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【r012】 事業者間契約リスク・コンプライアンス違反

現在のサ高住倒産の最大の原因は、「事業者間契約リスク」

「コンプラアインス違反」は経営倫理ではなく、経営リスク


 

高齢者住宅の商品性を一言で言えば、「高齢者専用、生活支援サービス付き住宅」です。
ただ、それぞれの種別によって、その提供体制、提供責任は違います。

介護付有料老人ホームは、住宅サービスや生活相談サービス、介護看護サービス、食事サービスなどが一体的に、一つの事業者から提供されます。
これに対して、住宅型有料老人ホームは、介護看護サービスは訪問介護、通所介護などの外部のサービス事業者から受けるというものです。サ高住は、介護看護サービスだけでなく、食事サービスも、外部のレストランや給食業者と個別に契約するという「サービス契約の分離」が行われています。
「高齢者住宅は施設ではないから、サービス契約の分離が原則」という識者は多いのですが、この契約の分離によって高くなったのが、「事業者間契約リスク」です。
それは、「コンプライアンス違反」にも大きく関わってきます。

~事業者間契約リスク~

契約を分離することで、高齢者住宅は、「軽度要介護高齢者の増加による収入の低下」「介護看護スタッフ人件費の高騰」などのリスクを回避することができます。ホームヘルパーや訪問看護師の確保や人件費の高騰などに悩まされることもありませんし、将来的な介護報酬の削減などのリスクを背負うのも、外部の訪問介護・訪問看護事業者です。
これは「リスクの移転」といって、リスクマネジメントの手法一つです。
しかし、リスクの移転は、相手がリスクを背負うことができる優良な事業者であることが原則です。
安易な契約の分離によって、新たに発生するのが事業者間契約リスクです。

高齢者住宅の事業者間契約リスク 例
■ 食事介助の時間に訪問介護のヘルパーが度々遅れてくるため、時間通り食事がとれない。
■ 訪問介護のヘルパーの言葉遣いが悪く、介護サービスも丁寧ではない。
■ 併設の訪問介護事業者が、不正請求で指摘を受け、突然事業閉鎖になった。
■ 食事の内容が当初の説明・イメージとあまりにも違い、入居者や家族からのクレームが多い。
■ 併設のレストランで食中毒が発生し、一週間、食事の提供ができなくなった。

例えば、訪問介護・訪問看護事業者が優良なホームヘルパーや看護師をきちんと確保できなければ、その皺寄せは高齢者住宅の入居者に及ぶことになります。また、人件費高騰や介護報酬改定に対応できなければ、経営が悪化し、テナントとして入っている訪問介護・訪問看護事業者が倒産する可能性もあります。

サービスの連携・調整という上でも、難しくなります。
それぞれのサービスの経営は分離していますから、サービスの質や言葉遣いの悪いホームヘルパーや訪問看護師がいても注意をすることも、指導することもできません。入居者に対する虐待事件、介護事故による死亡事故が発生すれば、高齢者住宅事業者の名前も大きく出ることになります。
また、食事を提供している併設のレストラン業者が、「食費の値上げ」をすれば、そのサ高住での生活費が上がります。サ高住とレストランは別契約ですが、入居者・家族から見れば、一体的なものですから、そのサ高住の価格競争力が下がるということになります。

高齢者住宅は、入居者を支える食事・介護・看護などのサービスが、きめ細かな連携・調整の元で一体的に提供されなければ、入居者の生活は安定しません。このようなサービス毎に経営・契約がバラバラの高齢者住宅は、設置面が凸凹の積み木の家のようなもので、一つでもサービスが止まると、すべてが崩壊し要介護高齢者は生活できなくなります。「食中毒の発生」「不正請求による事業停止」などで生活支援サービスが突然ストップしても、契約上、サ高住の事業者に直接的な、介護サービスの提供責任はありませんが、高齢者住宅として事業そのものが成り立たなくなるのです。

現在、サ高住が次々と倒産していますが、その最大の原因が、この「事業者間契約リスク」です。
「高齢者は増えますよ」「土地の有効利用を」「今なら補助金がでますよ」と、コンサルタントやデベロッパーの口車に乗せられて、サ高住を建設したものの、思い通りに入居者や介護スタッフが集まらず、事業閉鎖となるところが増えています。
「介護事業者とサ高住事業者のマッチングをサポートしている」というコンサルティングや建設会社もありますが、そう言っているコンサルタント、デベロッパーには高齢者住宅の経営ノウハウはなく、「建設したいだけ」「あとは知らない」と言う人が大半です。
そもそも、高齢者住宅は、単なる学生マンションや賃貸アパートではなく、素人が参入して安定経営ができるほど簡単なものではありません。その結果、訪問介護の事業者も給食業者もみんないなくなり、残ったのは使い道のない建物と莫大な借金だけ・・となるのです。

