母は一人暮らしが不安となり「元気なうちに…」と高額の入居一時金を支払って住宅型有料老人ホームに入居。終身利用と聞いて「終の棲家」のつもりでいたのに、ホームで転倒し要介護になった時に状況が一変・・・
高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 057
入居者・・・実母(80代前半)、自立歩行、自立 ⇒ 要介護2
私の母は、父の死後、マンションで一人暮らししていました。
年金(父の遺族年金)はそれほど多くないものの、父の残した蓄えもあり、友達とランチや観劇にいったりと悠々自適に暮らしていました。しかし、75歳を過ぎたころから、外出する機会が少しずつ減り、また自分で食事を作ることも面倒になって、近くのコンビニのお惣菜で済ませることが多くなりました。
子どもは、長女の私と弟の二人ですが、弟は海外赴任をしているため、私が、車で一時間半程度の距離を、週に一度通っていました。私には子供がいないため、部屋も余っており、夫と相談して同居することも提案したのですが、「お互いに気を遣うことになるので…」と、受け入れませんでした。
母は「終活」という言葉の流行もあり、早くから「元気なうちに終身利用できる有料老人ホームに入る」と考えていたようです。
一緒に、いくつかの有料老人ホームを見学したのですが、まだ介護は必要ないので、「介護付」ではなく「住宅型」を選びました。気に入ったものは少し高額で、マンションの売却代金だけでなく、過半の金融資産を取り崩すことになったのですが、私も弟も母のお金なので、自由に使ってもらえればと思っていましたし、また、スタッフの方からは「入居一時金を支払えば、毎月の費用を抑えることができる」「介護が必要になっても系列の介護サービスを受けられる」「一時金を支払えば終身利用できる」と説明を受け決断しました。
最初の6年程度は、快適に楽しく暮らしていました。老人ホーム内で、新しい友達もでき、以前の一人暮らしの時よりも元気になり、訪ねてくる旧友からも羨ましがられたと喜んでいました。少し血圧が高いくらいで、大きな病気もなく、私たち家族も、安心していました。
しかし、入居してから7年目のある日、ホーム内の自室で転倒、骨折し、要介護2の車いすの生活になってしまいました。ホームの相談員さんから連絡があった時は驚きましたが、幸い3週間程度の入院で退院することができ、また「介護が必要になっても安心」という話を聞いていたので、ホームに戻っても同じように生活できるものと思っていました。
しかし、問題が発覚したのは、それからです。
そのホームの同一法人が行っているケアマネジャーの方とホームヘルパーの方に話をきいたところ、「介護付ではないので24時間介護ではない」と言われたのです。
ケアプランを見せていただいたのですが、介護用ベッドや福祉用具などのレンタル、入浴のためのデイサービスを週3回利用すると、それ以外の日に訪問介護が利用できるのは、一日1回~2回しかありません。「それ以外に必要な時はどうすればよいのか・・」と聞くと、「スタッフが常駐しているのでコールをしていただければ・・」というのですが、「そのスタッフの方が介助してくれるのか・・」と聞くと、「あくまでも緊急コールであり、介護はできない」との回答でした。
母は、食事や排泄そのものには問題ありませんが、車いすに上手く乗り移ることができず、 入院したことで身体の筋肉が細り、車いすも上手く動かすことができません。そのため食堂やトイレに行くには移乗や移動の介助が必要ですが、それは介護保険の対象外なのです。言い換えれば、この住宅型有料老人ホームでは、介護が必要になると生活できなくなるということです。老人ホームの施設長に聞くと、「それは介護保険制度の問題で、私たちの責任ではない」という話でした。
その程度の介護サービスでは、とても要介護状態になった母は一人で生活できないので、私と夫が毎週、土曜・日曜にホームに出かけて、母の介護を行うこととし、それ以外の日にデイサービスとホームヘルパーをお願いすることにしました。しかし、いつまでもそんなことを続けられないため、結局、2ケ月程度で退居して、母を自分の家に引き取って介護することになりました。
