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地域包括ケアシステム ~設置運営・指導監査体制~

グレーゾーン対策は、地域包括ケアシステムの一つ

指導監査体制の強化は、「優良事業者を育てる」という視点で


 

介護業界で大きな問題になっているのが、「コンプライアンス違反」です。
医療業界でも、「行っていない診療の請求をした」「不必要な治療をして診療報酬をだまし取った」など、医師や歯科医師の不正診療、不正請求がニュースとして報道されることがあります。
ただ、「経営者=医師や歯科医師」であり、直接的な罰を受けるのは彼らです。
また、彼らはその資格取得の過程で、厳しい医療倫理の教育を受けていますし、制度運用の積み重ねによる不正を許さない厳しいルールが確立され、指導や監査体制も徹底、整備されています。「投薬より儲かる手術をやろう」「不要でもできるだけ検査をしよう」ということは、ほとんどできません。

 

~グレーゾーンの存在が地域包括ケアシステムを潰す~

これに対して、介護業界の経営者は、介護福祉士や社会福祉士などの資格を持たない人が大半です。介護経験もなく、介護保険制度の基礎もケアマネジメントもよく知らないまま、「超高齢社会だから介護は儲かりそうだ」と新しく、参入してきた人が少なくありません。
また、発足して20年未満の新しい制度であり、指導・監査体制が安定しているわけではありません。
その中で、問題になっているのが、「不適切だが、不正ではない」というグレーゾーンの問題です。

特に、制度間の歪みによる「グレーゾーン」が拡大しているのが、高齢者住宅です。
現在、高齢者住宅などの集合住宅で生活する入居者の介護報酬は、「介護付(区分支給限度額方式)」と「住宅型(区分支給限度額方式)」に分かれています。人員配置基準や求められるサービス水準は介護付の方が高く、介護報酬は住宅型の方が高いとなると、「使いようによっては、住宅型やサ高住の方が儲かる」と、民間企業と後者に流れるのは当然です。

中でもサ高住は有料老人ホームと違い、事前協議も必要なく「登録」だけで誰でも開設できるため、「+訪問介護」「+通所介護」「+小規模多機能」と、始めから囲い込みを前提としたビジネスモデルばかりが増えています。「生活保護受給者は、自己負担も行き場もない。文句を言わないから、自前のサービスを付け放題で一番儲かる」と公言する経営者もいます。
「同じサービスでも、報酬の取り方で利益が変わってくる」「制度の歪みやグレーゾーンを見つけた事業者が勝つ」という制度矛盾が、介護保険の基礎である「民間活力の導入」を間違った方向に進めているのです。

その問題は、社会保障財政の悪化だけではありません。
グレーゾーンの「囲い込み型」の高齢者住宅は利用料が安いだけでなく、介護スタッフの給与は特養ホームや介護付有料老人ホームよりも高く設定されています。そのため、介護保険制度に則って、真面目に経営している介護付有料老人ホームには、入居者やスタッフが集まらなくなっています。
ただ、グレーゾーンの高齢者住宅の経営が、これからも安定するかと言えば、そうではありません。
グレーゾーンは、明確な「不正」でなくとも、間違いなく「不適切」です。
財政的に「グレーゾーン」を放置できるはずがなく、「改正」と蓋を閉められると途端にビジネスモデルは崩壊、倒産します。
また、素人経営者は、「不正請求だ」と指摘されると、「現場に任せていた」と真っ先に逃げ出します。
更に、「入居者のためのケアプランではなく、経営者のためのケアプランだ」「自分の名前の印鑑を勝手に押されている」と、真面目なケアマネジャーや介護スタッフは辞めてしまい、「介護の労働環境は劣悪だ・・」と、優秀な介護人材確保も難しくなります。
その結果、「悪貨が良貨を駆逐する」というだけでなく、総倒れとなるのです。

 

~グレーゾーンに対して、どのように立ち向かうのか~

「公平な財政運用」「優良事業者の増加」「公平な競争環境の整備」は、地域包括ケアシステム構築の大原則です。制度設計上の矛盾があることが原因であることは間違いありませんが、制度が修正されても、「困っている人がいるから」「社会正義でやっている」など、あれこれ理由をつけて、確信犯的に不正を認めない人はでてきます。
「厚労省が・・国交省が・・」「国が法律・制度を見直すべき」ではなく、それぞれの自治体でも、グレーゾーンをなくすために独自に設置運営基準・指導監査体制の整備を進めていかなければなりません。

