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市場価値の高い「介護のプロ」を目指すための3つの視点


介護労働は単純労働ではない。医療や看護と同じく「安全配慮義務」「サービス提供責任」の重い専門性の高い仕事である。介護労働者の過不足は景気によって変動するが、介護人材は絶対的に不足し、その価値は確実に上昇する。市場価値の高い介護のプロに求められる技能・技術・ノウハウとは何か。

介護スタッフ向け 連 載 『市場価値の高い介護のプロになりたい人へ』 018


ここまで、介護労働の特性と、現在の介護労働環境の課題について述べてきた。
簡単にまとめをしておきたい。

介護労働を知るためのポイントは、介護給与の特性の理解だ。
一般の産業の給与水準は、産業別、学歴別、企業規模別、性別によって格差が大きい
産業別の平均値で見れば、金融業界は最も高収入だが、大手都市銀行と中小の信用金庫では、40代男性だと、給与水準は1.5倍以上、年収にして数百万円は違う。同じ製造業といっても、大手企業と町工場などの中小零細企業とでは給与水準に大きな開きがある。同一企業であっても、一般職、総合職、専門職など部署・部門別に給与体系は違い、本社採用・支店採用、プロパー採用、中途採用などによっても、給与差は大きい。男女雇用機会均等法が施行された今でも、40代、50代になると、男性と女性では、年収は150万円以上の差があることが知られている。

一方の介護労働の給与水準は、これとは正反対の特性を持っている。公的な介護保険制度の「介護報酬」が給与・待遇の算定基礎となっているため、学歴別、企業別、性別による給与格差は非常に小さい。大手企業であっても単独事業所であっても、提供したサービスに対する介護報酬は同じであり、男性であっても女性であっても、大卒でも高卒でも給与水準は、ほとんど変わらない。

【Pro 12】 介護労働者の給与・待遇は本当に低いのか (1)  🔗 
【Pro 13】 介護労働者の給与・待遇は本当に低いのか (2)  🔗 

もう一つ指摘しておきたいのが、これからの仕事・業態の安定度の違いだ。
サラリーマンの労働評価は、平成の時代に「年功序列」から「評価主義」に移行した。多くの大企業で部門別採算制度を導入しており、業績が低迷すれば、給与やボーナスはカットされ、管理職であってもリストラの対象になりうる。これからの令和の時代は、この「企業内評価」から、より厳しい「市場評価」に入っていくため、業績・技能によって収入格差は、更に進むことは間違いない。

加えて、現在人間が行っている仕事の約半分は、10年内にIT、AI、ロボットによって代替可能になると予測されている。高学歴・高収入の代表格だった、銀行や証券会社などの金融機関、テレビ・新聞などのマスコミ、大手家電メーカー、弁護士や公認会計士などの「花形職種」においても、第四次産業革命と言われる技術革新の波にさらされ、その足元は揺らいでいる。
一流企業に入ったから、難関資格を取ったから一生安定という時代は、すでに過去のものだ。10年前、20年前の「学生就職人気ランキング」を見れば、その変化のスピードの速さがわかるだろう。今、最先端の人気職種であっても、10年後、20年後にはその半分はなくなっている、または縮小している可能性が高い。

これに対し、高齢者介護は、専門性と共感を基礎とした労働集約的な仕事である。業務の効率化や労働者の負担軽減のために、AIやITの導入、介護ロボットの代替も一定は進むだろうが、認知症など、日々要介護状態が変化する高齢者介護の根幹部分は人間にしかできない。
また、 人口動態の変化によって日本全国で需要が高まることが確実な仕事である。その給与の基本部分は公的な介護保険制度によって担保されているため、入職時に示された給与やボーナスが支払われない、突然、経営が悪化し給与や賞与が大幅ダウンするというリスクは低い。介護福祉士などの資格を持ち、適切な運営を続けている事業者で働いていれば、「低賃金で最低限の生活もできない」ということはない。

これからの労働環境の変化を考えた時、日本全国、一定以上の給与でどこでも働くことができる、定年がなく希望すればいつまでも働き続けることができる、そして、国の制度によって一定以上の給与が保証されているという仕事は、介護労働以外にはないといって良いだろう。

