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居室・食堂分離型は介護システム構築が困難 (証明)


居室・食堂分離型は、朝・昼・夕と一日3回食堂まで車いすの入居者を移動させるだけで、相当の労力と時間が必要となる。介護スタッフの人員を配置基準以上に増やしても、安全に介護サービスの提供を行うことは難しい。要介護高齢者対応の住宅としては致命的な欠陥。

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』 050


居室・食堂分離型建物の【3:1配置】は欠陥商品 🔗 で、居室と食堂フロアが分離している高齢者住宅は、特定施設入居者生活介護の指定基準程度の介護看護スタッフ配置では、まったく介護できないということを証明しました。
ただ、介護付有料老人ホームは、特養ホームとは違い、【2.5:1配置】【2:1配置】など、指定基準よりも手厚い介護システムを構築して、上乗せ介護費用を徴収することができます。この居室・食堂分離型で指定基準の1.5倍の介護看護スタッフを確保した、【2:1配置】であれば重度要介護高齢者の増加に対応できるのか、シミュレーションしてみます。


居室食堂型 介護付有料老人ホーム 前提条件の整理

シミュレーション条件は、前回と同じです。
60人の入居者が2階~4階までの4つのフロアに分かれ、一階に食堂・浴室が設置されています。詰めれば4台の車いすが昇降できる福祉タイプのエレベーターが一台設置されています。ユニットケアではないため、ユニット単位・フロア単位ではなく、介護スタッフ全員で60名の入居者の介護を行います。
前回と同様に、要介護2、要介護3の高齢者を中心として設定し、平均要介護は3としています。車いす利用の高齢者は、要介護2の高齢者の半数が自走式車いす、要介護3以上の高齢者が介助式車いすを利用すると想定します。「重度専用フロア」を設定せず、平均的にフロアに分散させています。各フロアに介助車いすの高齢者が9人、自走車いすの高齢者が2~3名ということになります。

今回の設定する介護看護スタッフ配置は、【2:1配置】ですから、入居者60名に対して、常勤換算で30名の介護看護スタッフで計算します。
介護スタッフの勤務体制は早出勤務(7時~16時)、日勤勤務(9時~18時)、遅出勤務(12時~21時)、夜勤は16時~翌朝の10時までの二勤務体制を採るものとします。看護師は、早出勤務(7時~16時)、遅出勤務(12時~21時)の二交代をとります。介護看護スタッフの年間勤務日数は250日と設定します。



居室・食堂分離型 【2:1配置】の介護システムの整理

同様に、最低限必要となる看護師の数から設定していきます。
看護師は、朝食時の服薬管理から眠前の服薬管理までを行う必要があるため、早朝7時~21時まで、少なくとも一人の看護師が常駐するように配置します。一人で勤務することはできないため早出勤務(7時~16時)、遅出勤務(12時~21時)の二交代とします。

次に夜勤スタッフの設定です。
60名の入所者であれば、配置基準上は2名でも可能ですが、述べたように、夜勤介護スタッフの算定は、「入居者の数に関わらず基本的に2名以上」「要介護20名に対して1名以上」、そしてリスクマネジメントの観点から「居室フロアに一人以上」というのが鉄則です。

高齢者住宅では介護業務が最も集中するのが、早朝の起床介助です。
早出勤務の介護スタッフが出勤するのは7時ですから、それまでに入居者を起こして、ある程度の排泄、着替え、歯磨き洗面などの介助を行わなければなりません。上記の例の場合、要介護3以上の全介助の高齢者が各フロアに9人、排泄の移動などの一部介助の要介護2の高齢者が5人いますから、(業務シミュレーションの条件 ① ~対象者の整理~ 参照)、4つのフロアの分かれている要介護高齢者を、3人の介護スタッフで階段を使って行き来しながら起こして回るのは不可能です。
やはり夜勤は、4人体制が必要だということがわかります。

