RISK-MANAGE

リスクマネジメントに表れる一流経営者と素人経営者の違い


業界、業態を問わず、プロの経営者と素人経営者の最大の違いは、事業の安定経営を阻害する「リスク」への感度。「大した問題ではない」と見過ごすか「これは大変だぞ」と反応するか。リスクマネジメントのノウハウ、テクニック以前に、大切なのは、その意識・捉え方。

管理者・リーダー向け 連載  『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 007


企業経営というのは、アイデアが当たったり、運が良かったり、時流に乗ったりで、一時的に大きな利益が出るということは、ままあります。バブル経済とその崩壊以降、「勝ち組・負け組」「Win-Win」といった軽佻な起業ブームや、「一時的な雇われ経営者」が多くなったこともあり、急速な事業拡大や、短期利益を上げていくということに心血を注ぐというタイプの企業が増えているように感じます。
このような人たちを「経営のプロ」「時代の寵児」などと、マスコミも持ち上げますが「短期利益追求型」「事業拡大第一主義」の企業は、長続きしません。目先の拡大や利益を上げることだけしか見えておらず、無理を重ねるために、どこかで大きな事故やトラブルが発生するからです。

これは、介護業界でも同じです。
高齢者住宅を次々と開設する、事業規模を拡大するということは、そう難しいことではありません。
しかし、それを長期安定的に経営していくことは、その数十倍、数百倍難しいのです。
介護保険制度がスタートした当時「介護業界の寵児」ともてはやされた起業家、外食産業から介護業界に転身したカリスマ経営者、低価格の介護付有老ホームで全国展開したリーディングカンパニーが今、どうなっているかみればわかるでしょう。

経営者の第一の仕事は、高い利益を上げることではなく、入居者の生活、スタッフの生活、事業経営を安定させることです。特に介護は「介護サービスの質=働く介護人材の質」です。リスクマネジメントのノウハウ構築と共に、それを実践できる人材を育てていかなければなりません。
その土台を確保しないまま「とりあえず拡大」するから、すぐに壊れる「砂上の楼閣」になるのです。

過剰な期待でリスクが見えなくなる

「超高齢社会だから介護需要が拡大する」という過剰な期待のもと「目先の利益」「事業拡大」ばかりを見ていると、足元の「リスク」が見えなくなります。転倒事故が起こっても、「この程度のことは大きな問題ではない」と小さく認識することからスタートしてしまいます。

その結果、「打撲程度なら大事ではないだろう」「あの家族は、たまにしか来ないから」と対応が後手に回ります。原因や対応策を検討することなく「簡単に報告書だけ書いといて…」「今度から気をつけてね…」と、その場限りの問題として処理され、忘れ去られることになります。

その雰囲気は、働く介護看護スタッフを含め事業所全体に広がります。
「この程度であれば、問題ないか・・」「特別に報告・相談することでもないか・・」と事なかれ主義が蔓延し、事実の隠蔽・改竄につながっていきます。それが蔓延し、そのような勤務態度がその事業者の普通のレベル、通常のサービスになってしまうと、そこから質を向上させることは、できなくなります。

「優秀な事業者は事故が少ない」という人がいますが、そうだとは思いません。
表面上、事故やトラブル、クレームがない事業者のほとんどは、この鈍感パターンです。
サービスのレベルが高いために事故やトラブルが少ないのではなく、誰も報告しないから件数が少ないのです。「介護労働は大変だ」という社会の風潮に便乗し、「忙しいから…」「手が回らない…」「介護の仕事は大変だ…」と言えば、何でも許されるようになるのです。

しかし、死亡事故などで問題が表面化したときには、最悪の結果が待っています。
ご存知の通り、最大手の介護付有料老人ホームで、3人もの入居者が連続して居室から転落、死亡し、介護スタッフの一人が殺人容疑で逮捕されるという事件が発生しました。
報道されている内容を見れば、一人が転落した時点で「本人の身長や要介護状態からこのような転落が起きるのはおかしい」とわかるはずです。その時にきちんと原因を精査していれば、2人目はなかったはずです。しかし、この事業者は2人目の転落が起こったときも十分な対応をせず、3人もの犠牲者を出すことになりました。
事業規模が大きいだけで、とてもプロの事業者、経営者とは言えず、あまりにも入居者の生命やリスクマネジメントに対する意識が低いのです。

プロの事業者は「利益」よりも「リスク」に敏感

プロの事業者は、利益以上にリスクに対して敏感です。
その表面上の事象だけでなく、何故そのようなトラブルが発生したのかという原因に重点を置いて検討し、また、どのような大事故、大きなトラブルに発展する可能性があったのか等、積極的、かつ迅速に対応します。

転倒事故が発生した場合、「目を離した隙に転倒、今度から目を離さないようにします…」といった、その場限りの言い訳・報告書では何も解決できません。
どのような状況で転倒したのか、なぜ目を離してしまったのかを詳細に検討しなければなりません。そうすれば、単なる介護ミスではなく、ケアプランの見直し、介助方法の再検討、建物設備の見直しなど、どうすれば同じような事故を減らすことができるのかを詳細に検討できます。
そもそも、24時間365日、その高齢者から目を離さない、常に隣で寄り添うということはできません。転倒事例の検討・検証を積み重ね、情報を開示することでしか、事故は減らせないのです。

また、小さなクレーム・意見に対して、積極的に対応すれば、家族との信頼関係を醸成することができ、感情的なクレームではなく、サービスに対する意見が増えてきます。また、できること、できないこと、転倒等のリスク、事業者の対応などを説明することができれば、万一、骨折事故などが発生しても、それが感情的なトラブルに発展することはありません。

プロの経営者と素人の経営者の違いは、その事業特性や業務から発生するリスクを理解し、予測し、きちんと管理できているか否かで決まります。
事故やトラブルの対応を正面から受け止め、サービス向上の種としてしっかり育てることができれば、働くスタッフも安心ですし、働きやすい事業者として、サービスの質の高い事業者として地域で認められることになります。そうしてノウハウを高め、人材を育成していけば、自然とスタッフが集まり、事業は拡大していくのです。

リスクマネジメントは、そのノウハウ、テクニック以上に感度が大切なのです。




高齢者介護にもリスクマネジメントが求められる時代

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高齢者住宅 経営の特性・リスクを理解する

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高齢者介護 サービス上の特性・リスクを理解する

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