「40代男性で、他の産業と比較すると介護の給与は100万円違う」というデータがよく使われるが、一般産業は、学卒でその企業に継続して勤務し続けている人が多いためで、同じ40代といっても、中途採用の多い介護業界の勤続年数は他の産業の半分程度しかない。中小企業であれば、男性では30代まで介護業界の方が給与は高く、女性では40代、50代でも介護業界の方が給与水準は高い。「介護は給与が低い」と声高に叫ぶ人は、介護給与と他の一般産業の給与体系の特性は、メリット・デメリットともに対照的であることを理解していない。そもそも、「産業・年齢の平均値」というデータは、年功序列が崩れたこれからの時代には、ほとんど意味がないのだ。

【Pro 11】 高齢者介護は他に類例のない安定した仕事  🔗  

もちろん、現状、介護の給与は他の産業と比較すると、相対的に低いことは間違いない。
「介護労働は安定性の高い仕事だから、給与が低くても我慢しろ」と言っているのではない。介護労働は家族介護の代替サービスではなく、高度な技能・経験・知識に裏打ちされる高度に専門的な生活支援サービスである。高い質の介護サービスを提供し続けるために、その専門性を評価してほしいと訴えるのは当然のことであり、それは正当な主張である。

現在の介護の給与体系の最大の弱点は、20代30代であれば、他の産業よりも高いが、40代、50代となって経験や技能・知識を蓄積しても、給与の上昇幅が小さいという点にある。無資格新人でも有資格のベテランでも、事業者が受け取る介護報酬は変わらないため、努力をして資格をとっても、主任になっても、仕事や責任が増えるだけで給与は大きく上がらない。これは労働者個々人の給与の問題だけでなく、優秀な人材が育たない、介護の専門性・経験が蓄積されていかないという、業界の未来に関わる課題である。

この課題に対して、これまでも厚労省は「基本介護報酬アップ」ではなく、キャリアパスなど人材育成に力を入れている事業者に対して報酬を上げる「処遇改善加算」に力を入れてきている。更に2019年10月からは、「介護給与の底上げ」だけでなく、「経験・技能をもつ介護人材に対する給与の差別化」を目的とした「特定処遇改善加算」がスタートする。
介護労働は、安定性の高い仕事であることは変わらないが、今後は経験や技能によってその給与・待遇に差別化が図られることになる。


介護のプロになるために、必要な3つの視点・ポイント

現在、介護業界が抱えている介護労働者不足の問題は、大きく分けて二つある。
一つは、「介護需要の増加に対して、絶対的に介護労働者が不足していること」、もう一つが「事業の中核となる介護リーダーが不足していること」だ。
介護労働者不足は、前者の問題として取り上げられることが多く、今後、少子化によってますます顕著になっていくと予測する人は多い。

しかし、これは一面的、かつ短絡的であり、ひとつのベクトルだけを過度に評価しているにすぎない。
労働市場変動の波は、景気変動の波と連動しており、景気の上向きによって一時的に全産業で労働者不足となっているだけで、いつまでも続くわけではないからだ。
また、技術革新によって、この10年~20年の間に、ロボットや人口知能によって代替可能な仕事は半数に及び、現在、その業務に従事している労働者は、現在2500万人を数える。そのすべての人がその職を失うというわけではないが、「介護労働者不足が数十万人」というのとは、桁が二つほど違う。
景気が鈍化すれば、「ほかに仕事がないから介護でも・・」という人は増えていく。今後も、多少の変動はあるにしろ、介護労働者不足はずっと続くわけではないのだ。

その一方で、介護リーダー不足は、より深刻なものとなっていく。
介護実務や事業特性を理解しないまま参入した素人事業者が多いため、介護保険制度から20年経過した今でも、事業・サービスの中核となる介護リーダーの育成は進んでいないからだ。それが「介護の仕事は最悪」と嫌悪され、重大事故や高齢者虐待、トラブルが多発している最大の理由だ。

介護労働は、単純労働ではなく、医療や看護と同じく、安全配慮義務の高い専門性の高い仕事だ。
介護事業の成否は、中核となる介護リーダーの優劣によって決まると言っても過言ではない。
一部の介護経営者は、それに気が付き始めている。
これからは「介護職員」といっても、その経験・技能によって、その給与・待遇に差別化が進むことになる。マネジメント能力の高い優秀な介護リーダーは、いくつもの事業者から「うちに来ないか・・」「今よりも高い給与・待遇を用意する」と、引く手あまたになる。
もちろん、他の産業と同じように介護業界でも「言われたことしかしない」「勉強するのも嫌、責任のある仕事は嫌」という人の給与は上がらない。介護業界で働くのであれば、市場価値の高い、介護業界から評価の高い「介護のプロになる」ということが、いかに重要かということがわかるだろう。

