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地域包括ケアシステム 構築のプロセス ~長期的な指針~


地域包括ケアシステムの構築をどのように進めるのか。
現在の介護保険事業計画と同じように3年毎に作成するだけでは、財政は確実に破綻する。厚労省の示している、地域包括ケアシステムの構築のPDCAサイクルのプロセスは長期的な指針・計画がなければ機能しない。

【特 集】  地域包括ケアシステム 構築の要件とポイント (全7回) 


実際に市町村における地域包括ケアシステムの構築をどのように進めていくのか。
厚生労働省は、以下のようなプロセスの概念図を示しています。

スタートは、地域住民等に対する「日常生活圏のニーズ調査」、介護医療関係者による「地域ケア会議の実施」、自治体による「他の市町村との比較」です。
そこから、「介護、医療、住まい、予防」のサービス量は足りているか、連携は適切に行われているか、といった課題の抽出を行い、介護保険事業計画などの具体策につなげていきます。
これを3年ごとの介護保険計画に合わせて、PLAN(計画)、DO(実行)、CHECK(評価)、ACT(改善)というPDCAサイクルで見直し、システムを継続的に改善していくというものです。

これまでの国の指示によるトップダウンの政策から、それぞれの市町村の現場の声、地域ニーズを主体とするボトムアップの政策への転換を促すという考えは伝わります。実際、多くの自治体で、このプロセスに沿って「生活圏域ニーズ調査」「地域ケア会議」をスタートさせています。

しかし、残念ながら、このプロセスに沿っても、地域包括ケアシステムは構築できません。
それは、「長期安定的なマネジメント」という視点が欠けているからです。

長期計画・長期的な指針がなければ、PDCAサイクルは機能しない

このプロセスの場合、3年ごとに行う地域住民へのニーズ調査や地域ケア会議から抽出された課題が、事業計画の基礎となっています。今後、独居や高齢夫婦世帯の要介護高齢者、重度要介護高齢者が増えていきますから、現場から「予防介護の充実が必要だ」「生きがい作りが必要だ」「特養ホームが足りない」「低価格のサ高住を作ってほしい」「ショートステイに入りにくい」というニーズが高くなれば、次の3年でその政策を検討、推進するということになります。
しかし、3年単位で介護保険事業計画を策定し、それをつないでいけば2025年、2035年に適切な「地域包括ケアシステム」ができるというものではありません。このような、「あれが足りない、これも足りない」という場当たり的な手法では、必ずどこかの時点で、お金も人も足りなくなります。

「地域包括ケアシステムの構築」に向けて、まず重要になるのは、これから15年後、20年後にその市町村・地域でどのような人口動態になるか、どの程度介護需要が増加するのか、その時の必要な財政・人材を想定、シミュレーションすることです。
その未来を見据えて、「たら、れば」の楽観的予測ではなく、「介護保険を使って要介護高齢者の生活・生命維持に最低限やるべきこと」を中心に添えて、長期計画・指針を策定しなければなりません。それをもとに、「地域包括ケアシステム」の指針・方向性を決定し、その目的に向かって、3年ごとの中期計画、単年度の事業計画を丁寧に紡いでいくのです。
厚生労働省の作った、この「市町村における地域包括ケアシステム構築のプロセス」「PDCAサイクル」は、この長期的な視点からの地域包括ケアシステムの方向性が定まってからの話です。この長期的視点がないままに、「ニーズ調査」「地域ケア会議」を行っても、「その3年限り」の対策しかできません。

長期計画・中期計画・年度計画の違いをイメージする

地域包括ケアシステムの検討は、長期計画、中期計画・年度計画に分かれます。
それぞれの、目的と役割を整理します。


まずは、長期計画の策定です。
この長期計画が、その自治体の地域包括ケアシステムの基本設計となります。
超ハイパー高齢社会は、これから20年の間に急速に進展し、人口減少しながらその後30年以上続く非常に厳しいものです。とはいえ、「50年後にターゲットを絞って対策を行う」ということは、現実的ではありません。
そのため、まずは2035年にターゲットを絞り、85歳以上高齢者が、どの地域でどの程度増加するのか、その時の介護需要がどの程度増加するか、その時の財政はどうなっているか、どの程度の人材が必要になるかを想定します。それだけで、恐らく卒倒するほどの予測結果がでてくるでしょう。

ただ、それは「大地震が起こったら」「中国バブルが崩壊したら」という可能性の一つではなく、近い未来、ほぼ直線的に、確実にやってくる現実です。どれほど厳しい状況であっても、その予測から目をそらさず、向かうべきベクトル、方向性を設定せざるを得ないのです。
3年ごとの中期計画を策定するにも、「2035年にどうなるのか」を想定しないまま計画するのと、しないのとでは、その実現性に雲泥の差がでてきます。

二つ目は、3年ごとの中期計画です。
厚生労働省の作った「市町村における地域包括ケアシステム構築のプロセス」は、中期計画策定の手法です。長期計画で作った方針をもとに、地域ケア会議で課題を議論し、それぞれの地域で3年ごとのサービスの整備計画を策定していきます。
また、3年ごとに介護報酬の改定がありますから、その対応、計画の修正も行います。
サービスの整備計画だけでなく、「設置運営基準・指導監査方法の見直し」「ネットワークにおける情報共有ルールの策定」「低所得者対策の検討」なども、スケジュールと目標を定めて行っていきます。

三つ目が、年度ごとの当期計画です。
この当期計画は、3年ごとに策定する中期計画で定めた目標が達成されるように、計画の進捗状況の確認、スケジュールの見直しなどを行います。合わせて「地域ケア会議の運営」「次回の中期計画策定の準備」などを進めます。

このように考えると、「地域包括ケアシステムの構築」は、一般の企業経営、経営計画と同じマネジメントだということがわかるでしょう。ある自治体の担当者が、「介護保険制度は、社会保険だから民間の生命保険と違って破綻しないよ・・」とのんきなことを言っていましたが、介護保険や医療保険制度は破綻しなくても、自治体は財政再建団体となり破綻・消滅するのです。
逆に言えば、倒産はしないので、どんな厳しい状況になっても、市町村や都道府県は逃げ出すことはできないのです。長期計画を見据えて、危機感を持って、目的を明確にして進めることが必要です。




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