RISK-MANAGE

『忙しいからリスクマネジメメントが進まない』は発想が逆


忙しいからリスクマネジメントまで手が回らない・・という考え・言い訳は大間違い。リスクマネジメントができていないから、無駄な動きが多くなり、事故やトラブル対応に忙しくなる。リスクを俯瞰してみれば、高齢者住宅の事業特性、経営管理のポイントが見えてくる

管理者・リーダー向け 連載  『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 008


現在、多くの事業者が寄せられる相談が「介護・看護スタッフが集まらない」というものです。少子高齢化がどんどん進む日本で、介護人材の確保は介護経営の根幹であり最大のリスクです。
また介護報酬の改定時期になると「制度変更による収支への影響」という話が出てきます。これは『社会保険を基礎とする営利事業』という介護サービスだけの特殊なリスクです。
その他「転倒・骨折などの介護事故」「家族からの苦情・クレーム」「感染症・食中毒」など思いつくリスクはたくさんあるでしょう。

しかし、このような「ポイント対応」だけでは、検討漏れ、対応漏れがでてきます。
また、「現場が大変なので軽度の人を多く入居させた結果、収入が下がった…」など、一つのリスクだけに重点的に対応すると、他のリスクが高くなるという結果になります。「あれもリスク!!」「こっちはどうする??」「こっちを解決すれば、あちらがリスク」と頭が一杯になり、「リスクマネジメントの重要性はわかるけど、スタッフが足りない、忙しいので対応できない」ということになるのです。

しかし、経営の視点、サービスの視点から見れば、発想が逆なのです。
「リスクを適切に予防・管理するためのノウハウがないから忙しい」
「リスクを適切に予防・管理するためのノウハウがないから人が集まらない」
のです。
リスクマネジメントを行うためには、まず、どのようなリスクが想定されるのか、それぞれがどのように関連しているのかを一体的、包括的に理解する必要があります。
ここでは、高齢者住宅事業者が想定すべき「経営上のリスク」「業務上のリスク」を整理します。

経営リスク・・・収支悪化の直接要因となるリスク

まず一つは、収支悪化の直接的な要因となる経営リスクです。
実務的には「収入の低下要因」「支出の増加要因」だといって良いでしょう。

「高齢者住宅の需要は高まる」といっても、価格帯やサービス内容がその地域ニーズにマッチしなかったり、過当競争によって入居者が集まらないところが増えています。
逆に、入居者希望者が多くても、介護スタッフが集まらなければ、入居者の受け入れはできません。介護スタッフを確保するために「募集広告」「派遣スタッフの利用」が増加し、人材確保にかかるコストは想定よりも高くなっています。

制度変更リスクは、介護サービス事業では特筆すべきリスクです。
介護サービス事業、高齢者住宅事業は、営利目的の民間事業でありながら、「収入の基礎を公的な介護保険報酬に依存している」という特殊な事業です。経営努力の届かない介護報酬改定、高齢者住宅制度の改正によって、経営・ビジネスモデルが大きく左右されることになります。

業務リスク・・・サービス提供上発生するリスク

もう一つは、サービス提供上発生する業務リスクです。
介護は安易に安心・快適を標榜できる事業ではない🔗で述べたように、介護サービス事業の対象は、身体機能の低下した高齢者です。認知症になると、「ここで座って待っていてくださいね」と言っても、すぐに忘れてしまい、想定できない行動をとる人もいます。転倒すれば骨折や頭部打撲など、重大事故に発展するリスクも高くなります。


火災や災害も大きなリスクの一つです。
身体機能の低下した高齢者が集まって生活しているのですから、地震や火災が発生すれば、一人では逃げ出すことができず、結果、多くの高齢者が煙や炎に巻かれて亡くなるという大惨事に発展します。
感染症や食中毒も同じです。インフルエンザやノロウイルスは毎年のように流行しますし、数年に一度、大流行し、多くの方が亡くなりますが、その大半は高齢者や幼児です。コロナウイルス感染では全国で多くの人が亡くなりました。高齢者住宅や介護保険施設は、対象が高齢者であることに加え、入居者が集まって食事やレクレーションを行うこと、浴室や食堂など全員が利用する共用部が多いことなどから、感染症が蔓延しやすい、また感染者が重篤化しやすいという特徴があります。

これらすべてに関わってくるのが、「重度化対応リスク」です。
高齢者の最大の特性は、加齢によって要介護状態が悪化するということです。
歩いて生活していた高齢者も、車いすが必要となり、寝たきりとなります。自立排泄していた高齢者も、トイレ介助が必要となり、最後はオムツ介助となります。

それは、一人の高齢者が重度要介護状態になるのではなく、加齢によって重度要介護高齢者の割合がどんど増えていくということです。重度化に対応できなければ、転倒事故やトラブル、クレームが増加し、過重労働となり、それが経営リスクに飛び火して、介護スタッフの離職者が増えることになります。


このようにリスクを俯瞰して整理すれば、高齢者住宅の事業特性、経営・サービス管理というものが、どういったものか見えてくるでしょう。
言いかえれば、これらのリスクの全体像やリスクの特性、関連性などを正確に理解、整理し、その予防策・対応策を検討することが、高齢者住宅経営なのです。




高齢者住宅 経営の特性・リスクを理解する

  ⇒  『忙しいからリスクマネジメントが進まない』は発想が逆 🔗
  ⇒ 入居者が確保できない・介護スタッフが集まらない 🔗
  ⇒ 人件費・修繕費などの運営コストが収支を圧迫 🔗
  ⇒ 突然、顕在化する入居一時金経営の長期入居リスク 🔗
  ⇒ 事業者間の契約トラブル・コンプライアンス違反 🔗
  ⇒ 介護ビジネス・高齢者住宅経営を直撃する制度変更リスク 🔗

高齢者介護 サービス上の特性・リスクを理解する

  ⇒ 「転倒・転落・溺水・誤嚥・熱傷…」 生活上・介護上の事故 🔗
  ⇒ 入居者・家族から寄せられる感情的な不満・苦情・クレーム 🔗
  ⇒ 「インフルエンザ・O157・疥癬…」 感染症・食中毒の蔓延 🔗
  ⇒ 火災・自然災害(地震・台風・ゲリラ豪雨など)の発生 🔗
  ⇒ 腰痛など介護スタッフの労働災害・入居者への介護虐待 🔗
  ⇒ 要介護重度化対応の不備が全てのリスクを拡大させる 🔗

高齢者介護にもリスクマネジメントが求められる時代

 ⇒ 老人福祉から介護保険へ 大きく変わった「サービス提供責任」 🔗
 ⇒ 高齢者介護にも高いリスクマネジメントが求められる時代 🔗
 ⇒ 高齢者介護は、安易に「安心・快適」を標榜できる事業ではない 🔗
 ⇒ 介護リスクマネジメントは、「利用者・入居者のため」ではない 🔗
 ⇒ 人材不足の最大の原因は、介護リスクマネジメントの遅れ 🔗
 ⇒ 介護業界の甘えの構造 ~隠蔽・改竄からみる事業崩壊~ 🔗
 ⇒ リスクマネジメントに表れる一流経営者と素人経営者の違い 🔗



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