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介護休業を上手に取ろう ~ 介護休業の取得事例 ② ~  

40代後半。小さな出版社で働く女性編集者。いまのタウン誌の仕事にやりがいを感じている。突然、一人暮らしの父が脳梗塞となり半身麻痺。二人の兄がいるが子供もいるため介護は困難。金銭的には余裕があるが、仕事を辞めて実家にもどって介護をするしかないのか。

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 057


【介護問題の発生】

私は40代後半、小さな京都の出版社(タウン誌担当)で、編集の仕事をしています。
一度結婚しましたが、離婚し、子供はいません。母は10年前に亡くなっており、父は85歳で実家のある大阪で一人暮らし、愛知と広島に2人の兄(7歳上、5歳上)がいます。
5月のある金曜日、仕事が終わり帰る準備をしていたところ、「父さんが倒れたらしい。すぐに病院に行ってほしい」との長兄からの電話。とるものもとりあえず駆けつけたところ、ちょうど手術が終わったところでした。庭の手入れ中に倒れたところを運よく近所の人に発見されたということで、手術は成功したのですが、年齢のこともあり、リハビリを行っても左半身の麻痺が残り、車いす生活になるだろうとのことでした。

翌日、駆けつけた兄たちと三人でこれからのことを話し合うことになりました。
どちらも、「転勤族だし子供もいるので、引き取って介護をすることは難しい」というのが結論でした。そう言うであろうことはわかっていましたし、直接言葉にしはないものの「大阪から通うことは難しいか…」と、私が実家に戻って父の面倒を見てほしいと考えているようでした。確かに、父には4000万円ほどの預貯金があり、年金も月額20万円程度はあるので、私が仕事を辞めてもすぐに生活に困ることはありません。介護費用としてそれぞれ月5万円程度(合計10万円)であれば負担することができることや、自宅や父の預貯金についても私が自由に使ってもよいと言いました。

ただ、私にも事情はあります。小さな出版社の一編集員(肩書だけは副編集長)ですが、今のタウン誌の編集という仕事が好きですし、社長や一緒に働くスタッフにも恵まれています。いまの仕事を辞めてしまうと、大阪で同じような条件の仕事を見つけることはできません。実家は大阪南部にあり、片道二時間程度の距離ですが、仕事の性格上、締め切りが近くなると残業も増えるため通うことは不可能です。
また、私が離婚するときに、感情な行き違いがあり、父との関係はあまり良くはありませんでした。兄たちは子供もいることから、お正月や夏休み、春休みなど、年に数度は、子供達を連れて泊りがけで遊びに来ていたようですが、特に母が亡くなって以降は、月に一度程度、様子をみがてら買い物や片付けに出向くくらいで、話が弾むこともなく、二時間程度ですぐに帰ってくるという関係でした。
それでも私が仕事を辞めるのが一番良いのだろう(それしかないだろう)ということはわかっていました。母が10年前にガンになったときに「美香ちゃん、お父さんのことお願いね」と手を握られたことも頭の中から離れません。社長や編集長は何と伝えればよいだろう、何といわれるだろう…契約社員にしてもらう、パートにしてもらうことはできるだろうか…と考えながら帰りの阪急電車に乗っていると、窓の外が歪んで見えました。

【上司に相談】

どのように話をすればよいか何度も独り言を繰り返し、ほとんど眠れなかったので、ポイントだけをメモにしておきました。

◆ 一人暮らしの父が脳梗塞で半身麻痺となり、日常生活に介護が必要になる
◆ 二人の兄は遠方に住んでいることや、子供もいることから介護は難しい
◆ 賃貸マンションで同居することは難しく、実家で介護をする必要がある
◆ 入院期間はリハビリを含め2ケ月程度を予定(リハビリ病院への転院を含む)
◆ その後、父の介護のために仕事を辞め、実家に戻ることを考えている

