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「介護サービス併設で安心」の高齢者住宅はなぜダメか

訪問介護併設、通所介護併設であっても、「事前予約方式」「時間厳守」が前提の区分支給限度額方式では、重度要介護、認知症高齢者には対応できない。不正が横行する「囲い込み型」の高齢者住宅に入居するのならば、自宅で生活する方が、よほど安全で快適に生活できる。

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 045


高齢者住宅で受ける介護看護サービスの基礎となるのは、「介護保険制度」です。
自宅で生活する要介護高齢者は、「区分支給限度額方式」の介護サービスが提供されますが、高齢者住宅の入居者は、「区分支給限度額方式」と「特定施設入居者生活介護」に分かれています。前者の有料ホームを「住宅型」、後者を「介護付」と言います。サービス付き高齢者向け住宅は、ほとんどが「区分支給限度額方式」の住宅型です。
ただし、この介護保険制度は、医療保険と違い「必要十分な介護サービスを受けられる制度」ではありません。もし、そうであれば、高齢者住宅に入居しなくても、自宅で生活していても、十分な介護サービスが提供されるはずです。

これは、高齢者住宅に入居しても同じです。
「介護が必要になれば介護保険が使えるので安心ですよ・・」というセールストークをよく耳にしますが、区分支給限度額方式であれ、特定施設入居者生活介護であれ、介護保険制度内のサービスだけでは、重度要介護状態になると、十分な介護サービスを受けることはできません。
特に、区分支給限度額方式は、そもそも高齢者住宅の報酬体系として設定されたものではありません。

区分支給限度額方式」の高齢者住宅の特徴

区分支給限度額方式は、入居者が個別に外部の訪問介護、訪問看護、通所介護などの事業者と契約し、介護サービスを受けるものです。「訪問介護併設ですから安心ですよ・・」というのは、「一階にコンビニがあるからお買い物に便利ですよ・・」というのと同じで、契約上、高齢者住宅事業者は無関係です。

この方式は、それぞれの自宅で介護サービスを受けるというのと同じです。
要介護度別に介護保険内で受けられる限度額が決められており、その範囲内で訪問介護や訪問看護、通所介護などの在宅サービスを組み合わせて利用します。限度額を超えた部分は全額自費となります。月決めのチケット制のようなものだといって良いでしょう。
もちろん、限度額一杯まで使う必要はありません。自分が必要なサービス種類とその回数を選んで利用し、利用したサービス分だけ介護報酬が算定される「出来高算定方式」です。


この区分支給限度額方式には二つの原則があります。
一つは、月単位の事前予約制だということ。
自分が希望する介護サービスを、コーディネートしてくれるのがケアマネジャーです。ケアマネジャーは外部の訪問介護や訪問看護サービス事業者と調整をして、「月曜日はデイサービス」「火曜日は10時から入浴介助」「訪問看護は火曜日の17時半から30分」と事前予約をしてくれます。
この調整は原則、一ヶ月単位で行われます。

もう一つは、サービス内容と時間が厳格に決められているということ。
訪問介護、訪問看護、デイサービスなど、ほとんどの在宅介護サービスは「時間単位」で報酬単価が決められています。要介護高齢者一人一人の限度額(チケット)を使った、個別契約によるサービスですから、「10時~11時までAさんの入浴介助」「11時~11半までBさんの排泄介助」「15時半~16時までBさんの訪問看護」と厳格に時間とサービス内容が定められています。「入浴介助が早く終わったから、Bさんの排泄介助へ・・」「昨日娘がお風呂入れてくれたので、代わりに部屋の掃除をして・・」ということはできません。

区分支給限度額方式だけでは、重度・認知症は対応不可

この原則は、高齢者住宅で受けられる介護サービスの内容にも関わってきます。
介護サービスと言えば、「入浴介助」「排泄介助」「食事介助」などの定期介助をイメージしますが、高齢者住宅で安心して、安全に生活するためにはそれ以外にも「臨時のケア」「すき間のケア」、また「見守り」「声掛け」なとの間接介助、「コール対応」や「緊急対応」など以下の8つの項目の介助が必要になります。

