだけでは、要介護高齢者の生活には対応できません。車いす、ベッド、食堂テーブルの高さが本人の身体に合っていなければ、転倒や移動時の転落、食事中の誤嚥、窒息の原因となります。

以上、3つの原因を挙げましたが、ほとんどの事故は、一つの原因だけで起きるのではありません。
例えば、「歩行中にバランスを崩して転倒・骨折した」という事故。
基本的には本人の身体機能の低下が原因です。しかし、寝る前に飲む薬が変わっていて、ふらつきの副作用の可能性があったが、それが夜勤帯のスタッフに伝わっていなかったということになれば、介護スタッフの伝達ミスも一つの原因として上がってきます。また、その転倒場所が浴室の前で、水で濡れていて滑って転倒したということになれば、建物・設備にも問題があったということになります。


高齢者・要介護高齢者の生活で、事故はゼロにはできない

ここで問題となるのは、事故の責任は誰にあるのか…ということです。
「車いすの移動介助中に、壁にぶつけて、足指を骨折させた」
「入浴介助中に目を離して、入居者を溺水させた」といった、明らかに介護スタッフのミスが原因の事故の場合、当然、その責任は、介護スタッフ、高齢者住宅事業者(介護付の場合)、訪問介護サービス事業者(住宅型・サ高住の場合)にあります。

しかし、述べたように、多くの事故は原因が一つではありません。
例えば、「歩行中に転倒した」「車いすからベッドに移るときに転落した」という事故。
家族からすれば、高齢者住宅内で発生した事故は、事業者に責任があると考えるでしょう。
高齢者住宅の対象は、身体機能の低下した高齢者であり、またその入居にあたっては、「介護が必要になっても、安心・快適」を標榜しています。骨折や死亡事故が発生したら「自分たちに関係ない」「家でもこけるだろう」というのは、言い訳にしか聞こえません。特に、入居後すぐに、転倒・骨折で入院となれば、「チキンと介護していたのか…」「安心・快適といったじゃないか…」となるのは当然です。


しかし、事業者から見れば、転倒や転落を防ぐために、24時間見守り続けることは不可能です。
認知症高齢者は、「すぐに戻りますので、ここで少し待っていてください」「車いすに移るときはコールしてくださいね」と説明しても、すぐに忘れてしまいます。認知症の高齢者でなくても、寝不足など日々によって体調は変化しますし、「できるだけ自分でできることは自分で…」「身体を動かさないと寝たきりになってしまうから…」といった自立心が、転倒につながることもあります。
そもそも、想定できない事故は事業者には対応のしようがありませんし、また、想定されるからといって、24時間付き添い、見守りを行うということはできません。「車いすから立ち上がると危険なので、車いすに縛り付けておこう」となれば、それは人権に関わる身体拘束・虐待です。

この高齢者住宅の事故の原因と責任を考える上で、重要になるキーワードが、「安全配慮義務」です。
介護付、サ高住など高齢者住宅種別に関わらす、事業者は、入居者が安全に生活できるように、十分な検討・配慮する義務があり、それが事故予防だけでなく、その高齢者住宅の介護の質、ノウハウを図る重要なチェックポイントなのです。

>>> 続く

 

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