月曜日に、出勤してすぐに上司である編集長と社長に話をしました。必死に冷静に話をしたつもりでしたが、最後のところで自分でも、感情がこみあげてくるのがわかりました。社長と編集長は、急なことで驚かれたようでしたが、社長は自分の母親を自宅で介護された経験をお話くださり、
「介護は本人だけでなく、家族の生活・人生にも関わってくる大きな問題」
「突然のことで気持ちも混乱している中で、重大な選択をバタバタと決めると良くない」 
「最終的に決めるのは美香さん(私)ですが、今はテレワークや介護サービスもあるので、一番良い方法をみんなで考えましょう」

と仰ってくださいました。その優しい言葉にぽろぽろと涙がでました。また、編集長は、妹さんが京都で介護福祉士・ケアマネジャーの仕事をされているとのことで、「色々相談してみれば…」とわざわざ電話をしてくださいました。

その翌日、アポイントを取っていただき、編集長から紹介いただいたケアマネジャーの智子さんにお話しを聞いていただくことができました。
母はガンで入院しそのまま亡くなったので、介護保険のことは「トイレの介助」「入浴の介助」が必要になる、「デイサービス」「訪問介護」などのサービス、「要支援」「要介護3」といった単発的な知識しかありませんでした。また、その時までは「仕事を辞めなければいけないのか…」「会社にどのように伝えようか…」ということばかりが頭の中で回り続け、実際に必要な手続きや退院後の生活については考えられていませんでした。智子さんと話をする中で、現状や課題を整理することができ、適切なアドバイスをたくさんいただき、落ち着いて考えることができました。

① 今すべきことは、リハビリと心のケア
突然、脳梗塞になって一番精神的に落ち込んでいるのは父であるということ(そんなことさえ忘れていました)。精神的ショックや脳梗塞の影響から認知症になる人も多いことから、意欲をもってリハビリができるように、家族は精神的なサポート・ケアを積極的に行うこと。「頑張れ…」「しっかり…」といった言葉は本人を追い詰めることもあるので、「一緒に頑張ろう」といった寄り添う声掛けや、落ち着くように手や身体をさするといったケアも必要。

② 介護保険の申請は落ち着いてから
「介護が必要になる➾介護保険の申請が必要」と考えてしまうが、脳梗塞や脳出血などで状態が安定していない時には介護保険申請はできない。今はまだ脳梗塞の治療やリハビリが優先で、要介護認定調査の申し込みは、その治療経過によって状態が安定し、リハビリによって介護の必要度やその方向性が見えてきてから。

③ 先のことを見据えながら、先のことを考えすぎない
リハビリや残存機能によって、どのような介護が必要になるか、自宅で生活し続けられるか否かは一人一人違う。介護の問題から目をそらせてはいけないが、逆にあれこれと先のことまで考えすぎて不安ばかりが増大するのも良くない。「今できることをしっかりやること」「方向性が見えてくれば考える」という割り切りが必要。

「仕事を辞めなければならないかもしれない」「みんなに迷惑をかけないよう早めの決断が必要」ということが心の負担になっていたのですが、私だけでなく「親の介護で仕事を辞める人は多い」と話されたうえで、「親の介護をしたいので仕事を辞める」というのと、「親の介護で仕方なく仕事を辞める」というのは全く違うことだよ・・と言われました。そして少しでも「仕方なく…」という気持ちがあるのなら、絶対に後悔するよとも言われました。「あなたがどうしたいのか・・が一番大切」「仕事か介護かという二者選択ではなく、仕事を続けながら介護できる体制を一緒に考えましょう」と言ってくださいました。

