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「突然の倒産・値上げ」最大のリスクは 事業者の経営悪化

高齢者住宅入居後の最大のリスクは、事業者の経営悪化・倒産。今後、有料老人ホーム、サ高住など多くの事業者が倒産すると予想されているが、制度的・法的に入居者保護施策は全く整っていない。経営の質とサービスの質はリンクする。経営状態を見分ける5つのポイント。

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 026 


高齢者住宅入居後の最大のリスクは、事業者の倒産です。
特別養護老人ホームの運営は、社会福祉法人に限られていますから、よほどのことがない限り、倒産・事業閉鎖ということはありません。最近は、社会福祉法人でも理事長の使い込みや脱法行為などで経営悪化するところもありますが、他の福祉法人が引き継いでくれますし、サービス内容や月額費用は、法律で定められていますから、変更になることはありません。

しかし、高齢者住宅は、営利目的の民間事業ですから、倒産するリスクがあります。
「高齢者住宅が倒産するとどうなるのか」という質問を受けることがあるのですが、一言で言えば「どうにもならない」のです。高齢者住宅が倒産すれば、介護や食事など、すべてのサービスはストップします。高額の入居一時金を支払っていても基本的にお金は返ってきません(保全があっても500万円上限)。
有料老人ホームは契約上の利用権ですから、退居を求められると法的に抗弁することはできず退居を求められる可能性があります。「サ高住は借家権だから、居住者の権利は法的に確保される」という人がいますが、同じことです。住み続ける権利が保障されていても、要介護高齢者の場合、食事や介護看護サービスが止まれば、生活することはできません。

要介護高齢者の場合、突然サービスがストップすれば、生命に関わる問題に発展します。
倒産が発覚すれば、数日の内に、次の生活の場所を探さなければなりませんが、そう簡単に次の行き先が見つかるわけではありません。すべてのサービスがストップすれば、誰がその手配をするのか不透明になりますから、入居者、家族は大混乱に陥るでしょう。

今のところ、倒産しても事業を継続しながら、民事再生法などによって債権者の協力のもと債務の削減を行ったり、他の事業者の譲渡することで、事業の再生手続きを進めるというのが一般的です。
しかし、他の事業者に譲渡されれば、安心というものでもありません。数万円の値上げやサービスカットを求められるケースが大半で、最近では一旦契約解除となり、もう一度、高額の入居一時金を求められるという事例もあります。

民間の住宅事業ですから、当然、倒産するリスクはあるのですが、「需要が高まる」という過剰な期待の中で、経営ノウハウも経験もない素人事業者が激増し、指導監査、チェック体制も整っていません。
高齢者、要介護高齢者の生活の基礎という社会的責任の重い事業なのですが、制度上、「入居者が不利益を被らないように保護する」「不正がないようにチェックする」という機能がゼロで、「倒産すればどうするのか、残された入居者がどうなるのか」は、国も自治体も事業者も、誰も考えていないのです。

高齢者住宅の経営状態を見分ける5つのポイント

経営の安定とサービスの安定は一体的なものです。
収支上の経営状態を判断するには、本来、財務諸表を確認すれば良いのですが、決算書を公開しているところばかりではありませんし、それを読み解くには一定の知識が必要です。更に、入居一時金という特殊な価格設定を取っている場合は、決算書が黒字だからといって、経営が安定しているとは言えません。
ここでは、介護付有料老人ホームを例に財務諸表以外で、経営安定の指標となるいくつかのポイントを挙げます。

① 入居率の低迷
一つは、入居率です。
どのような商売、事業でも、お客がいなければ事業は成り立ちません。特に、高齢者住宅ビジネスは、建物設備費や人件費などの固定費比率の高い事業です。一般的に、高齢者住宅の事業計画では、損益分岐を八割程度の入居率で収支計画を立てています。しかし、運営を始めて何年も経過するのに、見学に行くと半数以上の居室が空室になっている事業者や、一部フロアーが全く利用されていないところもあります。
運営当初であれば、これから入居者が増加していくということも考えられますが、開設後数年が経過しても、居室のたくさん空いている高齢者住宅は、その経営状態に十分な注意が必要です。

② 介護スタッフ不足・離職率
入居者確保と介護スタッフ確保は、高齢者住宅経営の根幹です。
この先、少子高齢化の伸展で、どちらがより難しくなるかと言えば、後者です。
「介護の仕事は大変な仕事だから、離職率が高い・・」と言われていますが、一般企業(15.5%)と比較して、介護業界の離職率(16.7%)とそれほど突出して高いわけではありません。
問題は、事業者によって離職率は二極化しているということです。介護労働者(正規職員)の離職率が10%未満の事業者が全体の4割に上る一方で、離職率が30%以上という事業所も20%を超えます。
残念なことですが、介護付有料老人ホームは、他の介護サービス事業と比較しても離職率が高いのです。
介護スタッフが不足すれば、入居希望者がいても受け入れることはできません。また、介護スタッフが次々離職するということは、経営だけではなく、サービスも不安定になるということです。
離職者の多いところ、派遣スタッフの多いところは注意が必要です。

③ 事業者が何度も変わっている
高齢者住宅業界は、「これからは高齢者ビジネスの時代だ」「高齢者住宅は儲かる」と経営ノウハウがない事業者が参入しています。また、何も知らない土地所有者に「土地の有効活用」「節税対策」などをちらつかせ、「これからは高齢者住宅の時代だ」と営業をしているデベロッパーや経営コンサルタントもたくさんいます。

