「囲い込み」は何が問題なのか

重度要介護高齢者の生命を奪った「囲い込み」の悲劇

高齢者住宅の「囲い込み」とは何か、何が問題なのか   No 5

高齢者住宅の「囲い込み」は介護保険法上問題がある、介護財政悪化の要因ということだけでない。ケアマネジメントを歪めるということは、入居者の要介護状態・事故リスクを無視して、意味のない介護サービスを提供するということだ。その先にあるのは、要介護高齢者の生命の危機だ。



前回の、囲い込みは介護保険制度の根幹に関わる不正🔗 の中で、ケアマネジメントの不正は、専門的介護・科学的介護の否定だと述べた。
介護ビジネス、高齢者住宅事業は、社会保障制度を基礎とする事業であり、「入居者・家族がサービス内容に合意したから・・契約したから・・」というものではない。ケアマネジメントに基づく介護サービス提供は、介護保険制度で義務付けられている制度の根幹であり、それを利益ありきで歪めることは、制度の根幹にかかる不正・不法行為である。

ただこの「囲い込み」は介護保険法上、問題があるということだけでない。
ケアマネジメントを歪めるということは、それぞれの入居者の要介護状態・事故リスクを無視して、意味のない介護サービスを無目的に提供するということだ。
そして、その先にあるのは、要介護高齢者の生命の危機だ。

「囲い込み」の入浴介助が招いた死亡事故

2017年12月、さいたま市内のとある有料老人ホームで、要介護5の重度要介護高齢者(71歳 女性)が、入浴中の溺水事故で亡くなった。
女性は、病気で上半身の体勢維持が困難な状態で、女性は車いすのまま入浴できる「機械浴槽」に介助職員1人の介助を受けながら入浴していた。この女性を介助していた担当の介助職員が、別の入所者2人を入浴介助するため機械浴槽から離れて脱衣所に行き、その目を離した5分程度の間に溺れたという。
別の職員が異変に気付いたときには、頭がお湯に浸かったままの状態で、すぐに119番通報をして近くの病院に搬送されたが、その後死亡が確認された。

入浴は、高齢者にとって大きな楽しみの一つであるが、同時に、溺水や転倒、熱傷などの事故、ヒートショックによる急変など、死亡リスクの高い生活行動でもある。事業者の視点から見れば、安全配慮義務違反による高額な損害賠償だけでなく、最悪の場合、入浴介助を行っていた介護スタッフ個人が業務上過失致死に問われるリスクの高い介助でもある。
そのため、従来は大浴槽で「送迎担当」「脱衣担当」「浴室洗身担当」などに分かれ、流れ作業のように入浴介助を行っていたが、最近の高齢者住宅は、個別浴室・個別浴槽が増えていることもあり、要介護高齢者の入浴は、一人の介護スタッフが一人の入居者に、送迎から脱衣、洗身まで付き切りで行う「マンツーマン入浴」が増えている。

しかし、当該老人ホームでは、7人の要介護高齢者の入浴介助に対して、わずか3人の介護スタッフで入浴介助を行っていたと報道されている。
更に、この「機械浴槽」には、腰と胸に姿勢を維持するための安全ベルトが装備されていたが、胸のベルトは外されたまま倉庫にしまってあり、また業者の点検でそのリスクを指摘されていたにもかかわらず、介護の手間を省くためか、そのまま放置されていたという。
この事業者は、都市圏を中心に全国で130以上の有料老人ホームを運営する大手事業者の一つだが、入居者の安全やリスクマネジメントに対する意識が相当低い事業者という批判は免れない。

ただ、介護スタッフ不足によって、マンツーマン介護ではなく、入浴介助を行うスタッフ数が入浴する要介護高齢者よりも少ないという危険な入浴介助は、介護付有料老人ホームや特養ホームでも増えており、同様の入浴中の死亡事故は他の施設・高齢者住宅でも発生している。
しかし、ここで問題なのは、当該死亡事故が発生した有料老人ホームは、介護付有料老人ホームではなく、区分支給限度額方式の住宅型だということだ。

