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【ケース1】 病院から紹介された有料老人ホームに入居したが・・・

義父が脳梗塞で倒れ、突然の入院。病院の相談員から「新しい介護付有料老人ホームが近くにできましたよ…」と紹介を受けて入居したものの、その実態は最悪で・・・

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 054


入居者・・・義父(80代前半)、車いす利用、要介護2

妻の父が脳梗塞で倒れ突然の入院、三ヶ月程度入院していたのですが、これ以上の改善は見込めないとして退院を求められました。私たち夫婦もそれぞれ仕事をしていることや、車いす生活となり病弱の義母一人では自宅での介護が難しいことなどから、退院後は有料老人ホームへの入居を考えていました。
病院の相談員から、市内にちょうど新しい介護付有料老人ホームができたので、紹介してくれるという話がありました。仕事が忙しかったことや、探し方などもよくわからなかったこともあり、「渡りに船」とばかりにその老人ホームへ話を聞きに行きました。
退院の期日も迫っていたことや、名前の知られた高齢者住宅の大手だということ、また専門家からの紹介だということに安心して、その有料老人ホームに決めました。

ホームへは、義母と妻が交代で週に2回~3回は行っていましたが、入居から2ケ月程度して、妻から「父を他のホームに移したい」という相談を受けました。
義父は車いすの生活で、排泄などに介助が必要なのですが、いつも自分の部屋ではなくポツンと食堂に残されていること、同じ服を着ていることが多いなど、必要な介護サービスが行われていないというのです。また、脳梗塞になった後、病院でリハビリを頑張った結果、トイレへ移動させてもらえれば、自分で排泄することができるようになっていたのですが、「間に合わずに失敗することがあった」ということで、日中もオムツの排泄に後戻りしているのです。

妻からすれば、自分で介護できないという弱みもあり、それまで「介護のスタッフの皆さんは忙しいだろうから」「代わりに介護してもらっているのだから」と何も言ってきませんでした。また家族の意見を直接伝える場はなく、誰にどのように伝えれば良いのかさえわかりません。その間、妻はずっと「父に申し訳ない」と涙を流し、悶々とした日々を過ごしていました。

たまたま、私が一緒に訪問した帰りに、エントランスで施設長さんと遭遇し、直接お話を聞いていただくことができました。そこでは「チカラ足らずで申し訳ない。調査し、改善します」とお約束いただいたのですが、「夜、寝られないと困るので昼間は起きてもらっている」「新しいホームでスタッフが慣れていない」「介護スタッフが集まらないから」などの言い訳に終始され、その後一ヶ月待ちましたが、何の報告も連絡もありませんでした。

また、施設長に意見を言った結果(クレームにならないよう、スタッフの方への感謝も踏まえ、冷静にお話したつもりでしたが・・・)、家族への慇懃無礼な当たりも強くなり、またスタッフ同士の言葉遣いや、他の入居者に対する態度も悪く、こんなホームに入れてしまったことを心から後悔しました。
そのため、地域包括支援センターの方に相談し、一旦3ケ月程度入居できる老人保健施設に入所し、その間に新しい老人ホームを探すことになりました。同程度の費用の介護付有料老人ホームでも、サービスの内容やスタッフの質がこれほど違うものかと驚きました。私たちは知らなかったのですが、お世話になった老健施設の相談員の方によると、私たちが選んだ介護付有料老人ホームは、大手で名前は知られたところですが、地元では評判の良いところではないそうです。

あまりにも腹立たしかったため、以前の病院に聞きに行くと、紹介してくれた相談員はすでに退職しており、また対応された上司の方は、有料老人ホームの紹介に病院は関与していないということでした。
最終的に選んだ私たちに責任があり、その相談員や病院に責任を取れというつもりはありません。しかし、その老人ホームに訪問日時調整の電話してくれたのは当該相談員ですし、「新しいところでキレイ」「大手だから大丈夫」と、勧められたことも事実です。
要介護高齢者を抱えた家族は、専門的な知識が乏しいために、相談員などの専門家の意見に頼ることが多いのですが、あまりにもいい加減な対応に、いまだに怒りが消えません。

【何がダメだったのか・・どうすればよかったのか・・】

現在の病院経営は、入院者の平均在院日数が長くなると診療報酬が大きく下げられるため、入院期間が長くなりがちな高齢者の退院促進は病院経営の根幹に関わる問題です。自宅に帰れない高齢者を無理に退院させることはできませんから、病院は何とかして高齢者住宅や特養ホーム、老健施設などを紹介して、早期の退院を求めてきます。

そのため、高齢者住宅の最大の営業先は病院です。
突然、要介護状態になった高齢者や高齢者住宅を探す家族を紹介してほしいと、営業担当者は日参しています。それは病院と葬儀社の関係に似ていると言えるでしょう。
病院の相談員やケアマネジャーが高齢者住宅を紹介しても、紹介料を受け取ることは法的に禁止されています。それでも入居者を一人紹介すると最低10万円と言われていますから、「一部の相談員やケアマネジャーが個人でこっそり、お小遣い稼ぎ…」というのはこの業界ではよく知られた話です。

