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地域包括ケアシステム ~低所得者・福祉対策の検討~

低所得者対策・福祉対策は公平な社会保障政策の根幹。

財政が極度に逼迫する中で、「最低限やるべきこと」を見直す。


 

これまで日本では、財政問題を先送りにしたまま、社会保障制度が無秩序に膨張してきました。
その結果、行財政も社会保険財政も極度に悪化し、超ハイパー高齢社会を前に立ちすくむしかない状態にあります。今すぐにでも、「あれも大切、これも重要」とばらまき型の社会保障政策から、大転換しなければなりません。
それを各自治体で知恵を絞って考えるというのが「地域包括ケアシステム」の構築・推進です。

ただ、間違ってはいけないのが、地域包括ケアシステムは「削減ありき」ではないということです。
「社会保障削減、介護保険の抑制」が目的化すると、「サービス利用を控えさせる」「自己負担を挙げる」「自己責任だ」と安易な方法を考えてしまいがちです。しかし、高齢者にとって介護や医療は、「小遣いが減ったのでタバコを辞めよう」「ボーナスが減ったので飲みに行くのを減らそう」という話ではありません。「安心・快適」以前に、その最低限の生活や生命を維持するために不可欠なものです。
また、介護保険制度に基づく介護サービス事業は90%以上、税金や国民から集めた公費で運営されています。自己負担や利用料を一律に上げると「お金持ちは使いやすい」「お金のない人は使いにくい」となり、結果「お金持ちが優遇される社会保障・セーフティネット」という本末転倒の制度になります。

 

~老人福祉の立て直しが急務~

まず、多くの自治体で不可欠になるのが、「老人福祉の立て直し」です。
介護保険制度が2000年にスタートするまで、社会福祉法人が老人福祉法の中で、高齢者介護を行っていました。そのため今でも、「介護」と「福祉」は混同して使われることが多いのですが、根本的に違うものです。介護は純粋な「要介護高齢者」に対する介護サービスのことですし、老人福祉は、介護サービスだけでは対応できない「介護虐待」「介護拒否」などの、様々な福祉課題に対応するものです。

問題は、この混乱が、言葉上のものだけではないということです。
介護保険と老人福祉の役割の混乱は、特養ホームや社会福祉法人の役割の混乱を引き起こしています。実際、現在のユニット型特養ホームは、「富裕層優先」という本末転倒のものになっていますし、「福祉切り捨て」「利益誘導型」という本来の役割と正反対の社会福祉法人も増加しています。
今後、高齢者の激増によって、介護保険だけでは対応できない「要福祉」というケースは確実に増えていきますから、指導や監査の中で、その対応は社会福祉法人へ集約させるなど、一般の民間企業では対応できない福祉課題への強化を行う必要があります。

ただ、この「要福祉」は、家族による介護虐待一つをとっても、非常に困難なケースも多いことから、一つの社会福祉法人だけで対応できる問題ではありません。時には、弁護士や警察などとの連携も重要になります。福祉事務所の機能を強化するなど、自治体として社会福祉法人のバックアップ体制を整えなければなりません。

 

~これからの低所得者対策の方向性~

もう一つは、低所得者対策です。
「社会保障制度だから、低所得者も使いやすいように減額制度が重要」というのは簡単ですが、必ず「その財源をどうするのか」という課題がでてきます。使えるお金の総量には限界があるのですから、低所得者対策と合わせて、支払い能力のある人には、それに応じて支払ってもらうという、応能負担の強化が必要になってきます。

現在の医療保険、介護保険の低所得者対策は、前年度の収入を基礎として行われています。
しかし、「資産家で家賃収入がある」「会社のオーナーで役員収入がある」という一部の人を除き、要介護高齢者の収入は年金収入に限られます。そのため、退職金などで数千万円の預貯金を持っていても、減額の対象となっている人は少なくありません。
そのため、この数年の内に、「マイナンバー制度導入」と並行して、「前年度収入だけでなく、金融資産も含めて負担可能額を算定」という方向に向かっていくでしょう。将来的には介護保険や医療保険の自己負担割合だけでなく、介護保険料や国民健康保険料などにも拡大される可能性が高いと考えています。

また、現在、特別養護老人ホームの利用基準額は、ユニット型個室で13万円、相部屋タイプで6万円程度に限られていますが、将来的にはユニット型は30万円程度、相部屋でも15万円程度になるでしょう。介護保険制度前の措置制度の時代は、相部屋でも収入の多い人は費用全額を負担(一ヶ月24万円程度)していました。減額制度も現在の4段階から、10~20段階に細分化されると思いますが、相対的に費用は上がるということです。

「お金がかかるから使いにくい」ということがないように、医療や介護の保険料・利用料は安い方が良いのは当然です。また「貯金をしている高齢者が損するのか」という意見もあり、「何が公平か」という議論は難しいものです。もちろん、これは国が指針を示すべきものですが、各自治体においても、不公平感がないように、それを調整しながら、負担の在り方を考える必要があるのです。

 

~最低限やるべきこと、余力があればすること、自己負担でやるべきこと~

「地域包括ケアシステム」の構築にあたっては、これまでのように「あれも、これも」ではなく、固く締まった制度にしなければなりません。そのためにまず必要なことは、すべての人が公平に利用できる「基本部分はどこまでか」という土台を明確にすることです。「基本部分は介護保険、老人福祉など公的制度がある」という土台がしっかりしなければ、「ボランティア、NPOなどインフォーマルサービスでの活用」「地域住民との共助」もうまくいきません。

これは、ここまで述べてきた介護保険事業計画(整備計画)、設置運営基準、ネットワーク構築にも、すべて関わってくることです。「軽度要介護と重度要介護」のケアの違い、「要介護と要福祉高齢者」の対策の違い、「居宅サービスと住まいサービス」の役割の違いをきちんと整理しなければなりませんし、特養ホームの対象、老健施設の役割、整備する高齢者の住まいのサービス内容や価格設定も重要です。
この低所得者対策は、それぞれの自治体の財政状況によって大きく変わってきます。それは「低所得者への減額制度の見直し」という単純な話ではなく、応能負担の強化や地域包括ケアシステムの中での「公的責任の明確化」など、事業計画にも関わる重要課題なのです。

もうお金はどこを絞ってもでてきません。
絞るのは知恵しかないのです。

 

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