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介護休業取得に向けた「企業の取り組み強化」のポイント

介護は個人や家族のプライベートな問題ではなく、企業・組織の存続に関わる課題になっているという理解・認識が必要。会社・企業が行うべき介護休業取得に向けて、「啓蒙活動」「社内ルール」「相談員配置」という必要な3つの対策について考える。

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 063


介護離職は、個人の問題、社会問題というだけでなく、企業・組織の存続に関わる大きな問題です。
親の介護が必要になる世代は40代後半~50代と、一般の会社で言えば、課長~部長など企業・組織の中核になっている世代です。親の介護の問題はある日突然やってきますから、介護離職も突然やってきます。知識や経験をもった代わりの人材が簡単に見つかるわけではありませんから、会社組織にとっても大きなダメージとなります。

述べたように、在職中に出産した女性がいた事業所の中で、育児休業者がいた事業所の割合(申し出中も含む)は 87.9%ですが、介護休業の取得者がいた事業所の割合は2.0%しかありません。そのため「育児休業と違い介護休業のニーズは低い」「介護休業のニーズは一部に限られる」と考えがちですが、これは全く違います。

介護休暇・介護休業を上手に取ろう Ⅲ ~介護するための休業ではない~ 🔗 

2015年に第一生命経済研究所 ライフデザイン研究所によれば、40代、50代(両親とも死去した人を除く)の人に将来の親の介護不安について調査したところ、4人に3人(75.8%)は「不安がある」と答えています。この調査が行われた2015年から2035年にかけて85歳以上の後後期高齢者が二倍になること、その4人に3人は独居または高齢夫婦になること、さらに少子化によって兄弟姉妹が少ないことなどを考え合わせると、働き盛りの40代・50代で親がいる人にはほぼすべて関わってくる問題だということがわかるでしょう。
介護は個人や家族のプライベートな問題ではなく、すでに企業・組織の存続に関わる課題になっているという認識が必要です。ここでは介護離職を防ぐための方策として、会社・企業が行うべき介護休業取得に向けて、必要な3つの対策について考えます。

介護休暇・介護休業についての啓もう活動

まず、大切なのが介護休暇・介護休業についての啓もう活動です。
育児休業の取得が一般化されてきたことから、「育児・介護休業法」という法律の存在は知っている人は多いのですが、実際に介護休暇・介護休業の制度の中身を知っている人は一部に限られます。「介護休業と介護休暇は違うこと」「介護休業は介護のための休暇ではないこと」を知っている人は、人事部を除けばほとんどいないといって良いでしょう。そのため、「介護休業なんて無理だよ…」「介護って期間が分からないから大変なんだよ…」という答えが返ってくるのです。

繰り返し述べているように、介護休業というのは、育児休業とは違い、親の介護を自分がするための休暇ではなく、要介護状態になった親の生活環境や介護環境を整えるために所得する休暇です。と言っても、一変通りに制度や法律の説明をし、「介護休業を取りましょう」というだけでは不十分です。そのため、実際の介護休業の取得例を示し、取得によるメリットだけでなく、「生活環境の整備」「老人ホーム探し」など、介護休業中に行うべきこと、注意点がイメージできるように工夫することが必要です。

介護休暇・介護休業を上手に取ろう Ⅳ  ~介護休業の取得事例 ①~ 🔗
介護休暇・介護休業を上手に取ろう Ⅳ  ~介護休業の取得事例 ②~ 🔗
介護休暇・介護休業を上手に取ろう Ⅳ  ~介護休業の取得事例 ③~ 🔗

 

もう一つ、大切なことは、「介護休業の取得」を積極的に支援するという姿勢を明確にすることです。
介護休業の取得率を見てもわかるように、育児休業と比較すると社会の認識も高まっていません。実際、介護が必要になったときに会社に相談したという人は、全体の7.6%しかいません。「法律や制度がありますから介護休業とってくださいね…」とアピールしても、実務的、かつ積極的に支援しなければ、「親の介護」というプライベートな問題を会社に相談する人は増えないでしょう。「実際には取れないじゃん」「どうすればいいかわからない」「上司に相談してどうなるの?」では意味がないというよりも、「うちの社長や人事部は口だけさ…」と会社への信頼が揺らぐことになります。

