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【R 11】 顕在化する入居一時金経営の長期入居リスク

管理者・リーダー向け 連載  『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 No 11

低価格化の中で、リスク検討のないままに償却期間を短くした結果、増加した入居一時金の長期入居リスク。入居一時金経営の難しさ、長期入居リスクとは何か。すでに自転車操業状態の有料老人ホームも多く、突然破綻する高齢者住宅の激増は避けられない。



有料老人ホームには、一体的に介護や食事等のサービス契約を締結するという条件のもと、住宅サービスの提供に関して利用権方式が認められています。居室を購入(所有権)したり、借りたり(借家権)するのではなく、居室と共用部分、設備等を利用する権利を購入するという独自の方式です。

最近は、この利用権を通常の家賃と同じように、毎月支払うという月払いのホームも増えていますが、今でも、一部・全部を問わず、入居一時金方式をとっている有料老人ホームは少なくありません。
高齢者は、「高資産・低所得」となることから、入居者にとっては、一時金を支払うことによって、毎月の支払額を抑えられるというメリットがありますし、事業者にとっても、キャッシュフローが潤沢になり、開設時の経営が安定するというメリットもあります。

しかし、それはメリットだけではありません。
その運用を間違えると、一気に経営は悪化し、取り返しのつかないことになるのです。

有料老人ホームの入居一時金とは何か    

まずは、簡単に入居一時金という価格設定の特性を整理します。
この入居一時金は、一般的には【入居一時金 ・ 初期償却 ・ 償却期間 】がセットで設定されており、「償却期間内の利用料の前払い」と「終身利用権の購入」の2つの意味を持っています。入居者の誤解を招くとして『終身利用権』という言葉は使われなくなりましたが、契約内容は同じです。

上の図の例でみると、入居一時金の金額は900万円、そのうち20%の180万円が初期償却です。
この180万円は、敷金・保証金と同じもので、利用料などの未払いがない限り、基本的に戻ってきます。
その残りの720万円を設定した償却期間の6年(72ケ月)で、毎月10万円ずつ償却していきます。

例えば、4年で退居した場合、残り2年分(240万円)は、未償却として、保証金の180万円とあわせて返金されます。一方、6年以上入居した場合は、償却期間を超えることになりますが、入居一時金を支払うことによって、終身利用できる権利を同時に購入しているため、追加費用は必要ありません。
それが最大の特徴であり、セールスポイントです。

入居者からすると、『一時金を支払えば月額費用だけで生活できる』『長期入居すればするほど利用料は少なくて済む』ということになります。長生きして費用が嵩むリスクを一時金で減らす保険のような役割を持っているともいえます。また、事業者から見ても、潤沢な一時金によって開設当初のキャッシュフローを安定させるというメリットがあります。

しかし、「入居者も事業者もみんなハッピー」という甘い話ではありません。
入居者からみると、「長生きすればするほど得」ですが、事業者からみると「長生きされると損」ということになります。キャッシュフローが安定するのは償却期間内だけで、償却期間を超えた部分については、実質的に利用料を免除していることになるからです。設定した償却期間を超えて長期入居となる高齢者が増えると、それだけ利用料収入(家賃収入)が減るのです。
これが、「入居一時金経営の長期入居リスク」です。

顕在化する入居一時金の長期入居リスク

この入居一時金経営にはメリットもありますが、同時に必ず長期入居リスクが発生します。
そのリスクを軽減するためには、対象となる入居者の入居期間(平均余命)と償却期間が合致していなければなりません。
しかし、現在の有料老人ホームは、そのリスクの見積もりが甘いのです。

問題の一つは、事業計画で設定した対象者と、実際の入居者の年齢に乖離があるということです。
入居一時金の償却期間は、利用権料(家賃相当)の前払いという性格上、対象となる入居者の平均余命を基礎として設定されます。
介護保険制度までの有料老人ホームは、悠々自適な生活を満喫する元気な高齢者を対象としており、中心は70代前半と比較的若い高齢者が多いことから、償却期間は15年程度と長く設定されていました。
一方の介護付有料老人ホームは、対象者が要介護高齢者であり、入居者は85歳以上の後期高齢者が中心になると想定し、償却期間は5年~6年程度と短く設定しているところが多くなっています。

しかし、入居者募集の失敗・収入低下・スタッフ確保の失敗🔗で述べたように、実際の介護付有料老人ホームの入居者は、要介護1~2の軽度要介護高齢者で、70代後半~80代前半が多くなっています。
その結果、平均の入居期間が事業計画の想定よりも伸びているのです。

リスク顕在化の二つ目の理由は、無理な低価格化です。
利用権料は家賃相当額ですから、土地取得費、建設費等の不動産取得価格(又は賃借料)を基礎として算定されます。入居一時金の金額は償却期間内の利用料の前払いという性格上、償却期間と入居一時金には相関関係があります。

例であげた、900万円(内180万円は初期償却)の入居一時金を設定するとして、償却期間が6年の場合、一年間の利用権料(家賃相当)は120万円(月額10万円)となりますが、償却期間を12年とすると、一時金は1620万円となります。つまり、シミュレーション上は、償却期間を長くすると入居一時金は高額となり、償却期間を短くすると一時金を低く見積もることができるということです。
介護保険制度前の元気な高齢者を対象とした有料老人ホームの入居一時金が高額だったのは、建物の仕様の違いもあるのですが、償却期間が長期に設定されていたという要因もあるのです。言い換えれば、価格競争力を高めるために、安易に償却期間を短くしたため、長期入居リスクが高くなったのです。

最大の問題は、このリスクを理解しない素人事業者が激増しているということです。
この「長期入居リスク」は「入居者の長生きリスク」ですから、決算書には現れません。
そのため、素人経営者からみれば、償却期間を短くした方が、途中返還金が少なくて済む、早く利用料(家賃)を回収できると考えてしまいます。
確かに、償却期間を短くすれば、その間は信じられないほど高い利益がでます。
しかし、償却期間を短くすれば、当然、償却期間を超えて長生きする高齢者が増えますから「長期入居リスク」は高くなります。また、償却期間にどれほどの利益がでても、その半分は税金です。結局、高い税金を支払って「リスクの顕在化を繰り延べしているだけ」となるのです。

この長期入居リスクは、見えにくい分だけ深刻です。
それが顕在化した時は、すでに手遅れで、打つ手はありません。
今後、多くの有料老人ホームの収支が悪化し、大きな社会問題となることは避けられません。

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