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地域包括ケア 事業計画策定に向けてのポイント

地域包括ケアシステムの策定には、関連事業者だけでなく市民の理解も不可欠。

徹底した情報公開をもとに、共感をもって計画を進めていくことが重要。


 

今後、国だけでなく、全ての自治体で、最もお金がかかるのが、高齢者の介護・医療対策です。
国の30年度の予算でも、社会保障関係費は一般会計の56%と半分以上を占めています。政府は「財政的基礎収支、プライマリーバランスの黒字化」を国際公約に掲げていますが、それを実現するには、要介護高齢者、介護需要が激増しても、介護や医療などの社会保障費は削減していかなければなりません。

これは自治体でも同じです。財政状況は、それぞれの市町村・都道府県によって違いますが、すでに介護報酬だけで市税収入を超えているというところもあります。そうなると、地元の経済対策や教育・子育て支援、老朽化する道路や橋の改修なども、ほとんどできません。高齢者を支えるだけで手一杯となれば、若者はどんどん減っていきますから、早晩、その自治体は崩壊することになります。
各市町村・都道府県は、その存在意義をかけて、実効性と未来のある「地域包括ケアシステム」を構築していかなければならないのです。

「長期包括ケアシステム」の基礎となる長期計画の策定に向けて、自治体のやるべきこと、その策定のポイントを整理します。

 

【介護ビジネスの事業特性の理解】
地域包括ケアシステムに向けた事業計画、各種サービスの整備計画は自治体の責任ですが、各介護サービス事業所の経営はそれぞれの経営者の責任です。
しかし、介護サービス事業は2000年の介護保険制度以降にスタートした新しい事業です。そのため、「高齢者が増える」「介護ビジネスは儲かる」と他業種から参入してきた新規事業者が多く、経営やサービスのノウハウの乏しい事業者も少なくありません。

これは、「地域包括ケアシステム」の構築にとって、大きなリスクです。
高齢者介護は「チームケア」ですから、経営力やノウハウが不足している事業者が入れば、地域全体のサービスは劣化します。「介護報酬の不正請求」「経営悪化による倒産」ということになれば、その利用者・家族だけでなく、地域全体のケアシステムに多大な悪影響を及ぼします。
各自治体は「経営は各事業者の責任」ということは前提としながらも、質の低い事業者が参入しないよう、「事業計画に不備はないか」「介護スタッフの過重労働とならないか」「囲い込みなどの不正の恐れがないか」について、厳しくチェックしなければなりません。

また、地域全体の包括的なケアシステム構築には、「介護対策」「福祉対策」の役割の明確化、「介護予防」「軽度要介護」「重度要介護」のビジネスモデル・介護システムの違いなどの理解も必要です。地域全体の事業計画・整備計画を行う自治体の職員が、それぞれの制度、介護ビジネスの特徴・特性について高い知識を有していなければ、地域包括ケアシステムはできません。

【現状把握と将来予測】
長期計画の基礎となるのは、現状把握と将来予測です。
現在の要介護高齢者の地域別の分布、2025年の分布予測、2035年の分布予測を行います。
これは、65歳以上、75歳以上、85歳以上の高齢者の将来推計をもとに、要介護発生率(要支援・軽度要介護・重度要介護別)をかけて算定します。地域別の独居率、高齢夫婦世帯数も予測できれば、なお良いでしょう。

合わせて、現在のサービス量、サービス内容と、介護需要に比例して増加した場合、将来必要になるサービス内容・サービス量、そして、その地域・自治体全体で必要となる財源と必要となる介護看護人材の数、合わせて国民健康保険料、介護保険料の上昇、それぞれの市町村負担分の増加について予測します。
まずは、ここからスタートです。

【指針・方向性の検討】
要介護高齢者の増加に比例して、現在のサービス種類、サービス量をそのまま増やしても財政的・人材的に問題ない、容易にクリアできるというのであれば、そう難しい話ではありません。

しかし、全国、すべての自治体でそうはならないでしょう。
「地域包括ケアシステム」の事業計画は、「選択と集中」です。
指針・方向性は、「要介護状態になっても、安心・快適に・・」「豊かな老後を・・」などといった美辞麗句ではなく、要介護高齢者の生活・生命を維持するために、選択肢を限って、どこに注力するのかを決めることです。

もちろん、今の段階でサービス種別やサービス量など【2025年・2035年の地域包括ケアシステム】を完全に数値化することはできません。
それでも、「地域包括ケアシステムの個別地域の設定」「自宅で生活できない重度要介護高齢者の住まいの整備」「囲い込みなど不正撤廃」「介護保険に頼らない共助・自助システム構築」「インフォーマルな社会資源の発掘」「近隣住民との連携による独自のネットワーク構築」などの指針は出せるはずです。

ただし、どこかで聞いたような、他の自治体と同じような「言葉だけの指針」では全く意味がありません。それぞれの地域にどのような特性があるのか、高齢者はどのような生活をしているのか、どのような生活ニーズ、介護ニーズが高いのかをしっかり把握した上で、「どのような対策が考えられるのか」をイメージできるように、実効性のある方針を立てなければなりません。それぞれの方針に従って、「個別地域内のサービスと市単位のサービス」「施設と高齢者住宅の役割の分離」「入所者の優先順位の見直し」など実務的な対策を検討することになります。

【市民への広報】
地域包括ケアシステムは、要介護高齢者対策ではなく、その自治体の未来を決める大きな転換です。
そのためには、徹底した情報公開、高い透明性が求められます。
国は、人口の将来予測、要介護高齢者、認知症高齢者の将来予測、及び財政不足・人材不足の課題を数値化して出していますが、同じことを各自治体でも早急にやらなければなりません。そうしないと、危機意識を共有できないからです。「制度が変われば数字がかわる」「数字が独り歩きして混乱する」など、先延ばしにするというのは論外です。

また、この将来予測だけでなく、自治体の長は「地域包括ケアシステムの指針・方向性」についても併せて公表しなければなりません。その自治体の未来を決める重大政策ですから、市民向けのタウンミーティングや説明会なども積極的に行うべきです。そして、その上で、その計画を進めることを是とするのか非とするのか、住民に対して自治体の長が選挙で信を問うことも必要になるでしょう。

それこそが民主主義です。

【都道府県・国との連携】
もう一つ重要なのが、都道府県や国との連携です。
これまでは、補助金行政と言われるように、「特養ホームを計画したいので補助金を・・」「サ高住の補助金を・・」といったは補助金ありきの自治体と国との連携でしたが、「地域包括ケアシステム」を推進するためには、お金以外で、都道府県や国を動かすことが必要になってきます。

中央集権型システムでは、全国一律のサービスが提供されるよう、各サービスの設置運営基準が厳しく定められていましたが、「地域包括ケアシステム」では、ある程度の自由がなければ、それぞれの地域特性に合わせた事業計画は立てられません。規制の緩和を働きかけることや、指導や監査の強化のために「国に明確な指針を出してもらう」というアプローチも必要です。

都道府県との連携も不可欠です。
それぞれの各市町村で訪問サービス、通所サービスは整備するけれど、高齢者住宅は、複数の市町村が共同で整備、運営するという形態も増えてくるでしょう。一部地域では、デイサービス、ショートステイなどでも、市町村の枠を超えた介護サービス利用の在り方の検討も必要になってきます。

「国の指針を確認中」「都道府県の意見を聞く」という他力本願ではなく、積極的に都道府県や国をうまく使う、動かすということが、「地域包括ケアシステム構築」を進めるためには不可欠な視点です。

 

 

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