RISK-MANAGE

介護業界の甘えの構造 ~隠蔽からみる事業崩壊~

隠蔽や改竄は、リスクマネジメントにおいては「倫理的」な課題ではない。

「リスクマネジメント」から見た、コンプライアンスの重要性


 

現在、企業の存続を危うくさせるリスクマネジメントの課題として、大きくクローズアップされているのが、「コンプライアンス違反」です。コンプライアンスは、通常、「法令順守」の意味で使われますが、最近では、法律に明確に違反しているか否かだけでなく、企業倫理、企業モラルも含む概念です。
いくつかの例を挙げてみましょう。

〇 大手ゴムメーカーが耐震ゴムの性能を偽装
〇 有名料亭の食品産地偽装、食品使いまわしが発覚
〇 大手広告代理店で、女性新入社員が過労で自殺
〇 大手予備校で、組織的なソフトウエアの不正コピーが発覚
〇 自動車メーカーで相次ぎ、燃費データの偽装が発覚

事業上のリスクといっても、このコンプライアンス違反のブランドイメージ失墜は、突発的に発生した災害や事故とはレベルが違います。社会の中で事業を長期的に継続させるには、何より「信用」が重要なのですが、「隠蔽」「偽装」「不正」を行った企業には、「あぁ・・あの会社ね・・」と、正反対のマイナスイメージがつくからです。
短期的な売り上げの低下という金銭的な問題だけでなく、従業員の勤労意欲の低下、優秀な人材が入社しないなど、大きく長く、経営に影を落とすことになります。

 

~コンプライアンス違反の目立つ介護サービス業界~

介護サービス事業、高齢者住宅事業は、税金が投入された公的な介護保険制度を収入の基礎とする社会性・公共性の高い仕事です。何よりも「法律・制度を厳格に順守する」というコンプライアンスが事業の基礎となるのですが、残念ながら、その反対に、コンプライアンス違反が非常に目立つ業界になってしまいました。
いくつかの例を挙げてみましょう。

■ 介護報酬を水増し請求していたことが発覚、事業所取り消し
■ サービス提供責任者が常勤専従ではなく、併設事業所と兼務
■ 生活相談員、看護師が不在なのに、出勤したように出勤簿を加工
■ 入居者の要介護度が重くなるよう、認定調査を不正に加工
■ 介助ミスによって死亡事故が発生したものの、病死と家族に説明

最近、介護事故の発生とともに、大きな社会問題となっているのが、事故やトラブルの隠蔽です。
ある介護付有料老人ホームで、要介護2のパーキンソン病の女性が入浴中に心肺停止状態で発見。事業者は家族に対して、「10分程度離れた間に心肺停止、病死の可能性が高い」と説明していましたが、警察の調査により、付き添いの介護スタッフが1時間半にわたって浴室を離れていたことが原因で、また病死ではなく溺水であることがわかりました。

高齢者介護は、要介護高齢者の生活に密着する事業ですから、医療や看護と同様に、より高い倫理観が事業者、スタッフに要求される専門職です。特に、介護サービス事業は閉鎖的な事業であり、利用者や家族が弱い立場に立たされやすいという特徴があります。
だからこそ、事実の隠蔽は、サービス事業者、介護のプロとして恥ずべき不正です。
しかし、問題はそれだけではありません。リスクマネジメントの視点から見れば、『隠蔽』は嘘だから倫理的にダメだというだけではなく、事業の継続を困難にする大きなリスクとなるからです。

 

~事実を曲げることはそう簡単ではない~

介護事故は、ほんの小さなミス、一瞬の隙で発生します。
移乗時の介助ミスによって、転落、打撲事故を発生させた介護スタッフは、「どうしよう、怪我をさせてしまった」とショックを受けています。「骨折をしていなければ良いが・・大きなトラブルに発展しなければ・・・」と思うのは当然のことです。
介護スタッフ不足に頭を悩ませている介護リーダー・管理者は、「スタッフは頑張っているので、問題を大きくして追い込みたくない、やめて欲しくない」と考えるでしょう。経営者・管理者として「あの家族は、細かいことにうるさい」「事故が多い事業者だと思われたくない」という打算が働くかもしれません。入院につながるような事故ではない場合、「今度から気をつけて下さい」という口頭注意だけで、内部だけで簡単に済ませてしまいたいという気持ちはわからなくはありません。

しかし、家族からすれば、怪我をした場合、その状況を詳しく聞きたいと思うのは当然です。
訪問した時に、擦り傷があったり、打撲による内出血のあとがあれば、「これは、なんだろう・・・」と思うでしょう。実際は「移乗時に、壁に肘があたって擦りむいた」という単純な事故であったとしても、報告がなければ家族はそう考えません。「本当はもっと酷いことが起こっているに違いない」 「スタッフから虐待を受けているのではないか」と、より悪い方に想像は膨らんでいきます。

また、事実を隠そうとしたり、責任逃れの意図を持って説明すると、それは必ず態度にでます。
最初に説明していなかったことが、家族の質問で次々と明らかになれば、「事業者は、不都合なことを誤魔化そうとしている」「事実を隠蔽しようとしている」と思われても仕方ありません。過失は誰にでも発生しうることですが、隠蔽やごまかしは故意、悪意によるものです。どちらが家族の心証を悪化させ、態度を硬化させるのかは明らかです。
小さな打撲痕や擦り傷などで裁判になることはありませんが、その場は収まったように見えても、事業者に対する不信は確実に高まっていきます。もし、次に転倒・骨折となった場合は、話さえ聞いてもらえません。家族が裁判を起こすのは、事業者に対する不信が積み重なり、固まっているからです。

 

~隠蔽を一度でもすれば、組織は確実に腐っていく~

隠蔽がリスクマネジメント上、最悪の結果を招くのは、それが常態化、深化するからです。
家族は介護のプロではありませんし、その場にいるわけではありせん。事実と少し異なっていても、証拠はありませんし、上手く説明すれば、家族は納得してくれるかもしれません。

しかし、事実を改変した、正確な情報を伝えていないという事実は残ります。管理者が隠蔽した、家族にウソをついたという事実は、事故を発生させた本人だけでなく、他のスタッフも伝わります。
そうなれば、次に転倒事故が発生しても、「言わなければわからない」「これくらいなら大丈夫」と勝手に判断し、リーダースタッフや管理者にも、正確な情報が上がらなくなります。「気が付きませんでした。しりません」「私ではありません」と、全スタッフに隠蔽体質が蔓延することになります。

繰り返しになりますが、隠蔽は、サービス事業者、介護のプロとして最も恥ずべき不正です。
隠蔽を行うような管理者・上司の下で働くのは、プロとしての尊厳・存在意義に関わる大きなストレスとなりますから、優秀なスタッフは次々と退職していきます。そのあとに残るのは、隠蔽や改竄を何とも思わないような、倫理観の欠けたスタッフだけです。また、一度、事実を隠蔽するとその内容は少しずつ深化していきます。何があっても家族に伝えない、最後には嘘を付くのも、誤魔化すのも、隠蔽するのも平気になってしまいます。それが普通になれば、もう、サービス向上も意識の改善も不可能です。

そのような事業者、事業所の末路がどのようになるのかは、現実に発生している考えられないような事件、事故を見ればわかるでしょう。
事実を曖昧にしたり、隠蔽や改竄は、介護専門職としての倫理観に問題があるということは言うまでもありませんが、事業者や管理者が一度でも事実を改竄したり、隠蔽したりすれば、それはトラブル増加、リスク拡大、事業閉鎖に向けて、ひた走ることになるのです。

 

 

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