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介護休業期間にすべきこと ③ ~老人ホーム選択時の留意点 Ⅱ~

高齢者住宅・老人ホーム選びの基本は、いい老人ホームを選ぶのではなく「プロの事業者」と「素人事業者」を見分けること。「いい老人ホーム」はそれぞれに違うが、素人事業者の特徴は共通している。高齢者住宅選びのポイントと視点について簡単に整理する

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 062


「介護スタッフによる暴行、虐待」「介護職員による殺人」などのニュースが増えています。それを聞くと「ひどい悪徳業者だ」と思うでしょう。
しかし、高齢者住宅業界は、「入居者を騙してやろう」「ひどい目に合わせてやろう」と悪意をもって経営している事業者多くありません。その一方で、圧倒的に多いのが、ノウハウや経営がないまま、「介護は儲かる」「需要が高まる」と安易に参入してきた素人事業者です。
例えば、介護付、住宅型、サ高住などすべての高齢者住宅で、「介護が必要になっても安心・快適」と標榜していますが、プロの目から見て、実際に「認知症・重度要介護上体になっても安心して生活し続けられる」という建物設備、介護システムが整っているところは、全体の3割程度はしかありません。
これは、事業者の規模、大手・中小を問いません。問題は、「だますつもりはなく、本当にそう思っている」ということが怖いのです。

「いい老人ホーム」は、希望するサービス、支払える費用などによって一人一人違います。
ただ、「高齢者住宅・老人ホーム選び」の基本は、いい老人ホームを選ぶのではなく「プロの事業者」と「素人事業者」を見分けること、つまり素人事業者を選ばないことなのです。「入ってみなければ、わからない…」「人によって、合う・合わないがあるから…」という人が多いのですが、そうではありません。素人事業者に特徴があり、特段の知識がなくても、それを見抜くのは簡単なのです。

老人ホーム・高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばないこと」

現在の高齢者住宅は、大手であっても、そのほとんどは、介護保険制度の発足以降に急増してきたものです。そのため素人事業者の特徴は、共通しています。その特徴を上げてみましょう。

① できないことをできると言ってしまう
「重度要介護にも対応、認知症になっても対応」という事業者は多いのですが、重度要介護高齢者や認知症高齢者に対応するには、それに対応できるだけの介護システムや建物設備設計が必要になります。
「食堂と居室フロアが分かれている」「住宅型・サ高住などの区分支給限度額方式」「基準配置の介護付有料老人ホーム」では、重度要介護高齢者には対応できません。「重度要介護高齢者も生活している…」とアピールするところもありますが、「毎日朝4時台に起こされ、食堂で昼間で放置」「コールを何度しても誰も来ない」というところもあります。「重度要介護高齢者も生活している」と「安全・安心・快適に生活できる」とは別のことです。
「元気な時に入居して、認知症や重度要介護状態になっても安心・快適」「要支援~重度要介護まで対応」というところもありますが、それは、要支援・軽度要介護高齢者と中度・重度要介護高齢者に求められるサービスの違い、建物の違いが判っていないからです。

② 美辞麗句・曖昧な説明
素人事業者の特徴は、「美辞麗句・曖昧な説明」が多いということです。
「入居者さま、ご家族さまの笑顔が、私たちの誇り・幸せです…」「介護はサービス業です、入居者さまはお客さまです…」「私たちの敬愛する本当におじいさん、おばあさんのように…」
介護経営者の中には、聞いている方が赤面するような、美辞麗句を重ねる人が多いのですが、そもそも高齢者住宅は身体機能の低下した高齢者を対象としているのですから、高齢者は転倒骨折、誤嚥窒息などのリスクが高く、様々なタイプの高齢者・要介護高齢者が集まって生活しているのですから、安易に「安心・快適」を標榜できるような事業ではありません。
「安心・快適…」「多分・恐らく…」「スタッフが全力で…」といった美辞麗句や曖昧な説明が多くなるのは、知識や経験が乏しいからです。プロの事業者は、相談者(家族や高齢者本人)の話をきちんと聞いて、入居後の生活や事故のリスク、事故の予防策、家族の役割などについて、ケースを上げて丁寧に説明してくれます。

③ 「認知症・重度要介護・看取り」何でもOK
述べたように、「要支援~軽度向け住宅」と「中度~重度向け住宅」は、介護システムも建物設備設計も基本的に違うものです。高齢者住宅の中には「元気な時に入って、介護が必要になっても安心」「早めに住み替えた方が安心」とセールスするところがありますが、それは高齢者住宅事業というものがわかっていないからです。「重度要介護高齢者も生活している」といっても、その人が安全・快適な環境にあるとは限りませんし、また車いす利用者が一割程度であっても、加齢によって3割、4割と増えていきます。

