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重要事項説明書① ~全体像を読み解く~

高齢者住宅の重要事項説明書の類型・表示事項から見えること。第一のチェックポイントは基準日。その他類型、居住権利、利用料の支払い方式、介護保険の利用区分など、全体像からこれからの重要事項説明書の中身を理解する。

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 035


高齢者住宅の重要事項説明書は、事業者や建物設備の概要、サービス内容、入居者数、スタッフ数などの事実が羅列してあるだけのものです。
ただ、そのチェックポイントを理解していれば、サービス内容だけでなく、事業者の資質、ノウハウ、さらには経営状態が手に取るように見えてきます。
自治体によって書き方の指導に若干の違いはありますが、その中身はほぼ全国統一です。
せっかく、高齢者住宅選びのツールとして、公的な書類が整備されているのに、ほとんどの人がその読み方、使い方を知らないというのは、とてももったいないことです。

高齢者住宅選びのポイントは、この重要事項説明書を読み解くことだと言っても過言ではありません。
ここでは、介護付有料老人ホームを例に、どのようなことが書いてあるのか、プロはどのような点を見ているのか、そのチェックポイントを見ていきましょう。

策定された日付(基準日)をチェックする

まず、第一にチェックすべきは、重要事項説明書の作成、情報開示に対する意識です。
この重要事項説明書は、その書式、記入内容は決まっていますが、実際には全体で10頁のものから、20頁を超えるものまで、事業者によって全く違います。ページ数が多ければよいというものではありませんが、ざっと目を通すだけで、他の事業所のコピー&ペーストでいい加減につくったものか、入居者・家族に、わかりやすいよう丁寧につくられたものかは一目瞭然です。

中でも、「情報開示の意識」が如実に表れるのが、策定された日付(基準日)です。
重要事項説明書は「現在の入居者数」「過去一年の退居者数」「現在の介護看護スタッフ数」などの現状把握のための資料ですから、厳密に言えば契約時点での最新データでなければなりません。
ただし、送付時、契約時に随時見直すということは現実的に難しいため、3ケ月、半年に一度と、期間を区切って定期的に見直ししているところが多いようです。
しかし、中には1年近く、ひどいところは2年以上前というところもあります。契約の根幹となる資料の整備さえ、「きちんと情報を開示する気がない」「言われるまで、放っておく」といういい加減な事業者ですから、サービスの質、経営の質も、その程度だということがわかります。
重要事項説明書が半年以上のところはイエローカード、一年以上のところはレッドカードです。

類型・表示事項をチェックする

では、実際にその内容を丁寧に見ていきましょう。
最初に書かれているのは「類型・表示事項」です。
これはその高齢者住宅制度、介護保険制度など、基本となる法的な分類です
一つ一つ、きちんと内容とポイントを見ていきましょう。

【類 型】
有料老人ホームの類型は、介護付、住宅型、健康型に分かれます。
住宅型は、高齢者住宅ではなく外部の介護サービス事業者からサービスを受けるタイプ、健康型は介護が必要になれば退居を求められる契約の有料老人ホームです。中度・重度 要介護高齢者住宅の基本 ~介護システム~🔗で述べたように、(将来を含め)介護目的であれば介護付であることが原則です。健康型だけでなく、住宅型も重度要介護になれば、実質的に生活はできませんから、要介護状態が重くなればもう一度住み替えるということが前提になります。

介護付には「一般型」と「外部サービス利用型」の二つの種類がありますが、現在の有料老人ホームの99%は「一般型」です。中段の「介護保険の利用」特定施設入居者生活介護(一般型)も同じ意味です。
ここでは、介護付(一般型)有料老人ホームの説明をします。(外部サービス利用型について詳しく知りたい方は、事業者向けのシステムツールとしての特定施設入居者生活介護🔗を参照ください)

【サ高住の登録の有無】
高齢者住宅選びにおいては「有料老人ホームか、サ高住か・・・」と聞かれることも多いのですが、これは二者択一の制度ではありません。有料老人ホームでも、同時にサ高住の登録をしている高齢者住宅も一部あります。有料老人ホームで同時にサ高住の登録もしているところは「有」ということになります。どちらを選ぶ・・有料老人ホームか、サ高住か🔗で述べたように、登録や届け出の最低基準が違いますので、「有」という事業者は、有料老人ホームとサ高住どちらの最低基準もクリアしていると言えます。
ただ、サ高住の基準は自立高齢者を対象としたものですから、要介護高齢者の生活に適したものではありません。「有」だから優良だというものではなく、それほどこの項目は重要ではありません。

【居住の権利形態】
次は、居住の権利形態です。
私たちが一般的にマンションを探す場合、購入するか、賃借するかのどちらかです。
これを居住者の権利からみれば、前者は所有権、後者は借地権(賃貸借方式)となります。これに対し、有料老人ホームの場合は大半が利用権で、サービス付き高齢者向け住宅の場合は借地権(賃貸借方式)です。
これは何が違うのと言えば、居住者(入居者)の住み続けられる権利の強さです。
最も強いのは所有権(所有者ですから)、その次が借地権(賃貸借方式)、そして最後が利用権です。
前者二つは法律に定められた権利ですが、利用権だけは契約上の権利です。そのため所有権、借地権(賃貸借方式)は全国共通の権利ですが、利用権はそれぞれの契約内容によって違います。