そうなると、夜勤帯に必要な介護スタッフ数は常勤換算で11.7名 (4人×2日×365日÷250日)となるため、日勤帯に配置できる介護スタッフ数は常勤換算で15.4人(30人−2.9人−11.7人)となり、これを実労働日数である250日で割り返すと、実際に日勤帯で働く介護スタッフ配置は10.5人となります。これを四捨五入して11人と見積もると、早出勤務4名、日勤勤務3名、遅出勤務4名ということになります。
このシステムを表したものが次の図です。

夜勤スタッフの4人に加え、7時に4人の早出勤務の介護スタッフがやってきますから、各フロア2人で排泄、着替えなどの起床介助を行うことになります。また、それぞれの食事の時間帯にも、7人~8人の介護スタッフと看護師1名が配置されていますから、直接介助をしながら、連携して見守りや声掛け、片付けなどを行うことになります。

また、60人の要介護高齢者を週2回入浴させるには、毎日入浴日にするとしても、一日あたり17人~18人の入浴が必要となります。入浴介助の時間は、午前の9時半~11時半、午後の13時半~16時半ですから、午前中に7~8人、午後に10人程度の入浴介助を行うためには、3人~4人の介護スタッフを専任で張り付ける必要があります。その時間帯には、7人~8人が配置されているため、入浴の介助スタッフを除く、3~4人で排泄などのフロアの介助を行うことになります。
バタバタと忙しいことに変わりはありませんが、何とか対応できる配置のように見えます。


莫大な介護人員、時間が必要となる移動介助

しかし、実際の業務内容、業務シミュレーションを検討すると、大きな課題が見えてきます。
それは、この建物配置の場合、一日三回の食堂までの移動介助に、莫大な時間と介護スタッフが必要になるということです。

起床介助から朝までの時間帯の業務の流れを、もう少し詳しく見てみましょう。
6時頃から、各フロアで夜勤のスタッフが少しずつ入居者を起こし始めます。7時からは早出勤務の介護スタッフが出勤し二人体制となります。全介助の高齢者が9名、一部介助の高齢者が5名です。一人あたり、10分~15分程度ですから、何とか8時前に起床介助を終了し、朝食時間に間に合いそうです。

しかし、この居室・食堂の分離タイプの場合、起床介助と食事介助の間にあるのが、移動介助です。
同一フロアの場合、起床介助が終われば部屋でテレビを見てもらうか、食堂にでてきてもらうことになります。自立歩行や自走車いすの高齢者は自分の生活リズムで食堂に出てくればよいことですし、介助車いすの高齢者も、それほど時間はかかりません。

しかし、分離タイプの場合、遅くとも7時過ぎには、移動介助を始めなければなりません。そうなると、7時にはほとんどの高齢者を起こしておかなければなりませんから、6時頃から起こし始めるのでは全く間に合いません。

各フロアでは夜勤帯のスタッフに起床介助を任せ、早出勤務のスタッフ4名のうち1人がエレベーター係に、2人が一階の食堂内での移動係、もう一人は食堂で食事の準備に取りかかります。各フロアで起床介助を行っている夜勤スタッフは、起床介助に加え、車いすの高齢者を各フロアのエレベーターの前まで連れていかなければなりません。エレベーター係は、車いすをエレベーター内に移動させ、一階に降ろすという作業を繰り返します。一階のフロアで待機している二人の食堂内移動係が、入居者を受け取り、それぞれのテーブルまで移動介助します。

このエレベーターでの移動介助は、介助車いす利用者だけでなく、自走車いす高齢者も必要になります。
それは、エレベーターは一度に4台の車いすしか移動できないため、スタッフが介助してきちんと籠に詰めないといけないからです。各フロアに介助車いすの高齢者が9人、自走車いすの高齢者が2~3名、自立歩行の高齢者が3~4名ということになりますから、一度の車いす移送で3往復。4つのフロアがありますからトータルで12往復です。自立歩行の高齢者に一緒に乗ってもらうとしても、一往復で少なくとも5分以上はかかりますから、どれだけ急いでもエレベーター移動に一時間以上は必要です。

