RISK-MANAGE

【r015】 入居者・家族からの苦情・クレームの発生

苦情・クレーム対応の不備は、経営リスク・業務リスクを激増させる

入居者・家族といい関係を維持できなければ、事業は継続できない。


 

インターネットやSNS利用者の増加に伴って、ネット上での「炎上」と呼ばれる事態が発生しています。
無責任な誹謗中傷が多数を占めるとはいえ、苦情の対応は、「クレーマー」という個別対応の問題から、社会的評価の低下に直結する大きなリスクとなっています。
これは、介護保険施設、高齢者住宅事業でも同じです。

これまで高齢者介護は、老人福祉施策の中で行われていたこともあり、利用者側が「お世話になっている」という意識が強く、ミスや不手際があっても、高齢者や家族から苦情を言われるということはほとんどありませんでした。
しかし、介護保険制度の発足以降、介護サービスへの権利意識が高まっている反面、事業者サイドは、その変化への認識や対応が大きく遅れていることから、苦情・クレームは激増しています。
特に増えているのが、民間の高齢者住宅事業への苦情です。

高齢者住宅へのクレーム・苦情は大きく分けると3つあります。

 

【費用に対する苦情・クレーム】
高齢者住宅の価格は、初めて高齢者住宅を選ぶ家族・高齢者にとっては、わかりにくいものです。
パンフレットに書かれている「月額費用」と「月額生活費」は違いますし、月額費用内に含まれているサービス内容もそれぞれの事業所によって違います。例えば、「月額費用15万円」と書いてあっても、食事、介護サービスは別途契約という事業所もありますし、要介護状態になってオムツ代などがかさむと、一ヶ月の生活費が25万円になるということもあります。
入居一時金の返還金の計算も、事業者によって大きく違い苦情の多いものの一つです。中には、償却期間を短期間にしたり、様々な計算方法を駆使して、できるだけ少なく返還しようという事業者もあります。

■ 入居時に受けた説明と、実際の請求金額が違うのではないかと質問を受けた
■ 月額費用以外に必要となる日用品の費用についてクレームを受けた
■ 入居一時金の退居返還金の計算を巡って、トラブルとなっている。

 

【サービスに関する苦情・クレーム】
ケアプランに基づいて適正にサービス提供を行っていても、「部屋が掃除されていない」「いつも同じ服を着ているのではないか」という苦情はでてきます。
「言葉遣いが悪い」「介護サービスが丁寧でない」といったサービスに対するクレームも多いものの一つです。ベテランの介護スタッフの中にも、入居者を「チャン付け」で呼んだり、いわゆる「タメ口」で話す人もいます。しかし、フレンドリーだと思っているのは本人だけで、口にしなくても、苦々しく感じている家族は少なくありません。
最近増えているのが、「囲い込み」によって、不必要な介護や医療サービスを事業者の都合で、強引に受けさせられるというものです。「食事や排せつの介助は必要ないのに、訪問介護がつけられている」「精神科、歯科、内科など、家族への承諾なく、通院させられている」などです。

■ 「介護スタッフの〇〇さんの言葉遣いが悪い」「服装がだらしない」と苦情を受けた
■ 「部屋がきちんと掃除されていない。いつも同じ服を着ている」と嫌味を言われた
■ 「説明を受けたサービス内容と、実際のサービスが違う」と怒りの電話が入った

 

【他の入居者とのトラブルに関する苦情】
もう一つが、他の入居者に関わるクレームです。
高齢者住宅は、個々人の住居ですが、学生寮や社員寮と同じように食事、入浴など共同生活という側面もあります。車いすを押したり、おやつを分け合ったりという新しい友人もできますが、同時に、いさかいや仲間外れなどの人間関係のトラブルも発生します。
この人間関係のトラブルは、入居者の要介護状態によっても変わります。
寝たきりなどの重度要介護高齢者が多い場合はほとんど発生しませんが、自立度の高い元気な高齢者が多い場合は、感情的なトラブルが多く、また大きくなります。また、「身体は元気だけれど認知症」「本人の自覚がない」という高齢者の場合は、周辺症状(BPSD)によって、他の入居者の生活や生命を脅かす大きなトラブルとなります。

