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「100%満足はない」不満・苦情・クレーム対応に表れる 事業者の質

どれほど質の高いサービスを提供している高齢者住宅でも、すべての入居者、家族がはじめから100%満足するサービスは提供できない。高齢者住宅の役割は、家族と一緒になって、その入居者が望む生活環境を提供できるようにサポートしていくこと。プロはそれをわかってい

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 024 


高いノウハウや高い理念、資質をもつ高齢者住宅であっても、入居した高齢者・家族が、最初から100%満足して生活をしているかと言えば、そうではありません。生活歴や希望はそれぞれに違いますから、直接的な事故やトラブルがなくても、何かしら不満はあるはずです。

高齢者住宅が受ける苦情・クレームは、大きく「介護スタッフの態度や、言葉遣いが悪い」といった職員に関するものと、「部屋が汚い、いつも同じ服をきている、食事が美味しくない」といったサービスに関するものの、二つに分かれます。

また、その事業特性を考えると、「途中退居を求められると困る・・」「本人が嫌な思いをするのではないか・・」と、本人や家族が弱い立場に立たされるため、表出される苦情やクレームは、氷山の一角であり、ほとんどの家族は胸の中にしまい込んでいるというのが現実です。

感情的な苦情・クレームか、サービス向上の意見・提案か

入居者・家族から不満や苦情がないようにサービスを提供する、その努力をするということは事業者の責務ですが、同時に、不満をゼロにすることが可能かと言えば、難しいというのが現実です。同じレベルのサービスを提供しても、満足と感じるか不満を感じるは、人それぞれだからです。

ただ、プロと素人事業者の違いは、家族や本人からの苦情・クレームを「やっかいなもの」と消極的に捉えているか、「サービス向上の意見」と積極的に捉えているかで分かれます。
「何が起こるか、満足できるかどうか入居してみないとわからない」という人もいますが、入居前でも、事業者の体質を見分けることは、十分に可能です。
3つのポイントを挙げます。

【サービス管理体制】
一つは、サービスの管理体制です。
どちらを選ぶ・・サービス分離型か? サービス一体型か?🔗で述べたように、高齢者住宅によって、そのサービス提供責任、サービス管理体制はそれぞれに違います。
介護付有料老人ホームでは、すべてのサービスが一体的に提供され、食事、介護看護サービス、生活相談など全体のサービス責任者として、「ホーム長」「管理者」という立場の人がいます。

これに対して、サ高住は単なる賃貸住宅です。
それぞれのサービスの契約主体は違いますから、「食事は食事業者に」「介護は訪問介護サービス事業者に」「看護は訪問看護サービス事業者に」と、バラバラに説明しなければなりません。
しかし、家族が頻繁に訪問していても、それぞれ個別の訪問介護等のサービス責任者に会うことはほとんどありませんから、誰に言えばよいのか、誰の責任なのか、またどうして伝えるのか、わからないということになります。

これは、単純に「サ高住や住宅型はダメだ」と言っているのではありません。
サービスに対する不満や苦情があった場合に、きちんと伝えやすく、解決する組織的なシステムや機能が備わっている高齢者住宅を選ぶということです。住宅型有料老人ホームでも、訪問介護サービス事業者のサービスの質が悪ければ、家族と一緒に厳しく改善を求めてくれるところもあります。

大小関わらず、必ず、「あれ?」といった疑問や不満は発生します。
「ホーム長」などのサービス管理者が設置され、トラブルや不満が発生した時に、聞き取りを行い、改善できるサービス管理体制が構築されていることが大前提です。

【入居前のサービス内容の説明】
二つ目は、サービス内容の丁寧な説明です。
苦情・クレームが発生する最も大きな原因は、入居者や家族がイメージしているサービス内容・質と、実際のサービス内容・質にズレが生じるからです。
これは、事故対策とその説明から見える、事業者の質🔗の対策と同じです。
ほぼすべての高齢者は、高齢者住宅に入居するのは初めてです。また入居者、家族、一人一人、生活に対する希望、サービスに対する希望は違いますから、より丁寧な説明が求められます。