しかし、述べたように区分支給限度額方式の訪問介護は、「月単位の事前予約制」「時間管理」が原則ですから、対象となるのは定期介助だけです。
「お腹の調子が悪いのでトイレに連れて行ってほしい」という臨時のケアについても、体調不良や体調変化などでサービス変更を行う場合、本人の同意だけでなく、ケアマネジャーへの事前連絡、ケアプランの変更が必要となります。また、事前予約制ですから、随時のコール対応や急変時・事故発生時の緊急対応は対応できませんし、見守りや声掛けといった間接介助や、「テレビを付けてほしい」「ベッドから降ろして車いすに乗せてほしい」といった短時間の隙間のケアも対象外です。

区分支給限度額方式は軽度要介護と重度要介護の違いを「介護サービス量の違い」に置いていますが、実際には介護サービス内容が変わってきます。
軽度要介護高齢者の場合は、移動や排せつ、食事など身の回りことはできますから、定期介助だけで対応が可能です。しかし、重度要介護になれば、「喉が渇いたので水を飲みたい」「お腹の調子が悪くて何度も便がでる」「テレビを付けてほしい」といった、日々の生活行動全般に介助が必要となります。「トレイに行きたいけどあと3時間待っていなければならない」「頭が痛いけど、誰もいない」というのでは、安全、快適に生活することはできません。

認知症になると、排泄や食事行動は自立していても、「排泄は自分でできるが日によって失敗が多い」「食事を慌てて食べるため誤嚥が多い」といった生活課題や、「他の入居者の部屋に間違えてトラブルになる」「失見当識から不安、不穏になる」といった想定できない行動が多くなります。生活を安定させるためには、日常的、包括的な見守りや声掛けが必要になります。

最近のサ高住や住宅型有料老人ホームは、同一法人、関連法人で訪問介護や通所介護を建物内に併設し、一体的に介護サービスを提供するところが増えていますが、併設であっても、事前予約制のポイント介助だけでは重度要介護、認知症には対応できないのです。

このような話をすると、「併設している訪問介護事業所には24時間スタッフが常駐している」「手の空いているスタッフが無料で対応している」と説明するところが多いのですが、「手が空いているスタッフが行う」ということは、「手が空いていなければできない」ということです。訪問介護は「時間管理に厳格」ですから、「Aさんの排泄介助時間に、コールが鳴ったBさんのところに行く」ということはできません。本人が納得していても「Aさんの健康保険を使って、Bさんに薬を出す」というのと同じで、介護保険法違反(不正請求)になるからです。
特に、夜間帯は介護スタッフの数は少なくなりますから、「24時間、事業所にスタッフが配置されている」といっても、大半の時間は「他の入居者の訪問介護の時間中」ですから、実際はほとんどいないのと同じなのです。

「囲い込み型」に入るなら、自宅で生活する方が安全

もう一つ、区分支給限度額方式で注意が必要なのが、素人事業者が悪徳事業者に変貌することです。
それが、いま、高齢者住宅業界で問題となっている「囲い込み」です。「囲い込み」というのは、家賃や食費などを低価格にして要介護高齢者を集め、訪問介護や通所介護などの系列サービスの利用を、それぞれ入居者の限度額まで無理に使わせることで利益を上げるというビジネスモデルです。

本来、区分支給限度額方式は、様々な種類のサービスを利用できることが利点ですが、このような囲い込み型に入ると、系列サービス事業者のサービスだけ、それも「訪問介護だけ」「毎日デイサービス」といったサービスの押し売りが行われ、またそのサービスさえも適切に提供されていません。介護保険法上の根幹を揺るがす重大な不正なだけでなく、「看護サービスが必要なのに、提供されずに褥瘡が悪化」「入浴介助が適切に行われずに溺死」など、悲惨な事故、トラブルも多数発生しています。
「自分たちがやっているサービスが不正かどうか・・」ということは、働いているケアマネジャーやホームヘルパーが一番よく知っていますから、その質は推して知るべし・・なのです。

高齢者住宅の「囲い込み」は何が問題なのか (特集) 

また、介護保険財政、社会保障財政は極度に悪化していますから、このような「押し売り式」の不正なビジネスモデルが社会的に許されるはずがありません。「囲い込み」を行っている高齢者住宅は、低価格モデルのところが多いのですが、このようなところに入るのであれば、少々不便でも、自宅で生活する方がよほど安全、快適に生活することができます。
つまり、「訪問介護、通所介護併設だから安心」と言っているのは、介護保険制度の基礎さえ理解していない素人事業者か、もしくは高齢者・家族の知識不足につけ込んだ悪徳業者なのです。


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