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介護離職が増える社会 ~独居後後期高齢者の激増~

今後、確実に激増するのが親の介護を理由とした介護離職。「育ててくれた大切な親だから、できるだけ自分で介護をしたい」と思うのは当然のことだが、「介護目的に仕事を辞める」という選択は、個人としてだけでなく、社会としても大きなリスク・損失があると言うことを理解しておかなければならない。

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 053


高齢化に関る問題は、年金・医療・貧困・福祉など、多岐に渡ります。
中でも、個人としても国としても、直面する巨大な壁が「介護問題」です。それは高齢者本人の問題だけではなく、「介護離婚」「介護離職」など、取り巻く家族・家族の生活や就労に関わり、ひいては、日本全体の経済活動にも大きく影響することになるからです。

これからの社会情勢で、間違いなく激増する「介護離職」

「日本の高齢化のスピードは、他の国と比較して速い」と言われていますが、問題はスピードではありません。問題は世界の歴史上、他のどの国も経験したことのない人口動態に突入することです。
それは「人生100年時代」という言葉に表される、85歳以上の後後期高齢者の激増です。
高齢社会と言っても、65歳~~84歳までの前期高齢者・後前期高齢者数がピークなのは2020年で、以降なだらかに減少していきます。対して、後後期高齢者は2015年の494万人から2019年には592万人となっており、そのまま約4年ごとに100万人の驚異的なスピードで増え続け、2035年に1000万人を突破。そこから2070年以降まで1000~1100万人台で持続することがわかっています。

なぜ後後期高齢者に注目するかと言えば、要介護発生率、特に要介護3以上の重度要介護発生率が一気に高くなるからで。前期高齢者の重度要介護発生率は1.33%、後前期高齢者でも5.65%ですが、後後期高齢者は23.49%となります。85歳以上の高齢者は6割が何らかの生活支援、介護がなければ生活できず、4人に1人は24時間365日、常時介護が必要な重度認知症、寝たきりの状態になるのです。単なる高齢化ではなく、本来寿ぐべき「世界No1の長寿国」という特性が、社会保障制度、特に介護の課題としてクローズアップされてくるのです。
この介護需要の増加に拍車をかけるのが、「一人暮らしの後後期高齢者の増加」です。
国立社会保障・人口問題研究所が2019年に発表した将来推計では、2040年には75歳以上の高齢者の暮らす世帯のうち、一人暮らしが512万人と全体の42.1%を占め、夫婦のみの世帯(29.9%)を含めると全体の72%と、ほぼ4人に3人となります。2030年に「団塊の世代」が全員80歳以上になり配偶者と死別するケースが多くなることを考え合わせると、一人暮らしの80歳以上、85歳以上の重度要介護高齢者が右肩上がりで増えていくことがわかります。

【WARNING】 「誰も逃げられない」 後後期高齢者1000万人時代の到来 参照

介護需要が激増するその一方で、それを支える人的資源は先細りしていきます。
2020年の生産年齢人口(16歳~64歳)は7400万人ですが、2035年には900万人減の6500万人、2045年には5600万人となります。それが少子高齢化の実体です。いまの二分の一、三分の一の人口で85歳以上の要介護高齢者を支えなければならないということになります。今でも、多くの介護サービス事業所で介護人材不足に喘いでいますが、それは「今の問題」ではなく、現在70代、60代の人が85歳になった時はさらに厳しくなり、50代、40代、30代と若くなるにつれ、更に更に厳しくなっていくということです。

【WATNING】  「誰が介護してくれるの?」少子化で激減する労働人口 参照


更に大きな問題は財源です。0歳~64歳までの国民医療費は年間18万円程度(一人当たり平均)ですが、65歳を超えると50万円、85歳以上になると年間100万円を超えます。同様に、介護費用も80~84歳では41万円だったのが、85~90歳では83万円に、90~94歳は145万円、95歳を超えると214万円と倍々で増えていきます。今でも、国の一般会計に占める社会保障費の割合は60%に近づいており、現在の社会保障制度が財政的・システム的に高齢者の増加に耐えられないことは明らかです。