また、要介護高齢者といっても、身体機能低下の高齢者と認知症高齢者では、介護方法や内容が変わります。認知症高齢者は混乱したり、他の入居者に暴言をはいたりといった行動も増えていきますから、特別な知識・技術をもった介護スタッフの確保やノウハウが必要です。きちんとしたノウハウやスタッフが確保されていないのに、認知症の高齢者を入居させてしまうと、認知症の症状は悪化しますし、徘徊、暴言、暴行など他の入居者の生活にも影響していきます。

それは看取り介護も同じです。「24時間医療対応」と標榜していても、話を聞くと救急車を呼ぶだけだったり、「看取り対応経験あり」と言っていても、突然死のケースだったり、中には「急変しても病院に搬送しない」など、一般的には考えられないようなことを平気で言う人もいます。
「何でもOK」というのは、そのリスクやノウハウ、難しさを知らないから言えるのです。プロの事業者は、「看取りとは何か」「どのようなケースに対応できるのか、できないのか」、また「認知症ケアとは何か」「どのようなケースには対応できないのか」について丁寧に説明してくれます。

④ 「今ならすぐに入居できます」という事業者
介護休業をしている場合、期間は決まっていますから、「なるべく早く入居させたい」「できるだけ早く仕事に復帰したい」という気持ちが強くなります。
そのため、「今ならすぐに入居できますよ…」と言われると、それはありがたいと飛びつきたくなる気持ちはわかります。中には「見学した日の一週間後」「申し込んだ数日後」、「病院からの退院日に合わせて入居できる」というところもあります。しかし「すぐに入居できる」という事業者は非常に危険です。

優良な高齢者住宅は、本人の状態確認や家族への聞き取りや説明(特に入居後のトラブルやリスクに関する説明)を丁寧に行います。それは入居者・家族のためというよりも、入居前に「どのような点に注意してサービスを提供すべきなのか」「転倒やトラブルなど想定されるリスクは何か」ということを事前に調査・想定しておかなければ適切なサービスは提供できませんし、また「サービス内容や価格、リスク」「事業者の責任の範囲」について入居者・家族にも十分に理解してもらわなければ、入居した後に介護看護スタッフが困るからです。

例えば、入居後の転倒・骨折。手厚い介護体制を採っている介護付有料老人ホームでも24時間付き添っているわけではありませんから、転倒・骨折事故は必ず発生します。ただ、事前にその可能性や対応策について、十分に説明を受けていた場合と、「安心・快適」としか説明されていない場合とでは、家族の心情は全く違うでしょう。

十分な理解ができていなくても「すぐに入居できますよ…」「細かいことは入居後に追々…」という事業者は、「サービスや価格の詳細を聞かれると困る」というだけでなく、入居者が集まっておらず、経営が不安定だからです。「ご家族が困っておられるので、できるだけ早く入居できるように配慮しました…」という事業者がありますがそれは詭弁です。「申込がたくさんあるのですが、今なら…」と言われて、急いで契約し入居してみると、「部屋は半分以上空いている…」というケースがほとんどです。

⑤ 見せかけの低価格路線の事業者
入居後のトラブルで、最も多いのが「価格」を巡るものです。
実は、高齢者住宅の「月額費用」は事業者によって含まれているサービス内容が全く違い、その費用だけで生活できるわけではありません。また、それ以外にも衣服代や紙おむつ、社会保険料、通信費などは別途かかります。「生活保護も対応可」「地域内 最安値」「月額費用13万円」などと低価格アピールをしている事業者がいますが、よく見ると「家賃と管理費だけ」「食費や介護保険の一割負担は別途」、その結果、月額費用は13万円だけど、入居後の請求書は3枚に分かれていて合わせると23万円ということがあるのです。
このような「見せかけの低価格路線」の高齢者住宅は、素人事業者ではなく悪徳事業者です。トラブルや事故、リスクについて説明する気もありませんし、実際にトラブルや事故が発生しても、隠蔽したり改竄したりということを平気で行います。
優良な高齢者住宅は、「月額生活費の見積もり」「別途費用が必要なもの」について丁寧に説明してくれます。それは入居者・家族のためというだけでなく、入居後にトラブルとなるのが困るからです。

以上、民間の老人ホーム・高齢者住宅選びの基本・ポイントについて、二回に渡って述べました。
高齢者住宅選びの基本は、できるだけたくさんの事業者から選ぶということです。
たくさんの老人ホーム、高齢者住宅で話を聞くと、「AホームとBホームは介護スタッフの数が違うな。介護福祉士の資格者の割合が違うな…」とたくさんのことが見えてきます。
一つ二つしか見学しなければ、「あそこの老人ホームはキレイで新しい…」「管理者さんは感じが良かった…」ということしかわかりません。高齢者住宅をたくさん見学すると、「このスタッフさんはみんな挨拶されて感じが良い」「あそこは、靴を踏んで歩いたり、あまり感じがよくないな」ということが見えてきましたし、「安心・快適と言うだけで、話に中身がないな…」「質問に対してケースを上げて答えてくれるな…」ということが分かってきます。

優良な高齢者住宅は、家族との関係をとても重視します。
人間関係を作る上でも、「選ぶ過程」がとても重要なのです。




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