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地域ケアネットワーク、導入までの流れ・協力事業者の選定


地域ケアネットワークは、クラウドコンピューティングを使った個別プログラムが基本。協力事業者の選定は、「アプリケーションプログラム能力」+「コンサルティング能力」。導入の流れとそれに応じた協力事業者の役割、どのような協力事業者を選定すればよいか、そのポイントについて考える。

【特 集】 地域包括ケアの土台となる地域ケアネットワークを構築する 009 (全9回)


地域ケアネットワークのアプリケーションは、クラウドコンピューティングを使った個別プログラムが基本です。「どのような地域ケアネットワークを作るのか」「どのような情報ルールのもとで運用するのか」を決めるのは、それぞれの自治体と介護関連サービス事業者だからです。
ただ、「地域包括ケアは、それぞれの地域で自治体が主体になって推進する」と言っても、どのような情報ルールが必要なのか、どのような視点でネットワークを推進するのか、どのような機能が必要なのか…など、そのすべてを自治体だけで考え推進するには限界があります。そのため地域ケアネットワーク導入にあたっては、「ソフトの機能を選ぶ」のではなく、「ケアネットワークの構築をサポートしてくれる協力事業者を選ぶ」ということになります。
その選定のポイントとなるのが「アプリケーションプログラム能力+コンサルティング能力」です。
ここでは、導入の流れとそれに応じた協力事業者の役割、どのような協力事業者を選定すればよいか…その導入の流れとポイントについて、考えます。


地域ケアネットワークの推進・導入のプロセスを考える

どのように地域ケアネットワークを導入するのか、どのように協力業者を選定するのか、協力業者はどのような役割を果たすのかは、それぞれの自治体、また協力業者によって違います。自治体は、複数の強力予定事業者から話を聞いて、その中から最も適した協力事業者を選定することになります。ここでは、地域ケアネットワークの推進方法 ~地域包括ケア構築に向けたプロセスの周知~ で述べた導入のプロセスに従って、私たちの地域ケアネットワークシステム「KaIT」の中で検討している、システム構築をサポートする協力業者の役割と、その選定・契約・プログラムの流れについて6つのステッフに沿って整理します。


1. クラウドコンピューティング・地域ケアネットワークの理解 
まず、協力業者が自治体に対して行う、クラウドコンピューティングの説明です。
クラウドコンピューティングの特性や、「インストール型」「ホームページ型」との違い、実際にどのようなことができるのかを協力予定事業者から説明を行います。合わせて、協力事業者が「地域ケアネットワーク」の構築に対して行う支援やサポート体制、更に、地域ケアネットワーク 構築例 ① ~トップ・情報共有~ や、地域ケアネットワーク 構築例 ② ~サービスマッチング~ のような、地域ケアネットワークのアプリケーションの構築例から、その機能をイメージできるようにプレゼンテーションを行います。
また、できるだけ早い段階で、自治体は地域ケア会議の一つとして「地域ケアネットワーク推進委員会」の立ち上げを行います。

2. 地域特性の理解、協力予定事業者からのプレゼンテーション
二つめは、自治体が協力予定事業者に対して行う地域特性の説明です。
述べたように、それぞれの自治体で、地域ケアネットワークの形は変わります。
東京都や大阪府などの大都市でも、行政区や市町村によって人口動態やサービス整備状況は違います。平成の市町村合併で複数の自治体が合併してできた新しい市では、旧市町村単位で住民の生活やサービス事業者の意識がいまだ分断しているところもありますし、同一市内でも農村部と市街地で地域特性が違うところ、広大な面積に集落が点在しているタイプの地域もあります。中には「医療系団体」「福祉系団体」など域内の業界団体の仲が悪く、一方が賛成すると一方が反対する・・という感情的なしこりが、地域包括ケアシステム、地域ケアネットワーク構築の障壁となるところもあります。
各自治体から、協力予定事業者に対し、地域特性や域内のサービス整備状況、自治体としての地域包括ケアシステムの方向性、現在の連携・連絡体制の課題などを伝達し、「地域ケアネットワーク」のたたき台となる資料の作成や、プレゼンテーションを依頼します。

3. プログラムの見積・協力事業者の決定・契約の締結
地域ケアネットワークの全体像、それに必要な機能・プログラムの概要がすれば、導入費用・管理費用(月額費用)の見積もりです。
それぞれの協力予定事業者から、見積もりの提示を受け一つの協力事業者を決定します。その上で、現在の地域連携・情報共有の課題から、どのような目的で地域ネットワークを構築するのかを話し合い、課題の改善にはどのような機能が必要になるのか、その詳細を詰めていきます。
契約にあたっては、スケジュールの検討も必要です。 地域ケアネットワークの推進方法 ~地域包括ケア構築に向けたプロセスの周知~  で述べたように、始めから機能を網羅したプログラムをスタートさせるのではなく、【自治体から情報発信】➾【各種団体・サービス事業者からの情報発信】➾【マッチング機能の強化】というように段階を踏んで段階的に進めるのが、導入時の混乱を避ける一つの方法です。自治体・団体からの情報発信・情報共有機能を先行して契約・プログラムを作成するのか、導入時から将来的な「マッチング機能」も含めて契約を行うのかについて検討を行います。

