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「早めの住み替えニーズ」 の高齢者住宅はなぜダメか

元気な高齢者を対象とした高齢者住宅と、要介護高齢者対応の高齢者住宅は全く違うもの。「元気な時に住み替えて、そのまま生活環境を変えずに介護を受ける・・」という高齢者施設・高齢者住宅ができれば理想的だが、それが不可能なことはケアハウスの取り組みで証明されている。

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 049


「高齢者住宅への入居は、介護が必要になってからの方がいいのか」
「現在の生活が不安になれば、元気な時から入居した方がいいのか」
業界内でも「介護のなる前の早めの住み替え」というコンセプトが流行したことがあります。
「介護が必要になる前に転居した方が安心ですよ」
「介護が必要になってからの住み替えではなく、住み慣れた環境で介護を受ける方が安心ですよ」
といった説明を受けると、「そうだよなぁ…」と納得する人は多いでしょう。

心筋梗塞や脳梗塞によって突然自宅で倒れ、そのまま誰にも気が付かれないまま亡くなる「孤独死」は増えていますし、「振り込め詐欺」「還付金詐欺」「架空請求詐欺」「金融商品詐欺」などの特殊詐欺は増加の一途をたどり、その被害者のほとんどは高齢者です。今すぐに介護が必要な状態でなくても、「食事や買い物も大変だし・・」と、高齢者住宅への入居を希望する高齢者はたくさんいます。
これを業界用語で「早めの住み替えニーズ」と言います。

しかし、それはそう簡単な話ではありません。
元気な高齢者を対象とした高齢者住宅と、要介護高齢者対応の高齢者住宅は全く違うものだからです。

対象の要介護状態が広がれば広がるほど事業は難しい

この「介護になる前の早めの住み替え」という考え方は、目新しいものではありません。
その試みは、平成元年にスタートした、老人福祉施設の一つであるケアハウスにさかのぼります。
それまでの老人福祉施設は、自立~要支援は「軽費老人ホーム」、要支援~軽度要介護は「養護老人ホーム」、重度要介護高齢者は「特別養護老人ホーム」と要介護状態によって3つに分かれており、「要介護状態が重くなれば、入所者が住み替える」というスタイルが基本でした。

しかし、適応力が低下する高齢期に何度も転居し、生活環境を変えるというのは好ましくありません。そのためケアハウスは、入所時は「身の回りのことは自分でできる自立高齢者」が対象ですが、「介護が必要になっても外部の介護サービスを利用しながら、生活を続けることができる」というコンセプトで作られた老人福祉施設です。現在、約2000ケ所(約8万人分)の整備が行われています。

しかし、この計画は頓挫しています。平成から令和に入り、ケアハウスという形態が生まれて30年以上が経過しましたが、そこには重度要介護高齢者、認知症高齢者は住んでいません。

その理由は、大きく二つに分かれます。
一つは、建物設備です。
中度~重度要介護高齢者の場合、車いす利用の高齢者が多くなるため、短い距離であっても移動が大きな負担となります。そのためプライベートエリアとパブクリックスペースは一体的なものとして、設計されることになります。「居室・食堂フロア分離型」の高齢者住宅はダメ 🔗 で述べたように、居室フロアと食堂フロアが分離していると、エレベーターが大きな障壁になり、生活や介助が困難になります。

これに対して、自立~軽度要介護高齢者の場合、それぞれ生活の独立性が重視されるため、プライバシーエリア(居室)とパブリックスペース(食堂・浴室など)が明確に分離されています。「同じように『居室・食堂同一フロアのユニット型』でもいいじゃないか」という人がいますが、自立~軽度要介護でユニット型にすると、ユニット内での人間関係が濃密になりすぎ、トラブルが多くなります。


もう一つは、介護システムです。
自立~軽度要介護高齢者の場合、移動・排泄を含め、基本的に身の回りの生活は自立しています。「病院への付き添い」「食事の準備や片付け」といったできないことをやってもらうという事前予約方式のポイント介助で対応できます。また、介護だけでなく、デイケア・訪問リハなどのリハビリテーション系、デイサービスなどの外出・レクレーションなど、個々人の生活に合わせた、多様なサービスが選択できる区分支給限度額方式の方が適しています。
これに対して、中度~重度要介護状態になると、臨時のケア、見守りなどの24時間365日の包括的な介護が必要となりますから、「介護サービス併設で安心」の高齢者住宅はダメ 🔗 で述べたように、訪問介護や通所介護などの区分支給限度額方式では対応できません。

