サービス内容や価格などによって、良い老人ホームは、人それぞれに違う。ただ、高齢者住宅事業に精通したプロの事業者と、「補助金がでる」「需要が高い」と安易に参入してきた素人事業者には、明確な違いがある。特別な知識がなくても、それを見分けることはそう難しくはない。経営・サービス管理の視点から見た、素人事業者の特徴とポイントについて整理する
高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 043
倒産や職員による虐待など様現在の高齢者住宅業界には課題が噴出しています。その背景にあるのは「需要が高まる」「儲かりそうだ」と、安易に参入してきた素人事業者の増加です。
高齢者住宅事業は、「高齢者が増えるから」と誰にでもできるような簡単な事業ではありません。
対象者は、身体機能や判断力の低下した高齢者です。転落や転倒などの事故は多く、認知症によるトラブル、身体状況の急変、失火、感染症などのリスクも高くなります。質の高い介護サービスを提供し続けるには、介護の専門性を理解したリスクマネジメント、ケアマネジメントなどの高いサービス管理のノウハウが必要です。
それは経営も同じです。
高齢者住宅の需要は今後も高まることは間違いありませんが、一方で少子高齢化による介護看護人材の確保、社会保障費の財政悪化など、その経営環境は決して見通しの明るいものではありません。一時的ではなく、30年40年と事業を安定して経営し続けるには、事業特性を十分に踏まえた高い経営ノウハウ、手腕が求められます。
そもそも、高齢者住宅が利益率の高い、簡単なビジネスなのであれば、補助金や税制優遇などがなくても増えていたはずです。しかし、実際は、いまでも一般の賃貸マンションやアパートでは、「高齢者お断り」です。それだけトラブルや事故が多い、リスクの高い難しい事業だからです。
高齢者住宅業界には、なぜ素人事業者が多いのか
高齢者住宅業界には、素人事業者が増えた理由は「高齢者住宅の需要は高まる」という過剰な期待だけではありません。その建築や設備には数億円の大きなお金が動くために、「自分ではやりたくないけど、他人にやらせたい」という人が多いからです。
今後、真っ先に倒産すると考えられているのが、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の「地主事業者」と呼ばれる個人経営者です。 有料老人ホームと違い、サ高住は、詳細な事業計画の事前届け出が必要ないため簡単に開設でき、一般の住居と違い建設補助や税制優遇も行われています。ベロッパーや介護コンサルタントの「高齢者増えますよ・・」「高い固定資産税は損ですよ・・」口車に乗せられ、「遊休土地の資産活用」を目的に多くの人が高齢者住宅事業に参入しています。
この地主事業者は、「コンサルタント」や「併設訪問介護」などの事業者にすべて任せで、高齢者住宅を運営している認識さえありません。中には「私は単なる家主で、事業者責任と言われると困る」という人も多く、誰が高齢者住宅を経営しているのかさえわからない・・という状態に陥っています。
「建設ありき」で煽ったデベロッパーやコンサルタント、それにつながる訪問介護事業者も、事業に対する責任感はゼロ、高齢者住宅経営に関するノウハウはゼロで、経営が上手くいかなくなると、沈む船からネズミが逃げ出すようにいなくなります。
一方、「大手だから安心」「たくさん運営しているからノウハウがある」でもありません。
それは、介護保険制度以降に参入した企業がほとんどで、ワンマン創業者の馬力によって急成長、急拡大してきたという側面が強いからです。その意欲を否定するつもりはありませんが、介護経験や老人ホームでのマネジメント経験がなく、「多少の不正はどこでもやっている」「俺の言う通りにすればよい」と、最低限のガバナンスや、コンプライアンスさえ整っていないところも少なくありません。「この手法は不正ではないか」「この人数では適切な介護できない」と疑問を呈す、質の高い介護スタッフを排除し、勢いだけで無理に無理を重ねて、目先の利益だけを求めて拡大してきたところも多いのです。
実際、信じられないような介助ミスや介護スタッフによる虐待事件、殺人事件を起こしているのは、大手が目に付きます。現在、有料老人ホーム・サ高住などの高齢者住宅で、2000室を超える大手事業者は20社を数えますが、10年後にはその半分以上は姿を消しているでしょう。
素人事業者には、共通するいくつかの特徴がある
高齢者住宅業界だけでなく、建設業でも飲食業など、他の産業でも素人事業者・悪徳業者はいます。
それでも他の業種の場合、少なくとも一定期間は、その業界で修業や経験を積み、その事業の特性やリスク、ノウハウを学んだ上で、独立や起業するのが一般的です。しかし、高齢者住宅の場合は、経験や知識がゼロのまま、「補助金がでる」「儲かりそう」というだけで参入してきたケースが多く、素人事業者の割合が突出して高くなっているのです。