もう一度、高齢者住宅の「囲い込み」 とは何か🔗 で示した、特定施設入居者生活介護と区分支給限度額方式の違いを思い出していただきたい。
有料老人ホームで雇用された介護スタッフが入居者に介護サービスを提供する介護付有料老人ホームとは違い、区分支給限度額は、入居者個々人が、個人の持つ限度額(チケット)を使って、外部の訪問介護サービス事業者と個別に契約する方式である。前者は、「一日〇〇単位」という包括算定のため、時間管理が厳格ではなく臨機応変に介護できるが、後者の訪問介護は、個々の要介護高齢者との個別契約であるため、「1時~1時半まではAさんの入浴介助」と介助内容、介助時間を厳格に順守する必要がある。

つまり、入浴介助だけでなく、食事介助も排泄介助も、すべて「マンツーマン介助」が大原則であり、「女性を介助していた担当の介助職員が、別の入所者2人を入浴介助するため機械浴槽から離れて脱衣所に行った」というのは、本来ありえない、明らかなサービス不履行、契約違反なのだ。


この問題を指摘すると、「通常の訪問介護でも、複数の高齢者に対する訪問介護費は認められている」「厚労省も認めている適切な方法だ」と必ず反論する人がでてくる。
確かに、原則的に区分支給限度額方式の訪問介護でも、例外的に複数の要介護高齢者に対して、一人の介護スタッフが介護することを認めている。それは、例えば夫婦とも要介護高齢者の自宅に、調理と食事介助に一人の介護スタッフが訪問する場合など、「今は夫の時間、こっちは妻の時間」と分けることが適切ではなく、また、それがサービスの低下にはつながらないケースがあるからだ。

いうまでもなく、その算定は「複数の高齢者に対して行った介助を分割して算定することが適切な場合」に限られている。違うと思うのであれば、厚労省に「事業者都合で複数人に臨機応変に介護して、報酬は分割して算定すればOKってことですよね?」と聞いてみればよい。

もし仮に、この入浴介助を「複数算定OKなケース」とケアマネジャーが認識していたとすれば、生命に危険を及ぼす危険な入浴の複数介助を意図的に指示したことになる。
述べたように、入浴介助は一瞬目を離したすきでも、溺水や転倒、急変が発生するリスクの高い生活行動・介助項目だ。数年前には都内の介護付有料老人ホームで「5人の要介護高齢者に対して3人の介護スタッフ」でも、死亡事故が発生している。
7人の要介護高齢者に対して、3人の介護スタッフ(訪問介護ヘルパー)で介助を行うなど、少し介護現場を知っている人であれば、とても正常な入浴介助方法だとは思わないだろう。上半身の体勢維持が困難の重度要介護高齢者の浴槽から目を離す、他の人を介助にいくということ自体、ありえないのだ。

明らかに、この住宅型有料老人ホームでは、「ケアマネジメントに基づく入居者の安全な生活・介護」ではなく、「少ないヘルパー数で、たくさんの介護報酬が算定できる方法」だけを目的としたケアプランが常態化しており、その不正を有料老人ホーム事業者が居宅介護支援事業者(ケアマネジャー)と訪問介護事業者(ホームヘルパー)に指示をしていたということだ。
この事業者は、事件発覚後、お詫びとともに以下のような、再発防止策を発表している。

(ホームページから引用)
なお、当該施設におきましては、発生後直ちに入浴業務における手順書の見直しなどを実施し、今後、会社として万全を期すため、以下の再発防止策を主眼に、人材教育、リスクマネジメント体制のさらなる強化に努め、今後もご入居者様の生活をサポートすべく、社員一同全力を尽くしてまいります。

<再発防止策>
(1)オペレーション全般の改善
(2)従業員教育の徹底(リスクマネジメント研修、入浴研修など)
(3)安全管理体制に対する、本部チェック機能の強化など

この改善策、再発防止策を見るだけで、何が不正なのか、問題の本質、根幹を全く理解していないということがわかる。
これは、単なる介護スタッフの過失による死亡事故ではない。
介護スタッフの人材教育やリスクマネジメント、入浴介助方法の問題ではなく、事業者が指示をしている「ケアマネジメントへの事業者介入」「囲い込みビジネスモデル」が入居者を死亡させ、一緒に働く仲間である介護スタッフを犯罪者(平成28年10月 業務上過失致死で書類送検)にしたのだ。