【父の退院、介護休業の取得】

手術をしていただいた病院に4週間程度、そこからリハビリ病院に一ヶ月半ほど入院をしました。
その間、毎週、水曜日と土曜日を休みにしてもらい病院に行き、忙しくて行けない時には、兄や兄嫁、甥姪が代わりに行ってくれました。車いす生活になるといわれていましたが、リハビリを頑張ってくれた結果、左半身に麻痺が残ったものの、何とか自立歩行(杖歩行)と自立排泄(誘導などのサポートが必要)ができるまでに回復し、要介護2と判定されました。リハビリ病院からの紹介でケアマネジャーさんも決まり、介護ベッドや手すりの設置、週に二回の通所リハビリ(入浴付)と週三回の訪問介護(調理・掃除・買い物・洗濯など)をお願いすることにしました。

父の退院に合わせて、私も、二ヶ月の介護休暇をいただくことになりました。
入院中は「仕事はどうなっている?」「そんなに何度も来て大丈夫か?」「何度も来なくていいぞ」と心配してくれたのですが、やはり退院後のことが心配だったようで、「お父さんの退院に合わせて、二ヶ月お休みをいただいたから…」と言うと少し驚いたようでしたが、気丈な父が「すまんなお前にばかり迷惑かけて…」と涙ぐみ、私も一緒に泣いてしまいました。
退院の一週間前からお休みをいただき、ケアマネジャーさんとの調整、ケアカンファレンス、住宅改修(手すりの設置)などを行いました。

智子さんからも、介護休業の取得にあたって二つのアドバイスをいただきました。
一つは、介護休業は私が介護をする期間ではなく、介護休業後の生活を考える期間だということです。
「介護休業は二ヶ月」ということを土台にして、その間に、その後のこと(自宅で生活し続けるのか、その課題は何か、できない場合どうするのか…)について考え、想定し、覚悟しなければなりません。介護休暇の二ヶ月満了が近くなってから「一人ではやっぱり心配…」「独居は難しいかな…」にしてはいけないということです。そのため、買い物や調理、掃除、洗濯などは私が同居している間はできますが、私がいなくなった後のことを考えて、その準備、テストとして訪問介護もお願いすることにしました。

もう一つは、私の意向をきちんと父と兄弟に伝えるということです。
医療や介護サービスの現場では、「本人の意向・意思を第一に考える」ということが基本ですが、家族間では「父の意向・意思を尊重しながら、家族(私)のできること、できないこと、意思・意向も伝えなければならない」ということです。また、子供が三人いる場合、「介護負担はそれぞれ1/3ずつ協力し合って…」というのは理想だけれど、それぞれの生活状況や物理的距離などによって、現実的にそのようなケースはほとんどないと言われました。今回の場合、私が中心になって介護を行うことになるため、兄弟には自分の考えや方針をきちんと伝え、金銭的な支援などできることを依頼するとともに、決めた方針に対して、あれこれ口を出さないようにさせることも大切だと言われました。ごちゃごちゃ言うなら、任せるから全部そっちでやってくれ…と時にはキレることも必要と笑いながら言われました(幸い、そんなことにはなりませんでしたが…)。

父が自宅に戻ってきた翌日、父、二人の兄と兄嫁、私の6人でこれからのことについて話し合いました。
「介護休暇の二ヶ月しか取れない、仕事を辞めるつもりはない」といった私に、一番共感してくれたのは長兄の兄嫁でした。「美香さんにばかり負担をかけて申し訳ないと思っている。仕事を辞めるなんてとんでもない。私もできる限りのことはさせてもらう」と言ってくれました。次兄の兄嫁も土日には子供と一緒に来てくれるというので、そこで、そこから一ヶ月分のスケジュールを決めることができ、5人でラインを交換し、父の情報を共有することにしました。
介護休業をいただいたおかげで、一変通りの親戚づきあいしかなかった兄嫁や姪甥たちとも仲良くすることができ、また父も、私の作った料理を美味しいとよく食べてくれ、二人で少量の晩酌をしたり、昔話をしたりして、子供の頃は「お父さん大好きの父親っ子」だったことを思い出しました。