ただ、普通の相談員やケアマネジャーはそんなことはしません。
仮に「この老人ホームは評判の良いところだ・・・」と思っていても、今回のように中途半端に紹介すると、金銭を受け取っていたか否かに関わらず、入居後のトラブルの責任が働いている病院や個人にかかってくるからです。また、優良な高齢者住宅もそのようなグレーな闇営業やバックマージンは渡しませんから、「病院やケアマネの紹介」では失敗することは当然だと言えます。

このような「突然の入院、要介護」で最も力強い味方になるのは、「老人保健施設」です。
高齢者住宅選びで、最も重要なのは、終の棲家をじっくりと選ぶ、心の余裕と時間を持つことです。老人保健施設は「病院と自宅」「病院と高齢者住宅」「自宅と高齢者住宅」をつなぐための中間施設です。まずは一旦ここに入居して、3ケ月、6ケ月と決められた時間を確保し、リハビリや生活相談を通じて、次の生活の準備をします。

民間の高齢者住宅を視野に入れるということであれば、このコラムの高齢者住宅の基礎知識 (よくある質問 ~どっちを選ぶ?~ 🔗 ) や、素人事業者の見極め方 (ここがポイント 素人事業者の特徴 🔗) を読んでおけば、高齢者住宅の種類やサービスの違い、チェックポイントが理解できます。「良い老人ホーム」は一人一人違いますが、チェックポイントを知っていれば 素人事業者を見分けることは可能です。 少なくとも「こんなはずではなかった・・・」という大失敗は避けられます。
また、脳梗塞で半身麻痺となり、「自宅で生活するのはとても無理」という状況であっても、老健施設で3ケ月、6ケ月とリハビリをすれば状態は落ち着き、「一部住宅改修をすればトイレは一人で可能」「入浴はデイサービスで入ればOK」など、自宅で生活することも可能となる人も少なくありません。

このケースの場合、重度要介護状態になったのをきっかけに他の老人ホームに移ることができましたが、実際は、相当の金銭的・時間的な余裕がなければ容易なことではありません。入居者、家族の都合で高齢者住宅事業者から退居する場合、事業者が手続きを遅らせたり、その時だけは強引な引き留め工作が行われますから、最初に高齢者住宅を選ぶ時の、二倍、三倍の労力と強い意思が必要になります。だから、ほとんどの人は泣き寝入りになるのです。

高齢者住宅選びは、「不安・焦り」で方向性が見えない時、要介護状態が不安定な時に、慌てて行うと必ず失敗します。 要介護状態が落ち着いてくれば、たくさんの方向性が見えてきますし、その要介護状態に合わせてプロの事業者を選ぶことができるのです。


「こんなはずでは・・・」 高齢者住宅選びに失敗した家族の声を聴く

  ⇒ 【F053】 高齢者住宅選びに失敗している家族に共通するパターン 🔗
  ⇒ 【ケースⅠ】 病院から紹介された有料老人ホームに入居したが 🔗
  ⇒ 【ケースⅡ】 「介護が必要になっても安心・快適」はイメージと正反対  🔗
  ⇒ 【ケースⅢ】 生活保護受給者をクイモノにする悪徳高齢者住宅 🔗
  ⇒ 【ケースⅣ】 高額の入居一時金を支払ったのに ~要介護対応の不備~  🔗
  ⇒ 【ケースⅤ】 高額の入居一時金を支払ったのに ~トラブル退居~ 🔗
  ⇒ 【ケースⅥ】 「協力病院」の医師に無理やり寝たきりにされた父  🔗
  ⇒ 【ケースⅦ】 不正を訴えても「自己責任でしょ・・」と無関心の役所🔗
  ⇒ 【ケースⅧ】 家族が住む近くに高齢者住宅を探せばよかった  🔗
  ⇒ 【ケースⅨ】 意見や希望を上手く伝えられずにストレスに 🔗
  ⇒ 【ケースⅩ】 月額費用の説明に対する誤解がホームへの不信感に 🔗

高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばない」こと

  ☞ ポイントとコツを知れば高齢者住宅選びは難しくない (6コラム)
  ☞ 「どっちを選ぶ?」 高齢者住宅選びの基礎知識 (10コラム)
  ☞ 「ほんとに安心・快適?」リスク管理に表れる事業者の質 (11コラム)
  ☞ 「自立対象」と「要介護対象」はまったく違う商品 (6コラム)
  ☞ 高齢者住宅選びの根幹 重要事項説明書を読み解く (9コラム)
  ☞ ここがポイント 高齢者住宅素人事業者の特徴 (10コラム)
  ☞ 「こんなはずでは…」 失敗家族に共通するパターン (更新中)



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