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どちらを選ぶ ・・ サービス分離型? サービス一体型?


識者や介護ジャーナリストと呼ばれる人の中にも、高齢者住宅は「住宅と生活支援サービスの分離が原則」という人がいるが、それは大間違い。実際にすることは不可能で、サービス提供責任が曖昧になる。生活支援サービスの契約の分離は、高齢者にとって百害あって一利なし。

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 012


高齢者住宅は、単なるバリアフリー住宅ではなく、「住宅サービス」と「介護看護サービス」「食事サービス」「生活相談サービス」などの複合サービスです。
しかし、すべてのサービスが高齢者住宅事業者から直接提供されるわけではありません。
高齢者住宅は医療機関ではありませんから、入院、通院などの医療サービスは直接、同じ事業者から提供されることはありません。


それ以外の生活支援サービスの提供タイプを分けると、大きく4つに分類されます。

一つは、介護・食事一体型です。
入居契約と生活相談や食事、介護などサービスを一体的に契約し、高齢者住宅事業者が直接、これらサービスの提供を行うものです。食事サービスについては、外部の給食業者が入っているケースが多いのですが、これは高齢者住宅が栄養管理や調理を外部委託しているだけで、入居者に安全で美味しい食事を提供する義務を負うのは高齢者住宅です。
介護付有料老人ホームは、ほとんどこのオールインワンの一体型です。

二つ目は、介護分離型です。
生活相談、食事サービスは入居契約と一体的に契約し、高齢者住宅事業者が直接、提供するものの、ケアマネジメントや介護サービスは、それぞれの入居者が、外部の居宅介護支援事業所や、訪問介護、通所介護と個別に契約してサービスを受けます。
住宅型有料老人ホームは、基本的にこの介護分離型です。

三つ目が、介護・食事分離型です。
高齢者住宅事業者が提供するのは、生活相談サービスのみです。
介護サービスだけでなく、食事サービスも、入居者が、テナントとして入っているレストラン、給食業者、配食サービス事業者と直接契約して、提供を受けます。
サービス付き高齢者向け住宅に多いタイプです。

そして最後が、全サービス分離型です。
高齢者住宅事業者は一般の賃貸マンションと同じように、住宅サービスにかかる入居契約だけで、生活相談、食事、介護などすべての生活支援サービスは、外部の事業者と契約するタイプです。
サービス付き高齢者向け住宅には、この全サービス分離型もあります。


サービス分離型のメリットは、自分の必要とするサービスを自由に選択できるということです。
介護付有料老人ホームのような食事・介護一体型の場合、すべてのサービスがその有料老人ホームから提供されますから、入居者は、基本的に通所介護など別の事業所の介護サービスを選ぶことはできません。
これに対して、住宅型では入居者は、外部の訪問介護、訪問看護、通所介護などの通いのサービスも自由に選択することができますし、専門の通所リハ、訪問リハビリなどを選択することもできます。
生活相談サービスも、家族が近くにいていつでも電話で相談できる、すぐに来てくれるからと、契約しない方法もあります。
もちろん、それだけ費用は安くなります。


高齢者住宅の月額費用に含まれるサービス内容の中身は違う

高齢者住宅選びについて、なぜ、この契約形態の確認が重要かと言えば、一つは、それぞれの「月額費用」の中に含まれているサービス内容が変わってくるからです。
例えば、二つのパンフレットを見比べて、「介護付有料老人ホーム 月額22万円」「サービス付き高齢者向け住宅 13万円」と書いてあれば、後者のサ高住の方が安いと思うでしょう。
しかし、述べたように介護付有料老人ホームは、すべてのサービスが一体的に提供されますから、「食費」「介護の一割負担」などすべてのサービスが含まれています。一方のサ高住の場合、「食事サービス」「介護サービス」は別の食事業者・介護サービス事業者との契約ですから、高齢者住宅に支払う費用の中には含まれていません。
「サ高住は13万円だから安い」と思い込んで契約すると、それ以外に二つの請求書が送られてきて、すべて合わせると25万円になるということもあるのです。


もちろん、住宅型有料老人ホームやサ高住の中にも、きちんとその月額費用に含まれるサービス内容や別途費用を分かりやすく記載しているところもあります。ただ、低価格だけをアピールして、誤解を生むようなパンフレットを作っているようなところは注意が必要です。