介護のプロになるために必要な3つのポイントを示しておきたい。

① 自己評価ではなく市場価値を意識すること

介護という仕事は、営業成績のような誰から見てもわかりやすい評価基準というものがない。加えて、利用者やスタッフが限定される閉鎖的な環境であることや利用者や家族から感謝されることが多いため、「私は仕事ができる」と自己評価の高くなってしまう人が多い。「ご利用者様のために…」と美辞麗句の一方で、事故やトラブルが発生したり、家族から不満や批判を受けると、「自宅でも事故は起きる」「介護スタッフのミス・責任ばかりではない」「自分で介護すればいいのに」と、手のひらを反す。

このタイプのリーダーは、新人教育が行き届かない、マネジメント能力がないことを棚に上げ、「今年の新人は仕事ができない」と責任転嫁する。その結果、追従する手抜きスタッフばかりが残り、優秀な人材が離れていく。この業界で、自己評価の高い人は、客観的にみると仕事ができない、サービス向上の妨げになっているケースが多い。事業所内という閉鎖的な環境の中で、お山の大将になっても、市場価値は上がらない。サービス低下によって、事故・トラブルが増加し、市場からは淘汰されていくことになる。

介護は専門職種であり、その特徴はチームケアにある。介護のプロになりたいのであれば、仕事の評価は自分ではなく、他人がするものであること、また、事業所内部ではなく、外部からの評価が重要であることを理解しなければならない。

② 市場価値の上がる知識・技能・ノウハウとは何かを知ること

二つめは、市場価値の上がる知識・技能・ノウハウを理解することだ。
これからの介護人材に求められるのは、排泄介助、入浴介助といった「個別の介護技術・知識」ではなく、属する組織の利益を向上させる知識・技術・ノウハウである。
それは、個別の要介護高齢者の生活向上・サービス向上を基礎とした「ケアマネジメント」、事故やトラブル、クレームの発生予防・拡大予防にかんする「介護リスクマネジメント」、そして、人材管理・収益管理などを行う「介護経営マネジメント」の3つに分かれる。

これらは、単純なリーダーシップではなく、専門職種としての知識・技能・ノウハウを土台としたリーダである。例えば、上記の介護リスクマネジメントは、その事故やトラブル予防策、対応策をきちんと整理し、事前に家族や本人に説明できる技能・ノウハウのことだ。そのためには「介護のサービス提供責任とは何か」「どのようなケースの時に法的責任が問われるのか」という法的な理解・知識が必要となる。

③ 市場価値の上がる技術・ノウハウを得られる事業所選ぶこと

最後の一つは、②の知識・技術・ノウハウを得られる事業所を選ぶことだ。
現在の介護業界の最大の問題は、技術や知識、ノウハウのないまま安易に参入してきた素人事業者が圧倒的に多いということだ。規模が大きい、事業者数が多い大手事業者でも、介護保険制度以降にスタートした企業が大半で、ワンマン創業者の馬力によって急成長、急拡大してきたという側面が強い。その結果、「利益ありき」でノウハウの蓄積やスタッフ教育が後回しになっている。
このような素人事業者で、20年、30年働き続けても、いつまでも素人介護職のままで、市場価値の高い介護プロにはなれない。

介護福祉士の資格を持っていても、働き始めはその給与・待遇にそれほどの違いはないが、5年経過すれば「介護のプロ」としての技術・ノウハウ、市場価値は大きな差が生まれてくる。介護は「科学的な技能・知識に基づくプロの専門職種」である。目先の小さな給与の違いではなく、「自分の市場価値を高めてくれる事業所で働く」ということが重要になるのだ。

以上、3つのポイントを挙げた。
まずは、市場価値の上がる知識・技能・ノウハウとは何かを知ること からスタートしたい。


介護のプロに求められる知識・技術・ノウハウとは (全8回) 🔜 更新中  

   ⇒ 市場価値の高い「介護のプロ」を目指すための3つの視点 🔗
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   ⇒ 介護のプロ 市場価値向上のためのケアマネジメント 🔗  
   ⇒ 介護のプロ 市場価値向上のための介護リスクマネジメント 🔗 
   ⇒ 介護のプロ 市場価値向上のための介護経営マネジメント 🔗   

【PROFESSIONAL】 ~ 市場価値の高い介護のプロになりたい人へ ~

   ☞ これからの仕事・働き方 ~市場価値の時代へ~   (全7回)
   
☞ 高齢者介護の仕事に未来はあるのか ~現状と課題~  (全10回)
   
☞ 介護のプロに求められる知識・技術・ノウハウとは  (更新中) 

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