【介護不安、老人ホームの検討】

ただ、その一方で、実際に実家での生活がスタートし、一週間、二週間がたつと、日によって歩行にふらつきが大きいことやトイレで立ち上がる時に転倒したこともあり、「二ヶ月後に本当に一人で生活することができるのか…」という不安が大きくなりました。「介護休業生活はどうですか…」とお電話いただいた智子さんに、その不安を相談すると、「介護サービスの変更は可能だが、本人も家族も一定の覚悟は必要」「もしくは、老人ホームや高齢者住宅を探してみれば…」と提案されました。
特養ホームや介護付有料老人ホームも考えないことはなかったのですが、父が納得するか疑問でしたし、また10年前に亡くなった叔母(母の一番上の姉)が4人部屋の特養ホームでは、ほとんどすべてに介助が必要な寝たきりや認知症の人が多かったイメージもあり、躊躇していました。
しかし、今は、全室個室であることや、自宅で生活することが不安な父と同じような要介護度の高齢者も多いこと、また老人ホームに入るというのは、「子供の近所のアパートに住みかえる」「たまたまそのアパートに介助機能が付いていた」という程度のことでしかない、そして「京都で探せば、仕事終わりに、毎日会いに行けるじゃない」と言われました

その話を兄弟や兄嫁にすると、「そっちの方が良いと思う」とみんな賛成してくれました。
夕食でお酒を飲んでいるときに、その話をすると「そうだなぁ…」と考え込んでいましたが、「そっちの方がいいかもなぁ…」と了承してくれました。そこではまだ「老人ホームに決定」ではなく、金額やサービス内容もあるので、資料を取り寄せたり、見学にいったりして「良いところが見つかれば…」ということにしました。
その日から、「京都近郊(私が通えるところ)」「入居一時金が数千万円じゃないところ」「介護サービスが付いているところ」とターゲットを絞って探し始めました。介護付有料老人ホームだけでなく、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など様々な種類があるのですが(みんな介護が必要になっても安心・快適と言いますが…)、現在要介護2であることや、将来、脳梗塞等が再発して介護が重くなったときのことを考えると「介護付が良い」というアドバイスを受け、最終的に5つくらいの介護付有料老人ホームに絞り込んで見学し、うち2つのホームは、父も一緒に、二回見学にいきました。
一ヶ月くらいかけて、じっくりと選んだ結果、入居一時金がないこともあり月額費用が少し高いのですが、施設長さんが介護福祉士さんで、スタッフの方も感じのよい介護機能の整ったところに決めました。月額費用だけでなく医療費などその他生活費を含めると、父の年金では足りない(月に8万円ほど不足)ので兄たちが出すと言ってくれたのですが、私が年金や生活費を管理し、足りない分は父の預貯金から取り崩すことにし、兄たちには、足りなくなった時にお願いすることと、できるだけ父に面会に来てやってほしいと伝えました。

「新しい生活に慣れるだろうか…」と心配していたのですが、スタッフの皆さんもよくしていただいて、他の入居者の方と将棋をしたりカラオケをしたりと、家にいるときよりも元気になりました。最初の頃は毎日、面会にいっていたのですが、「そんな毎日来なくてよい」と言われ、「来週から忙ししからしばらく来れないよ」とか「取材で近くまで行ったので父の部屋でコーヒー休憩」とお互いに新しい生活になじんできました。

父が倒れたという電話を受けてから、介護休業・老人ホームへの入居まで怒涛のような3ヶ月でしたが、今から思うと楽しい3カ月であり、感謝した3ヶ月であり、そしてたくさん泣いた3ケ月でした。半年が経過し、それまでと同じように仕事をしていますが、社長や編集長、私の穴を埋めてくれた他のスタッフの皆さん、ケアマネジャーの智子さん、その他たくさんの人に本当に感謝しています。
「御恩は一生忘れません…」と言うとなんだか、大仰で軽い感じになってしまいますが、より会社やみんなの力になれるよう、これからも仕事を頑張りたいと思っています。




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