 

~コンプライアンス違反~

現在、高齢者住宅で大きな問題となっているのがコンプライアンス違反です。
いくつかの例を挙げてみましょう。

高齢者住宅のコンプライアンス違反例
■ スタッフ退職により基準を満たさなくなったが、同じ報酬を受け取っている
■ スタッフ退職により契約基準を満たさなくなったが、説明していない
■ 介助ミスで入居者が骨折したが、その事実を隠蔽し虚偽の説明をした
■ 介護スタッフが、法律で認められていない医療行為を行っている
■ ケアプラン通りに介護サービスを提供していない
■ 夜間何度もコールを押す認知症高齢者に対して、機器を外している
■ 消防法で定められた、防災訓練を行っていない。

このコンプライアンス違反は、「不正の意思の有無」を問うものではありません。
「私たちは不正はしていません」という経営者は多いのですが、「スタッフの残業はきちんと管理しているか」「夜間想定を含め防災訓練は適切に行っているか」「夜勤をする介護スタッフの健康診断は適切に行っているか」など、事例を挙げて質問すると、「いまは忙しいから・・」「わかってはいるんですが・・」と曖昧な言葉が返ってきます。

中でも、最近、特に問題となっているのが、サ高住や住宅型有料老人ホームの「囲い込み」です。
述べたように、住宅型やサ高住の「介護看護サービス」は、入居者が外部の訪問介護、訪問看護サービス事業者と契約をして、個別にサービスを受けるというものです。

ただ、大手事業所は、「事業者間契約リスク」を回避するために、同一法人、関連法人で運営する訪問介護や通所介護を併設し、契約書が分離しているだけで、実質的には一体的に提供されているものがほとんどです。なぜ、わざわざこんなことをするかと言えば、介護付有料老人ホームに適用される「特定施設入居者生活介護」よりも、サ高住や住宅型にて雇用される「区分支給限度額」を全額利用してもらう方が、受け取る報酬が大きいからです。

もちろん、「同一法人、併設法人の利用はダメ」「区分支給限度額全額利用は違反」というものではありません。
しかし、「囲い込み」には、「認定調査の不正」「ケアプラン策定の不正」「介護報酬の不正」という3つの不正が隠れています。「自宅では要支援だったけど、サ高住に入った途端要介護2になった」「食事介助は必要ないけど、移動できないので食事介助で算定している」「30分の報酬をとっているけど、実際は10分も介護していない」など、様々な不正が報告されています。

高齢者住宅のコンプライアンス違反の背景にあるのは、「大きな問題ではない」「少しくらい良いだろう」「多少どこでもやっている」という甘えの構造です。
しかし、これらの不正は、詐欺的な明らかな犯罪行為です。もし指摘されれば、事業者だけでなく、働いているケアマネジャーやホームヘルパーの管理者も連帯して、莫大な金額の返還を求められます。またその不正の中で、死亡事故が発生すれば、「業務上過失致死」に問われることになります。

事故やトラブルの隠蔽、虚偽の説明も同じです。
これらの不正や隠蔽は、「その場限り」のものではなく、一度でも行えば、どんどん進化していきます。まともな介護スタッフ、ケアマネジャーは、そのような不正を行っているような事業者で働こうとは思わないでしょう。真面目なスタッフからどんどん離職し、「隠蔽」「不正」が何とも思わないようなスタッフばかりが残ることになります。
「これくらいは・・」というその甘えの構造は、事業全体を急速にむしばんでいくのです。

高齢者住宅事業は、不動産事業ですから、30年、40年という長期安定経営が不可欠です。
不正請求や隠蔽によって、短期的な利益を得られても、長期経営は100%できません。
それは中小だけでなく、大手介護サービス企業、高齢者住宅事業者でも同じです。
コンプラアインス違反は、経営倫理の問題ではなく、事業崩壊を招く経営リスクの問題なのです。

(参考 介護業界の甘えの構造 ~隠蔽からみる事業崩壊~)

 

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