このように、自立~軽度要介護高齢者住宅と、中度~重度要介護高齢者住宅は、ケアハウスと特養ホームと同じように、建物も介護システムも基本的に違う商品なのです。
ただ、ケアハウスでは、「介護が必要になれば生活できないじゃないか・・」「当初の話と違うじゃないか・・」とトラブルになっているわけではありません。それは同一法人で近くに重度要介護高齢者専用の特別養護老人ホームを設置しているからです。ケアハウスでは暮らせないけれど、重度の要介護状態になると、同程度の金額で、速やかに住み替えが行われている(その下地がある)ということです。

高齢者住宅に入居する高齢者、家族のニーズは、現在ではなく、「介護が必要になった時も安心」という未来にあります。「元気な時に住み替えて、そのまま生活環境を変えずに介護を受ける・・」という高齢者施設・高齢者住宅ができれば理想的ですが、そのニーズに応えるには、「今」ではなく、5年後、10年後に要介護高齢者の割合が、どんどん増えてきたときに対応できる建物設備、介護システムが構築されていなければなりません。
現実的にそれは不可能だということは、ケアハウスの取り組みで立証されているのです。

対象者が広がれば広がるほど事業は難しい

高齢者住宅ビジネスの特性を考えた場合、
 ①要介護高齢者のみを対象とした高齢者住宅
 ②自立高齢者を対象とした高齢者住宅
 ③自立高齢者から要介護高齢者まで対象とした高齢者住宅

の3つのタイプの内、経営・サービスが安定するのは、①だけです。

対象者が広がれば高齢者住宅の経営やサービス管理も、難しくなります。
要介護高齢者、特に要介護3~5といった重度要介護高齢者の場合、人間関係のトラブルはそう多くありませんが、自立~軽度要介護高齢者の場合は、入居者間の金銭トラブル、人間関係トラブル、飲酒やタバコなど、要介護高齢者とは違うトラブルが多発します。自己顕示欲や身体的な能力も残っているため、殴り合いのけんかや、殺人事件も発生します。

また、自立~要支援高齢者はどのような要介護状態になるのかわかりません。少しずつゆっくり要介護状態になる人もいれば、脳梗塞、入院などで一気に中度、重度要介護状態になる人、また認知症になる人もいます。 入居者の要介護状態が広がれば、合わせて生活ニーズ、生活上のリスクが広がるため、サービス管理も経営管理も難しくなるのです。

これは、制度運用上のミスも関係しています。
現在、要介護高齢者のみを対象とした介護付有料老人ホームを「介護専用型」、自立高齢者も要介護高齢者も対象としたものを「混合型」と言いますが、一時期厚労省は「介護専用型」を厳しく規制し、「混合型」を増やそうとしました。
しかし、指定基準の介護看護スタッフを確保していても、自立高齢者、要支援高齢者が入居してくれば、介護保険収入はゼロ、もしくは非常に低くなってしまいます。逆に【3:1配置】程度では、重度要介護高齢者が増えると介護できなくなるため、結果的に対象者は「軽度要介護高齢者」しかいません。
混合型介護付有料老人ホームは、高齢者住宅のビジネスモデルとしてはあり得ない欠陥商品なのです。

しかし、多くの素人事業者が、なぜ「早めの住み替え」「自立~要介護」と対象者を広げてしまうのかと言えば、「対象者を広げた方が、入居者が集まりやすい」と安易に考えてしまうからです。

高齢者住宅は、「要介護状態になってから、介護機能の整った要介護高齢者専用住宅に入る」、もしくは「中度~重度要介護になった時に、要介護高齢者住宅への住み替え機能が整った高齢者住宅に入る」というのが基本です。逆方向から見れば、高齢者の事業特性や「リスクやトラブル対応」「経営管理・サービス管理」の難しさ、実務を全く知らないために、「早め住み替えニーズ」「自立から重度要介護まで対応可」としてしまうのです。


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高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばない」こと

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