サ高住の安否確認サービスは、登録上は「安否確認的なものがあればOK」だが、そのサービス提供責任、安全配慮義務は決して軽いものではない。安否確認の実務に瑕疵があり、実際に事故やトラブルが発生した場合、事業者は重い法的責任を負うことになる。
管理者・リーダー向け 連載 『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 048
サービス付き高齢者向け住宅の登録のためには、安否確認サービスは必須です。
ただ、その範囲は広く、スタッフによる定期訪問の他、一定時間水が流れていない・トイレに行っていないなどのライフセンサーを使っての確認でも可能だとしています。つまり、サ高住として登録するためには、「安否確認的なものがあれば、OK…」という基準でしかありません。
しかし、相談サービス同様に、この安否確認サービスにかかる事業者責任は、決して軽いものではありません。「安否確認」の安全配慮義務はどこまで及ぶのかについて、これまで裁判事例はありませんが、サービスとして明記されたものですから、間違いなく法的なサービス提供責任は発生します。
そのサービスに瑕疵があり、人身事故やトラブルが発生・拡大すれば、事業者は契約違反・安全配慮義務違反として損害賠償を負うことになります。
安否確認サービスの特性について、理解すべき3つのポイントを挙げます。
対象によって必要なサービスは変化する
ひとつは、必要な安否確認サービスの内容、その事業者責任は、対象が元気高齢者か、要介護高齢者かによって変わるということです。
例えば、元気な自立高齢者を対象とした場合、ライフセンサーによるチェックや「新聞がとられているか」「食事に出て来られているか」といった、事業者と入居者との間で事前に決められたサインや異常があれば、安否を確認するというものです。本人の事故回避、自己決定の割合が大きく、消極的な安否確認だと言えます。
これに対して、要介護高齢者の安否確認サービスは、ケアプランの中で指示されることになります。自立高齢者のような「定期的な確認」だけでなく、「臨時の確認」も必要になります。
特に、転倒・転落のリスクの高い認知症高齢者に対しては、ケアマネジャーや訪問介護事業者と情報を共有し、それぞれの入居者の生活レベル、生活ニーズ、介護事故などのリスクに合わせたきめ細やかな安否確認サービスが必要です。不安から何度もコールをする人もいるでしょうし、「転倒防止の離床センサー」を設置した場合は、24時間365日、センサーの発報時に確認しなければなりません。
「介護が必要になっても安心」「安否確認サービスで安心」を標榜しているのであれば、予見可能性、結果回避義務といった安全配慮義務のレベルは、介護関連施設等と同レベルのものが求められます。重度要介護高齢者、認知症高齢者の事故リスクを想定した、積極的な安否確認の体制構築が必要です。
安否確認と緊急対応は一体的なもの
二つ目は、安否確認と緊急対応は一体的なものだということです。
安否確認は、「いつも、お元気にされています」「異常はありませんでした」という「安全・安心確認」イメージですが、大切なのは、安否の「否」であったときに、どうするのかです。
例えば、決められた食事時間に本人の姿が見えないときにどのような対応をするのかは、元気な高齢者の場合と、認知症の徘徊の症状が出始めている高齢者とでは変わってきます。「安否確認時に転倒を発見していたときにどうするか」「入居者から頭が痛いとコールがあったときどうするか」など、様々なケースを想定しておかなければなりません。
事業所内・近隣の捜索、家族への連絡、警察への連絡も必要になりますし、その対応方法について、事前に本人・家族と定めておかなければなりません。そうでなければ、「適切な対応が行われなかった」「救急車への連絡が遅れた」「お風呂で倒れていたのに気づくのが遅れた」など、安全配慮義務違反を問われることになります。
特養ホームや介護付有老ホームのように、介護専任スタッフが常駐しているわけではありませんから、その判断・対応の責任は非常に重くなります。
安否確認サービスの確実性
もう一つは、サービスの確実性です。
この安否確認の業務は、一般のマンションの管理人と同程度の業務内容だと考えている人がいるかもしれませんが、それは全く違います。
一般の賃貸マンションの管理人や大家さんでも、何日も新聞がたまっていたり、この数週間姿を見ていないと、警察に連絡することがあります。
ただし、それは契約上の業務ではなく、マンション管理上の問題だからです。
一方の、サービス付き高齢者向け住宅の安否確認は、入居者との契約に基づくサービスです。「朝刊がとられていない」「朝食にでてこられていない」となれば、すぐに部屋を訪問し安否を確認しなければなりません。万一、昼まで気がつかず、確認が遅れたために、死亡したり、病状が悪化した場合、契約義務違反を問われることになります。要介護状態になり、転倒のリスクの高い高齢者が増えてくれば、定期巡回、離床センサーへの対応、スタッフコールへの対応、やるべきことは一気に増えていきます。
また、「毎食事時間帯に確認する…」となっていたのに、他の入居者の食事準備が忙しく、「居室で転倒・死亡しているのを確認したのが午前11時」「早朝に転倒、脳挫傷で死亡していた」ということになれば、「契約違反だ」ということになりますし、「早期に発見されていれば命は助かっていた」ということになれば、損害賠償だけでなく、最悪、刑事責任もかかってきます。
これは、緊急対応も同じです。コールが鳴って部屋内での転倒を発見した場合、頭部打撲や異常がないか確認しなければなりません。その後のきめ細かな経過観察も必要になります。「意識があるから」とそのまま寝かせ、翌日、状態が急変したという場合、安全配慮義務が問われることになります。
以上、「安否確認サービス」に必要な3つのポイントを挙げました。
このように考えると、登録上は「安否確認的なもの」があればOKですが、そのサービスにかかる法的責任は、非常に重いということがわかるでしょう。
スタッフコールを設置し、夜間に宿直員が常駐・対応するとしているところでも、安否確認サービスとは何かの理解が不十分で、緊急対応を含めたその判断・対応方法が決まっていない、最低限の対応マニユァルさえ作られていないところも少なくありません。
当初は自立度の高い高齢者が多くても、加齢による身体機能・認知機能の低下によって、要介護高齢者が増加し、昼夜を問わず、スタッフコールは増えていきます。今のスタッフコールはコール時間が残りますから、対応が遅れれば、対応責任を問われることになります。無資格で経験もない、宿直のアルバイトスタッフができるような仕事ではないのです。
法的なサービス提供責任の視点から見れば、サ高住の中で発生する事故・トラブルに対して事業者の負うべき責任は、入居者個人の自宅とは比較にならないほど重いものです。また、「あっちは施設、こっちは住宅」かと分類しているのは事業者側・提供者側であり、社会常識に照らせば「介護付有老ホームは施設なの?」「住宅型は住宅ではないの? 変な話ね」「サ高住は住宅だから責任は別なの? 対象もサービスも同じなのにね…」ということになるでしょうし、民事裁判になれば施設も住宅も関係ありません。
もちろん「安否確認サービスは外部の訪問介護事業者と入居者との個別契約なのか」「サ高住事業者が訪問介護に委託しているのか」によって、最終的な責任の所在は変わってきます。
ただ、事業種別に問わず、高齢者住宅事業者が「介護が必要になっても安心・快適」と入居者、家族に説明しているのであれば、それに応じた義務、責任が求められることになります。「法的責任だけは別。だって制度上、住宅だから・・個別契約だから…」という事業者の自分勝手な論理は、裁判になれば成り立たないのです。
介護事故の法的責任の有無は、どの高齢者住宅制度を選択しているかではなく、民法上の責任・安全配慮義務を果たしているか否かによって決まります。要介護高齢者対応を標榜している以上、当然、その義務を満たすだけのサービス提供が求められるのです。
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