例えば、「部屋の中で鉢植えを育てたい」といった希望に対して、「OKですよ・・」というのは簡単ですが、実際には本人は育てられず、家族が水やりなどを行っている場合もあります。
虫がついて不衛生になったり、枯れてしまうということもありますし、個数が多いと、生活や介護の邪魔になったり、葉が落ちて掃除が大変ということにもなりかねません。
「天気の良い日は、できるだけ庭で散歩をしたい」という希望に対しても、検討すべき事項はたくさんあります。歩行にふらつきのある場合、転倒のリスクがありますし、車いすで介助が必要な場合、「誰がどの程度の頻度で行うのか」ということも、検討、想定しておかなければなりません。

以前、私の勤務していた老人ホームで、家族から「母はおしゃれなので、毎朝、介護スタッフが髪の毛を結って(結構時間がかかる髪型)、口紅など化粧をさせてほしい・・」「整容サービスと書いてある・・」という依頼がありましたが、介護体制によって、実際にできることと、できないことはあるのです。

そのため、優良な高齢者住宅では、ケアマネジメントのアセスメントの中で、どのような生活希望があるのかをしっかりと聞き取り、想定される課題に対して、「どこまで対応が可能なのか」「注意点、本人の責任、家族の役割」についてきちんと説明してくれます。逆に、「できる限り」「多分・恐らく」「何でもOK」のところは、そのノウハウがないということです。

【定期的な相談機会の確保】
もう一つは、「定期的な相談機会の確保」です。
これは、人間関係トラブルの対応から見える、事業者の質🔗で述べたポイントと同じです。

例えば、「部屋の棚の上できちんと掃除されていない」と感じたとしましょう。
ただ、入居者にとっては、細かいところまで触られたくないという人もいますし、「お掃除しましょうか」と聞いても、「大丈夫・・」と答える人もいます。その日の気分によっても違ってきますし、本人と家族の意見も違います。入居者・家族だけでなく、事業者や介護スタッフにとっても、小さな疑問や不満が、感情的なクレーム・苦情にならないように、きちんと意見を表出できる場が必要なのです。

質の高い高齢者住宅では、管理者が本人・家族と定期的に面談を行っています。
その中で「何か問題はありませんか・・」「疑問やご不満はありませんか・・」と聞いてくれます。その時に気づいたことを確認して、小さな誤解や溝を埋めていくのです。

「ご不満やご不審な点があれば、いつでも相談してください・・」「スタッフにいつでもお声がけください・・」等としか言わない事業者は素人です。実際にバタバタと働いている介護スタッフを捕まえて、「掃除ができていない・・」「どうなっているんだ・・」などと言えるはずがありません。

これは、事業者の経験・ノウハウというよりも、根本的な資質に関わってくる問題です。
優良な事業者は、本人だけでなく、家族との関係を大切にしています。それは、高齢者本人が、高齢者住宅で安心して生活するためには家族の役割がとても重要であること、そして、事業者の経営管理・サービス管理の観点からも、家族と良い関係であることが不可欠だからです。
感情的なクレームは介護スタッフを疲弊させますが、建設的な意見はサービス向上の糧になります。
そのため、家族から意見を聞く機会を、積極的にセッティングするのです。

高齢者住宅と家族が一緒になって、高齢者の生活を支える

不満があった時に大切なことは、意見にしろ、苦情にしろ、家族間で意見を集約するということです。
高齢者住宅事業者にとって、一番困るのが、「長男、長女、次男によって意見が違う」ということです。特に、子供の間で仲が悪い場合、「サービス内容」「お金の使い方」などで、それぞれいうことが違えば、事業者は誰の意見を基準にすればよいかわかりません。
そのため、高齢者住宅は、「保証人」を中心として、意見を集約するように求めてきます。

また、「やってもらって当たり前」「希望通りのサービスを提供して当然」というのも間違いです。
働いている介護スタッフには限界がありますし、サービスの幅にも限界があります。「好き嫌いが多いので、一人だけ味付けを変えてほしい」など言う要望には、応えられるケースと応えられないケースがありますし、また費用も変わってきます。食事の量が落ちているのであれば、家族が「好きな梅干しを持っていく」という対応も検討できるでしょう。

「お金を払っているんだから・・」「事業者の責任だ・・」という考え方ではなく、高齢者住宅で高齢者が安心・快適に暮らすためには、事業者と家族と協力して、生活を作り上げていくという視点が必要なのです。


「ほんとに安心・快適?」 リスク管理に表れる事業者の質

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高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばない」こと

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