素人事業者や悪徳事業者の特徴を、考えてみましょう。
① 希望したサービス、約束したサービス、商品が提供されない。
② 提供される商品・サービスの質、スタッフの質が低い
⓷ 入居後に、聞いていなかったトラブルや事故が多発する
④ 最初に聞いた説明内容と、実際にかかる費用が違う
例えば、①の約束したサービスが提供できない・・という特徴。
ほとんどの高齢者や家族が高齢者住宅への入居を希望する最大の理由は、「介護の不安」です。そのため、介護付有料老人ホームだけでなく、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅など、現在運営中の、ほとんどすべての高齢者住宅で「介護が必要になっても安心」と標榜、セールスしています。
しかし、プロの目から見れば、現在経営中の高齢者住宅の中で、本当に重度要介護や認知症になった場合にも生活し続けられるのは、全体の3割程度しかありません。
これは、⓷の聞いていないリスクやトラブルが次々起こる も素人事業者の特徴です。
高齢者住宅の説明会では、「安心・快適」という言葉やイメージが多いのですが、【F018】 入居後のリスク・トラブルを理解する ? で述べたように、転倒・骨折事故、誤嚥・窒息といった生活上の事故や、感染症や食中毒、火災・災害などの、様々なリスクがあります。
一人一人の入居者に24時間365日、付き添っているわけではありませんから、これらの事故やリスクは、事業者の努力だけではゼロにはできません。どのような事故が想定されるのか、どのような対策をとっているのかを、事業者は入居者・家族に対して丁寧に説明しなければなりません。リスクやトラブルを理解していないため、説明できず、予防策も取れないのです。
それは入居のため・・ではありません。骨折事故は、事業者にとっても入居者や家族とトラブルや損害賠償請求にもなるリスクです。事前に、転倒の可能性やその対応策、またその対応策の限界などを、家族に説明したうえできちんと契約していれば、トラブルを避けられます。トラブルやリスクの説明を曖昧にすることは、事業者が自分の首を自ら締めているのと同じです。
これは、⓸の聞いた説明内容と実際にかかる費用が違う も同じです。
提示している月額費用以外に必要となる生活費について、事前に丁寧に説明を受けていた場合と、説明されていない場合とでは、事業者に対する印象はまったく変わってくるでしょう。飲食店などでも、最初に説明された金額以外に請求されることがありますが、その場合は「二度と行かない」ということになります。高齢者住宅の場合は、「すぐに退居する」ということにはなりませんが、事業者に対する不信感は高まります。事故やケガが発生すれば、「信用できない事業者だ」「嘘をついているのではないか」と、クレームやトラブルは拡大するのです。
高齢者住宅は一時的・単発のサービスではなく、契約からサービスがスタートし、それは数年、十数年と長期間にわたります。入居者だけでなく家族との信頼関係がなければ、高齢者住宅は安定的に経営できません。素人事業者は目先の入居率、利益優先で、そのことさえわかっていないのです。
高齢者住宅選びは「素人事業者を選ばない」ということ ? で述べたように、高齢者住宅選びの基本は、「良い老人ホームを選ぶ」ことではなく、素人事業者を選ばないことです。
「高齢者住宅は入ってみなければ、わからない・・」「人によって、合う・合わないがあるから・・」という人が多いのですが、そうではありません。高齢者住宅事業に精通したプロの事業者なのか、よくわからないまま参入した素人事業者なのかを見抜くのは簡単なのです。
ここでは、一目でわかる、素人事業者を見分けるポイントと、何故そう言えるのか、その理由を高齢者住宅の事業者やビジネスモデルの視点から、考えていきましょう。
ここがポイント 高齢者住宅 素人事業者の特徴
⇒ 高齢者住宅 悪徳事業者・素人事業者の特徴は共通している ?
⇒ 「居室・食堂フロア分離型」の建物の高齢者住宅はなぜダメか ?
⇒ 「介護サービス併設で安心」という高齢者住宅はなぜダメか ?
⇒ 「介護付だから安心・快適」という高齢者住宅はなぜダメか ?
⇒ 「看取り、認知症、何でもOK」の高齢者住宅はなぜダメか ?
⇒ 「すぐに入居できます」という高齢者住宅はなぜダメか ?
⇒ 「早めの住み替えニーズ」を標榜する高齢者住宅はなぜダメか ?
⇒ 「医療は協力病院・医師にお任せ」の高齢者住宅はなぜダメか ?
⇒ 「安かろう・悪かろう」低価格アピールの高齢者住宅はなぜダメか ?
⇒ プロの高齢者住宅は絶対口にしない3つの「NGワード」
高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばない」こと
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