介護休業取得に向けての社内ルール・書類整備

二つ目は、介護休業の社内ルール、所得に向けての検討事項、書類整備です。
介護休業は、「育児介護休業法」という法律に定められた制度であり、労働者の権利(事業者の義務)です。
 ① 介護休業の対象となる労働者の範囲
 ② 介護休業の対象となる家族の範囲
 ③ 介護休業の日数(93日)及び分割取得(3回まで)
 ④ 介護休業の申請方法と申請事項

などが法律で定められており、対象となる労働者から申請があった場合、事業者は介護休業を与えなければなりません。介護休業を取得したことを理由として、配置転換や降格などの人事上の不利益を与えることも禁止されています。休業期間中の有給・無給は事業者が定めることができます。無給の場合は、雇用保険の「介護休業給付金」を活用すれば、約2/3の給付を受けることができます。

ただ、これはあくまでも、法律上の基準、いわゆる最低基準です。
この介護休業は、基本的に「一定期間以上、全休する」ということを前提して作られていますが、コロナウイルス対応によって、テレワークや在宅勤務を進めている業種、部門はたくさんあるでしょうから、「テレワーク×介護休業」を組み合わせて、従業者により使いやすい休業ルールを設定することができるはずです。せっかく「介護休業給付金」という制度があるのですから、社員が使いやすいというだけでなく、事業者もうまく使うことが必要です。

もう一つ大切なことは、「介護休業を取得する社員・従業者に対する社内の支援体制の構築です。繰り返しになりますが、法律や制度があっても、会社が「介護休業とってくださいね」とアピールしても、実務的に会社が支援しなければ休むことはできません。
例えば、骨折や脳梗塞などで入院する場合、介護休業を取るのは1ケ月~2ケ月先になります。
 ① 現在行っているルーティン業務
 ② 介護休業中のスケジュール・業務予定
 ③ ①の業務代行者
 ④ ②の変更・対応
 ⑤ 代行できない業務への対応
 ⑥ 休業中の連絡方法 (電話・メールなど)

などについて検討・整理した「介護休業 業務調整予定表」を作って準備と心構えをしておけば、そうそう困ることはないはずです。
多くのサラリーマンが介護休業の取得を躊躇する最大の理由は、「会社に迷惑がかかる」と考えてしまうことです。介護休業を推進するのであれば、「その間の業務をどうするのか…」ということに対しても、休む本人も回りの人も困らないように、会社が積極的に手はずを整えると言うのが基本です。

介護問題専門の担当者を育成する

もう一つ、重要なことは相談体制の強化です。
育児休業の場合、その申請を行う従業者は、出産する母親本人もしくは父親です。子供が一歳(一定の場合二歳)になるまで、休業することができます。「どうして母親が育児をするんだ…、他に育児してくれる人はいないのか…」という人はいないでしょう。

これに対して、介護は一人一人、事情が全く違います。
介護休業の対象は、父母だけでなく、義理の父母、祖父母、配偶者、兄弟姉妹、子や孫まで含まれます。「独居の実母の介護」に限定しても、要介護状態(予測を含む)やその原因、現在の状況、更には、介護にかかる兄弟の有無やその関係、物理的な距離、同居の可能性など、介護問題にはプライバシーの根幹に関わる様々な問題が関わってきます。

また、すべての上司がみずから介護問題に直面し、その大変さがわかっているわけではありませんし、「風通しの良い会社」「なんでも相談できる上下関係」というのはエモーショナルな理想論です。そのため、「介護休業を取得したい」という申し出に対して、悪意はなくても「他に方法はないのか…、奥さんや他の兄弟に頼めないのか…」と安易に言ってしまうのです。

