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【ケース8】家族の住む近くに高齢者住宅を探せばよかった・・・

「母の人間関係を大切に・・」と母の住み慣れた市内・地域で高齢者住宅を探す。ある程度元気な時はそれでよかったのだけれど、要介護状態になってから生活が一変。泊まり込みで遠いホームにまで何度も通うことに・・・

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 061


入居者・・・実母(80代後半)、車椅子利用、要支援2 ⇒ 要介護2

父が10年前に亡くなってからは、母は地方都市で一人暮らし、私たち姉弟は、大学進学と同時に家を出て、それぞれに結婚、家庭をもって東京近郊に暮らしていました。
地域の自治体の役員をしたり、お茶の先生をしたりと、一人でもそれなりに楽しく暮らしていたのですが、80歳を超えたころから急に足腰が弱くなりました。少し耳が遠いくらいで頭もしっかりしており、介護が必要という状態ではないのですが、実家はバス停まで元気な人でも15分程度かかり、また坂道であるため、母の足だと30分以上はかかります。
買い物などは宅配などを利用していたようですが、お茶の先生もやめたことから、自宅に閉じこもりがちとなり、心配していました。

ただ、私も弟も自宅に引き取ることはできず、また母もいまさら、気を遣うのもいやだということで、弟とも相談の上、民間の高齢者住宅を探すことにしました。
地域の地域包括支援センターに相談したところ、「まずは、要介護認定を受けてから探す方が良い」とのアドバイスを受け、認定調査の申請をすると、「要支援2」という判定でした。そのため、将来、介護の状態が重くなることも考えて、介護付有料老人ホームを選ぶことにしました。

そこで悩んだのが「母の住み慣れた地域で探すのか」「私たち姉弟の住む地域で探すのか」です。
高齢者住宅の紹介センターの方に聞くと、「地域が変わると食事の味付けが変わってしまう」「言葉や方言も違うので溶け込みにくい」「これまでの母の人間関係が断ち切られてしまう」と言われ、母の暮らす市内の介護付有料老人ホームを選ぶことにしました。入居一時金は500万円程度、月額費用は20万円程度で、同程度のサービスであれば、私たちの暮らす都心部よりも月額費用が4万円程度安いことも魅力でした。その老人ホームは、母のような、歩くことのできるある程度元気な人が半分程度、車いすなど介護が必要な人が半分程度で、認知症の方や寝たきりといった重い方も2割程度でした。

上手く溶け込めるか心配していたものの、「食事の心配もしなくていいから気楽」「映画やレクレーションもあるし、友達もできて楽しい」と言っており、私たちも安心していました。また、日常生活で足りないものがあると、タクシーでホームの方に付き添ってもらって、自宅に取りに戻っていたようです。お茶のお弟子さんたちも来られ、ホーム内でも他の入居者の方にお茶を点てたりと、それなりに楽しくやっていました。
私たちも、週に一度程度電話をしたり、お盆やお正月に合わせて半年に一度は訪問するようにしており、無理に、こちらに来てもらわなくて良かったと思っていました。

しかし、入居から4年くらいたったある冬に大きな風邪をひいたことをきっかけに、体力が一気に低下しました。つまづいて転倒することも増え、これまでのように一人で歩くのは危ないということで、車いすを利用することとなり、要介護2となりました。
体力低下によって気持ちまで弱くなったのか、それからは毎日のように「〇〇を買ってきてほしい…」「今度はいつ来てくれるのか…」といった電話がかかるようになりました。認知症というわけではないのかもしれませんが、物忘れも激しくなり、何度説明しても理解できないことや、何度も同じことを言うようになり、昔のお弟子さんにも何度も電話をして、迷惑をかけていたようです。