最も大きな違いは、高齢者住宅事業者が「倒産した時」の取り扱いです。
借地権(賃貸借方式)の場合、その高齢者住宅が倒産しても、引き続き住み続ける権利は法的に守られています。一方の利用権の場合、事業者が倒産すれば契約終了となりますから、一方的に退居を求められることになります。ただ、高齢者住宅が倒産すれば、食事や介護看護などのサービスもストップしますから、居住する権利だけが守られていても、実質的に生活できなくなります。
また、居住者の権利が強いということは他の入居者の権利も強いということです。人間関係や認知症などのトラブルがあっても強い「借地権」があるために、対応が難しいという側面もあります。
識者と呼ばれる人の中にも、「高齢者住宅は利用権ではなく、賃貸借方式であるべきだ…」という人は多いのですが、実際にはそう単純なものではなく、高齢者住宅の居住の権利はどうあるべきか…はまだ、検討途上にあるといって良いでしょう。

【利用料の支払方式】
居住の権利形態で注意が必要なのは、「利用料の支払方式」で高額の入居一時金を支払う場合です。
どちらを選ぶ ・・ 入居一時金方式? 月額払い ①? 🔗どちらを選ぶ ・・ 入居一時金方式? 月額払い? ②🔗 で述べたように、現在の高齢者住宅の家賃支払いは、大きく前払金方式(入居一時金方式)と月額払い方式に分かれています。この前払金方式(選択方式含む)は、上記の利用権方式をとっている有料老人ホームのみの価格設定方式で、借地権(賃貸借方式)は、月額払い方式しかありません。

述べたように、利用権は、法的な権利ではなく、契約上の権利です。そのため高額の入居一時金を支払っていても、事業者が倒産すれば契約は強制終了となります。第三者の事業者に経営者が変わって事業継続しても、従前の契約がそのまま引き継がれるわけではありません。退居を求められることもありますし、2千万円、3千万円を払っていても、まったくお金がかえってこないこともあります。
そのため、高額の入居一時金を支払う場合は、その経営状態や一時金の保全の有無について、より厳しく、しっかりチェックをすることが必要になるのです。

【入居時の要件】
入居時の要件は、大きく3つに分かれています。
一つは、要介護1~5の要介護高齢者のみを対象としている介護専用型です。これは自立、要支援の高齢者は入居できません。
混合型(自立除く)は、要支援高齢者と要介護高齢者が対象で、自立高齢者は入居できません。
もう一つが、混合型(自立含む)で、自立、要支援、要介護高齢者すべてが対象となります。
事業者の入居者確保の視点から見れば、混合型にすれば対象者が広がるのですが、どちらを選ぶ・・介護が必要になってから? 早めの住み替えニーズ?🔗で述べたように、要介護高齢者の住宅と自立高齢者の住宅は、基本的に全く違うものです。特に、混合型(自立含む)で「自立から重度要介護まで安心快適」と言っている事業者は、そのことがわかっていない素人事業者の可能性があります。

【居住区分】
居室区分は、有料老人ホームの場合、定員は一人、個室が基本です。
ただし、一部の有料老人ホームでは、夫婦や姉妹で入居するための二人部屋というのも、一定割合整備されているところがあります。2人部屋は親族のみというところが多いのですが、一部、友人同士などでもOKというところもあります。ただし、二人部屋を希望する場合、必ずどちらが先に亡くなることになりますから、夫婦での入居を考えている場合、一人になった時の管理費やその他費用などの取り扱い、個室への居室の変更、返還金の有無などについて、きちんと確認する必要があります。

【介護の関わる職員体制】
最後は、介護に関わる職員体制です。
介護付有料老人ホーム(介護付)の場合、職員体制は【3:1以上】【2:1以上】などと、入居者(要介護高齢者)対比で示されています。
特定施設入居者生活介護の指定配置基準は【3:1以上】ですが、中度・重度 要介護高齢者住宅の基本 ~介護システム~🔗で述べたように、将来を含め介護目的で入居をするのであれば、【2:1以上】は必要です。ただし【2:1以上】であれば、どこでも重度要介護高齢者になっても安心、快適というわけではなく、中度・重度要介護高齢者住宅の基本 ~建物設備~🔗で述べたように、生活環境や介護環境の安定は、建物設備設計にも大きく関係してきます。また、「介護に関する職員体制」ですが、ここには介護スタッフだけでなく、看護スタッフも含んだ配置です。ですから、同じ【2:1以上】でも、同じ介護システムではなく、看護師の配置は違います。
これは、介護スタッフ配置のところで詳しく解説します。

以上、重要事項説明書の「類型・表示事項」について解説しました。
法的な制度分類を中心とした全体像、概要を示したものですが、きちんと制度を理解していれば、これだけでも、どんなことをチェックすればよいのか、どのようなリスクがあるのか、たくさんのことが見えてくるでしょう。



高齢者住宅選びの根幹 重要事項説明書を読み解く

  ⇒ 重要事項説明書を読めば、高齢者住宅のすべてわかる 🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ① ~老人ホームの全体像を読み解く~ 🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ② ~事業主体・事業所概要を読み解く~ 🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ③ ~建物設備の権利関係を読み解く~ 🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ④ ~スタッフ数・勤務体制を読み解く~ 🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ⑤ ~介護サービスの専門性を読み解く~ 🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ⑥ ~介護スタッフの働きやすさを読み解く~  🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ⑦ ~提供されるサービス概要を読み解く~  🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ⑧ ~協力病院など医療体制を読み解く~  🔗

高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばない」こと

  ☞ ポイントとコツを知れば高齢者住宅選びは難しくない (6コラム)
  ☞ 「どっちを選ぶ?」 高齢者住宅選びの基礎知識 (10コラム)
  ☞ 「ほんとに安心・快適?」リスク管理に表れる事業者の質 (11コラム)
  ☞ 「自立対象」と「要介護対象」はまったく違う商品 (6コラム)
  ☞ 高齢者住宅選びの根幹 重要事項説明書を読み解く (9コラム)
  ☞ ここがポイント 高齢者住宅素人事業者の特徴 (10コラム)
  ☞ 「こんなはずでは…」 失敗家族に共通するパターン (更新中)

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