契約が分離すれば、サービスは不安定になる

価格以上に注意が必要なのが、「サービス提供責任」の違いです。
誰が提供しようと、契約上のことで、どれも同じことだと思うかもしれませんが、そうではありません。
契約主体が違うということは、サービスの提供責任が、それぞれ分かれるということです。特に要介護高齢者の場合、サービス提供責任がバラバラになると、生活やサービスは確実に不安定になります。

一つは、入居者や家族が、随時サービス調整できるのかということです。
家を建てるとき、私たちは大工や左官、電気業者、水道業者などにバラバラに発注(これを分離発注と言います)するわけではなく、一括して工務店やハウスメーカーに依頼します。この分離発注は、一級建築士など、よほど経験とノウハウを持つ人であれば可能ですが、優良業者の選択、業者間のスケジュールの調整、手抜き工事はないかなどの監督やチェック、トラブル対応など、素人にはできません。

これは、介護サービスも同じです。
「体調が悪いのでデイサービスを休むが、食事や排せつ介助などの代替サービスをどうするか」といった場合、本人がケアマネジャーや食事業者に連絡して、自分で調整しなければなりません。
当然、要介護高齢者本人にはできませんから、家族がやらなければなりません。
しかし、「風邪をひいた」「代替サービスの依頼」など、毎日の変化に合わせて、ケアマネジャーや介護サービス事業者、食事業者に連絡をして、依頼・変更することなどできるはずがありません。

また、「足に打撲のあざがある」「トイレが掃除されていない」といった場合でも、ケアマネジャーや訪問介護、通所介護などのサービス事業者に連絡して、「いつからこのような状況なのか」を確認しなければなりません。それぞれの介護サービスは別契約なので、それぞれのサービス内容、サービスの質について、高齢者住宅事業者は無関係だからです。
その他、給食業者が食中毒で業務停止になった場合や、その訪問介護サービス事業者が倒産した場合、自分で他の事業者を探さなければなりません。見つけることができなければ、その高齢者住宅で生活することはできなくなります。

もう一つの問題は、本当に希望通りの自己選択ができるのか、です。
常識的に考えて、同居していない限り、上記のような臨機応変の対応を家族が行うことは不可能です。
結局、事業者の選んだ食事事業者、介護サービス事業者を選ぶしかありません。実際、「高齢者住宅はサービスの分離が原則」と言いながら、ほとんどのサ高住の言いなりに、併設・テナントの食事業者や訪問介護、通所介護を使う以外に選択方法はないのです。

また、最近は、高齢者住宅で骨折や死亡などの重大事故が多発していますが、高齢者住宅事業者も国交省も「契約分離だから、事故やトラブルにサ高住は無関係」だという立場をとっています。
つまり、「介護が必要になっても安心・快適」とセールスしていても、契約上は、高齢者住宅事業者には責任も役割も何もないのです。「自己選択できないのに、形だけ契約分離」というのは、高齢者住宅事業者の責任が曖昧になるだけで、入居者・家族にとっては、「百害あって一利なし」なのです。

このような「契約上だけ分離」という高齢者住宅は、バラバラの積み木の家のようなもので、一つの商品としての価値がありません。
高齢者住宅の専門家と呼ばれる人の中にも、「高齢者住宅は生活支援サービス契約の分離が原則」「介護付有老ホームのような一体型は施設的だからダメだ」という人がいますが、それは全くの間違いです。
「一体型は施設的だからダメ」という人は、「介護付は特養ホームに似ているからダメだ」という個人の一方的な思い込みでしかありません。
しかし、実際は、一体型の「オールインワン」の方が、サービス提供責任が明確になり、それぞれのサービスの連絡・調整が容易になることから、要介護高齢者やその家族にとっては、適したシステム・契約形態なのです。

多くの人は、建築設計のプロでもなく、介護のプロでもありません。
家を建てるときは、信頼できる「工務店・ハウスメーカー」を選ぶというのが基本です。
それと同じように、信頼できる管理者のいる、サービスの質の高い一体型の高齢者住宅を選ぶというのが基本なのです。


「どっちを選ぶ?」 高齢者住宅選びの基礎知識 

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高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばない」こと

  ☞ ポイントとコツを知れば高齢者住宅選びは難しくない (6コラム)
  ☞ 「どっちを選ぶ?」 高齢者住宅選びの基礎知識 (10コラム)
  ☞ 「ほんとに安心・快適?」リスク管理に表れる事業者の質 (11コラム)
  ☞ 「自立対象」と「要介護対象」はまったく違う商品 (6コラム)
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