一つは、介護サービス事業や高齢者住宅のビジネスモデルや、現在発生している不正請求やグレーゾーンと呼ばれるものの正体をしっかりと理解、把握することです。
「高齢者住宅の囲い込み」に対して、「同一法人の利用自体は問題ではない」「区分支給限度額方式の全額利用が不正なわけではない」などと表面的にとらえてしまうと、指導や監査の方針が曖昧になってしまいます。2018年度の介護報酬の改定で、「囲い込み(集中利用)」に対する集合住宅減算が示されていますが、「減算にならない範囲ならOK」という問題でもありません。

「囲い込み」は、「入居者を囲い込んで集中的にサービスを利用させること」が問題なのではなく、その多くはアマネジメントの不正です。要介護度認定調査を実際よりも重度に見せかける「介護認定調査に対する不正」、アセスメントに基づかず、系列・併設サービスを強要する「ケアプラン作成の不正」、そして、実際に行っていない介護報酬を請求する「介護保険不正請求」です。
「グレーゾーン」という曖昧な言葉ではなく、「法的に何が問題なのか、どこが不正なのか」を把握しなければ、適切な対策をとることができません。この不正を見極めることが、独自の設置運営基準、指導監査のポイントです。

二つ目は、開設前の事業計画を含めた届け出書類の精査です。
今でも、居宅サービスの指定、有料老人ホームの開設には事前協議が必要ですが、多くの自治体で、指定基準を満たしているか否かをチェックするだけで、「どのようなビジネスモデルか」「経営は安定するのか」といった実務面からの指導ができていません。
特に、介護サービス事業、高齢者住宅事業は一旦開設されてしまうと、その利用者、入居者に迷惑がかかるため、経営の根幹に関わるような厳しい指導や監査を行うことが難しくなります。商品設計や経営責任は事業者・経営者にありますが、「書類上は不備がないから仕方ない」と認めてしまうと、経営が不安定で劣悪なサービスの事業者が増えるばかりです。
開設前と、開設から経営が軌道に乗るまでの3年間の指導監査がとても重要です。その間は強制的な「監査」だけでなく、経営上の課題の修正やサポートの丁寧な指導が必要になります。「素人事業者」を「プロの事業者」に育てていかなければならないのです。

三点目は、すでに運営されてしまっている無届施設、囲い込みなどの不正事業者への対応です。
まずは情報開示を徹底させることです。自治体側が、「事業者から届け出してもらわないと・・」と及び腰になる理由はありません。無届施設は、期間を区切って強制力を持って届け出をさせ、どのようなビジネスモデルになっているのか、不適切なサービス、契約は行われていないか、身体拘束・虐待などの事例はないか、経営状態やお金の流れはどうなっているのかを把握しなければなりません。

これらは事業者責任ではなく、各自治体の責任です。
地域包括ケアは、ネットワーク・連携を含めた一つのシステムです。
この大前提が守れない事業者は、自治体の権限で強制的に市場から撤退させるしかありません。
当然、その入居者をどうするか・・ということも問題になりますが、地元の力のある社会福祉法人と連携して、入居者の生活・生命は継続させながら、経営者に法的な処罰を行うということもできるはずです。その上で、「すぐにでも辞めさせるべきこと」と「時間をかけて修正すること」を、スケジュールを定めて進めていけばよいのです。
北海道など、一部の地域では、グレーゾーンの事業者が広がっており、もはや収拾のつかない状況になっています。市町村長や都道府県知事が腹をくくって決断しないと、グレーの色はどんどん濃くなり、不正事業者に地域包括ケアシステムが食い荒らされることになるのです。

 

以上、3つのポイントを挙げましたが、強制的な監査・指導だけではありません。
「不正事例紹介」「ケアマネジメントの基本」など事業者への啓もう活動だけでなく、介護看護スタッフ、ケアマネジャーへ向けての教育活動も重要です。行政担当者だけでは難しい場合、定年退職した経験豊富な施設長やケアマネジャーに指導や監査の業務を委託、支援するということも可能でしょう。

地域包括ケアシステムに向けて、「設置運営・指導監査体制強化」は、中心となる柱の一つです。
これまでの国から示された基準をそのまま踏襲するのではなく、各自治体でマネジメント力を強化し、それぞれの地域に合った方法で、優良事業者を育て、守っていかなければならないのです。

 

 

 

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