また入居時は「途中で退居した場合は、返還金がある」と聞いていたのですが、償却期間の7年を超えていたため、数千万円の高額な一時金は全く返還されませんでした。
自宅に戻って在宅介護になったのですが、幸い認知症ではなかったため、 私も夫も仕事を辞める必要がなく、 日中はデイサービスと訪問介護・訪問看護をお願いしました。3年ほど一緒に暮らし、その後、突然の心筋梗塞で自宅で眠ったまま亡くなりました。私にとっては夫の助けもあり、最期に親孝行ができて良かったのですが、母が「こんなことになってごめんね…」「老人ホームに騙された…」と最後まで悔やんでいたのが、とても残念です。
当初の数年間、母が元気だった時は、スタッフに方にもよくしていただき、感謝していたのですが、当初の説明にあった「介護が必要になっても安心・快適」というのは明らかに嘘ですし、「高額の一時金を支払えば、終身利用できる」と言っても、家族や本人が一番希望する「介護が必要になった時」に、実質的に生活できなのであれば、「終身利用できる権利」だけがあっても、全く意味はありません。
夫から、「計算すると、月の家賃が70万円の小さな1DKのマンションにはいっていたようなものだね。高い勉強代だったね」と言われ、怒りよりもゾッとしました。
【失敗の原因は何か・・どうすればよかったのか・・】
入居一時金がゼロという有料老人ホームが増えてきましたが、介護付・住宅型に関わらず入居一時金が数千万円というところもたくさんあります。ただ、 どちらを選ぶ ・・ 入居一時金方式? 月額払い? ? で述べた通り、この「入居一時金」というのは、あくまで住宅サービス部分の「償却期間内での家賃の前払い」であり、介護サービスとは全く無関係です。ですから、前提として「終身利用できる=介護が必要になっても生活できる」ではないということを理解しなければなりません。
特に、住宅型有料老人ホームの場合、介護サービスを提供するのは有料老人ホーム事業者ではありませんし、区分支給限度額方式の訪問介護だけでは、介護サービスの内容、介護サービスの量ともに、要介護高齢者の介護ニーズに対応することはできません。上記の相談例は要介護2ですが、これが要介護3、4と重度要介護状態になったり、認知症になったりすれば、常時介護が必要となるため、住宅型有料老人ホームでの生活は実質的に不可能です。
「介護サービス併設で安心」の高齢者住宅はなぜダメか ? で述べた通り、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などの区分支給限度額方式では、「ベッドから車いすに降ろしてほしい」「急にトイレに行きたくなった」というすき間のケアや臨時のケアに対応することはできません。
「手が空いている介護スタッフがサポートする」と説明するところもありますが、それは「手が空いていなければやらない、できない」ということです。
ただ、「介護付有料老人ホームであれば安心」というものでもありません。
「介護付だから安心」という高齢者住宅はなぜダメか ? で述べたように、介護付有料老人ホームでも、特定施設入居者生活介護の【3:1配置】の基準配置程度のものや、居室フロアと食堂フロアが分離している建物タイプのものは重度要介護高齢者に対応できません。
そもそも、「元気な時は良かったのに、介護が必要になれば生活できない」というのは当然なのです。それは、 どちらを選ぶ・・・要介護になってから?早めの住み替え? ? で述べている通り、自立~要支援程度の元気な高齢者を対象とした高齢者住宅と、要介護高齢者を対象とした高齢者住宅は、建物設備も介護システムも根本的に違う商品だからです。
「入居一時金が高額な有料老人ホーム = 高級有料老人ホーム = 質の高い老人ホーム = 介護が必要になっても安心・快適」と安易に考えてしまいがちですが、高額な一時金を支払ったから終身利用で死ぬまで生活できると考えるのは幻想です。特に、住宅型で終身利用というのは「要介護状態になる前に心筋梗塞で突然死」しかありません。
「元気な時に住み替えて介護が必要になっても安心」というのは、そう簡単なことではなく、安易にそのようなセールストークを行っている有料老人ホームは避けた方が良いでしょう。
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