もちろん、全員が揃うまで食事を始めてはいけないというわけではありません。
移動介助は、4階から順番に降ろしていくことになりますから、4階の移動介助が終われば、4階の介護スタッフは、一階の食堂に降りて食事の準備や介助を始めます。ただ、直接的な食事介助が必要な高齢者が10人近くいますから、一人で全員の介助はできないため、食事が終わるまでには相当の時間がかかり、かつ見守りができないため、相当のリスクが伴います。

更に、7時半に移動介助をスタートさせても、2階フロアの高齢者が最後に降りて、食事を始める時間は8時半になります。それから食事が終わって、居室に戻る時間はゆうに10時を超えるでしょう。
つまり、食事自体は30~40分程度で終わるとしても、移動の介助を含めると3時間以上かかるのです。 結局は、移動介助の時間を含めて朝食時間を逆算すると、夜勤四人体制でも4時頃には入居者の起床介助を始めなければならないということになります。

ただ、この食堂までの移動介助は、朝だけではありません。
12時から昼食をスタートしようとすると、11時には移動介助をスタートさせなければなりませんが、入浴介助の時間と重なります。フロアに残った4人の介護スタッフだけで、入居者を食堂に降ろしてくることはできません。更に昼食時間の終わりは14時を過ぎ、午後の入浴介助の時間に食い込んでいきます。
このような、分離型では、移動介助ばかりに介護スタッフの手が取られ、それ以外の入浴や排泄などの介助に手が回らなくなるのです。

この問題は、介護サービス量と人員配置だけではありません。
この建物配置のように、60名定員で、車いす4台の福祉エレベーターが1台しかない場合、どれだけ介護スタッフを増やしても、エレベーターの移送容量は限られていますから、移動介助を含めた一度の食事に3時間近くかかるということは変わりません。つまり、朝7時半から食堂に移動して10時過ぎに部屋に返ってきても、また12時の昼食に向けて、11時には部屋を出て食堂に向かわなければならないということになるのです。


加えて、このような分離型の場合、建築コストを抑えるために、車いす利用者の増加を想定した広さになっておらず、またエレベーター側に一つしか入口がないというタイプが多くなっています。そうなると、入口から離れた奥の入居者は、出入り口側の入居者が食堂から出るまで、トイレにも行けず、部屋に戻れないということになります。移動介助により多くの時間と手間がかかりますし、歩行高齢者と車いす高齢者のぶつかり事故や、テーブルと車いすとの挟み込み事故なども増えます。

実際に、このタイプの介護付有料老人ホームの一部で何が起こっているかと言えば、朝4時前に高齢者を起こし、4時過ぎから食堂で待機させ、朝食後も居室に戻さずにそのまま食堂で待機させ、夕食が終わってから居室に戻すというスタイルです。食堂に置かれたままの入居者は常にぐったりしています。それがまともな生活、介護だとはとても言えないでしょう。

食堂・居室分離タイプは、【3:1配置】という基準配置だけでなく、その1.5倍の【2:1配置】でも、まったく介護できません。人員配置をどれだけ増やしても、要介護高齢者の生活には全く適さないということがわかるでしょう。


高齢者住宅 事業計画の基礎は業務シミュレーション

   ⇒ 大半の高齢者住宅は事業計画の段階で失敗している 
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   ⇒ 事業シミュレーションの「種類」と「目的」を理解する  
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高齢者住宅 「建物設計」×「介護システム設計」 (基本編)

   ⇒ 要介護高齢者住宅 業務シミュレーションのポイント
   ⇒ ユニット型特養ホームは基準配置では介護できない (証明)
   ⇒ 小規模の地域密着型は【2:1配置】でも対応不可 (証明)  
   ⇒ ユニット型特養ホームに必要な人員は基準の二倍以上 (証明)
   ⇒ 居室・食堂分離型の建物で【3:1配置】は欠陥商品 
   ⇒ 居室・食堂分離型建物では介護システム構築が困難
   ⇒ 業務シミュレーションからわかること ~制度基準とは何か~
   ⇒ 業務シミュレーションからわかること ~建物と介護~



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