「地域包括ケアシステム」への移行は本当に可能なのか

この事件の発生を聞いたとき「とうとう起きてしまったか」と感じたが、それほどの驚きはなかった。
もちろん、対象は身体機能・認知機能の低下した要介護高齢者であり「転倒や骨折などの事故はゼロにできない」ということは事実だが、それは適切なケアマネジメントが行われていることが前提である。
専門的な介護が行われていない時点で、このような事故が発生するのは当然のことで、表面化しないだけで、同様の「ケアマネジメントなき介護サービス」が引き起こした死亡事故や骨折などの重大事故は相当数に上るだろう。それは避けられない事故ではなく、専門職として法的に最低限、やるべきことをやっていない不作為による事故であり、半ば犯罪である。

実は、この事件で、最も驚いたのは、事業者のコメントではなく、この有料老人ホームを監督すべき、さいたま市の市高齢者福祉課施設・事業者指導担当の発言だ。

(報道を引用・・ケアマネタイムス)
市では「本来は入所者1人に対し職員1人が付き添うのが好ましい。市有料老人ホーム設置運営指導指針で」は『介助の安定的な提供に支障がないように』との運営を求めている。規則などに今回違反したわけではないが、同ホームも職員数が少なかったという認識は示していたようだ」と話す。

このコメントは、事故を起こしたのが介護付有料老人ホームであれば理解できる。
しかし、繰り返し述べてきたように、住宅型有料老人ホームの場合、介護サービスは「老人ホームと入居者間の契約」ではなく、「訪問介護事業者と入居者間の個別契約」である。
法的・制度的にみれば、事故の原因は「ケアマネジメントの不正か」「訪問介護員の過失か」であって、死亡事故と当該有料老人ホームのスタッフ配置とは何の関係もない。「同ホームも職員数が少なかったという認識はしていたようだ・・」という市の担当者のコメントは、「老人ホームのスタッフ」と「訪問介護のスタッフ」の違いさえも、「介護付」と「住宅型」の違いさえも理解できていないことがわかる。

にわかには信じられないことだが、もし、さいたま市の事業者指導担当が、本当に「規則違反ではない」とコメントをしているのならば、当該住宅型有料老人ホームの管理者や経営者の指示に沿って、利益目的に訪問介護サービスやケアマネジメントが改竄されていることを行政も知っていて、それは、さいたま市では違反ではない、合法だと認めているということになる。介護付有料老人ホームと同じ臨機応変な介助方法でも、それが入居者の生命を脅かすようなものであっても、書類が整っていれば単価の高い区分集限度額方式で算定しても違反ではないということを、自治体の担当者が発信しているのだ。
市は、「指導を行った」としているが、誰に指導したのだろう。有料老人ホーム事業者に対して「もう少し、入浴介助時の訪問介護の人員を増やしてください・・」とでも指導したのだろうか・・。

これは、「好ましくはない・・」「職員数が少なかった・・」という話ではない。
経営者がケアマネジメントの中身に口を出したり、その意向を受けてケアマネジャーがケアプランを改竄しているとすれば、それは制度の根幹に関わる重大な介護保険法の違反だ。
このような利益誘導のための不正利用が認められるのならば、介護保険制度だけでなく、要介護高齢者の生活も崩壊する。ケアマネジメントに利益目的で第三者が関与することが、またケアマネジャーがその指示に従うことが、どれほど要介護高齢者の命を脅かし、介護保険の制度の根幹を揺るがす重大な法律違反になるのかが、それほ指導する立場である、行政の担当課がわかっていないのだ。

報道されているように、今後、高齢者介護・高齢者医療は、「地域包括ケア」の時代に入る。
この地域包括ケアシステムについては、このTOPIXの中でも詳しく述べているが、簡単に言えば、これまで国が管理していた高齢者介護・医療施策を自治体がマネジメントするというものだ。しかし、その中心となるべき政令指定都市の担当者さえも、介護保険制度の基本が理解できていないレベルなのだ。

「知っておきたい」 高齢者住宅の「囲い込み」の現状とリスク

⇒ 高齢者住宅・老人ホームの「囲い込み」とは何か     🔗
⇒ なぜ、低価格のサ高住は「囲い込み」を行うのか 🔗
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⇒ 「囲い込み」は介護保険法の根幹に関わる重大な不正 🔗
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⇒ 加害者・犯罪者になるケアマネジャー、介護スタッフ 🔗
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