この段階で、プログラムの導入費用(初期費用)とプログラムの管理費用(月額費用)が見えてきます。
導入費用はプログラムの内容によって変化しますし、月額費用は参加する事業者の数やサポートの内容によって変わります。自治体が初期費用や月額費用を負担する場合、毎年の予算計上が必要になりますし、月額費用を利用する外部サービス事業者が負担する場合、どのような基準・方法・金額で負担させるのかも併せて検討しなければなりません。域外の福祉用具メーカーなどの広告を入れて負担を軽減させることもできますが、「タラれば・・」ではなく、ある程度余裕をもって試算することが必要です。

4. 情報ルールの検討 ・ ネットワークプログラムの策定
この地域ケアネットワークの導入で、最も重要なのが「情報発信・情報共有・情報管理」などの情報ルールの検討です。
この情報ルールは、それぞれの自治体・介護関連サービス事業者が中心となって策定するものですが、同時にセキュリティなどのプログラムにも関係します。
そのため、まず協力事業者が、地域ネットワークの基本となる情報発信、情報漏洩防止、情報管理のルールを提案し、それに対して自治体・「地域ケアネットワーク推進委員会」からの質問を受ける形で進めます。また、「地域ケアネットワーク推進委員会」が域内の介護サービス事業者や高齢者関連サービス事業者に対して説明・提案できるよう、地域特性に合わせた「情報共有・情報管理システム」「マッチングシステム」などの地域ケアネットワークの目的や方向性、プログラムの機能について検討を行います。地域の介護関連サービス事業者向けに地域ケアネットワークの説明会を行う場合、プログラムの技術的な質問に対応するために、プログラム事業者・コンサルティング事業者に参加を依頼します。
プログラムの内容に合意ができれば、プログラムの策定を開始します。

5. 「地域ケアネットワーク」 システムの導入・運用・機能拡大
スケジュールに沿って策定した、地域ケアネットワークの運用をスタートします。
「地域ケアネットワーク」の運用開始にあたっては、セキュリティの登録が必要になります。中にはパソコン操作に慣れていない事業者もありますから、協力事業者に対して説明会の実施を依頼します。運用がスタートすれば、適切にプログラムが適切に稼働しているか、情報ルールが順守されているか・・といったモニタリングを行います。また、当初のスケジュールやモニタリング結果に基づいて、「自治体からの情報発信」から、「各種団体・各サービス事業者の情報発信」、さらには「マッチング機能」の機能の拡大、追加を行っていきます。

6. システムの運用、情報ルール・プログラムの変更・見直し
最後は、プログラムの変更・見直しです。
述べたように、地域ケアネットワークは、「一度プログラムをつくれば終わり」というものではありません。 「地域ケアネットワーク推進委員会」を中心に、情報ルールや運用上の課題について検討・検証を行い、プログラムの変更を依頼します。また、新規参入事業者が入ってくれば、「地域ケアネットワーク」の説明や参加についての説明も必要です。また、「クラウドコンピューティング」も進化していきますから、それに応じたバージョンアップも行います。
このプログラムの変更・見直しは、契約期間の中で継続的に行うことになります。


以上、「地域ケアネットワーク」導入にあたっての流れと、協力事業者選定のポイントを挙げました。
重要なのは、「連携・連絡網の整備」「情報共有体制の見直し」という目先のものではなく、「地域包括ケアシステムとは何か」「地域包括ケアシステムの構築になぜ、地域ケアネットワークが必要なのか」をきちんと理解している事業者を選ぶことです。その一方で、「事業者にすべてお任せ」にしないことも大切です。「お任せしますので、いいもの作ってください」という丸投げの依頼には答えられませんし、「難しいことは、こちらに全てお任せください」という事業者に任せても、他の自治体の構築例を焼き直ししたプログラムとなり、独自のネットワークは構築できません。
地域包括ケアシステムは、「地域ケアネットワークシステム」の構築なくしてできません。言い換えれば、この「地域ケアネットワーク」が上手く稼働するか、しないかによって、公平・公正、かつ効率的・効果的な地域包括ケアシステムが構築できるか否かが決まり、それは自治体の存在意義・存続に直結するということです。

私たちも「KaIT」という、地域ケアネットワークをイメージしたプログラム策定を進めていますが、他のベンチャー企業や大手事業者などでも、この地域ケアネットワークの構築プログラムの策定を検討するところがでてくるでしょう。「地域包括ケアシステム」は、全国一律の基準で整備されてきた高齢者介護・福祉計画を、市町村などの基礎自治体が中心になって地域特性・地域ニーズに基づいた効率的・効果的なケアシステムに変えていくという「高齢者施策の地方分権」です。どのような地域包括ケアシステムを構築するのか、地域の高齢者・要介護高齢者の生活を守っていくのか・・・を一緒になって真剣に考えてくれる協力事業者を選ぶことが必要です。

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