そのため、「こんなはずではなかった」「聞いた話と全く違う」と撤退するケースは少なくありません。
しかし、突然の倒産や事業閉鎖が大きな社会問題にならないのは、またそこに、「経営中の事業者を買収して参入しよう」と参入する事業者がいるからです。ニュースで話題になるのは大規模なM&Aですが、それ以外の中小の高齢者住宅でも、次々と経営者は変わっています。

ただ、プロの目からみれば、経営ノウハウがないから、サービス内容や商品性に課題があるから失敗しているのです。加えて、このような高齢者住宅を購入する側の事業者は、更にノウハウがありません。素人経営の高齢者住宅をより素人が買っているようなケースが大半で、M&Aなどで購入後にまた、「こんなはずではなかった」ということになり、何度も転売され、事業者が二転三転しているのです。
そのたびに、価格が改定されたり、サービスが低下し、入居者の負担は増えていきます。巨額の一時金を支払っているために、逃げ出すこともできず、「どうしてこんなところに入居したんだろう……」「最初の頃は良かったのに……」と頭を抱える高齢者、家族も少なくありません。

④ 基本的な修繕ができていない
高齢者住宅の建物や設備は、開設時が最高の状態で、年月が経つにつれて必ず劣化していくものです。
トイレや入浴設備費等の最新設備でも、毎年次々と新しく高機能のものが発売されますし、白く美しい外壁も、汚れやひび割れが目立つようになります。不動産としての建物・設備の価値が下がっていくということは避けられません。
また、経年劣化による建物設備の機能の劣化は、つまずきによる転倒や骨折の原因にもなります。
そのため、定期的な点検修理、計画的な修繕は不可欠です。

しかし、中には、エントランスのタイルがひび割れていたり、駐車場や中庭の草が伸び放題で、きちんと修理、清掃管理ができていないところもあります。
それは、お金がないから、できないのです。適正な時期に適正な修繕が行われなければ、建物全体の劣化が進み、修繕に多額の費用が必要になります。また、ひどい場合、建物の骨格となる鉄筋が腐食するなど建物の耐久性にも影響することになります。
この大規模修繕の問題は、一般の分譲マンションや賃貸アパートでも発生しており、修繕積立金の不足によって修繕ができず、手すりが腐食する等、大きな社会問題となっていますが、必ず、遠くない未来に高齢者住宅でも同じ問題が発生します。

⑤ 償却期間が短い
もう一つ、今後、経営悪化のリスクになるのが、有料老人ホームの長期入居リスクです。
どちらを選ぶ・・入居一時金か?月額費用か?🔗で述べたように、「家賃の前払い」「終身利用権」を一時金として徴収している事業者は、償却期間内は高い利益がでますが、それを超えて入居する高齢者が多くなると、入居率が高くても収支が悪化するという特性、リスクを持っています。
この長期入居リスクを回避するためには、「償却期間」と「入居者の年齢」のバランスが取れていることが必要ですが、素人事業者は、安易に「償却期間を短くした方が、早く償却(回収)できる」と安易に考えがちです。70代後半、80代前半の高齢者が多い反面、償却期間が5~6年程度と短い事業者は、現在利益が出ていても、また入居率が高くても、将来的に赤字に転落するリスクが高いのです。

サービスの質と経営の質はリンクする

以上、5つの視点から、経営が不安定な高齢者住宅の特徴を5つ挙げました。

未来倶楽部のトラブルを見てもわかるように、高齢者住宅の経営状態は、「大規模修繕」「長期入居リスク」などの特殊事情が大きいため、公認会計士が決算書を見ても、完全に把握することは難しく、また大手だから・・といって安心というわけでもありません。実際、全国有数の規模を誇る大手事業者でも、ビジネスモデルに問題があり、破綻間近ではないか・・と噂されるところもあります。

また、高齢者住宅は、30年40年、それ以上の長期安定経営が必要です。
経営者も経営環境も変化していきます。「経営が安定している高齢者住宅はここを見ればわかる」「絶対に潰れない高齢者住宅を教えてほしい」と言われても、それを明確に示すことは難しいのです。

ただ、一つ確実に言えることは、「サービスの質」と「経営の安定」は一体的なものだということです。
トラブルや事故などのリスク管理、サービス管理ができている事業者は、入居者・家族の満足度は高く、介護スタッフも安心して働くことができます。また、地域のケアマネジャーや医師からの連携もうまく、信頼も高くなります。「安心です、快適です」ばかりで、サービス管理、リスク管理のノウハウがないということは、経営管理のノウハウも能力もないということです。

「サービスの質の高い事業者は経営が安定する」というのは、事業種別に関わらず、至極当然のことだと言えるでしょう。


「ほんとに安心・快適?」 リスク管理に表れる事業者の質

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高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばない」こと

  ☞ ポイントとコツを知れば高齢者住宅選びは難しくない (6コラム)
  ☞ 「どっちを選ぶ?」 高齢者住宅選びの基礎知識 (10コラム)
  ☞ 「ほんとに安心・快適?」リスク管理に表れる事業者の質 (11コラム)
  ☞ 「自立対象」と「要介護対象」はまったく違う商品 (6コラム)
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