結局、毎月、弟と交代で訪問回数を増やすことになりました。
ただ、実家のあるホームまで、自宅から東京駅まで1時間、東京から新幹線で2時間半、またそこから在来線に乗り換えて1時間半と片道だけで6時間かかります。朝一番ででても到着するのはお昼過ぎとなり、また遅くとも午後4時頃にはホームを出ないとその日の内に帰り着くことはできません。実家は残っていますが、ガスや電気などを止めてしまっているため、泊まることはできず、ホテルに泊まるとなると、二日がかりで6万円~7万円程度かかります。
私の夫や弟の妻が、一緒に来てくれることもあったのですが、その時はその2倍かかることになります。
そのホームは、同じ市内に家族が暮らしている人が多く、他の入居者には週に何度も家族が来られるとのことでした。お金の問題だけでなく、正直、気丈な母がこのような状態になるとは考えもせず、東京に戻るときに寂しいと泣かれるのが、精神的にとてもつらいものでした。

途中で、私たちの自宅の近くに老人ホームを探して転居しようか・・という話もでたのですが、ホームのスタッフの方もよくしていただいていましたし、母は85歳を超えていましたから、転居先のホームで、一から新しい生活をスタートするもの大変です。
結局、どうしようか…どうしようか…と言いながら、そんな生活が3年以上続きました。
そんな中、風邪をこじらせて肺炎で病院に入院することになり、二日ほど付き添ったのですが、弟が翌日から代わってくれるというので、家に戻ったその夜中に息を引き取ったという電話がはいりました。ホームのスタッフの方は良くしていただいて、不満もないのですが、要介護状態が重くなることを考えて、最初から私たちの自宅の近くのホームにすればよかったと後悔しています。

【失敗の原因は何か・・どうすればよかったのか・・】

最近では、上記のような「親は田舎の実家で暮らしている」「子供たちは都会で暮らしている」というケースは増えています。
確かに、田舎から離れて全く生活歴のない地域に転居すると、「地域が変わると食事の味付けが変わってしまう」「言葉や方言も違うので溶け込みにくい」「これまでの母の人間関係が断ち切られてしまう」と言ったデメリットがあることは事実です。

ただ、要介護状態になると家族の役割は大きくなります。
優良な高齢者住宅では、トラブルを避けるために家族への説明を重視します。「どのような生活・介護を行っていくか」という介護サービス計画を策定するためのケアカンファレンスには必ず参加を求められますし、「病気になって入院する」「転倒してケガをした」といった身体上の変化、「下着が足りなくなった」「新しい服が欲しいと言われている」と言った金銭的な相談は、必ず家族に連絡がきます。

また、どんな元気で気丈な人でも、病気やケガで要介護状態になり、身体が上手く動かなくなれば、混乱して怒ったり、精神的にも弱ってしまいます。そんな時、家族が近くにいると、いつでも顔を見に行くことができ、何かあれば、すぐに訪問することができます。「家族がそばにいてくれる」という安心が高齢者本人の精神的な安定にもつながります。
逆に、距離が離れてしまうと、「日々のことはすべて高齢者住宅にお任せ」になってしまいがちです。サービスへの不満や他の入居者からのいじめなどを聞かされても、親を無理に説得して、後ろ髪をひかれるような思いで、帰路につくということになりかねません。「遠距離介護」というのは、金銭的にも精神的にも、本人にとっても家族にとっても、大きな負担がかかるのです。

「介護できないのが申し訳ない」と悔やむ必要はない 🔗 述べたように、「老人ホームに入る」というのは、食事や介護など日々のサービスを質の高い専門職にアウトソーシングするというものでしかありません。ただ、老人ホームのスタッフがどれほど優秀でも、家族の代わりはできないのです。
高齢者住宅で生活を安定させるためは、サービス内容だけでなく、「家族が近くにいる」「すぐに会いに行ける」という家族との距離が重要なのです。


「こんなはずでは・・・」 高齢者住宅選びに失敗した家族の声を聴く

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  ⇒ 【ケースⅠ】 病院から紹介された有料老人ホームに入居したが 🔗
  ⇒ 【ケースⅡ】 「介護が必要になっても安心・快適」はイメージと正反対  🔗
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  ⇒ 【ケースⅦ】 不正を訴えても「自己責任でしょ・・」と無関心の役所🔗
  ⇒ 【ケースⅧ】 家族が住む近くに高齢者住宅を探せばよかった  🔗
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高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばない」こと

  ☞ ポイントとコツを知れば高齢者住宅選びは難しくない (6コラム)
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