日本の高齢者対策の本丸は、85歳以上の後後期高齢者の激増。
重度要介護高齢者の増加によって、爆発的に増えるのが老老介護、認認介護、介護離職。財源、人材が極めて限定される中で「介護」「福祉」「住宅」「低所得者」の対策を効率的・効果的にどうすすめていくのか。
高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』 008
未曾有のリスクである少子高齢化の問題が本格化するのは、これからです。
その本丸は85歳以上の後後期高齢者の増加です。団塊世代の高齢化によって、85歳以上の高齢者は2035年までの20年足らずの間に、500万人から1000万人へと激増します。加えて、少子化、核家族化の進展によって、その3分の2が独居高齢者、高齢者夫婦世帯になると予想されています。
現在、要介護高齢者が要介護高齢者を介護する「老老介護」、認知症高齢者が認知症高齢者を介護する「認認介護」、また親の介護のために仕事を辞める「介護離職」、親の介護問題を原因とする「介護単身赴任」「介護離婚」、更には介護を苦にした「介護自殺」「介護心中」が社会問題になっていますが、そのような悲惨な状態が本格化するのは、まさにこれからです。
この85歳以上の後後期高齢者の増加への対策は、大きく分けて4つあります。
高齢者対策 ① 介 護 対 策
一つは、介護対策です。
表を見ればわかるように、84歳までの高齢者と85歳以上の高齢者では、要介護発生率、特に重度要介護高齢者が全く違います。後期高齢者でも84歳までの高齢者は、要支援を含めても要介護発生率は20%未満であるのに対し、85歳以上となると、要介護発生率は60%、要介護3以上の重度要介護発生率は23.5%に達します。
認知症高齢者の増加も大きな課題です。
認知症の発症率も、年齢が上がるにつれて高くなり、75歳~79歳までは11%程度、80歳~84歳でも24.4%なのに対し、85歳以上になると、55.5%と半数以上の人が、認知症となります。
その結果、2015年では525万人の認知症高齢者は、5年毎に100万人単位で増加し、2030年には830万人、2040年には953万人、2050年には1000万人を超えると推計されています。
この重度要介護高齢者、認知症高齢者の激増が、介護問題の本丸です。
高齢者対策 ② 福 祉 対 策
二つ目は、老人福祉対策です。
介護保険がスタートするまで、高齢者介護は老人福祉施策の中で行われてきたこともあり、いまでも一部のメディアでは「介護」と「福祉」という言葉を混同して使っていますが、これは基本的に違うものです。
介護とは要介護高齢者に対する「介護サービス」のことであり、これに対する施策が介護保険です。
これに対して、老人福祉は、介護サービス、介護保険だけでは対応できない高齢者虐待、介護拒否(セルフネグレクト含む)、独居認知症高齢者のごみ屋敷問題など、様々な福祉課題へ対応するものです。
「介護が必要な老親に対する虐待」と聞くと、「とんでもない家族だ」と思うかもしれませんが、その背景には、長期にわたる介護疲れや介護離職、経済的な貧困、リストラ、ニートなど、複合的な家族の課題が潜んでいます。今後、特に都市部で激増する、独居高齢者、高齢者夫婦世帯は、農村部などと比較すると近隣との関わりが薄く、今後、地域の中で孤立する「要福祉」の高齢者、家族が激増することは間違いありません。
高齢者対策 ③ 低 所 得 者 対 策
三つ目は、低所得者対策です。
厚労省の被保護者調査によると、2019年6月現在の生活保護受給者は207万人、非保護世帯は163万世帯となっています。このうち高齢者世帯は55%と全体の半数を超え、またその内9割が独居高齢者世帯であることが知られています。更に、今後、独居高齢者が激増すること、国民年金の未納率が低いことなどを考え合わせると、高齢者の生活保護受給世帯が急激に増えることは間違いありません。
問題は、生活保護の増加だけではありません。現在、85歳以上の人が60歳で定年を迎えたのは、バブルが崩壊した平成5年よりも前ですから、まだ恵まれていると言っても良いでしょう。行動経済成長に支えられ、定期昇給、終身雇用で定年まで働き、退職金をもらい、年金も60歳からスタートしています。
しかし、これから85歳になる団塊世代は、バブル崩壊後の長期の景気低迷によるリストラで、高齢期に入る前に生活設計の変更を余儀なくされています。ほとんど貯蓄がないまま高齢期に突入し、年金の受給年齢も段階的に引き上げられています。ギリギリの生活の中で、病気や要介護状態になって働けなくなれば、途端に生活が行き詰まることになるのです。
高齢者対策 ④ 住 宅 対 策
最後の一つは、住宅対策です。
これは、住宅が足りないというものではありません。
高齢者の持ち家率は、80%以上と高くなっていますし、現在でも、全国の空き家率は17%、野村総研が出した推計によれば、2033年には30%を超えるとしています。
問題は、その住み慣れた自宅の多くが、高齢者、要介護高齢者の生活に適していないということです。
古い日本家屋は木構造を基本としており、尺貫法で作られているため、一つ一つの部屋が小さく、出入り口も小さくなっています。そのため、敷居などの小さな段差による転倒事故、階段からの転落事故が多く発生しています。また、高温多湿の気候に対応するためにすき間が多く、広い家で居間と浴室の温度が極端に違うため、血圧の急上昇による入浴時の心筋梗塞や脳梗塞も増えています。
また、自家用車に乗れなくなると、買い物に行くことも難しくなります。
郊外型の大規模スーパーの増加によって、地域商店街の衰退や店舗の廃業が進んでおり、「買い物難民」は人口が減少する山間部や過疎地だけの問題ではありません。
以上4つの対策を挙げました。
これら、「介護対策」「福祉対策」「低所得者対策」「住宅対策」は密接に関係しています。
今後、85歳以上高齢者が激増する都市部では、職住が分離する中で、近隣との関わりが薄く、地域コミュニティが発達していません、人口密度が高くても、隣近所に誰が住んでいるのか知らない、挨拶程度の関係でしかないという人が多く、それぞれの家族・高齢者か孤立しています。一方の地方においても、住民のほとんどが高齢者、後期高齢者の集落が増えており、限界集落ともなれば、適切な対策をとることはできません。
特に、「自立対象」と「要介護対象」では高齢者住宅の商品が違う?で述べたように、自立高齢者と要介護高齢者では、生活を維持するために必要な建物設備や介護サービスの内容が違います。重度要介護状態になると24時間365日の包括的な介助、ケアが必要となるため、住み慣れた自宅であっても、重度要介護、認知症になると一人で生活し続けることはできないのです。
現在でも、独居認知症高齢者の火の不始末による火災、ごみ屋敷など様々な社会問題が発生していますが、これらが爆発的に増加するのは、まさにこれからなのです。
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