また、介護問題を説明するには、妻の介護問題や兄弟関係など、「実母の介護」とは関係のない言いたくないプライベートな問題にまで踏み込むことになりますが、それを反りの合わない上司や、新しくやってきたばかりの上司に相談しないでしょう。上司が「他の方法がないのか、他の方法を探せないのか」と問うことは、実質的に「介護休業を取るな」と言っているのと同じです。そのことが、会社にとっても、その従業者にとっても、また母親にとっても不幸の始まりであることに気づかないのです。

実は、これはいまだ社会的に「介護と働き方」が、上手くつながっていないという問題でもあります。
「介護が必要になれば、地域包括支援センターへ相談」というのが鉄則であり、セミナーや講演では私もそのように伝えます。しかし、ケアマネジャーや相談員が見ているのは、要介護高齢者本人の要介護状態・生活環境です。独居高齢者か高齢夫婦世帯か、また家族と同居しているのかは、ケアプランの作成に関わってくる要素ですが、「介護休業は取れませんか?」といった家族の働き方に踏み込むことはできませんし、もちろんそれを企業に提言することもできません。
はたらく人の9割に上る雇用者(サラリーマン)の、プライベートな介護問題と介護休業という働き方の見直しを繋げることができるのは企業・事業者なのです。
そのため、これからは人事部内に介護問題専用の担当者を設置することが必要になると考えています。

① 人事部内に介護問題専用の相談担当者を設置する
② 担当者はケアマネジャー等、専門的知識と実務経験のある人を採用
③ 介護問題への相談は上司が受けるのではなく、介護担当者へとつなぐ
④ プライベートな問題は秘密厳守、本人の希望以外は人事にも反映されない
⑤ 従業者の介護相談、介護休業取得と業務への復帰を支援
⑥ 介護休業、介護問題への取り組み、社内の啓もう活動

これは「介護休業の取得」だけでなく、その後のスムーズな「業務への復帰」にも大切なことです。
ほとんどの人にとって、親の介護は初めての経験ですし、介護休業の取得も初めてのことです。繰り返し述べているように、介護休業は、「要介護者の生活環境・介護環境を整えるための休暇」です。しかし、それがわからないと介護休暇を取得できたとしても、自分で介護を行ってしまい、それが一ヶ月、二ヶ月続くと、「自分が介護しないと親の生活が維持できない」「結局、仕事を辞めるしかない…」という「介護離職推進ための介護休暇」になってしまいます。
一方で、介護休暇を上手く活用できれば、一ヶ月・二ヶ月という短期間、業務を調整するだけで、介護問題を抱える労働者本人だけでなく、企業・会社にとっても多くのメリットを享受することができます。

企業規模によっては、専用のスタッフを確保することが難しいところもあるでしょうから、外部委託というのも一つの方法でしょう。
私たちが直面する超高齢社会の企業には、「介護休業の取得を推進している」ということだけでなく、「従業者の介護問題に向き合う」「介護と仕事の両立を図る」という、より積極的な取り組みが求められるのです。それは介護離職の減少というだけでなく、勤労意欲やチームとしての一体感など、有形無形の多くのメリットを生んでくれるはずです。




  ⇒ 介護離職が増える社会 ~独居後後期高齢者の激増~
  ⇒ 介護離職の個人・企業・社会のリスクを考える
  ⇒ 介護休業は、親を介護するための休業ではない
  ⇒ 介護休業を上手に取ろう ~ 介護休業の取得事例 ① ~
  ⇒ 介護休業を上手に取ろう ~ 介護休業の取得事例 ② ~
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  ⇒ 介護休業取得のポイント ~ 分割方法と二つの選択肢 ~
  ⇒ 介護休業期間中にすべきこと ① ~自宅生活時の留意点 ~
  ⇒ 介護休業期間中にすべきこと ② ~老人ホーム選択時の留意点 Ⅰ ~
  ⇒ 介護休業期間中にすべきこと ③ ~老人ホーム選択時の留意点 Ⅱ ~
  ⇒ 介護休業取得に向けた「企業の取り組み強化」のポイント
  ⇒ 介護休業取得に向けた「制度の取り組み強化」のポイント




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