借金体質もすでに限界を超えています。現在、国・地方自治体の債務残高は1200兆円を超えており、これに今回の新型コロナウイルス対策による支出の増加が加わります。
今回の新型コロナウイルスによる経済への影響は、「バブル崩壊」「リーマンショック」といった金融システムの欠陥を原因とした景気の悪化とはタイプが違います。人間の体で言えば、心臓ポンプの一時的な異常による景気悪化ではなく、全身の血流が止まり、いたるところで壊死を始めている状態です。飲食業、観光業を始め、多くの企業が倒産することは間違いなく、多数の失業者が街に溢れます。コロナショックが収束していくとしても、景気が回復、経済が復興し、税収として還元されるには、相当の時間がかかるでしょう。

【WARNING】  「まずは自治体倒産」  崩壊している社会保障の蛇口

「日本は資産も多くバランスシートは健全だ」という人がいますが、それは間違いです。
豪雨があと一ヶ月続くことがわかっているのに、「ほらまだ、河川が氾濫するまで20㎝もあるから大丈夫」と言っているのと同じです。2020年のバランスシートだけを取り出せば、健全だと言えるかもしれませんが、コロナウイルスの影響によって経済環境が悪化し、税収が落ち込む一方で、社会保障費の増加によって、毎年赤字国債が30兆、40兆と増えていきます。それが30年、40年続いても、日本の財政は問題ないといえるか‥と言えばそうではないでしょう。「国債は政府の借金で国民の借金ではない」というのも言葉のまやかしです。定義上は正しくても、国や自治体の借金が増えれば、将来「大増税 OR 行政サービスの低下」のどちらかを選択しなければならないのは国民です。
超高齢社会という巨大な壁を前にして有効な対策をとれないまま、後ろから災害やコロナウイルスに追われ続けているというのが、私たちの現状なのです。

このような社会情勢を考えたとき、間違いなく激増するのが親の介護を理由とした「介護離職」です。
親の介護の問題は、ある日突然、発生するケースが少なくありません。
「病院から脳梗塞の疑いで救急搬送された」との電話。驚いて駆けつけ「命を取り留めた」とホッとしたのもつかの間、右半身に重い麻痺が残る」と聞き、「介護が必要になる・・・」「これまで通り実家で生活できるのか・・・」と不安で目の前が真っ暗になります。特に、認知症は離れて暮らしていると発見が遅れます。月に一度程度は電話をしているものの「最近元気がないな・・・」と休みの日に家に向かうと、髪はぼさぼさ、冷蔵庫の中の食べ物も腐り、キャッシュカードは暗証番号のミスで使えなくなっているという現状に愕然とします。
とりあえず、数日有給をとって地域包括ケアセンターに連絡をして介護保険の申請。でも「一人で生活するのが難しい…」「特養ホームも一杯で入れない…」となり、他の兄弟姉妹に相談するも、「うちのマンションは狭いので…」「子供が受験だから…」とそれぞれに事情があり、答えがでません。

「誰かが実家に帰るしかないか・・・」「うちは子供もいないし・・・」 
「私はまだ独身だし・・・」「親の家と預貯金があるし、親の年金もあるし・・・」
「コロナ以降景気も悪いし、ボーナスも減ったし・・・」
「子育ても終わったし、いまなら早期退職で割増退職金がでるし・・・」
「親が亡くなれば、また働けばいいし・・」
「隠居には少し早いけど、仕方ないか・・・」

と、介護離職に気持ちが向かっていきます
政府は、現在10万人いるとされる介護離職をゼロにするという方針を立てています。
「介護離職はダメ」という人が多いのですが、ただこれは「良いか・悪いか」「正しいか・間違いか」という問題ではありません。様々な事情を勘案して、最大の努力をしても「介護離職を選択せざるを得ない」というケースもあるでしょうし、「育ててくれた大切な母親、父親だから、できるだけ自分で介護をしたい」と思うのは、子供として当然のことです。
しかし、「介護を目的に仕事を辞める」という選択は、個人としてだけでなく、社会としても大きなリスクがあると言うことを理解しておかなければなりません。








  ⇒ 介護離職が増える社会 ~独居後後期高齢者の激増~
  ⇒ 介護離職の個人・企業・社会のリスクを考える
  ⇒ 介護休業は、親を介護するための休業ではない
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  ⇒ 介護休業期間中にすべきこと ① ~自宅生活時の留意点 ~
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  ⇒ 介護休業取得に向けた「企業の取り組み強化」のポイント
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