■  他の入居者から仲間外れにされて本人が泣いていると、家族から怒りのクレームがあった
■ 隣の高齢者が、たびたび間違えて部屋に入ってくるので何とかしてほしいという苦情
■ 言葉の行き違いから一人の高齢者が激高し、他の入居者に暴力をふるいケガをさせた

 

~苦情・クレーム対応の不備は事業リスクを激増させる~

まず一つは、事業者の法的責任です。
「入居者間のトラブルは入居者同士の問題であって、事業者には責任はない」という人がいますが、そう単純な話ではありません。
入居者が他の入居者にけがをさせた場合、もちろん、本人が刑事上の罰則(認知症など責任能力の有無が判断される)に問われることになりますが、それまでも当該入居者とのトラブルがあり、家族から相談を受けていた場合、事業者の責任(安全配慮義務違反)を問われることになります。
実際に、ショートステイでは認知症高齢者の暴力行為で被害を受けた家族からの訴えに対し、「必要な対策を怠った」として、1000万円をこえる損害賠償請求が認められています。
これは、高齢者の生活上の事故の発生🔗で述べた、「発生が予想される事故に対して、適切な対策をとっていなかったために発生した事故」ですから、高齢者住宅でも同じです。

もう一つは、「責任」ではなく、「リスク」です。
「契約書や重要事項説明書にきちんと書いてある」
「ケアプランに基づいて、きちんと介護、介助している。印鑑はもらっている」
と話す事業者が多いのですが、そもそも月額費用や一時金の特性や返還金について、誤解が発生するのは、事業者が家族にきちんと説明できていないからです。入居前に、「月額費用以外に入らないもの、それ以外の生活費」をわかりやすく伝えておけば、クレームは発生しません。パンフレットでは低価格であるかのように誤解をさせておいて、「契約書に書いてある」というのは、最悪の対応です。

一方のサービスについては、事前にある程度、説明していても、細かなところまでは決められませんし、入居者本人と家族の間で希望が違うこともあります。ただ、これも、家族や本人との個別の面談を定期的に行うなど、気軽に相談し、意見を言える場をつくっておけば、感情的な苦情になることは、ほとんどありません。
これは「囲い込み」も同じです。介護や医療の押し売りや、不正請求は明確な法律違反であり、論外ですが、本当に必要なものであれば、家族にも事前にその必要性を、丁寧にわかりやすく説明をしなければなりません。ただ、最終的に決めるの本人と家族です。苦情がある時点で、サービスとしては不適格です。

このような金銭やサービスに対する苦情は、発生した時点で、すでに感情は相当こじれています。
事業者の説明に、表面上は納得したように見えても、感情は押し殺されたまま、事業者に対する不満、不信は残ります。

また、これらの感情的なしこり、苦情の矢面に立つのは、介護スタッフです。
ほとんどの介護スタッフは、毎日、忙しい介護業務の中でも、少しでも要介護高齢者の役に立ちたいと考えて仕事をしています。家族に呼び止められて文句を言われたり、「あれができていない」「これができていない」と叱責されると、業務に支障がでますし、精神的にも仕事を続けられるものではありません。
その中で骨折などの重大事故が発生すれば、入居者・家族の不満は爆発することになります。

ある有料老人ホームで、契約内容の改定(月額費用の値上げ)の家族説明会を行ったとき、多くの家族から日々のサービスに対しての苦情・クレームで、会が紛糾し、大混乱になったというケースがあります。いかに普段から、家族とのコミュニケーションが取れていないか、わかる事例です。誰も、そんな事業者で働きたいとは思わないでしょう。
これらの苦情・クレームなどの対応、リスクマネジメントは現場の仕事ではなく、経営者・管理者サイドの仕事です。
居者・家族と良好な人間関係、適切なコミュニケーションが取れなければ、介護スタッフは快適に仕事をすることはできず、高齢者住宅事業は継続できないのです。
「あの家族はクレーマーだ」「嫌なら自宅で介護すればいい」などという認識の事業者もいますが、経営もサービスも素人集団だと自ら認めているようなものです。

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